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第六十五話 創造の祭壇
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アステリアへの凱旋は、熱狂に満ちていた。
『エンシェントドラゴン討伐』。そのワールドアナウンスは、M.M.O.の全てのプレイヤーを震撼させた。俺たち四十数名のレイドパーティがアステリアの東門をくぐった時、そこには街中のプレイヤーが集まったかのような、途方もない人だかりができていた。
「英雄の凱旋だ!」
「ユー! モンスターメイカーのユーだ!」
「竜を狩りし者たちに、最大の賛辞を!」
紙吹雪が舞い、歓声が嵐のように俺たちを包み込む。ドワーフのバルガンが、俺の肩を力強く叩いた。
「ユー! お前さんのおかげだ! 最高の冒険だったぜ!」
他のレイドメンバーたちも、口々に俺とゴブ、そして空を舞うロックバードを称賛してくれた。俺は少し照れくさくて、ただ頭を下げることしかできなかった。
広場の片隅にはゼノンの姿もあった。彼は人混みを嫌うように、ワイバーンと共に静かに佇んでいた。俺と目が合うと、彼は何も言わずにただ小さく頷いた。その瞳には、確かにライバルとしての敬意が宿っていた。彼は多くを語らず、やがて雑踏の中へと姿を消した。
その夜、アステリアで最も豪華な酒場で盛大な祝賀会が開かれた。レイドで得た莫大な富を元手に、バルガンが貸し切りにしたのだ。歌と酒と戦いの武勇伝。冒険者たちの熱気は、夜が更けるまで続いた。
俺とカエデ、リオ、そしてゴブは、その喧騒から少し離れたテラス席で静かに祝杯をあげていた。
「すごい騒ぎだね。ユーさん、すっかり有名人だよ」
リオが楽しそうに笑う。
「ああ。だが、本当の戦いはこれからだ」
カエデは冷静に現実を見据えていた。
その通りだった。俺たちの最終目標は、まだ達成されていない。
祝賀会が終わり、静けさを取り戻した宿屋の一室。俺たちは、ついにその時を迎えた。
テーブルの中央に、三つの伝説級素材を並べる。
万物の根源たる魔力を秘めた『賢者の石』。
生命の循環を司る、聖なる『世界樹の枝』。
そして、絶対的な力を宿した『古竜の心臓』。
三つの素材は互いに共鳴し合うかのように、神々しい光を放っていた。その光は部屋全体を、まるで神殿のように荘厳な雰囲気で満たしていく。
「……いよいよ、ですね」
俺はごくりと喉を鳴らした。
カエデもリオもゴブも、固唾を飲んで俺の手元を見守っている。
俺はゆっくりと手をかざした。
モンスターメイカーとしての俺の全てを懸ける、生涯最高の創造。
パンデモニウムを、そしてゼノンをも超える絶対的な存在を、この手に。
「スキル――創造!」
俺の意識が、光の設計図へとアクセスする。
だがその瞬間、俺の目の前に赤い警告ウィンドウがけたたましい音と共に表示された。
『警告:創造に必要な条件が不足しています』
『伝説級の創造には、素材の力を増幅させ、魂を定着させるための特殊な触媒となる場所が必要です』
「……なっ!?」
俺は思わず声を上げた。
場所が必要だと? そんなことは、古文書のどこにも……。
「マスター、待ってください!」
ゴブが慌てて古文書のページをめくり始めた。
「ありました! 破損がひどくて今まで読めなかった部分です! 賢者の石の力で、失われた文字が少しだけ浮かび上がっています!」
俺たちはゴブが指差すページを覗き込んだ。
そこにはかすれた古代文字で、こう記されていた。
『……三つの魂が交わる、古の力が満ちる場所……創造の祭壇にて、初めて伝説は形を得る……』
「創造の祭壇……」
俺は、その言葉を反芻した。
やはり、特別な場所が必要だったのだ。俺たちは最も重要な条件を見落としていた。
「創造の祭壇……聞いたことない地名だね」
リオが首を傾げる。
「どこにあるの? それさえ分かれば!」
「任せてください」
俺は静かに答えた。
「必ず、見つけ出します」
その日から、リオと俺の情報収集が始まった。リオは商人ギルドのあらゆるコネを使い、俺はアステリア中の古物商や歴史学者を訪ね歩いた。
だが、情報は全くと言っていいほど見つからなかった。
「創造の祭壇」という言葉は、まるでこの世界の歴史から意図的に消し去られたかのように、誰の記憶にもどの文献にも残っていなかった。
数日が過ぎ、俺たちの間に焦りの色が浮かび始めた。
せっかく全ての素材を手に入れたというのに。最後のピースが見つからない。
そんな八方塞がりの状況を打破したのは、やはりリオだった。
彼女はある夜、血相を変えて俺たちの元へ駆け込んできた。その手には一枚の黒い羊皮紙が握られていた。
「見つけた……かもしれない。でも、最悪の場所だよ」
彼女の声は震えていた。
「アステリアの地下には、表の世界とは別にもう一つの街が広がってる。法も運営のルールすら届かない、PKや犯罪者たちが集う巨大な地下都市……」
彼女は羊皮紙に書かれたその街の名を、忌々しげに読み上げた。
「――奈落街(アビス)」
「そのアビスの最深部、誰もたどり着けないと言われる中心に古代の遺跡が眠っているらしい。その遺跡こそが、私たちが探す『創造の祭壇』。間違いないよ」
「奈落街……」
カエデの表情が険しくなる。その名はアステリアの冒険者にとって、禁句に近い言葉だった。一度足を踏み入れれば、生きては戻れないとまで言われる無法地帯。
そして、リオは絶望的な事実を付け加えた。
「そして、今の奈落街アビスを実質的に支配しているのは……」
言うまでもない。
俺たちはその名を同時に口にしていた。
「――パンデモニウム」
沈黙が部屋を支配した。
それはあまりにも都合が良すぎる話だった。
俺たちが求める最後の場所が、俺たちの最大の敵の本拠地のど真ん中にある。
まるで最初からそう仕組まれていたかのように。
「……罠、でしょうか」
俺が呟くと、リオは首を横に振った。
「ううん、この情報は確かだよ。でも、奴らが私たちが祭壇を探していることに気づいて、待ち構えている可能性は十分にある」
虎の穴に自ら飛び込むようなもの。
いや、それ以上に危険な賭け。
だが、俺たちの心はもう決まっていた。
俺はテーブルの上に置かれた三つの伝説級素材を、静かに見つめた。
ここまで来たんだ。今更引き返すという選択肢はない。
「行くしかありませんね」
俺の静かな、しかし揺るぎない一言。
それが俺たちの覚悟を決定づけた。
カエデがレイピアの柄を強く握りしめる。
リオが覚悟を決めたように深く頷いた。
ゴブが俺の隣で静かに杖を構えた。
伝説への最後の道。
それは地獄の底へと続いていた。
俺たちはパンデモニウムとの避けられぬ全面対決を覚悟し、奈落街アビスへの潜入を決意した。
物語は、ついに最終局面へとその舵を切ったのだ。
『エンシェントドラゴン討伐』。そのワールドアナウンスは、M.M.O.の全てのプレイヤーを震撼させた。俺たち四十数名のレイドパーティがアステリアの東門をくぐった時、そこには街中のプレイヤーが集まったかのような、途方もない人だかりができていた。
「英雄の凱旋だ!」
「ユー! モンスターメイカーのユーだ!」
「竜を狩りし者たちに、最大の賛辞を!」
紙吹雪が舞い、歓声が嵐のように俺たちを包み込む。ドワーフのバルガンが、俺の肩を力強く叩いた。
「ユー! お前さんのおかげだ! 最高の冒険だったぜ!」
他のレイドメンバーたちも、口々に俺とゴブ、そして空を舞うロックバードを称賛してくれた。俺は少し照れくさくて、ただ頭を下げることしかできなかった。
広場の片隅にはゼノンの姿もあった。彼は人混みを嫌うように、ワイバーンと共に静かに佇んでいた。俺と目が合うと、彼は何も言わずにただ小さく頷いた。その瞳には、確かにライバルとしての敬意が宿っていた。彼は多くを語らず、やがて雑踏の中へと姿を消した。
その夜、アステリアで最も豪華な酒場で盛大な祝賀会が開かれた。レイドで得た莫大な富を元手に、バルガンが貸し切りにしたのだ。歌と酒と戦いの武勇伝。冒険者たちの熱気は、夜が更けるまで続いた。
俺とカエデ、リオ、そしてゴブは、その喧騒から少し離れたテラス席で静かに祝杯をあげていた。
「すごい騒ぎだね。ユーさん、すっかり有名人だよ」
リオが楽しそうに笑う。
「ああ。だが、本当の戦いはこれからだ」
カエデは冷静に現実を見据えていた。
その通りだった。俺たちの最終目標は、まだ達成されていない。
祝賀会が終わり、静けさを取り戻した宿屋の一室。俺たちは、ついにその時を迎えた。
テーブルの中央に、三つの伝説級素材を並べる。
万物の根源たる魔力を秘めた『賢者の石』。
生命の循環を司る、聖なる『世界樹の枝』。
そして、絶対的な力を宿した『古竜の心臓』。
三つの素材は互いに共鳴し合うかのように、神々しい光を放っていた。その光は部屋全体を、まるで神殿のように荘厳な雰囲気で満たしていく。
「……いよいよ、ですね」
俺はごくりと喉を鳴らした。
カエデもリオもゴブも、固唾を飲んで俺の手元を見守っている。
俺はゆっくりと手をかざした。
モンスターメイカーとしての俺の全てを懸ける、生涯最高の創造。
パンデモニウムを、そしてゼノンをも超える絶対的な存在を、この手に。
「スキル――創造!」
俺の意識が、光の設計図へとアクセスする。
だがその瞬間、俺の目の前に赤い警告ウィンドウがけたたましい音と共に表示された。
『警告:創造に必要な条件が不足しています』
『伝説級の創造には、素材の力を増幅させ、魂を定着させるための特殊な触媒となる場所が必要です』
「……なっ!?」
俺は思わず声を上げた。
場所が必要だと? そんなことは、古文書のどこにも……。
「マスター、待ってください!」
ゴブが慌てて古文書のページをめくり始めた。
「ありました! 破損がひどくて今まで読めなかった部分です! 賢者の石の力で、失われた文字が少しだけ浮かび上がっています!」
俺たちはゴブが指差すページを覗き込んだ。
そこにはかすれた古代文字で、こう記されていた。
『……三つの魂が交わる、古の力が満ちる場所……創造の祭壇にて、初めて伝説は形を得る……』
「創造の祭壇……」
俺は、その言葉を反芻した。
やはり、特別な場所が必要だったのだ。俺たちは最も重要な条件を見落としていた。
「創造の祭壇……聞いたことない地名だね」
リオが首を傾げる。
「どこにあるの? それさえ分かれば!」
「任せてください」
俺は静かに答えた。
「必ず、見つけ出します」
その日から、リオと俺の情報収集が始まった。リオは商人ギルドのあらゆるコネを使い、俺はアステリア中の古物商や歴史学者を訪ね歩いた。
だが、情報は全くと言っていいほど見つからなかった。
「創造の祭壇」という言葉は、まるでこの世界の歴史から意図的に消し去られたかのように、誰の記憶にもどの文献にも残っていなかった。
数日が過ぎ、俺たちの間に焦りの色が浮かび始めた。
せっかく全ての素材を手に入れたというのに。最後のピースが見つからない。
そんな八方塞がりの状況を打破したのは、やはりリオだった。
彼女はある夜、血相を変えて俺たちの元へ駆け込んできた。その手には一枚の黒い羊皮紙が握られていた。
「見つけた……かもしれない。でも、最悪の場所だよ」
彼女の声は震えていた。
「アステリアの地下には、表の世界とは別にもう一つの街が広がってる。法も運営のルールすら届かない、PKや犯罪者たちが集う巨大な地下都市……」
彼女は羊皮紙に書かれたその街の名を、忌々しげに読み上げた。
「――奈落街(アビス)」
「そのアビスの最深部、誰もたどり着けないと言われる中心に古代の遺跡が眠っているらしい。その遺跡こそが、私たちが探す『創造の祭壇』。間違いないよ」
「奈落街……」
カエデの表情が険しくなる。その名はアステリアの冒険者にとって、禁句に近い言葉だった。一度足を踏み入れれば、生きては戻れないとまで言われる無法地帯。
そして、リオは絶望的な事実を付け加えた。
「そして、今の奈落街アビスを実質的に支配しているのは……」
言うまでもない。
俺たちはその名を同時に口にしていた。
「――パンデモニウム」
沈黙が部屋を支配した。
それはあまりにも都合が良すぎる話だった。
俺たちが求める最後の場所が、俺たちの最大の敵の本拠地のど真ん中にある。
まるで最初からそう仕組まれていたかのように。
「……罠、でしょうか」
俺が呟くと、リオは首を横に振った。
「ううん、この情報は確かだよ。でも、奴らが私たちが祭壇を探していることに気づいて、待ち構えている可能性は十分にある」
虎の穴に自ら飛び込むようなもの。
いや、それ以上に危険な賭け。
だが、俺たちの心はもう決まっていた。
俺はテーブルの上に置かれた三つの伝説級素材を、静かに見つめた。
ここまで来たんだ。今更引き返すという選択肢はない。
「行くしかありませんね」
俺の静かな、しかし揺るぎない一言。
それが俺たちの覚悟を決定づけた。
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リオが覚悟を決めたように深く頷いた。
ゴブが俺の隣で静かに杖を構えた。
伝説への最後の道。
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物語は、ついに最終局面へとその舵を切ったのだ。
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