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第六十九話 賭博街の幻惑
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『アハハハハ! さあ、ショーの始まりだ!』
幻惑のピエロの狂気に満ちた哄笑が、俺たちの脳内に直接響き渡る。
俺たちが立っていたはずのカジノタワーの階段は跡形もなく消え去っていた。代わりに、どこまでも続く白と黒の市松模様の床。壁も天井も同じ模様で、遠近感が完全に狂わされる。
「くっ……! 幻術か!」
カエデがレイピアを構え、警戒を強める。
「みんな、離れないで! こんなところでバラバラになったら、各個撃破されちゃう!」
リオもパーティメンバーの背中にしがみつくようにして、周囲を怯えた目で見回していた。
俺はシャドウスライムを放ち、周囲の状況を探らせようとした。だが、スライムは数メートル進んだところで壁にぶつかったかのように動きを止め、混乱したようにその場をぐるぐると回り始めた。
「ダメです。この幻術は五感だけでなく、索敵スキルそのものを狂わせる効果がある」
まさに手も足も出ない状況。
ピエロの声が再び響き渡る。
『おやおや、もう迷子になっちゃったのかな? じゃあ、僕のかわいいペットたちと遊んであげよう!』
その声と共に、チェス盤の床の一部が音もなく反転した。そして、その下から奇妙な姿をしたモンスターたちが次々と這い出してくる。
トランプの兵隊。歪んだ笑みを浮かべたブリキの人形。そして、一つ目のウサギのぬいぐるみ。そのどれもが子供部屋から抜け出してきたかのような、悪夢的なデザインをしていた。
「な、なんなの、こいつら!」
リオが悲鳴を上げる。
「マスター、来ます!」
ゴブが杖を構える。
トランプの兵隊たちが、紙のように薄い体で予測不能な動きをしながら俺たちに襲いかかってきた。
「斬る!」
カエデのレイピアが閃光のように走る。だが、手応えがない。彼女の剣は兵隊の体を、まるで幻影のようにすり抜けてしまった。
「実体がないのか!?」
「いいえ、違います!」
俺は創造主としての目で、そのカラクリを見抜いていた。
「奴らの体は実体と幻影が高速で入れ替わっているんだ! タイミングを合わせなければ攻撃は当たらない!」
「そんな無茶な!」
カエデが悪態をつく。
その間にもブリキの人形が、ギチギチと音を立てながらその手に持った巨大なハサミで襲いかかってくる。
俺はゴブとインプたちに指示を出す。
「一点集中! タイミングは俺が合わせる!」
俺は敵の動きを凝視し、実体化するほんの一瞬の隙を見極める。
「――今だ!」
俺の合図に、ゴブとインプたちの魔法が一斉に放たれる。
ファイアボールとアイスニードル。それが一体のトランプ兵に、完璧なタイミングで命中した。
兵隊は燃えながら凍りつき、甲高い悲鳴を上げて砕け散った。
「やった!」
だが、敵の数はあまりにも多い。次から次へと悪夢の住人たちが湧き出してくる。
俺たちは徐々に、しかし確実に追い詰められていった。
「このままじゃジリ貧だ……!」
カエデの額に汗が滲む。
「ユーさん! この幻術をどうにかして破れないの!?」
リオが叫ぶ。
幻術を破る。
そのためには術者であるピエロ本人を見つけ出し、叩くしかない。
だが、この無限に続くかのような迷宮でどうやって?
いや、どんな幻術にも必ず核となる部分があるはずだ。
この空間を維持しているエネルギーの源。それを見つけ出し、破壊すれば……。
だが、俺の目ではそれを見つけ出すことはできない。
この状況を打開できるのは、特別な「目」を持つ者だけ。
俺はリオの方を向いた。
「リオさん! あなたの『千里眼』で、この幻術の核を見つけられませんか!?」
「え!? で、でも、こんな状況で集中できるか……」
リオは怯えていた。無理もない。商人である彼女にとって、この状況は悪夢そのものだ。
俺は彼女の両肩を強く掴んだ。
「リオさん、あなたを信じています。あなたにしかできないことです。俺たちがあなたを絶対に守りますから」
俺の真剣な瞳。
そして、俺の後ろで力強く頷くカエデとゴブ。
仲間たちの揺るぎない信頼が、彼女の恐怖を打ち破った。
「……うん。分かった。やってみる!」
リオは覚悟を決めたように目を閉じた。そして、深く、深く深呼吸する。
「カエデさん、ゴブ! リオさんの護衛を! 何があっても彼女に近づけさせるな!」
「「承知!」」
カエデとゴブがリオの周囲を固める。
俺もスライム軍団を壁のように展開し、迫り来る悪夢の軍勢を食い止めた。
「スキル、『千里眼』!」
リオの瞳が翠玉色の光を放ち始めた。その光は今までになく強く、そして鋭い。彼女は、この空間に満ちる膨大な幻術のエネルギーの中からその源流を、たった一つの綻びを見つけ出そうとしていた。
『おやおや? 面白いことを始めたねえ。でも、無駄だよ! 僕の幻術は完璧なんだから!』
ピエロの嘲笑が響き渡る。
モンスターたちの攻撃がさらに激しさを増した。
「ぐっ……!」
カエデがブリキの人形のハサミを受け止め、押し返される。
ゴブもMPを消耗し、その顔に疲労の色が浮かび始めていた。
だが、誰も諦めない。
リオが真実を見抜く、その一瞬を信じて。
「……見えた」
リオが呟いた。
彼女はゆっくりと目を開けると、この迷宮の一点、何もないはずの白と黒の壁をまっすぐに指差した。
「……あそこ。あの壁の向こうに、この幻術を維持している巨大な魔晶石がある。あれが核よ!」
その言葉が反撃の狼煙だった。
「よくやった、リオ!」
カエデが賞賛の声を上げる。
「道を開けます!」
俺は最後の創造に、残った全ての魔力を注ぎ込んだ。
俺が創り出すのは、幻術そのものを喰らう異形のモンスター。
「喰らい尽くせ! 『イリュージョン・イーター』!」
俺の手から放たれた歪な形のスライムが、リオが指差した壁へと一直線に突進していく。
そして、その幻影の壁に大きな口を開けてかぶりついた。
バリバリバリッ!
ガラスが砕けるような甲高い音が、空間全体に響き渡った。
俺たちの目の前の景色が、まるで蜃気楼のように揺らぎ始める。
『な、なんだと!? 僕の幻術が破られる!? 馬鹿な!』
ピエロの初めて聞く焦りの声。
そして、ついに。
世界が元の姿へと戻った。
俺たちはカジノタワーの、何もないだだっ広いホールの中央に立っていた。
そして、その奥。玉座のような豪華な椅子に腰かけている一人の男。
奇抜なピエロの衣装に身を包み、顔には涙の模様のメイク。
だが、その顔から余裕の笑みは完全に消え失せていた。
幻惑のピエロ。その正体を、俺たちはついに暴いたのだ。
「……ショーは、終わりだ」
カエデがレイピアの切っ先を、静かに、しかし確実にピエロへと向けた。
俺たちの本当の反撃が、今、始まる。
幻惑のピエロの狂気に満ちた哄笑が、俺たちの脳内に直接響き渡る。
俺たちが立っていたはずのカジノタワーの階段は跡形もなく消え去っていた。代わりに、どこまでも続く白と黒の市松模様の床。壁も天井も同じ模様で、遠近感が完全に狂わされる。
「くっ……! 幻術か!」
カエデがレイピアを構え、警戒を強める。
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リオもパーティメンバーの背中にしがみつくようにして、周囲を怯えた目で見回していた。
俺はシャドウスライムを放ち、周囲の状況を探らせようとした。だが、スライムは数メートル進んだところで壁にぶつかったかのように動きを止め、混乱したようにその場をぐるぐると回り始めた。
「ダメです。この幻術は五感だけでなく、索敵スキルそのものを狂わせる効果がある」
まさに手も足も出ない状況。
ピエロの声が再び響き渡る。
『おやおや、もう迷子になっちゃったのかな? じゃあ、僕のかわいいペットたちと遊んであげよう!』
その声と共に、チェス盤の床の一部が音もなく反転した。そして、その下から奇妙な姿をしたモンスターたちが次々と這い出してくる。
トランプの兵隊。歪んだ笑みを浮かべたブリキの人形。そして、一つ目のウサギのぬいぐるみ。そのどれもが子供部屋から抜け出してきたかのような、悪夢的なデザインをしていた。
「な、なんなの、こいつら!」
リオが悲鳴を上げる。
「マスター、来ます!」
ゴブが杖を構える。
トランプの兵隊たちが、紙のように薄い体で予測不能な動きをしながら俺たちに襲いかかってきた。
「斬る!」
カエデのレイピアが閃光のように走る。だが、手応えがない。彼女の剣は兵隊の体を、まるで幻影のようにすり抜けてしまった。
「実体がないのか!?」
「いいえ、違います!」
俺は創造主としての目で、そのカラクリを見抜いていた。
「奴らの体は実体と幻影が高速で入れ替わっているんだ! タイミングを合わせなければ攻撃は当たらない!」
「そんな無茶な!」
カエデが悪態をつく。
その間にもブリキの人形が、ギチギチと音を立てながらその手に持った巨大なハサミで襲いかかってくる。
俺はゴブとインプたちに指示を出す。
「一点集中! タイミングは俺が合わせる!」
俺は敵の動きを凝視し、実体化するほんの一瞬の隙を見極める。
「――今だ!」
俺の合図に、ゴブとインプたちの魔法が一斉に放たれる。
ファイアボールとアイスニードル。それが一体のトランプ兵に、完璧なタイミングで命中した。
兵隊は燃えながら凍りつき、甲高い悲鳴を上げて砕け散った。
「やった!」
だが、敵の数はあまりにも多い。次から次へと悪夢の住人たちが湧き出してくる。
俺たちは徐々に、しかし確実に追い詰められていった。
「このままじゃジリ貧だ……!」
カエデの額に汗が滲む。
「ユーさん! この幻術をどうにかして破れないの!?」
リオが叫ぶ。
幻術を破る。
そのためには術者であるピエロ本人を見つけ出し、叩くしかない。
だが、この無限に続くかのような迷宮でどうやって?
いや、どんな幻術にも必ず核となる部分があるはずだ。
この空間を維持しているエネルギーの源。それを見つけ出し、破壊すれば……。
だが、俺の目ではそれを見つけ出すことはできない。
この状況を打開できるのは、特別な「目」を持つ者だけ。
俺はリオの方を向いた。
「リオさん! あなたの『千里眼』で、この幻術の核を見つけられませんか!?」
「え!? で、でも、こんな状況で集中できるか……」
リオは怯えていた。無理もない。商人である彼女にとって、この状況は悪夢そのものだ。
俺は彼女の両肩を強く掴んだ。
「リオさん、あなたを信じています。あなたにしかできないことです。俺たちがあなたを絶対に守りますから」
俺の真剣な瞳。
そして、俺の後ろで力強く頷くカエデとゴブ。
仲間たちの揺るぎない信頼が、彼女の恐怖を打ち破った。
「……うん。分かった。やってみる!」
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「カエデさん、ゴブ! リオさんの護衛を! 何があっても彼女に近づけさせるな!」
「「承知!」」
カエデとゴブがリオの周囲を固める。
俺もスライム軍団を壁のように展開し、迫り来る悪夢の軍勢を食い止めた。
「スキル、『千里眼』!」
リオの瞳が翠玉色の光を放ち始めた。その光は今までになく強く、そして鋭い。彼女は、この空間に満ちる膨大な幻術のエネルギーの中からその源流を、たった一つの綻びを見つけ出そうとしていた。
『おやおや? 面白いことを始めたねえ。でも、無駄だよ! 僕の幻術は完璧なんだから!』
ピエロの嘲笑が響き渡る。
モンスターたちの攻撃がさらに激しさを増した。
「ぐっ……!」
カエデがブリキの人形のハサミを受け止め、押し返される。
ゴブもMPを消耗し、その顔に疲労の色が浮かび始めていた。
だが、誰も諦めない。
リオが真実を見抜く、その一瞬を信じて。
「……見えた」
リオが呟いた。
彼女はゆっくりと目を開けると、この迷宮の一点、何もないはずの白と黒の壁をまっすぐに指差した。
「……あそこ。あの壁の向こうに、この幻術を維持している巨大な魔晶石がある。あれが核よ!」
その言葉が反撃の狼煙だった。
「よくやった、リオ!」
カエデが賞賛の声を上げる。
「道を開けます!」
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俺が創り出すのは、幻術そのものを喰らう異形のモンスター。
「喰らい尽くせ! 『イリュージョン・イーター』!」
俺の手から放たれた歪な形のスライムが、リオが指差した壁へと一直線に突進していく。
そして、その幻影の壁に大きな口を開けてかぶりついた。
バリバリバリッ!
ガラスが砕けるような甲高い音が、空間全体に響き渡った。
俺たちの目の前の景色が、まるで蜃気楼のように揺らぎ始める。
『な、なんだと!? 僕の幻術が破られる!? 馬鹿な!』
ピエロの初めて聞く焦りの声。
そして、ついに。
世界が元の姿へと戻った。
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そして、その奥。玉座のような豪華な椅子に腰かけている一人の男。
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だが、その顔から余裕の笑みは完全に消え失せていた。
幻惑のピエロ。その正体を、俺たちはついに暴いたのだ。
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