M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第七十三話 黒幕の嘲笑

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雷帝ゼノンの参戦。それは処刑場の戦況を、一瞬にして、そして決定的に覆した。
「フン、雑魚が」
ゼノンはブレスによって半死半生となったギロチンに、冷たい視線を投げかける。そして、彼のワイバーン、イグニスがその巨大な爪でギロチンの体を玩具のように軽々と押さえつけた。

「ぐ……はなせ……!」
もはや断罪のギロチンの威厳はどこにもなかった。ただの敗残兵だ。

「フロンティア! 総員、攻撃再開!」
バルガンの号令が再び処刑場に響き渡る。
士気を取り戻した連合のメンバーたちが、ギロチン配下の残ったPKたちに怒涛の如く襲いかかった。
数で勝り、士気でも上回る。勝敗はもはや明らかだった。

数分後、処刑場にはフロンティアの勝利の雄叫びだけがこだましていた。

「……助かった。本当に、ありがとう、ゼノン」
カエデが消耗しきった体で、ゼノンに深々と頭を下げた。彼女の命は間違いなく彼によって救われたのだ。

ゼノンはそんな彼女を一瞥すると、興味なさげに鼻を鳴らした。
「礼ならモンスターメイカーに言え。貴様らがここまで持ちこたえなければ、俺が来たところで何も変わらなかっただろう」
その言葉は、彼なりの俺たちへの賞賛だったのかもしれない。

俺はゼノンの隣に立ち、押さえつけられているギロチンを見下ろした。
「……なぜこんなことをする? プレイヤー同士が傷つけ合う。そこに何の意味がある」

俺の問いに、ギロチンは血反吐を吐きながら狂ったように笑った。
「意味……? 意味だと? ククク……。ねえよ、そんなもん。ただ楽しいからだ。お前らのような正義だの絆だの、綺麗事を並べる奴らが恐怖に歪み、絶望する顔を見るのがたまらなく楽しいんだよ!」

その救いようのない悪意。
俺はそれ以上、彼と言葉を交わすことをやめた。

その時だった。
処刑場の静寂を破って、どこからともなく乾いた拍手の音が響き渡った。

パチ、パチ、パチ……。

全員がはっとしたように、音のする方角を振り返る。
処刑場の最も高い場所。ギロチンが置かれたその断頭台の上に、いつの間にか一人の男が立っていた。

漆黒の豪奢なローブ。銀色の美しい長髪。そして、その顔には全てを嘲笑うかのような優雅な笑みを浮かべた仮面がつけられていた。
その男からは、今まで出会ったどの敵とも違う、底知れない邪悪なプレッシャーが放たれていた。

「……見事、見事だ。素晴らしいショーだったよ、諸君」
仮面の男はまるで演劇を鑑賞し終えたかのように、芝居がかった口調で言った。
「まさか私の可愛い道化と番犬が、こうもたやすく打ち破られるとはね。君たちの力、少し見くびっていたようだ」

「……何者だ、貴様は」
ゼノンが鋭い眼光で男を睨みつけた。

仮面の男は優雅にお辞儀をした。
「お初にお目にかかる。私がこのパンデモニウムを率いる者。皆、私をこう呼ぶよ。『メフィスト』、とね」

メフィスト。
悪徳ギルド【パンデモニウム】の頂点に立つリーダー。
ついに黒幕がその姿を現したのだ。

「ギロチンをどうするつもりだ? 助けに来たのか?」
バルガンが戦斧を構える。

「助ける? はて、何のことかな?」
メフィストは心底不思議そうに首を傾げた。
「ああ、このガラクタのことかい? 負けた犬に用はないよ」

その言葉と同時に、メフィストの指先から一筋の黒い光が放たれた。
それはイグニスに押さえつけられていたギロチンの体を正確に貫いた。

「が……はっ……」
ギロチンは信じられないという顔で、自分の胸を貫く闇を見下ろした。そして、その体は味方であるはずのリーダーの手によって、無残にも光の粒子となって消滅した。

「……!」
そのあまりの非情さに、俺たちは言葉を失った。

「さて、と。ゴミ掃除も済んだことだし、本題に入ろうか」
メフィストはまるで道端の石ころでも蹴飛ばしたかのように、平然と言った。
「君たちに二つ、提案がある。一つ。今すぐそのくだらない反乱ごっこをやめ、私の前にひざまずき忠誠を誓うこと。そうすれば今までの無礼は水に流してやってもいい」

「ふざけるな!」
バルガンが怒号を上げる。

「まあ、そう言うだろうね」
メフィ-ストは肩をすくめた。
「では、二つ目の提案だ。――ここで私に皆殺しにされるか」

その言葉は脅しではなかった。
彼の体から今までの幹部たちとは比較にならないほどの、絶望的な魔力が黒いオーラとなって溢れ出した。
アビスの空が彼の魔力に呼応するかのように、暗く淀んでいく。

「……!」
ゼノンですら、その圧倒的なプレッシャーを前に顔を歪めていた。
「こいつ……! レベルが測定不能だと!?」

「さあ、選びたまえ。服従か、死か」
メフィストはまるで神が人間に選択を迫るかのように、傲慢に言い放った。

「答えは決まっているだろう」
カエデがレイピアを構える。
「我らは決して、お前のような悪に屈しない!」

その言葉を合図に。
メフィストは心底楽しそうに笑った。
「……素晴らしい。その答えを待っていたよ」

次の瞬間。
彼の姿が消えた。

「どこへ!?」
俺たちが周囲を探した、その時。
俺たちの連合軍のど真ん中に、彼は音もなく立っていた。

そして、彼はただ指をパチンと鳴らした。
それだけだった。

「――黒き太陽(ブラック・サン)」

彼の呟きと共に、俺たちの頭上に巨大な闇の球体が出現した。それは周囲の光も音も魔力すらも、全てを吸い込みながら急速に膨張していく。

「ぐ……あああああああっ!」
「に、逃げろおおおお!」

連合のメンバーたちが悲鳴を上げる。
だが、もう遅い。
闇の太陽は無慈悲に爆発した。

轟音。
そして、全てを飲み込む漆黒の衝撃波。
俺は、その光景をスローモーションのように見ていた。
仲間たちがなすすべなく闇に飲み込まれ、光の粒子となって消えていく。

俺もその衝撃に抗うことはできなかった。
意識が遠のいていく。
薄れゆく視界の中で、俺は見た。

断頭台の上から俺たちを見下ろし、心底楽しそうに嘲笑を浮かべる仮面の悪魔の姿を。
そして、その口がこう動いたのを。
『――これが、世界の真理だ』

俺たちの最初の大きな反撃。
それは黒幕の圧倒的な、そして理不尽な力の前に、あまりにもあっけなく粉砕された。
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