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第八十五話 氷を溶かす知略
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猛吹雪が吹き荒れる氷の宮殿。俺たちの仲間は、トリッシュの圧倒的な広範囲魔法の前に次々と倒れていく。この空間そのものが敵であるという絶望的な状況。
だが、その混沌の戦場でリオだけは冷静だった。彼女の千里眼はただのアイテム鑑定スキルではない。それは森羅万象に宿る魔力の流れや、構造的な弱点すらも見抜く「真実の瞳」。
彼女は猛吹雪の中、一点を食い入るように見つめていた。
それはトリッシュが立つ氷の玉座ではなく、そのさらに上。広間の巨大な天蓋を支える無数の氷柱の一つ。
「……見つけた」
彼女は誰にも聞こえないほどの声で呟いた。
そして俺の隣まで、滑る床に足を取られながらも必死に駆け寄ってきた。
「ユーさん!聞こえる!?」
吹雪の轟音にかき消されないよう、彼女は俺の耳元で叫んだ。
「あの女を倒す方法は一つしかない!直接攻撃じゃない!この空間そのものを破壊するの!」
「空間を破壊する!?」
俺は彼女の言葉の意味が、一瞬理解できなかった。
「あの氷の宮殿はただの氷じゃない!あの天井に吊り下がってる一番大きな氷柱!あれがこの空間に冷気を供給し続けてる魔力の源流なんだ!あれを破壊すれば、この『絶対凍土』は崩壊するはず!」
彼女の瞳には確信の光が宿っていた。
彼女は、この絶望的な状況の唯一の「答え」を見つけ出したのだ。
だが問題は、どうやってあの巨大な氷柱を破壊するかだった。
天井までは数十メートルの高さがある。ゴブの魔法もゼノンのブレスも、この吹雪の中では届く前に威力を失ってしまう。
「私が行く」
その時、俺たちの会話を聞いていたカエデが静かに、しかし力強く言った。
「ロックバードを使え、ユー。私をあの氷柱の元まで運べ」
「ですが、危険すぎます!」
「他に手があるのか」
彼女の言葉に、俺はぐっと詰まった。
そうだ。もうこれに賭けるしかない。
「ゼノンさん!バルガンさん!聞こえますか!」
俺は通信用の魔道具を使い、分断された仲間たちに呼びかけた。
「俺たちがこの吹雪を止めます!それまで何とか持ちこたえてください!」
「……フン。好きにしろ。だが、しくじるなよ」
ゼノンからの、ぶっきらぼうだが信頼のこもった返事が返ってきた。
「任せたぜ、ユーの旦那!」
バルガンも力強く応えてくれた。
俺はロックバードを召喚した。
カエデがその背中に軽やかに飛び乗る。
「行くぞ!」
ロックバードは猛吹雪を物ともせず、翼を広げ天高く舞い上がった。
「おやおや?愚かな虫が、一匹空へ逃げるようですわね」
トリッシュが、その光景を嘲笑う。
彼女は俺たちの狙いに、まだ気づいていない。
だが彼女の支配する空は絶対的だった。
俺たちが氷柱に近づくにつれて風はさらに勢いを増し、無数の氷の礫が弾丸のようにロックバードとカエデを襲う。
「ぐっ……!」
ロックバードの翼が傷つき、凍りついていく。カエデも全身に氷の鎧を纏わせ、必死に耐えている。
このままでは氷柱にたどり着く前に撃ち落とされる。
「マスター!僕も行きます!」
ゴブが叫んだ。
彼は俺の背中から飛び降りると、自らの体に炎のオーラを纏わせた。
「スキル、『ヒートボディ』!」
それはルビー・インプから学んだ、自己発熱の魔法。
ゴブは小さな炎の塊となって、ロックバードの周囲を飛び回り始めた。
彼が通った後には熱によって吹雪がわずかに弱まる。
彼が俺たちのための道を、その身を燃やして切り開いてくれているのだ。
「ゴブ……!」
「マスターの、お邪魔はさせません!」
そして俺も、最後の創造に取り掛かっていた。
俺が創り出すのは攻撃用のモンスターではない。
この絶対零度の空間で仲間を守るための、究極の「鎧」。
俺はヒータースライムのコアと耐熱スライムのコア、そして賢者の塔で手に入れたゴーレムの動力炉の残骸を融合させていく。
「創造!」
生まれたのは、それ自体が小さな太陽のように灼熱のエネルギーを放つスライムだった。
【ソーラー・スライム】
スキル:プロミネンス・アーマー
俺はそれを、ロックバードの背中にいるカエデへと投げ渡した。
「カエデさん!これを鎧に!」
カエデは即座に俺の意図を理解した。
彼女はソーラー・スライムを自らの胸当てに叩きつけた。
スライムは彼女の白銀の鎧と融合し、その全身を燃え盛る炎のオーラで包み込んでいく。
「おおおおおおっ!」
カエデの全身から灼熱の蒸気が噴き出す。
彼女に降り注いでいた氷の礫は、その熱に触れたそばから蒸発して消えていく。
絶対零度の中で一人だけ、太陽を纏う炎の聖騎士が誕生した。
「……感謝する、ユー!」
彼女は振り返ることなく言った。
そして、ついに。
俺たちはリオが示した巨大な氷柱の目前までたどり着いた。
「これで、終わりだあああああっ!」
カエデが渾身の力を込めてレイピアを氷柱の根元へと突き立てた。
炎のオーラを纏った剣が、氷の塊をバターのように貫いていく。
ミシミシ、と。
空間全体が悲鳴を上げるような嫌な音が響き渡った。
巨大な氷柱に亀裂が走る。
「な……!?馬鹿な!私の『世界の心臓(ワールド・ハート)』に、何を!」
トリッシュが初めて焦りの声を上げた。
そして、ついに。
轟音と共に、巨大な氷柱が砕け散った。
その瞬間、世界から冬が消えた。
吹き荒れていた吹雪はぴたりと止み、床や天井を覆っていた氷は急速にその輝きを失っていく。
俺たちを苦しめていた絶対零度の呪縛が解かれたのだ。
「……そんな。私の完璧な世界が……」
トリッシュが呆然と立ち尽くしている。
彼女の最強の武器は失われた。
ここからはただの一対一の戦いだ。
「――終わりだ、魔女」
彼女の背後に、音もなく一つの影が立っていた。
ゼノン。
彼の鋭い爪を模したガントレットが、トリッシュの白く美しい首筋に突きつけられていた。
氷の女王の絶対的な支配は終わった。
それは力ではなく、俺たちの知略と、そして絆がもたらした勝利だった。
だが、その混沌の戦場でリオだけは冷静だった。彼女の千里眼はただのアイテム鑑定スキルではない。それは森羅万象に宿る魔力の流れや、構造的な弱点すらも見抜く「真実の瞳」。
彼女は猛吹雪の中、一点を食い入るように見つめていた。
それはトリッシュが立つ氷の玉座ではなく、そのさらに上。広間の巨大な天蓋を支える無数の氷柱の一つ。
「……見つけた」
彼女は誰にも聞こえないほどの声で呟いた。
そして俺の隣まで、滑る床に足を取られながらも必死に駆け寄ってきた。
「ユーさん!聞こえる!?」
吹雪の轟音にかき消されないよう、彼女は俺の耳元で叫んだ。
「あの女を倒す方法は一つしかない!直接攻撃じゃない!この空間そのものを破壊するの!」
「空間を破壊する!?」
俺は彼女の言葉の意味が、一瞬理解できなかった。
「あの氷の宮殿はただの氷じゃない!あの天井に吊り下がってる一番大きな氷柱!あれがこの空間に冷気を供給し続けてる魔力の源流なんだ!あれを破壊すれば、この『絶対凍土』は崩壊するはず!」
彼女の瞳には確信の光が宿っていた。
彼女は、この絶望的な状況の唯一の「答え」を見つけ出したのだ。
だが問題は、どうやってあの巨大な氷柱を破壊するかだった。
天井までは数十メートルの高さがある。ゴブの魔法もゼノンのブレスも、この吹雪の中では届く前に威力を失ってしまう。
「私が行く」
その時、俺たちの会話を聞いていたカエデが静かに、しかし力強く言った。
「ロックバードを使え、ユー。私をあの氷柱の元まで運べ」
「ですが、危険すぎます!」
「他に手があるのか」
彼女の言葉に、俺はぐっと詰まった。
そうだ。もうこれに賭けるしかない。
「ゼノンさん!バルガンさん!聞こえますか!」
俺は通信用の魔道具を使い、分断された仲間たちに呼びかけた。
「俺たちがこの吹雪を止めます!それまで何とか持ちこたえてください!」
「……フン。好きにしろ。だが、しくじるなよ」
ゼノンからの、ぶっきらぼうだが信頼のこもった返事が返ってきた。
「任せたぜ、ユーの旦那!」
バルガンも力強く応えてくれた。
俺はロックバードを召喚した。
カエデがその背中に軽やかに飛び乗る。
「行くぞ!」
ロックバードは猛吹雪を物ともせず、翼を広げ天高く舞い上がった。
「おやおや?愚かな虫が、一匹空へ逃げるようですわね」
トリッシュが、その光景を嘲笑う。
彼女は俺たちの狙いに、まだ気づいていない。
だが彼女の支配する空は絶対的だった。
俺たちが氷柱に近づくにつれて風はさらに勢いを増し、無数の氷の礫が弾丸のようにロックバードとカエデを襲う。
「ぐっ……!」
ロックバードの翼が傷つき、凍りついていく。カエデも全身に氷の鎧を纏わせ、必死に耐えている。
このままでは氷柱にたどり着く前に撃ち落とされる。
「マスター!僕も行きます!」
ゴブが叫んだ。
彼は俺の背中から飛び降りると、自らの体に炎のオーラを纏わせた。
「スキル、『ヒートボディ』!」
それはルビー・インプから学んだ、自己発熱の魔法。
ゴブは小さな炎の塊となって、ロックバードの周囲を飛び回り始めた。
彼が通った後には熱によって吹雪がわずかに弱まる。
彼が俺たちのための道を、その身を燃やして切り開いてくれているのだ。
「ゴブ……!」
「マスターの、お邪魔はさせません!」
そして俺も、最後の創造に取り掛かっていた。
俺が創り出すのは攻撃用のモンスターではない。
この絶対零度の空間で仲間を守るための、究極の「鎧」。
俺はヒータースライムのコアと耐熱スライムのコア、そして賢者の塔で手に入れたゴーレムの動力炉の残骸を融合させていく。
「創造!」
生まれたのは、それ自体が小さな太陽のように灼熱のエネルギーを放つスライムだった。
【ソーラー・スライム】
スキル:プロミネンス・アーマー
俺はそれを、ロックバードの背中にいるカエデへと投げ渡した。
「カエデさん!これを鎧に!」
カエデは即座に俺の意図を理解した。
彼女はソーラー・スライムを自らの胸当てに叩きつけた。
スライムは彼女の白銀の鎧と融合し、その全身を燃え盛る炎のオーラで包み込んでいく。
「おおおおおおっ!」
カエデの全身から灼熱の蒸気が噴き出す。
彼女に降り注いでいた氷の礫は、その熱に触れたそばから蒸発して消えていく。
絶対零度の中で一人だけ、太陽を纏う炎の聖騎士が誕生した。
「……感謝する、ユー!」
彼女は振り返ることなく言った。
そして、ついに。
俺たちはリオが示した巨大な氷柱の目前までたどり着いた。
「これで、終わりだあああああっ!」
カエデが渾身の力を込めてレイピアを氷柱の根元へと突き立てた。
炎のオーラを纏った剣が、氷の塊をバターのように貫いていく。
ミシミシ、と。
空間全体が悲鳴を上げるような嫌な音が響き渡った。
巨大な氷柱に亀裂が走る。
「な……!?馬鹿な!私の『世界の心臓(ワールド・ハート)』に、何を!」
トリッシュが初めて焦りの声を上げた。
そして、ついに。
轟音と共に、巨大な氷柱が砕け散った。
その瞬間、世界から冬が消えた。
吹き荒れていた吹雪はぴたりと止み、床や天井を覆っていた氷は急速にその輝きを失っていく。
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「……そんな。私の完璧な世界が……」
トリッシュが呆然と立ち尽くしている。
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「――終わりだ、魔女」
彼女の背後に、音もなく一つの影が立っていた。
ゼノン。
彼の鋭い爪を模したガントレットが、トリッシュの白く美しい首筋に突きつけられていた。
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それは力ではなく、俺たちの知略と、そして絆がもたらした勝利だった。
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