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第八十四話 氷結の魔女
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サラマンダーを打ち破り、煉獄の間を抜けた俺たちの前に、次なる階層へと続く巨大な扉が現れた。その扉は、まるで氷を削り出して作られたかのように、青白い冷気を放っていた。
「……気をつけろ。この先、空気が違う」
ゼノンが、ワイバーンの上から鋭く警告を発する。
バルガンが重い扉を押し開けた瞬間、俺たちは息を呑んだ。
流れ込んできたのは、肌を切り裂くような、絶対零度の冷気。
目の前に広がっていたのは、灼熱の煉獄とは正反対の、全てが凍てついた銀世界だった。
そこは、巨大な氷の宮殿だった。床も、壁も、天蓋を支える柱も、全てが美しく透き通った氷でできている。天井からは、無数の巨大な氷柱が、シャンデリアのように垂れ下がっていた。あまりにも幻想的で、そして、生命の温もりを一切感じさせない、死の世界。
「うわ……!さっきまでの暑さが、嘘みたいだね……!」
リオが、耐熱スライムを引っ込め、代わりにヒータースライムをきつく抱きしめた。
俺たちが、広大な氷の広間へと足を踏み入れた、その時。
広間の最も奥。氷でできた、巨大な玉座の上で、一人の女が、ゆっくりと立ち上がった。
長い、白銀の髪。雪のように白い肌。そして、氷のように冷たい、紫色の瞳。彼女が身に纏うドレスは、ダイヤモンドダストを織り込んだかのように、きらきらと輝いている。その姿は、およそ人間とは思えないほど、美しく、そして冷たかった。
【氷姫のトリッシュ Lv.64】
「……ようこそ。私の、氷の庭へ」
その声は、まるで冬の夜風のように、静かで、冷え切っていた。
「下賤な虫けらたちが、よくぞここまでたどり着着ましたこと。褒めて、差し上げますわ」
彼女は、俺たちを見下し、扇子で口元を隠しながら、くすりと笑った。その笑みには、サラマンダーのような獰猛さはない。ただ、絶対的な上位者としての、純粋な侮蔑だけが、込められていた。
「パンデモニウム幹部、氷姫のトリッシュか」
バルガンが、戦斧を構える。
「てめえのくだらねえお遊びも、ここまでだぜ」
「お遊び?」
トリッシュは、心底不思議そうに、首を傾げた。
「いいえ、これからが、本当のお遊びの始まりですわ。あなたたちを、永遠に開けることのない、美しい氷の彫刻にして差し上げますもの」
彼女は、その白く細い指を、静かに天へと掲げた。
詠唱が、始まる。
広間全体の空気が、急速に凍りついていくのが、肌で感じられた。
「まずい!詠唱を止めろ!」
ゼノンが叫び、イグニスが紅蓮のブレスを吐き出した。
だが、ブレスは、トリッシュに届く前に、彼女の目の前に出現した、分厚い氷の壁に阻まれてしまう。
「無駄ですわ」
詠唱が、完了した。
彼女は、微笑んだまま、静かに、告げた。
「――『絶対凍土(コキュートス)』」
次の瞬間。
世界が、凍った。
俺たちが立っていた氷の床から、無数の、鋭い氷の槍が、凄まじい勢いで突き出してきた。それだけではない。天井からは、巨大な氷柱が、雨のように降り注ぐ。そして、猛烈な吹雪が、広間全体を吹き荒れ、俺たちの視界と、動きを奪った。
「ぐわっ!」
「きゃあっ!」
フロンティアのメンバーたちが、次々と悲鳴を上げて倒れていく。突き出した氷の槍に足を貫かれ、あるいは、降り注ぐ氷柱に鎧を砕かれ、戦闘不能に陥っていく。
「散開しろ!固まるな!」
バルガンが叫ぶが、その声も、猛吹雪にかき消されてしまう。
凍てついた床は、スケートリンクのように滑り、まともに立つことすらできない。俺たちの陣形は、完全に分断されてしまった。
「イグニス!」
ゼノンのワイバーンが、吹雪を振り払おうと翼を広げる。だが、その翼に、トリッシュが放った氷の矢が突き刺さった。
「ギシャアアア!?」
翼が、急速に凍りつき始める。イグニスは、苦痛の声を上げ、飛行能力を失って、地面へと落下した。
「くそっ、この女……!」
ゼノンが、悪態をつく。
「マスター!炎が、効きません!」
ゴブのファイアボールも、この絶対零度の空間では、その威力を半減させられ、トリッシュに届く前に、小さな火花となって消えてしまう。
「私の氷の世界では、炎など、風の前の塵に同じですわ」
トリッシュは、高みの見物を決め込み、優雅に、俺たちの苦しむ様を眺めていた。
これは、ただの戦闘ではない。
この空間そのものが、彼女の支配下にある。
彼女は、この氷の庭の、絶対的な女王なのだ。
このままでは、全滅は免れない。
俺たちの熱は、希望は、この絶対的な氷の支配者の前で、なすすべなく、凍りついていくのか。
俺は、猛吹雪の中で、必死に活路を探していた。
何か、何か、この状況を覆す手はないのか。
力では、勝てない。ならば、俺の、創造術で。
だが、どんなモンスターを創ればいい?
炎を生み出すモンスターは、無力だ。
物理攻撃も、この足場では、まともに機能しない。
俺が、絶望的な状況の中で、思考を巡らせていた、その時。
パーティの中で、ただ一人。
リオだけが、戦闘に参加せず、じっと、何かを見つめていた。
彼女の、千里眼。
その翠玉色の瞳は、この吹雪の向こう側。
この絶望的な戦場の、ただ一点を、確かに、捉えていた。
「……気をつけろ。この先、空気が違う」
ゼノンが、ワイバーンの上から鋭く警告を発する。
バルガンが重い扉を押し開けた瞬間、俺たちは息を呑んだ。
流れ込んできたのは、肌を切り裂くような、絶対零度の冷気。
目の前に広がっていたのは、灼熱の煉獄とは正反対の、全てが凍てついた銀世界だった。
そこは、巨大な氷の宮殿だった。床も、壁も、天蓋を支える柱も、全てが美しく透き通った氷でできている。天井からは、無数の巨大な氷柱が、シャンデリアのように垂れ下がっていた。あまりにも幻想的で、そして、生命の温もりを一切感じさせない、死の世界。
「うわ……!さっきまでの暑さが、嘘みたいだね……!」
リオが、耐熱スライムを引っ込め、代わりにヒータースライムをきつく抱きしめた。
俺たちが、広大な氷の広間へと足を踏み入れた、その時。
広間の最も奥。氷でできた、巨大な玉座の上で、一人の女が、ゆっくりと立ち上がった。
長い、白銀の髪。雪のように白い肌。そして、氷のように冷たい、紫色の瞳。彼女が身に纏うドレスは、ダイヤモンドダストを織り込んだかのように、きらきらと輝いている。その姿は、およそ人間とは思えないほど、美しく、そして冷たかった。
【氷姫のトリッシュ Lv.64】
「……ようこそ。私の、氷の庭へ」
その声は、まるで冬の夜風のように、静かで、冷え切っていた。
「下賤な虫けらたちが、よくぞここまでたどり着着ましたこと。褒めて、差し上げますわ」
彼女は、俺たちを見下し、扇子で口元を隠しながら、くすりと笑った。その笑みには、サラマンダーのような獰猛さはない。ただ、絶対的な上位者としての、純粋な侮蔑だけが、込められていた。
「パンデモニウム幹部、氷姫のトリッシュか」
バルガンが、戦斧を構える。
「てめえのくだらねえお遊びも、ここまでだぜ」
「お遊び?」
トリッシュは、心底不思議そうに、首を傾げた。
「いいえ、これからが、本当のお遊びの始まりですわ。あなたたちを、永遠に開けることのない、美しい氷の彫刻にして差し上げますもの」
彼女は、その白く細い指を、静かに天へと掲げた。
詠唱が、始まる。
広間全体の空気が、急速に凍りついていくのが、肌で感じられた。
「まずい!詠唱を止めろ!」
ゼノンが叫び、イグニスが紅蓮のブレスを吐き出した。
だが、ブレスは、トリッシュに届く前に、彼女の目の前に出現した、分厚い氷の壁に阻まれてしまう。
「無駄ですわ」
詠唱が、完了した。
彼女は、微笑んだまま、静かに、告げた。
「――『絶対凍土(コキュートス)』」
次の瞬間。
世界が、凍った。
俺たちが立っていた氷の床から、無数の、鋭い氷の槍が、凄まじい勢いで突き出してきた。それだけではない。天井からは、巨大な氷柱が、雨のように降り注ぐ。そして、猛烈な吹雪が、広間全体を吹き荒れ、俺たちの視界と、動きを奪った。
「ぐわっ!」
「きゃあっ!」
フロンティアのメンバーたちが、次々と悲鳴を上げて倒れていく。突き出した氷の槍に足を貫かれ、あるいは、降り注ぐ氷柱に鎧を砕かれ、戦闘不能に陥っていく。
「散開しろ!固まるな!」
バルガンが叫ぶが、その声も、猛吹雪にかき消されてしまう。
凍てついた床は、スケートリンクのように滑り、まともに立つことすらできない。俺たちの陣形は、完全に分断されてしまった。
「イグニス!」
ゼノンのワイバーンが、吹雪を振り払おうと翼を広げる。だが、その翼に、トリッシュが放った氷の矢が突き刺さった。
「ギシャアアア!?」
翼が、急速に凍りつき始める。イグニスは、苦痛の声を上げ、飛行能力を失って、地面へと落下した。
「くそっ、この女……!」
ゼノンが、悪態をつく。
「マスター!炎が、効きません!」
ゴブのファイアボールも、この絶対零度の空間では、その威力を半減させられ、トリッシュに届く前に、小さな火花となって消えてしまう。
「私の氷の世界では、炎など、風の前の塵に同じですわ」
トリッシュは、高みの見物を決め込み、優雅に、俺たちの苦しむ様を眺めていた。
これは、ただの戦闘ではない。
この空間そのものが、彼女の支配下にある。
彼女は、この氷の庭の、絶対的な女王なのだ。
このままでは、全滅は免れない。
俺たちの熱は、希望は、この絶対的な氷の支配者の前で、なすすべなく、凍りついていくのか。
俺は、猛吹雪の中で、必死に活路を探していた。
何か、何か、この状況を覆す手はないのか。
力では、勝てない。ならば、俺の、創造術で。
だが、どんなモンスターを創ればいい?
炎を生み出すモンスターは、無力だ。
物理攻撃も、この足場では、まともに機能しない。
俺が、絶望的な状況の中で、思考を巡らせていた、その時。
パーティの中で、ただ一人。
リオだけが、戦闘に参加せず、じっと、何かを見つめていた。
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