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第八十八話 影の側近
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雷帝ヴァイスとの死闘を終え、俺たちのパーティはついに天空要塞の最上階へと続く扉の前に立っていた。
ゼノンは多くを語らなかった。ただ、その背中からは長年の宿敵を討ち果たした安堵と、友を失った深い悲しみが静かに滲み出ているようだった。俺たちはそんな彼にかける言葉を見つけられなかった。
扉は黒曜石を磨き上げたかのような漆黒の鏡面でできていた。そこには何も映らない。ただ、底なしの闇が広がっているだけ。
「……この先に、メフィストが」
カエデがレイピアの柄を握りしめ、呟く。
バルガンが扉に手をかけようとした、その時。
扉の表面が水面のように揺らいだ。そして、そこから一人の男がまるで影が実体を持ったかのように、音もなくぬるりと姿を現した。
男は全身を黒い、体にぴったりとフィットした忍び装束のようなもので覆っていた。その顔もまた黒い頭巾で隠されており、ただ鋭く感情のない二つの瞳だけが闇の中でぎらりと光っていた。
その男からは、今まで戦ってきたどの幹部とも違う異質なプレッシャーが放たれていた。サラマンダーの熱も、トリッシュの冷気も、ヴァイスの怒りもない。ただ絶対的な虚無。そこにいるのかいないのかすら曖昧になるような、希薄な存在感。
【影のアルベール Lv.70】
「……お待ちしておりました。闖入者の皆様」
その声は囁くように静かで、抑揚がなかった。
「メフィスト様は玉座にてお待ちかねです。ですが、その前に。この私、アルベールが皆様がその謁見に値するかどうかを、試させていただきましょう」
「最後の幹部か」
ゼノンが前に出る。
「道を開けろ。我らに貴様と遊んでいる時間はない」
「おっと、そう殺気立たないでいただきたい」
アルベールはゼノンの威圧にも全く動じることなく、肩をすくめた。
「私の役目は皆様を足止めすること。そして……」
彼のその冷たい瞳が、俺をまっすぐに捉えた。
「……特に、あなた。モンスターメイカーのユー殿。あなたとは一度じっくりとお話がしてみたかった」
「俺と……?」
俺は思わず身構えた。
アルベールは、その黒い装束の懐から一つのアイテムを取り出した。
それは粘土のような不定形の黒い塊。
俺はそれを見て息を呑んだ。
あれはモンスターを創造するための核となる素材。だが俺が知るどんなコアとも違う、禍々しい混沌としたエネルギーを放っていた。
「驚かれましたか?」
アルベールはくつくつと喉の奥で笑った。
「そう。何を隠そう、私もあなたと『同類』なのですよ」
彼はその黒い粘土を、手のひらの上でこね始めた。
「あなたのように素材を組み合わせモンスターを創り出す。私もそれができる。メフィスト様からその力を授かりましたからな」
彼の言葉に俺は戦慄した。
俺と同じ創造の力を持つ者。
パンデモニウムにそんな人間がいたとは。
「ですが、あなたと私とでは決定的な違いがある」
アルベールの手のひらの上で、粘土が急速に形を成していく。
「あなたは『絆』だの『愛情』だの、そんな不合理で非効率なものを創造に持ち込む。故にあなたの創造物は脆い。弱い」
粘土はやがて一体の醜悪なキメラのようなモンスターの姿となった。複数のモンスターのパーツを無理やり縫い合わせたかのような冒涜的なデザイン。
「私の創造は違います。効率、そして強制。それが全て。モンスターの意志など不要。ただより強く、より従順な完璧な『兵器』を創り出す。それこそが真の創造術」
彼が生み出したキメラが、苦痛に満ちた悲鳴のような咆哮を上げた。
その瞳には知性も感情も何も宿っていない。ただ主の命令を待つだけの空っぽの人形。
「……貴様」
俺の心の奥底から、静かな怒りが込み上げてきた。
「それは創造なんかじゃない。ただの冒涜だ。生命に対する侮辱だ」
俺の言葉に、アルベールは心底楽しそうに笑った。
「ならば、証明してみせますかな?どちらの創造物がより『優れている』のかを」
彼はそう言うと、俺以外の仲間たちに向かって指を鳴らした。
「――影縛りの術」
その瞬間、カエデやゼノン、バルガンたちの足元から無数の黒い影の触手が伸び、彼らの体を完全に拘束してしまった。
「なっ!?」
「くそっ、動けん!」
「これは私とユー殿との一騎打ち。神聖なる創造主同士の対決です。邪魔者は少し黙っていてもらいましょう」
アルベールは俺に向き直った。
「さあ、始めましょうか。あなたもその自慢の『相棒』とやらをお出しなさい。どちらの創造物がこの戦場で最後まで立っていられるか。雌雄を決しようではありませんか」
その挑戦を俺が断るはずがなかった。
俺は静かに、伝説の獣王をその隣に召喚した。
「……キメラ・ロード」
「……グルルルル」
俺の相棒は目の前の偽りの創造主と、その哀れな被造物を静かな怒りを込めて睨みつけていた。
創造対決。
俺のモンスターメイカーとしての誇りと信念の全てを懸けた戦いが、今、始まろうとしていた。
絆を力に変える俺の創造か。
効率と強制が生み出す彼の冒涜か。
本当の創造主が、どちらであるのかを決めるために。
ゼノンは多くを語らなかった。ただ、その背中からは長年の宿敵を討ち果たした安堵と、友を失った深い悲しみが静かに滲み出ているようだった。俺たちはそんな彼にかける言葉を見つけられなかった。
扉は黒曜石を磨き上げたかのような漆黒の鏡面でできていた。そこには何も映らない。ただ、底なしの闇が広がっているだけ。
「……この先に、メフィストが」
カエデがレイピアの柄を握りしめ、呟く。
バルガンが扉に手をかけようとした、その時。
扉の表面が水面のように揺らいだ。そして、そこから一人の男がまるで影が実体を持ったかのように、音もなくぬるりと姿を現した。
男は全身を黒い、体にぴったりとフィットした忍び装束のようなもので覆っていた。その顔もまた黒い頭巾で隠されており、ただ鋭く感情のない二つの瞳だけが闇の中でぎらりと光っていた。
その男からは、今まで戦ってきたどの幹部とも違う異質なプレッシャーが放たれていた。サラマンダーの熱も、トリッシュの冷気も、ヴァイスの怒りもない。ただ絶対的な虚無。そこにいるのかいないのかすら曖昧になるような、希薄な存在感。
【影のアルベール Lv.70】
「……お待ちしておりました。闖入者の皆様」
その声は囁くように静かで、抑揚がなかった。
「メフィスト様は玉座にてお待ちかねです。ですが、その前に。この私、アルベールが皆様がその謁見に値するかどうかを、試させていただきましょう」
「最後の幹部か」
ゼノンが前に出る。
「道を開けろ。我らに貴様と遊んでいる時間はない」
「おっと、そう殺気立たないでいただきたい」
アルベールはゼノンの威圧にも全く動じることなく、肩をすくめた。
「私の役目は皆様を足止めすること。そして……」
彼のその冷たい瞳が、俺をまっすぐに捉えた。
「……特に、あなた。モンスターメイカーのユー殿。あなたとは一度じっくりとお話がしてみたかった」
「俺と……?」
俺は思わず身構えた。
アルベールは、その黒い装束の懐から一つのアイテムを取り出した。
それは粘土のような不定形の黒い塊。
俺はそれを見て息を呑んだ。
あれはモンスターを創造するための核となる素材。だが俺が知るどんなコアとも違う、禍々しい混沌としたエネルギーを放っていた。
「驚かれましたか?」
アルベールはくつくつと喉の奥で笑った。
「そう。何を隠そう、私もあなたと『同類』なのですよ」
彼はその黒い粘土を、手のひらの上でこね始めた。
「あなたのように素材を組み合わせモンスターを創り出す。私もそれができる。メフィスト様からその力を授かりましたからな」
彼の言葉に俺は戦慄した。
俺と同じ創造の力を持つ者。
パンデモニウムにそんな人間がいたとは。
「ですが、あなたと私とでは決定的な違いがある」
アルベールの手のひらの上で、粘土が急速に形を成していく。
「あなたは『絆』だの『愛情』だの、そんな不合理で非効率なものを創造に持ち込む。故にあなたの創造物は脆い。弱い」
粘土はやがて一体の醜悪なキメラのようなモンスターの姿となった。複数のモンスターのパーツを無理やり縫い合わせたかのような冒涜的なデザイン。
「私の創造は違います。効率、そして強制。それが全て。モンスターの意志など不要。ただより強く、より従順な完璧な『兵器』を創り出す。それこそが真の創造術」
彼が生み出したキメラが、苦痛に満ちた悲鳴のような咆哮を上げた。
その瞳には知性も感情も何も宿っていない。ただ主の命令を待つだけの空っぽの人形。
「……貴様」
俺の心の奥底から、静かな怒りが込み上げてきた。
「それは創造なんかじゃない。ただの冒涜だ。生命に対する侮辱だ」
俺の言葉に、アルベールは心底楽しそうに笑った。
「ならば、証明してみせますかな?どちらの創造物がより『優れている』のかを」
彼はそう言うと、俺以外の仲間たちに向かって指を鳴らした。
「――影縛りの術」
その瞬間、カエデやゼノン、バルガンたちの足元から無数の黒い影の触手が伸び、彼らの体を完全に拘束してしまった。
「なっ!?」
「くそっ、動けん!」
「これは私とユー殿との一騎打ち。神聖なる創造主同士の対決です。邪魔者は少し黙っていてもらいましょう」
アルベールは俺に向き直った。
「さあ、始めましょうか。あなたもその自慢の『相棒』とやらをお出しなさい。どちらの創造物がこの戦場で最後まで立っていられるか。雌雄を決しようではありませんか」
その挑戦を俺が断るはずがなかった。
俺は静かに、伝説の獣王をその隣に召喚した。
「……キメラ・ロード」
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俺の相棒は目の前の偽りの創造主と、その哀れな被造物を静かな怒りを込めて睨みつけていた。
創造対決。
俺のモンスターメイカーとしての誇りと信念の全てを懸けた戦いが、今、始まろうとしていた。
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