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第九十一話 禁断の力
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時が止まった。
ゼノンのブレスは紅蓮の彫刻のように空中で静止し、カエデの聖なる剣閃は光の軌跡を描いたまま凍りついた。俺のキメラ・アークロードが放った破壊の奔流もまた、メフィストの目前でその動きを完全に止めている。
俺たちの意識だけが、この異常な空間に取り残されていた。
「な……!?」
「何が起こった……!?」
仲間たちの混乱した思考が、俺の脳内に直接響いてくる。
メフィストは時間が止まった世界の中を、まるで散歩でもするかのようにゆっくりと歩き始めた。
彼は凍りついたイグニスのブレスにそっと指で触れる。
「美しい。破壊の衝動というものは、かくも美しいものだ」
彼はカエデの剣先に仮面を近づける。
「気高い。正義という信念は、硝子細工のように脆く、美しい」
彼は一つ一つの攻撃を、まるで美術品でも鑑賞するかのように吟味していく。
そして最後に俺のキメラ・アークロードの前に立った。
「そして君だ。絆、想い、奇跡。ありとあらゆる不確定要素が絡み合い生まれた、究極の混沌。君こそが最高の芸術品だ」
その瞳は狂信者のそれだった。
彼はこの世界の全てを、自らが演出する壮大な舞台劇の駒としか見ていなかった。
「だが」
彼は静かに続けた。
「どんな美しい芸術も、いつかは終わらせなければならない。それが演出家の役目だからね」
彼が指をパチンと鳴らした。
その瞬間、凍りついていた時間が再び動き出す。
だが、そのベクトルは逆だった。
俺たちが放った全ての攻撃が。
まるでビデオを逆再生するかのように、俺たち自身に向かって凄まじい勢いで逆流してきたのだ。
「ぐわあああああっ!」
「きゃあああああっ!」
仲間たちの悲鳴が玉座の間に響き渡る。
ゼノンは自らが放ったブレスに焼かれ、カエデは自らの聖剣にその身を貫かれた。
フロンティアの仲間たちもまた自らの攻撃をその身に受け、次々と光の粒子となって消滅していく。
「……これが私の力」
メフィストは、その惨状を心底楽しそうに眺めていた。
「世界の理そのものに干渉し、因果を書き換える力。君たちの『力』では決して私には届かない」
俺はキメラ・アークロードを盾に、辛うじてその逆流を耐えきっていた。
だが相棒の体は、自らが放ったエネルギーの反動で深く傷ついている。
「……なんという力だ」
ゼノンがワイバーンから崩れ落ち、呻いた。
カエデもまた地に膝をつき、レイピアを杖代わりにしてかろうじて意識を保っている。
生き残ったのは、もはや数えるほどしかいなかった。
「さあ、どうする? まだ続けるかい?」
メフィストは俺たちに最終宣告を告げる。
俺は唇を噛み締めた。
これがラスボス。これがこの世界の歪みの中心。
正攻法では絶対に勝てない。
何か、何か奴のその禁断の力の、さらに上を行く概念が。
俺は必死に思考を巡らせた。
因果を書き換える。
その力の根源はなんだ?
俺はメフィストの、その有り余るほどの魔力に違和感を覚えた。
一人のプレイヤーがこれほどの力を持てるはずがない。
彼はどこからこの力を得ている?
俺はリオに最後の力を振り絞って問いかけた。
「リオさん……!奴を鑑定してくれ……!」
「……うん!」
リオは朦朧としながらも、その千里眼をメフィストへと向けた。
翠玉色の光がメフィストの、その魂の深淵を覗き込もうとする。
「……無駄だ」
メフィストが指を振るう。
リオの千里眼が強力なジャミングによって阻害される。
「私のステータスなど誰にも見せはしないよ」
だがリオは諦めなかった。
彼女は鼻血を流しながらも、その瞳にありったけの力を込めた。
「こんの……!見えろおおおおおお!」
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
リオの千里眼がメフィストのステータスウィンドウの断片を捉えた。
彼女はそれを見た瞬間、信じられないという顔で絶句した。
そして震える声で俺たちに、その恐るべき真実を告げた。
「……モンスター……」
「え?」
「あの人……ステータス上……プレイヤーじゃない……!システムに寄生する未知の……モンスターとして認識されてる……!」
その言葉に俺は全てを理解した。
彼がなぜこれほどの力を持つのか。
彼がなぜ世界の理に干渉できるのか。
彼はこのゲームの正規の存在ではない。
システムのバグ、あるいは外部からの不正なアクセスによって生まれた癌細胞。
この世界そのものを喰らい、自らの力へと変える禁断の存在。
そして、その力の源泉は。
「……パンデモニウムのメンバー……」
俺は呟いた。
「奴は自分のギルドメンバーを喰らっているんだ。彼らの経験値を、スキルを、魂そのものを吸収して自分の力に……!」
だからギロチンを平然と殺した。
彼にとって仲間とは非常食に過ぎなかったのだ。
「……ご名答」
メフィストは仮面の下で静かに笑っていた。
「ようやく気づいたかね。だが、それがどうしたというのだ? 真実を知ったところで君たちに何ができる?」
そうだ。
真実を知ったところでこの絶望的な状況は何も変わらない。
むしろ敵の底知れない邪悪さを、再認識させられただけ。
だが。
その時、俺の脳裏に一つの閃きが浮かんだ。
それはあまりにも荒唐無稽で、そして俺にしかできない最後の賭け。
モンスターを喰らう。
ならば。
俺の創造術で。
その力の流れを逆流させることが、できるのではないか?
俺は傷ついた相棒、キメラ・アークロードのその巨体を見上げた。
そして静かに彼に語りかけた。
「……すまない、相棒」
俺の声は震えていた。
「お前に酷いことを頼まなければならない」
キメラ・アークロードは俺のその覚ゴを理解したのだろう。
三つの頭が同時に力強く頷いた。
その瞳には創造主への絶対的な信頼が宿っていた。
俺はメフィストに向き直った。
そして不敵に笑って見せた。
「……あんたの力、面白い。少し俺にも味見させてくれよ」
俺の最後の、そして最大の創造が。
この世界の理すら巻き込んだ、禁断の儀式が。
今、始まろうとしていた。
ゼノンのブレスは紅蓮の彫刻のように空中で静止し、カエデの聖なる剣閃は光の軌跡を描いたまま凍りついた。俺のキメラ・アークロードが放った破壊の奔流もまた、メフィストの目前でその動きを完全に止めている。
俺たちの意識だけが、この異常な空間に取り残されていた。
「な……!?」
「何が起こった……!?」
仲間たちの混乱した思考が、俺の脳内に直接響いてくる。
メフィストは時間が止まった世界の中を、まるで散歩でもするかのようにゆっくりと歩き始めた。
彼は凍りついたイグニスのブレスにそっと指で触れる。
「美しい。破壊の衝動というものは、かくも美しいものだ」
彼はカエデの剣先に仮面を近づける。
「気高い。正義という信念は、硝子細工のように脆く、美しい」
彼は一つ一つの攻撃を、まるで美術品でも鑑賞するかのように吟味していく。
そして最後に俺のキメラ・アークロードの前に立った。
「そして君だ。絆、想い、奇跡。ありとあらゆる不確定要素が絡み合い生まれた、究極の混沌。君こそが最高の芸術品だ」
その瞳は狂信者のそれだった。
彼はこの世界の全てを、自らが演出する壮大な舞台劇の駒としか見ていなかった。
「だが」
彼は静かに続けた。
「どんな美しい芸術も、いつかは終わらせなければならない。それが演出家の役目だからね」
彼が指をパチンと鳴らした。
その瞬間、凍りついていた時間が再び動き出す。
だが、そのベクトルは逆だった。
俺たちが放った全ての攻撃が。
まるでビデオを逆再生するかのように、俺たち自身に向かって凄まじい勢いで逆流してきたのだ。
「ぐわあああああっ!」
「きゃあああああっ!」
仲間たちの悲鳴が玉座の間に響き渡る。
ゼノンは自らが放ったブレスに焼かれ、カエデは自らの聖剣にその身を貫かれた。
フロンティアの仲間たちもまた自らの攻撃をその身に受け、次々と光の粒子となって消滅していく。
「……これが私の力」
メフィストは、その惨状を心底楽しそうに眺めていた。
「世界の理そのものに干渉し、因果を書き換える力。君たちの『力』では決して私には届かない」
俺はキメラ・アークロードを盾に、辛うじてその逆流を耐えきっていた。
だが相棒の体は、自らが放ったエネルギーの反動で深く傷ついている。
「……なんという力だ」
ゼノンがワイバーンから崩れ落ち、呻いた。
カエデもまた地に膝をつき、レイピアを杖代わりにしてかろうじて意識を保っている。
生き残ったのは、もはや数えるほどしかいなかった。
「さあ、どうする? まだ続けるかい?」
メフィストは俺たちに最終宣告を告げる。
俺は唇を噛み締めた。
これがラスボス。これがこの世界の歪みの中心。
正攻法では絶対に勝てない。
何か、何か奴のその禁断の力の、さらに上を行く概念が。
俺は必死に思考を巡らせた。
因果を書き換える。
その力の根源はなんだ?
俺はメフィストの、その有り余るほどの魔力に違和感を覚えた。
一人のプレイヤーがこれほどの力を持てるはずがない。
彼はどこからこの力を得ている?
俺はリオに最後の力を振り絞って問いかけた。
「リオさん……!奴を鑑定してくれ……!」
「……うん!」
リオは朦朧としながらも、その千里眼をメフィストへと向けた。
翠玉色の光がメフィストの、その魂の深淵を覗き込もうとする。
「……無駄だ」
メフィストが指を振るう。
リオの千里眼が強力なジャミングによって阻害される。
「私のステータスなど誰にも見せはしないよ」
だがリオは諦めなかった。
彼女は鼻血を流しながらも、その瞳にありったけの力を込めた。
「こんの……!見えろおおおおおお!」
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
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彼女はそれを見た瞬間、信じられないという顔で絶句した。
そして震える声で俺たちに、その恐るべき真実を告げた。
「……モンスター……」
「え?」
「あの人……ステータス上……プレイヤーじゃない……!システムに寄生する未知の……モンスターとして認識されてる……!」
その言葉に俺は全てを理解した。
彼がなぜこれほどの力を持つのか。
彼がなぜ世界の理に干渉できるのか。
彼はこのゲームの正規の存在ではない。
システムのバグ、あるいは外部からの不正なアクセスによって生まれた癌細胞。
この世界そのものを喰らい、自らの力へと変える禁断の存在。
そして、その力の源泉は。
「……パンデモニウムのメンバー……」
俺は呟いた。
「奴は自分のギルドメンバーを喰らっているんだ。彼らの経験値を、スキルを、魂そのものを吸収して自分の力に……!」
だからギロチンを平然と殺した。
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「……ご名答」
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