M.M.O. - Monster Maker Online

夏見ナイ

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第九十話 玉座の間

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「……ありえない。アイテムも使わずに、モンスターを『進化』させただと……!?」
アルベールの震える声が、静まり返った空間に響き渡る。彼の効率と強制に基づいた創造の理論では、目の前で起こった奇跡は到底理解の範疇を超えていた。

進化した俺の相棒、【キメラ・アークロード】。その姿は神々しさすら漂わせていた。全身を覆う鱗はまるで光を編み込んだかのように輝き、三つの頭の瞳にはそれぞれ深い知性と仲間への慈愛、そして敵への揺るぎない闘志が宿っていた。

ユニークスキル『絆の力(リンク・フォース)』。
それは俺と、そしてこの場にいる仲間たちの想いが強いほど、その力を増していく究極のスキル。

「……終わらせよう」
俺は静かに告げた。
キメラ・アークロードは俺の意志に呼応し、音もなくアルベールへと歩みを進める。

「ひ……!来るな!来るなあ!」
アルベールは狼狽し、残っていた最後の『黒い粘土』を全て投げつけた。
「創造せよ!我が最強の盾!『アダマンタイt・ゴーレム』!」

彼の最後の切り札。だがその創造物は、もはや俺たちの敵ではなかった。
キメラ・アークロードはただその前脚を軽く一閃させただけ。
ドラゴンの力が宿ったその一撃は、アダマンタイトの硬い装甲をまるで豆腐のようにたやすく切り裂いた。

ゴーレムは、その役割を果たすことなく轟音と共に崩れ落ちる。

「……あ……あ……」
アルベールは腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
彼の歪んだ創造の物語は、今ここで終わりを告げたのだ。

キメラ・アークロードはとどめを刺すことなく、その歩みを止めた。
俺はアルベールの前に静かに立った。
「……お前の負けだ。もう、やめろ」

「……なぜだ」
アルベールは虚ろな瞳で俺を見上げた。
「なぜ私の完璧な理論が、お前のような感情に左右される非効率な創造に負ける……?」

「お前は分かっていない」
俺は静かに答えた。
「創造は足し算じゃない。掛け算なんだ。一体一体のモンスターの力だけじゃない。そこに俺たちの絆と想いが掛け合わさるから、無限の力が生まれるんだ。お前にはその『掛け算』がなかった。ただ、それだけのことだ」

俺の言葉に、アルベールは何かを悟ったかのように力なくうなだれた。
その瞬間、仲間たちを縛っていた影の拘束が解けた。

「……見事だった、ユー」
カエデが俺の肩にそっと手を置いた。
ゼノンもバルガンも、そしてリオも。誰もが俺と俺の相棒の戦いを誇らしげな目で見つめていた。

俺たちはアルベールをその場に残した。彼を裁くのは俺たちの役目ではない。
俺たちは最後の扉。
黒曜石の鏡面でできた、玉座の間へと続くその扉の前に再び立った。

扉は俺たちの勝利を認めるかのように、音もなく静かに内側へと開かれていった。

その先。
そこに広がっていたのは絶景だった。
部屋の壁は存在しない。あるのはどこまでも続く星空と雲海。
俺たちは天空要塞の、まさに頂点に立っていたのだ。
そして、その広大な空間の中央。
無数の浮遊する水晶に囲まれた、巨大な黒曜石の玉座。
そこに、全ての元凶であるメフィストが足を組み、優雅に俺たちを待ち構えていた。

「――おめでとう。最後の試練を乗り越えたようだね」
その声は穏やかだった。だがその仮面の下の瞳は、一切笑ってはいなかった。
「アルベールを破るとは。君たちの『絆』とやらは、私が想像していた以上に厄介な力のようだ」

彼の周囲にはもはや親衛隊の姿はなかった。
ただ彼一人。
だが、その存在感は今まで戦ってきた全ての幹部たちを束にしたよりも、遥かに巨大だった。

「さあ、始めようか。最後の幕を」
彼がゆっくりと玉座から立ち上がる。
その背後で空間が歪み始めた。
要塞そのものが彼の魔力に呼応し、ギシギシと悲鳴を上げている。

「君たちに敬意を表して。私も少しだけ本気を出させてもらうとしよう」
彼のその一言が、最終決戦の始まりを告げた。

「全軍、突撃!」
バルガンの最後の号令が天空に響き渡る。
フロンティアの生き残った仲間たちが、雄叫びを上げてメフィストへと殺到した。

ゼノンとイグニスが空から急降下し、紅蓮のブレスを吐き出す。
カエデが地を駆け、聖なる光の剣となる。
俺のキメラ・アークロードも、三つの頭から破壊のブレスを放つ。

俺たちが持つ全ての力が一点。
メフィストただ一人に向かって収束していく。

だが、メフィストは動かなかった。
彼はただその場に立ち、静かに指を天に掲げた。

「――時は、満ちた」
彼の呟きが世界に響き渡った。

次の瞬間。
俺たちの全ての攻撃が。
彼の目の前で、ぴたりと止まった。
まるで時間が凍りついたかのように。

そして、世界は反転した。
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