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第4章
18 お店はぼくが守ります! ※ラーシュ視点
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――師匠やフラン先輩は無事に着いたかな?
師匠たちが旅立って数日。
師匠とフラン先輩がいない魔道具店は、なんだか、いつもと違う。
でも、【修復】してほしいというお客様は、たくさんいる。
【修復】する魔道具師は絶対に必要だ。
特に裏通りでは一つの物を大切に使うから、【修復】するととても喜ばれる。
「ラーシュ様。あまり無理をなさらないでくださいね」
「お休み……だいじ……」
家事や身の回りのことは、狼獣人の姉妹のモニカとフェリシアが手伝ってくれている。
いつもは傭兵ギルドのカフェで働いている二人だ。
「モニカたちがいなくて、カフェは大変じゃない?」
「ちょうど、新しく入ったウサギ獣人の子が仕事を覚えてきたところでしたし、私たちもサーラ様のお手伝いができて、とても嬉しいです!」
明るい口調で答えたのは、お姉さんのモニカだった。
モニカのトレードマークはポニーテール。
動くとぴょんっと跳ねる。
店の片隅で、黙って商品を並べているのが妹のフェリシア。
彼女は髪を三つ編みにしていて、いつも静かでおとなしい子だ。
妹のフェリシアのほうは、ぼくと同じ十歳で、モニカは十六歳。
二人とも茶色の髪と緑の目をしていて、刺繍が施された民族衣装を着ている。
「獣人たちは刺繍がうまいな」
テオドールは無地のエプロンをつけ、腰に剣、片手には箒という姿で奥から現れた。
「ありがとうございます。刺繍は獣人女性のたしなみなんですよ。外に出られない雨や雪の日は刺繍をして、行商人が訪れた時に日用品と交換するんです。大事な収入源です!」
「だから、フェリシアは十歳でも、刺繍が上手なんだね。食事の用意もできるし、家事の手際もいいし、すごいね」
ぼくが褒めると、フェリシアは顔を赤くして首を横に振った。
「ち、ちがっ……そ、そんなことなっ……」
なにか悪いことを言ってしまったのか、フェリシアはスススッと後ろへ下がり、遠ざかっていく。
「ラーシュ様。すみません。妹は恥ずかしがり屋なんです。これでも、マシなったんですよ。フェリシア、褒められたらなんて言うの?」
「あっ、ありがとう……ございます……」
フェリシアなりに頑張って、人見知りを治そうと努力しているようだ。
「フェリシア。ぼくとも、少しずつおしゃべりしよう?」
「そ、そ、そんな……。わたしなんて……」
「ぼくたち、同じ年齢だし仲良くできると思う。嫌じゃなかったら、友達になってほしい」
真っ赤な顔をして、フェリシアは首を縦に振った。
――妹がいたら、こんな子がいいな。
たくさん話さなくても、耳と尻尾があるから、どんな気持ちなのか、すぐわかる。
嬉しい時は尻尾が左右に動いているし、話を聞こうとする時は耳をぴょこっと動かす。
ヴィフレア人は獣人を馬鹿にしたり、嫌ったりするけど、ぼくは獣人が好きだ。
――獣人は優しくて正直だから。
一緒にいてホッとするし、貴族たちに囲まれて『ラーシュ様』と呼ばれている時より、自分らしくいられる。
「店の接客は、私たち姉妹に任せてください!」
「わ、わたしもっ……頑張ります!」
「うん。ありがとう」
師匠が不在で【修復】できるのは、ぼくだけだ。
けれど、まだ見習いのぼくは、師匠ほど【修復】スキルは高くないし、【研磨】スキルも低いから、作業には時間がかかる。
魔道具師の【修復】や【研磨】は、とても地道な作業だ。
でも、それが辛いとは思わなかった。
ぼくは【魔力なし】だ。
どんな努力をしても、魔法と魔術は使えないけれど、魔道具師のスキルは努力すればするほど高められていく。
それが楽しくて嬉しい。
――お父さまはきっとぼくを馬鹿にする。でも、馬鹿にされだっていい。ぼくは魔道具師になりたい。
やっと一枚、割れた皿の【修復】が終わった。
この皿は、結婚した記念に作った特別な皿だと聞いた。
割れてしまって、箱の中にずっと片付けてあった。
【修復】できるという噂を聞きつけて、夫婦で外国からやってきた。
今は宿屋に泊まっていて、この皿の【修復】作業が終わるのを待っている。
「よかった……。ちゃんと【修復】できた。あとは割れないように木くずが入った箱に詰めて……」
頑丈な箱を探しに、店のほうへ顔を出すと、モニカとフェリシアが店の外にいるのが見えた。
「サーラ様がいない時に、勝手なことをされては困ります!」
モニカが兵士に怒る声が聞こえてきた。
フェリシアは青い顔で、モニカの手を握っている。
そして、テオドールが怖い顔で、鎧を着た人たちと向き合ってた。
――なにかあった?
剣を手にし、店の外に向かって走る。
店の扉を開けると、そこにいたのは――
「ラーシュ。サーラと一緒に行かなかったのか」
――お父さま。
お母さまが幽閉されてから、初めてお父さまと会った。
お父さまは白い上着と青いマント、護符の効果があるアクセサリーをたくさんつけていた。
「みすぼらしい服装だな」
久しぶりに会ったお父さまは、冷ややかな目で、ぼくを見下ろした。
ぼくは革のエプロンと手袋をはめ、作業中の魔道具師の服装をしている。
少しもみすぼらしい服装じゃない。
お父さまはロレンソを吹き飛ばした時から、変わっていなかった。
師匠がいない時を狙って、お父さまがなにかするんじゃないかって思っていたけど、本当にやってきた。
ぼくの嫌な予感は当たっていたのだ。
――やっぱり、ぼくが残って正解だった。
「獣人ごときが、ヴィフレア王族をジロジロ見るな」
「ご、ごめんなさ……わ、わたし……」
フェリシアはお父さまににらまれて、とても怖かったのか震えていた。
「モニカ。商人ギルドへ行ってもらえる? フェリシアは店の中へ入って」
「おまかせください」
「は、はい……」
モニカは商人ギルドへ向かい、フェリシアはお父さまを気にしながら、店の中へ入っていった。
お父さまがロレンソにしたように、獣人たちを魔術の的にするかもしれない。
師匠は『なにかあったら、すぐに商人ギルドへ知らせるように』と言っていたから、モニカを商人ギルドへやった。
とりあえず、ぼくとテオドールが店から離れなければ、時間稼ぎになるはずだ。
少なくとも兵士たちは、お父さまの命令がないかぎり、なにもできない。
「ラーシュ。いつまで、魔道具師ごっこをして遊んでいるつもりだ? 王宮へ戻り、王子としての教育を受けたらどうだ?」
「王子?」
「僕が国王代行になった話をサーラから聞いただろう? たとえ、【魔力なし】でも王の子は王子として扱われる。僕の息子として生まれたことを感謝するんだね」
――感謝? おじいさまやおばあさまが、どうなったかわからないけど、お父さまがやったことは、正しくないってことだけはわかる!
お父さまだって、わかっているはずだ。
金の刺繍を施した白い上着、魔石が使われているブーツやベルト、ネックレスはいつも通り――でも、身に付ける魔石の量が多い。
身を守るための魔道具が増えてる。
お父さまがなにかに怯えている証拠だ。
おじいさまから国王代行に選ばれていたなら、身を守る必要なんかない!
「お父さま。まだ、おじいさまが国王陛下です。だから、ぼくは王子じゃありません」
お父さまはぼくをにらんだ。
それを見たテオドールが前に出ると、お父さまは笑った。
「テオドール。近衛騎士団長のお前が、僕に刃を向ける気かな?」
「自分が忠誠を誓う王はただ一人」
テオドールの声は低いのによく通る。
「もし、ルーカス様が国王陛下に害をなしたと言うのなら、自分の敵になりましょう」
お父さまの頬がひきつった。
テオドールはおじいさまを支えるため、騎士になった。
だから、お父さまを今すぐにでも問い詰めたいはずだ。
ぼくだって、同じ気持ちだからわかる。
「くだらない」
お父さまはテオドールの忠誠心を鼻で笑った。
「こんな小さな店を守る価値があるのか? 裏通りの家ひとつ、どうだっていいだろう?」
「そんなことありません。裏通りの人たちにとって、大切なお店です!」
「この店が? なくなれば困るって?」
「そうです。【修復】する魔道具師が裏通りにいなかったら、みんなが困ります」
お父さまは無表情だった。
ぼくを見る目が、氷のように冷たいことに気づいた。
――お父さまにぼくが逆らったから、怒っているんだ。
「この店があるから、ラーシュもサーラも王宮へ戻らない。それなら、店をなくしてしまえば、戻るしかないね」
スッと手をかざし、お父さまは兵士に命じた。
「壊せ」
「お父さま! やめてください!」
ぼくは兵士を通さないよう、店の前で両手を広げた。
「店を壊させたりしない! 絶対に僕が守ります!」
お父さまが小さい声で、『裏切り者め』と呟いた。
ぼくは完全にお父さまの敵になった。
――それでもいい。ぼくは師匠たちといたい! ここにいたい!
「命令だ。破壊しろ!」
「しかし、ラーシュ様が……」
「ラーシュに構うな」
兵士たちはぼくが店の前から動ないのを見て、力ずくでなんとかしようとした。
ぼくを捕まえようと、手を伸ばす。
でも、その手は届かない。
テオドールが兵士の腕を絡めとり、地面に叩きつけた。
剣術だけでなく、テオドールは体術も使える。
ただの兵士がテオドールに勝てるわけがなかった。
「ラーシュ様に指一本、触れさせません」
テオドールは強い。
魔術師相手であっても、戦えると言われている。
だから、お父さまもテオドール相手に、自分から動こうとしなかった。
「テオドール。僕に逆らう気か?」
「騎士は主君に忠誠を誓う。俺が心から尊敬し、忠誠を誓っているのは陛下と――そして、ラーシュ様です」
テオドールはぼくに微笑んだ。
「傭兵だった俺を取り立ててくださったのは陛下でした。荒くれ者でしかない俺に声をかけられ、王宮へ来て自分を守ってほしいと請われた」
おじいさまとの思い出を語るテオドールの声は微かに震えていた。
「陛下はお優しい方でした。心から国が平穏であることだけを望まれた。一生、お守りしようと誓ったのに……俺は……」
テオドールの鋭い目に、お父さまは負けて、なにも言い返せなかった。
「主君を守れない騎士など必要ありません」
「テオドールは必要だよ! ぼくを守ってくれていたのは、テオドールだよ!」
「ラーシュ様……」
テオドールはずっと自分を責めていたのだと知った。
竜族の騒ぎで、騎士たちは村や町へ向かった。
あの時は騎士団だけじゃなく、宮廷魔術師だって竜族から、人々を守るために、王宮にいられなかったのだから――
「王宮にいられなかった……?」
――もしかして、竜族の騒ぎって王宮から、騎士や魔術師を遠ざけるため?
竜族を怒らせて、わざと王宮の警備を減らしたのだとしたら……
「テオドール。お前も僕に忠誠を誓わないのか」
「お前もとは? いったい……?」
テオドールが聞き返すと、お父さまはいつもの穏やかで優雅な微笑みではなく、憎悪に満ちた表情を浮かべた。
「リアムが僕の許可なく、サーラと王都を出ていった。だから、僕はリアムを罰しなくてはいけない」
「まさか、リアム様とサーラ様が駆け落ちですか……!?」
テオドールが『駆け落ち』と言ってから、慌てて口に手をあてた。
――リアムさまは師匠と一緒に行くだろうって、ぼくは思ってたけど。
どうやら、お父さまはリアム様と師匠が一緒に旅をしてるのが、気に入らないらしい。
それで、仕返しに店を壊しにきたようだ。
「リアムは僕からなにもかも奪った。僕はそれを取り戻すだけだ!」
お父さまの手が魔石に触れた。
魔石が一斉に輝き出す。
店を壊すのに、魔術を使うつもりだ。
テオドールが剣を抜き、魔術を止めようとした瞬間――
「そこまで!」
通りに鋭い声が響いた。
「なんだ……?」
お父さまは魔術を使わず、現れた人々を眺める。
「商人か」
「いかにも」
ただの商人であれば、お父さまは気にしなかったはずだ。
やってきたのは、王宮にも出入りすることが可能な大商人たちだ。
各国に店を持ち、商人ギルドを取り仕切る大商人は、他国の情報を持っている
他国の情報が欲しくて、王宮へ招く。
お父さまは彼らを無視できない。
「国王代行になられたそうですな。兵隊の人形が欲しいと駄々をこねていたルーカス様が、ずいぶんと成長されたようで、このジジイも嬉しく思います」
「あ、ああ……。まあ、そうだな……。ギルド長も元気そうでなりよりだ」
「いやいや、私の余命はあと三十年程度でしょう」
「三十……? 百歳を越えるんだが……?」
白い髭を生やし、丸いメガネをかけているのがギルド長で、その周りにも大商人たちがいる。
その中には、ヒュランデル商会のヒュランデルさんもいた。
「さて。国王代行殿。アールグレーン商会を壊そうとする理由をお聞かせ願いたい」
「商人ギルドのギルド長とはいえ、口出しは無用。これは僕に逆らった者への見せしめだ」
「法的な理由はないようですな?」
「それは……まあ、そうだが……」
ギルド長は商人たちの長だけあって、淡々とした口調で会話を進めていった。
「国王代行殿。サーラ・アールグレーンは商人。商人を妃になさるおつもりか?」
「いや……」
商人ギルドは本気でお父さまを止めにきたようで、かなりの人数の商人が集まっていた。
その後ろでは、モニカが息を切らせているのが見えた。
「商人か……」
「国王代行殿。よぉーく考えることですぞ。歴代のヴィフレア王が商人を妻にしたなどという話は、このジジイでさえ、一度も耳にしたことがありませんからなぁ」
「サーラはアールグレーン公爵令嬢だ。勘当を解かれたら、公爵令嬢に戻るだろう」
「まだ商人でしょう。商人の小娘を妃にするため連れ去りにきたなどと、噂になれば、恥をかくのはどなたでしょうな?」
お父さまはプライドが高い。
だから、魔術師として自分より上のリアムさまを嫌ってきた。
恥をかくと言われて、お父さまはしばらく考え込んだ。
「今は国王代行でいらっしゃいますが、国王となれば、妻にするのも容易い。待つのも策のひとつでございましょう」
「まあ、それもそうだな……」
「冷静になられたようで、なによりでございます。王宮に国王代行となられた祝いの酒を運ばせております。また、ご贔屓に」
ギルド長は深く頭を下げて、にっこり笑った。
お父さまはギルド長から、お祝いの酒を贈られたからか、嬉しそうだった。
「ギルド長。僕は冷静さを欠いていたようだ」
「いえいえ、滅相もございません。我々の力が必要でしたら、なんなりとお申し付けください」
――まるで魔法みたいだ。
さっきまで、お父さまは怖い顔をして魔術を使おうとしていたのに、ギルド長が少し話をしただけで、お父さまはすんなり引いた。
兵士たちはホッとした顔で、引き上げていった。
お父さまは馬車に乗り、去っていったけど、一度もぼくを見なかった――
「ラーシュ様。よく頑張りましたな」
ギルド長はぼくの手を握った。
シワシワの手から、ぬくもりを感じて涙がこぼれた。
――店を守れた。
「ギルド長、ありがとうございました……」
「ははは! 商人ギルド長の仕事をしたまでのこと。早くサーラ様が帰ってくるとよろしいですな」
ぼくはお父さまの前では、強がって平気なふりをしていたけど、ギルド長には心細い気持ちを見抜かれていた。
「はい……」
ギルド長は身を屈ませると、ぼくの耳元で囁いた。
「ラーシュ様。お父上から離れて正解ですぞ。サンダール公爵はよい噂を聞きません。このまま、こちらで過ごされたほうがよろしい」
「でも、師匠が王宮へ戻ったら……」
「サーラ様は我々にも予想できないことをやってのける。そんな方ではないですかな?」
――ギルド長の言う通りだ。
師匠は王都を変えた。
獣人たちを奴隷から解放し、竜族との交流を復活させ、今度は裏通りと表通りの隔たりをなくしてしまおうとしている。
「ぼくの師匠はすごい人だって忘れてました」
師匠の顔を思い出して、笑いながら涙をぬぐった。
フラン先輩とリアムさまもいて、師匠を助けてくれる。
アールグレーン公爵家の領地がある東の方角を眺めた。
――師匠。ぼくは店を守りました。
だから、師匠。
ここへ帰ってきてくださいね――
師匠たちが旅立って数日。
師匠とフラン先輩がいない魔道具店は、なんだか、いつもと違う。
でも、【修復】してほしいというお客様は、たくさんいる。
【修復】する魔道具師は絶対に必要だ。
特に裏通りでは一つの物を大切に使うから、【修復】するととても喜ばれる。
「ラーシュ様。あまり無理をなさらないでくださいね」
「お休み……だいじ……」
家事や身の回りのことは、狼獣人の姉妹のモニカとフェリシアが手伝ってくれている。
いつもは傭兵ギルドのカフェで働いている二人だ。
「モニカたちがいなくて、カフェは大変じゃない?」
「ちょうど、新しく入ったウサギ獣人の子が仕事を覚えてきたところでしたし、私たちもサーラ様のお手伝いができて、とても嬉しいです!」
明るい口調で答えたのは、お姉さんのモニカだった。
モニカのトレードマークはポニーテール。
動くとぴょんっと跳ねる。
店の片隅で、黙って商品を並べているのが妹のフェリシア。
彼女は髪を三つ編みにしていて、いつも静かでおとなしい子だ。
妹のフェリシアのほうは、ぼくと同じ十歳で、モニカは十六歳。
二人とも茶色の髪と緑の目をしていて、刺繍が施された民族衣装を着ている。
「獣人たちは刺繍がうまいな」
テオドールは無地のエプロンをつけ、腰に剣、片手には箒という姿で奥から現れた。
「ありがとうございます。刺繍は獣人女性のたしなみなんですよ。外に出られない雨や雪の日は刺繍をして、行商人が訪れた時に日用品と交換するんです。大事な収入源です!」
「だから、フェリシアは十歳でも、刺繍が上手なんだね。食事の用意もできるし、家事の手際もいいし、すごいね」
ぼくが褒めると、フェリシアは顔を赤くして首を横に振った。
「ち、ちがっ……そ、そんなことなっ……」
なにか悪いことを言ってしまったのか、フェリシアはスススッと後ろへ下がり、遠ざかっていく。
「ラーシュ様。すみません。妹は恥ずかしがり屋なんです。これでも、マシなったんですよ。フェリシア、褒められたらなんて言うの?」
「あっ、ありがとう……ございます……」
フェリシアなりに頑張って、人見知りを治そうと努力しているようだ。
「フェリシア。ぼくとも、少しずつおしゃべりしよう?」
「そ、そ、そんな……。わたしなんて……」
「ぼくたち、同じ年齢だし仲良くできると思う。嫌じゃなかったら、友達になってほしい」
真っ赤な顔をして、フェリシアは首を縦に振った。
――妹がいたら、こんな子がいいな。
たくさん話さなくても、耳と尻尾があるから、どんな気持ちなのか、すぐわかる。
嬉しい時は尻尾が左右に動いているし、話を聞こうとする時は耳をぴょこっと動かす。
ヴィフレア人は獣人を馬鹿にしたり、嫌ったりするけど、ぼくは獣人が好きだ。
――獣人は優しくて正直だから。
一緒にいてホッとするし、貴族たちに囲まれて『ラーシュ様』と呼ばれている時より、自分らしくいられる。
「店の接客は、私たち姉妹に任せてください!」
「わ、わたしもっ……頑張ります!」
「うん。ありがとう」
師匠が不在で【修復】できるのは、ぼくだけだ。
けれど、まだ見習いのぼくは、師匠ほど【修復】スキルは高くないし、【研磨】スキルも低いから、作業には時間がかかる。
魔道具師の【修復】や【研磨】は、とても地道な作業だ。
でも、それが辛いとは思わなかった。
ぼくは【魔力なし】だ。
どんな努力をしても、魔法と魔術は使えないけれど、魔道具師のスキルは努力すればするほど高められていく。
それが楽しくて嬉しい。
――お父さまはきっとぼくを馬鹿にする。でも、馬鹿にされだっていい。ぼくは魔道具師になりたい。
やっと一枚、割れた皿の【修復】が終わった。
この皿は、結婚した記念に作った特別な皿だと聞いた。
割れてしまって、箱の中にずっと片付けてあった。
【修復】できるという噂を聞きつけて、夫婦で外国からやってきた。
今は宿屋に泊まっていて、この皿の【修復】作業が終わるのを待っている。
「よかった……。ちゃんと【修復】できた。あとは割れないように木くずが入った箱に詰めて……」
頑丈な箱を探しに、店のほうへ顔を出すと、モニカとフェリシアが店の外にいるのが見えた。
「サーラ様がいない時に、勝手なことをされては困ります!」
モニカが兵士に怒る声が聞こえてきた。
フェリシアは青い顔で、モニカの手を握っている。
そして、テオドールが怖い顔で、鎧を着た人たちと向き合ってた。
――なにかあった?
剣を手にし、店の外に向かって走る。
店の扉を開けると、そこにいたのは――
「ラーシュ。サーラと一緒に行かなかったのか」
――お父さま。
お母さまが幽閉されてから、初めてお父さまと会った。
お父さまは白い上着と青いマント、護符の効果があるアクセサリーをたくさんつけていた。
「みすぼらしい服装だな」
久しぶりに会ったお父さまは、冷ややかな目で、ぼくを見下ろした。
ぼくは革のエプロンと手袋をはめ、作業中の魔道具師の服装をしている。
少しもみすぼらしい服装じゃない。
お父さまはロレンソを吹き飛ばした時から、変わっていなかった。
師匠がいない時を狙って、お父さまがなにかするんじゃないかって思っていたけど、本当にやってきた。
ぼくの嫌な予感は当たっていたのだ。
――やっぱり、ぼくが残って正解だった。
「獣人ごときが、ヴィフレア王族をジロジロ見るな」
「ご、ごめんなさ……わ、わたし……」
フェリシアはお父さまににらまれて、とても怖かったのか震えていた。
「モニカ。商人ギルドへ行ってもらえる? フェリシアは店の中へ入って」
「おまかせください」
「は、はい……」
モニカは商人ギルドへ向かい、フェリシアはお父さまを気にしながら、店の中へ入っていった。
お父さまがロレンソにしたように、獣人たちを魔術の的にするかもしれない。
師匠は『なにかあったら、すぐに商人ギルドへ知らせるように』と言っていたから、モニカを商人ギルドへやった。
とりあえず、ぼくとテオドールが店から離れなければ、時間稼ぎになるはずだ。
少なくとも兵士たちは、お父さまの命令がないかぎり、なにもできない。
「ラーシュ。いつまで、魔道具師ごっこをして遊んでいるつもりだ? 王宮へ戻り、王子としての教育を受けたらどうだ?」
「王子?」
「僕が国王代行になった話をサーラから聞いただろう? たとえ、【魔力なし】でも王の子は王子として扱われる。僕の息子として生まれたことを感謝するんだね」
――感謝? おじいさまやおばあさまが、どうなったかわからないけど、お父さまがやったことは、正しくないってことだけはわかる!
お父さまだって、わかっているはずだ。
金の刺繍を施した白い上着、魔石が使われているブーツやベルト、ネックレスはいつも通り――でも、身に付ける魔石の量が多い。
身を守るための魔道具が増えてる。
お父さまがなにかに怯えている証拠だ。
おじいさまから国王代行に選ばれていたなら、身を守る必要なんかない!
「お父さま。まだ、おじいさまが国王陛下です。だから、ぼくは王子じゃありません」
お父さまはぼくをにらんだ。
それを見たテオドールが前に出ると、お父さまは笑った。
「テオドール。近衛騎士団長のお前が、僕に刃を向ける気かな?」
「自分が忠誠を誓う王はただ一人」
テオドールの声は低いのによく通る。
「もし、ルーカス様が国王陛下に害をなしたと言うのなら、自分の敵になりましょう」
お父さまの頬がひきつった。
テオドールはおじいさまを支えるため、騎士になった。
だから、お父さまを今すぐにでも問い詰めたいはずだ。
ぼくだって、同じ気持ちだからわかる。
「くだらない」
お父さまはテオドールの忠誠心を鼻で笑った。
「こんな小さな店を守る価値があるのか? 裏通りの家ひとつ、どうだっていいだろう?」
「そんなことありません。裏通りの人たちにとって、大切なお店です!」
「この店が? なくなれば困るって?」
「そうです。【修復】する魔道具師が裏通りにいなかったら、みんなが困ります」
お父さまは無表情だった。
ぼくを見る目が、氷のように冷たいことに気づいた。
――お父さまにぼくが逆らったから、怒っているんだ。
「この店があるから、ラーシュもサーラも王宮へ戻らない。それなら、店をなくしてしまえば、戻るしかないね」
スッと手をかざし、お父さまは兵士に命じた。
「壊せ」
「お父さま! やめてください!」
ぼくは兵士を通さないよう、店の前で両手を広げた。
「店を壊させたりしない! 絶対に僕が守ります!」
お父さまが小さい声で、『裏切り者め』と呟いた。
ぼくは完全にお父さまの敵になった。
――それでもいい。ぼくは師匠たちといたい! ここにいたい!
「命令だ。破壊しろ!」
「しかし、ラーシュ様が……」
「ラーシュに構うな」
兵士たちはぼくが店の前から動ないのを見て、力ずくでなんとかしようとした。
ぼくを捕まえようと、手を伸ばす。
でも、その手は届かない。
テオドールが兵士の腕を絡めとり、地面に叩きつけた。
剣術だけでなく、テオドールは体術も使える。
ただの兵士がテオドールに勝てるわけがなかった。
「ラーシュ様に指一本、触れさせません」
テオドールは強い。
魔術師相手であっても、戦えると言われている。
だから、お父さまもテオドール相手に、自分から動こうとしなかった。
「テオドール。僕に逆らう気か?」
「騎士は主君に忠誠を誓う。俺が心から尊敬し、忠誠を誓っているのは陛下と――そして、ラーシュ様です」
テオドールはぼくに微笑んだ。
「傭兵だった俺を取り立ててくださったのは陛下でした。荒くれ者でしかない俺に声をかけられ、王宮へ来て自分を守ってほしいと請われた」
おじいさまとの思い出を語るテオドールの声は微かに震えていた。
「陛下はお優しい方でした。心から国が平穏であることだけを望まれた。一生、お守りしようと誓ったのに……俺は……」
テオドールの鋭い目に、お父さまは負けて、なにも言い返せなかった。
「主君を守れない騎士など必要ありません」
「テオドールは必要だよ! ぼくを守ってくれていたのは、テオドールだよ!」
「ラーシュ様……」
テオドールはずっと自分を責めていたのだと知った。
竜族の騒ぎで、騎士たちは村や町へ向かった。
あの時は騎士団だけじゃなく、宮廷魔術師だって竜族から、人々を守るために、王宮にいられなかったのだから――
「王宮にいられなかった……?」
――もしかして、竜族の騒ぎって王宮から、騎士や魔術師を遠ざけるため?
竜族を怒らせて、わざと王宮の警備を減らしたのだとしたら……
「テオドール。お前も僕に忠誠を誓わないのか」
「お前もとは? いったい……?」
テオドールが聞き返すと、お父さまはいつもの穏やかで優雅な微笑みではなく、憎悪に満ちた表情を浮かべた。
「リアムが僕の許可なく、サーラと王都を出ていった。だから、僕はリアムを罰しなくてはいけない」
「まさか、リアム様とサーラ様が駆け落ちですか……!?」
テオドールが『駆け落ち』と言ってから、慌てて口に手をあてた。
――リアムさまは師匠と一緒に行くだろうって、ぼくは思ってたけど。
どうやら、お父さまはリアム様と師匠が一緒に旅をしてるのが、気に入らないらしい。
それで、仕返しに店を壊しにきたようだ。
「リアムは僕からなにもかも奪った。僕はそれを取り戻すだけだ!」
お父さまの手が魔石に触れた。
魔石が一斉に輝き出す。
店を壊すのに、魔術を使うつもりだ。
テオドールが剣を抜き、魔術を止めようとした瞬間――
「そこまで!」
通りに鋭い声が響いた。
「なんだ……?」
お父さまは魔術を使わず、現れた人々を眺める。
「商人か」
「いかにも」
ただの商人であれば、お父さまは気にしなかったはずだ。
やってきたのは、王宮にも出入りすることが可能な大商人たちだ。
各国に店を持ち、商人ギルドを取り仕切る大商人は、他国の情報を持っている
他国の情報が欲しくて、王宮へ招く。
お父さまは彼らを無視できない。
「国王代行になられたそうですな。兵隊の人形が欲しいと駄々をこねていたルーカス様が、ずいぶんと成長されたようで、このジジイも嬉しく思います」
「あ、ああ……。まあ、そうだな……。ギルド長も元気そうでなりよりだ」
「いやいや、私の余命はあと三十年程度でしょう」
「三十……? 百歳を越えるんだが……?」
白い髭を生やし、丸いメガネをかけているのがギルド長で、その周りにも大商人たちがいる。
その中には、ヒュランデル商会のヒュランデルさんもいた。
「さて。国王代行殿。アールグレーン商会を壊そうとする理由をお聞かせ願いたい」
「商人ギルドのギルド長とはいえ、口出しは無用。これは僕に逆らった者への見せしめだ」
「法的な理由はないようですな?」
「それは……まあ、そうだが……」
ギルド長は商人たちの長だけあって、淡々とした口調で会話を進めていった。
「国王代行殿。サーラ・アールグレーンは商人。商人を妃になさるおつもりか?」
「いや……」
商人ギルドは本気でお父さまを止めにきたようで、かなりの人数の商人が集まっていた。
その後ろでは、モニカが息を切らせているのが見えた。
「商人か……」
「国王代行殿。よぉーく考えることですぞ。歴代のヴィフレア王が商人を妻にしたなどという話は、このジジイでさえ、一度も耳にしたことがありませんからなぁ」
「サーラはアールグレーン公爵令嬢だ。勘当を解かれたら、公爵令嬢に戻るだろう」
「まだ商人でしょう。商人の小娘を妃にするため連れ去りにきたなどと、噂になれば、恥をかくのはどなたでしょうな?」
お父さまはプライドが高い。
だから、魔術師として自分より上のリアムさまを嫌ってきた。
恥をかくと言われて、お父さまはしばらく考え込んだ。
「今は国王代行でいらっしゃいますが、国王となれば、妻にするのも容易い。待つのも策のひとつでございましょう」
「まあ、それもそうだな……」
「冷静になられたようで、なによりでございます。王宮に国王代行となられた祝いの酒を運ばせております。また、ご贔屓に」
ギルド長は深く頭を下げて、にっこり笑った。
お父さまはギルド長から、お祝いの酒を贈られたからか、嬉しそうだった。
「ギルド長。僕は冷静さを欠いていたようだ」
「いえいえ、滅相もございません。我々の力が必要でしたら、なんなりとお申し付けください」
――まるで魔法みたいだ。
さっきまで、お父さまは怖い顔をして魔術を使おうとしていたのに、ギルド長が少し話をしただけで、お父さまはすんなり引いた。
兵士たちはホッとした顔で、引き上げていった。
お父さまは馬車に乗り、去っていったけど、一度もぼくを見なかった――
「ラーシュ様。よく頑張りましたな」
ギルド長はぼくの手を握った。
シワシワの手から、ぬくもりを感じて涙がこぼれた。
――店を守れた。
「ギルド長、ありがとうございました……」
「ははは! 商人ギルド長の仕事をしたまでのこと。早くサーラ様が帰ってくるとよろしいですな」
ぼくはお父さまの前では、強がって平気なふりをしていたけど、ギルド長には心細い気持ちを見抜かれていた。
「はい……」
ギルド長は身を屈ませると、ぼくの耳元で囁いた。
「ラーシュ様。お父上から離れて正解ですぞ。サンダール公爵はよい噂を聞きません。このまま、こちらで過ごされたほうがよろしい」
「でも、師匠が王宮へ戻ったら……」
「サーラ様は我々にも予想できないことをやってのける。そんな方ではないですかな?」
――ギルド長の言う通りだ。
師匠は王都を変えた。
獣人たちを奴隷から解放し、竜族との交流を復活させ、今度は裏通りと表通りの隔たりをなくしてしまおうとしている。
「ぼくの師匠はすごい人だって忘れてました」
師匠の顔を思い出して、笑いながら涙をぬぐった。
フラン先輩とリアムさまもいて、師匠を助けてくれる。
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