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第4章
19 公爵家からの迎え
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アールグレーン公爵家がある町へやってきたけれど、里帰りしたという気持ちには、少しもならなかった。
――初めて訪れるから当たり前だけど……
町の規模は王都に比べたら小さいものの、洗練された華やさがある。
通りに並ぶ店や建物は、明るい色のものが多い。
魔石を使わないジュエリーショップ、他国から取り寄せた生地で仕立てる店、豪華な羽根がついた帽子屋やビーズを使った靴。
「はー……なんだか、おしゃれな町ですね」
「アールグレーン公爵領は芸術を推奨している。領地には芸術学校もあるぞ」
「私のセンスをダメ出しするだけありますね」
いたるところに、かっこいいポーズを決めた男性の像やナイスバディな女性の像がある。
ただの街灯も花の模様が施され、レンガが敷き詰められた通りは、レンガの色を変え、道にまでこだわりが感じられた。
「さーてと! 公爵家に行く前にちょっとお店を見て行きま……」
「買い食い禁止だ」
「そんなっ!」
「ここはもう敵地。緊張感を持て」
――リアムはアールグレーン公爵家と戦争でもしにきたんですか?
リアムから漂う殺伐とした空気が『遊びは終わりだ』と言っている。
でも、私はのんきそうに見えるけど、旅行気分で買い食いをしてるわけじゃない。
「リアム。違うんです! 食い意地がはってるわけじゃないんです!」
「いや、食い意地は認めろよ」
「私の手帳を見てください」
私の手帳には、各地で見つけた美味しいものや可愛いもの、珍しいものが書かれている。
店名、店主の名前、住所もばっちりだ。
リアムに『この成果をごらんください』と言わんばかりに、手帳をぐいぐい押しつけた。
リアムはとても迷惑そうな顔をして、手帳を眺めた。
「見たが?」
「買い食いや買い物は仕事の一環です。さあ、リアム。わかったなら、お店へ行きましょう!」
「仕切るなよ」
リアムは渋々といった様子で、馬車から降りた。
全身黒づくめという人は珍しく、やっぱりここでも注目を集めていた。
「ねえねえ、あの人。すっごくかっこよくない?」
「声をかけてみる?」
――んんっ!? 今、なんて?
裕福そうな身なりのお嬢様たちが、リアムを見て、きゃあきゃあ騒いでいる。
「サーラ? カフェに入らないの? 花のジャム専門店へ先に行く?」
滅多に食べ物の前で足を止めることのない私。
その私が足を止めたせいか、後ろからついてきたフランが不思議そうな顔で、私を見ていた。
――リアムがかっこいい……?
「どうした?」
リアムの顔を眺める。
たしかにリアムは、顔立ちが整っていて美形。
頭では理解していたけど、王都では宮廷魔術師長と死神の名で恐れられ、心の壁はダイヤモンド級。
リアムと親しい女性……人間はそんな多くない。
でも、王都から遠ざかれば遠ざかるほど、リアムの名前は知っているけど、見たことがないという人が増えていく――つまり、害のないリアムだと、モテるってこと!?
「隣の人は恋人かしら?」
「まさか。だってハンマーを背負ってるのよ? 職人か大工じゃない?」
「えー? 女大工? 勇ましいわねぇ」
――ムッカー! ハンマーを背負っててなにが悪いんですか?
いい女はハンマーを背負ってもいい女なんですよ。
大工だって立派な仕事。
私は魔道具師だけど、大工みたいなことだってやる。
『あなたたちに屋根の上へ登れますか?』なんて、彼女たちに言ってやりたい。
でも、外見年齢が私と同じくらいの彼女たちは、洗練されたセンスを備え、とてもおしゃれだ。
【鑑定】すると、魔石じゃなくてガラスで作られたアクセサリーとビーズの靴。
リボンは手縫いのレースで、バッグの刺繍もお手製だ。
高価な宝石などを使わなくても、じゅうぶんおしゃれだった。
この町に住んでいるだけで、美意識が高められるということだろうか……
「年頃の乙女として、この町で一年ほど修行したほうがいいんでしょうか?」
「は? 修行? なんの?」
「みんな、おしゃれで可愛いですよね……」
リアムは私がこの町の人々を眺めていることに気づいた。
私と同じように周囲を観察する。
「可愛い? どこが違うんだ?」
リアムにはわからなかったようだ。
リアムは全身黒づくめ。
そして、世界は自分と自分以外の人間という大雑把なくくりで、認識されている脳内。
――リアムに『可愛い』を理解してもらおうと思った私が馬鹿でした。
「なんだ? その顔は?」
「いえ……なんでも……」
「この町が美しく見えるのは表面だけだ。路地裏を見ろ」
「え……?」
リアムがカフェの路地裏へちらりと目をやる。
路地裏を見ると、他の町では見られなかった貧しい――それこそ、裏通りなど比ではないほどの姿の人が、路上で生活している。
一人や二人ではない。
「夢を追い、金が尽き、何もかも売ってしまった人間の成れの果てだ。華やかさに惑わされ、憧れる者が大勢いる。だが、成功者は一握りだけだ」
「サーラ、リアム様の言う通りだよ」
フランの顔つきも厳しい。
「アールグレーン公爵領は選ばれた人間だけが住み続けられるんだ」
この町に神様でもいるのだろうか。
選ばれなかったら住めないって、そんなことある?
「選ばれるって、誰にですか?」
「それはね、美しく才能あふれる芸術神にだよ。女神たちは美しいものを愛する」
私とフランが振り返ると、そこにいたのはユディン・アールグレーン。
サーラの兄だった。
白い手袋をはめた手で、亜麻色の髪を手ではらい、微笑を浮かべた。
「女神たちに愛されし者たちが、アールグレーン公爵領を美しく華やかにするのさ!」
ユディンが現れた後、私がさっきの路地裏へ視線を向けると、人の姿は消えていた。
フランがなにか見たのか、怯えた顔をしていた。
「フラン?」
「い、今さ……。路地裏の人たちが兵士に連れられていったよ。自分の力で動けないみたいだったから、引きずられて……」
「町の外に何度捨てても、戻ってくるんだよ。困るよね~」
そう言って微笑むユディンの周囲は、美しいもので固められていた。
御者も従者も、ユディンを取り巻く人々で着飾っていない者はいない。
「サーラ、お兄様にご挨拶は~? ごきげんようくらい言ったらどうなのかな~?」
戸惑う私とフランに気づいたリアムが、間に割って入った。
「ユディン。俺への挨拶はどうした?」
華やかな空気の中に、ずしりと重い黒の色――なにもかも染める漆黒の黒。
笑顔だったユディンが、わずかに身を引いた。
「……失礼。リアム様もご一緒でしたね」
ユディンは胸の前に手を置き、リアムに向かって頭を下げた。
「ヴィフレアの大地、神々に愛された我ら魔術師の王。その存在に敬意を」
詩を詠んでいるかのように、ユディンは軽やかに挨拶をした。
「王は父上だ」
「たとえ、ですよ?」
口元に指をあて、ふふっとユディンは笑う。
「サーラ。リアム様を連れてくるとは、お前にしては素晴らしい出来だよ。褒めてあげよう」
アールグレーン公爵家の人間は、サーラに対し、ずっと上から目線で馬鹿にし続けてきた。
それはこれからも続く――と思ったら大間違いですよ?
「ユディンお兄様ご自慢の領地が、どれだけ豊かで素晴らしいのか、これから見せていただきますわ。アールグレーン商会の女主人として」
――私とあなたはほとんど他人です。
他人行儀な挨拶をした。
以前のサーラとのギャップが激しすぎたのか、ユディンは笑顔のまま、しばらく動かなくなった。
彼がサーラとほとんど交流がなかったとしても、サーラの性格や雰囲気を知らないはずがない。
今まで反抗したことのない妹が、一撃ぶちかましてきたのだから、動揺するのも当然だ。
しかも、これは私からの宣戦布告だと気づいた。
「ずいぶん、強くなったね。汚らしい裏通りに住んで、体だけじゃなく脳みそまで鍛えられたのかな?」
「私はか弱い乙女ですよ? 初めての兄妹げんかになりそうですね?」
確かに右腕は作業のせいで、ちょっとばかり筋肉がついてるけど、か弱い乙女である。
筋肉をネタにされて嬉しいお年頃ではない。
火花を散らす私とユディンに、いつドンパチやらかすのかと、公爵家からついてきた従者たちは、はらはらしていた。
私はひるまない!
なぜなら、こっちには悪魔を超える大魔王がいる!
「おい、サーラ」
「私のバックには魔王がいるから大丈夫なんて思ってませんよ?」
「誰が魔王だ。燃やすぞ」
「燃やっ……!? 私たち、仲間ですよね!?」
ちらとリアムがフランを見る。
フランは耳と尻尾を隠し、おとなしい。
――そういえば、獣人たちは耳と尻尾を隠している気が……
「サーラ、長居は無用だ。サインをしたら、さっさと帰るぞ」
「そうですね」
私が『紙をください』と手を差し出すと、ユディンはそれを拒んだ。
「言っただろう? 親族が集まる場で、サインをする必要があるって。報酬もちゃんと支払ったよ?」
リアムと私を見て、ユディンは楽しげに笑った。
「それにさぁ~。せっかく妹が初めてここまで来たんだから、公爵家へおいでよ。 リアム様もいることだし、一番いい部屋に泊めてあげるよ」
「断る」
「それはいいです」
私とリアムは即答した。
これは明らかに罠。
こんな見え透いた罠にひっかかるほど、おまぬけな私ではない。
リアムと私が同時に断られ、ユディンは頬をひきつらせた。
「二人とも俺がアールグレーン公爵になるって知ってるよね~? ま・さ・か、アールグレーン公爵の誘いを断るとか?」
――うわ、めんどくさい。
ユディンは思いどおりにならなかったからか、アールグレーン次期公爵の権威をふりかざしてきた。
「アールグレーン公爵になる俺と仲良くしておいたほうがいいよ?」
半ば強制的に屋敷へ招待するユディンに、リアムは諦めた様子で返事をした。
「わかった。屋敷へ行くが、おかしな真似をすれば、宮廷魔術師長の権限で、屋敷を吹き飛ばす。その覚悟で招待するんだな」
「ちょ、ちょっと、リアム? 吹き飛ばす前提ですか?」
「大事な屋敷を壊されたくないな~。おかしな真似なんてするつもりないし、丁重におもてなしするよ」
――絶対、嘘ですよね。
胡散臭い笑顔が嘘だと告げている。
「なにはともあれ、我が妹よ! ようこそ、アールグレーン公爵家へ!」
ユディンは両手を広げ、私たちを歓迎した。
――初めて訪れるから当たり前だけど……
町の規模は王都に比べたら小さいものの、洗練された華やさがある。
通りに並ぶ店や建物は、明るい色のものが多い。
魔石を使わないジュエリーショップ、他国から取り寄せた生地で仕立てる店、豪華な羽根がついた帽子屋やビーズを使った靴。
「はー……なんだか、おしゃれな町ですね」
「アールグレーン公爵領は芸術を推奨している。領地には芸術学校もあるぞ」
「私のセンスをダメ出しするだけありますね」
いたるところに、かっこいいポーズを決めた男性の像やナイスバディな女性の像がある。
ただの街灯も花の模様が施され、レンガが敷き詰められた通りは、レンガの色を変え、道にまでこだわりが感じられた。
「さーてと! 公爵家に行く前にちょっとお店を見て行きま……」
「買い食い禁止だ」
「そんなっ!」
「ここはもう敵地。緊張感を持て」
――リアムはアールグレーン公爵家と戦争でもしにきたんですか?
リアムから漂う殺伐とした空気が『遊びは終わりだ』と言っている。
でも、私はのんきそうに見えるけど、旅行気分で買い食いをしてるわけじゃない。
「リアム。違うんです! 食い意地がはってるわけじゃないんです!」
「いや、食い意地は認めろよ」
「私の手帳を見てください」
私の手帳には、各地で見つけた美味しいものや可愛いもの、珍しいものが書かれている。
店名、店主の名前、住所もばっちりだ。
リアムに『この成果をごらんください』と言わんばかりに、手帳をぐいぐい押しつけた。
リアムはとても迷惑そうな顔をして、手帳を眺めた。
「見たが?」
「買い食いや買い物は仕事の一環です。さあ、リアム。わかったなら、お店へ行きましょう!」
「仕切るなよ」
リアムは渋々といった様子で、馬車から降りた。
全身黒づくめという人は珍しく、やっぱりここでも注目を集めていた。
「ねえねえ、あの人。すっごくかっこよくない?」
「声をかけてみる?」
――んんっ!? 今、なんて?
裕福そうな身なりのお嬢様たちが、リアムを見て、きゃあきゃあ騒いでいる。
「サーラ? カフェに入らないの? 花のジャム専門店へ先に行く?」
滅多に食べ物の前で足を止めることのない私。
その私が足を止めたせいか、後ろからついてきたフランが不思議そうな顔で、私を見ていた。
――リアムがかっこいい……?
「どうした?」
リアムの顔を眺める。
たしかにリアムは、顔立ちが整っていて美形。
頭では理解していたけど、王都では宮廷魔術師長と死神の名で恐れられ、心の壁はダイヤモンド級。
リアムと親しい女性……人間はそんな多くない。
でも、王都から遠ざかれば遠ざかるほど、リアムの名前は知っているけど、見たことがないという人が増えていく――つまり、害のないリアムだと、モテるってこと!?
「隣の人は恋人かしら?」
「まさか。だってハンマーを背負ってるのよ? 職人か大工じゃない?」
「えー? 女大工? 勇ましいわねぇ」
――ムッカー! ハンマーを背負っててなにが悪いんですか?
いい女はハンマーを背負ってもいい女なんですよ。
大工だって立派な仕事。
私は魔道具師だけど、大工みたいなことだってやる。
『あなたたちに屋根の上へ登れますか?』なんて、彼女たちに言ってやりたい。
でも、外見年齢が私と同じくらいの彼女たちは、洗練されたセンスを備え、とてもおしゃれだ。
【鑑定】すると、魔石じゃなくてガラスで作られたアクセサリーとビーズの靴。
リボンは手縫いのレースで、バッグの刺繍もお手製だ。
高価な宝石などを使わなくても、じゅうぶんおしゃれだった。
この町に住んでいるだけで、美意識が高められるということだろうか……
「年頃の乙女として、この町で一年ほど修行したほうがいいんでしょうか?」
「は? 修行? なんの?」
「みんな、おしゃれで可愛いですよね……」
リアムは私がこの町の人々を眺めていることに気づいた。
私と同じように周囲を観察する。
「可愛い? どこが違うんだ?」
リアムにはわからなかったようだ。
リアムは全身黒づくめ。
そして、世界は自分と自分以外の人間という大雑把なくくりで、認識されている脳内。
――リアムに『可愛い』を理解してもらおうと思った私が馬鹿でした。
「なんだ? その顔は?」
「いえ……なんでも……」
「この町が美しく見えるのは表面だけだ。路地裏を見ろ」
「え……?」
リアムがカフェの路地裏へちらりと目をやる。
路地裏を見ると、他の町では見られなかった貧しい――それこそ、裏通りなど比ではないほどの姿の人が、路上で生活している。
一人や二人ではない。
「夢を追い、金が尽き、何もかも売ってしまった人間の成れの果てだ。華やかさに惑わされ、憧れる者が大勢いる。だが、成功者は一握りだけだ」
「サーラ、リアム様の言う通りだよ」
フランの顔つきも厳しい。
「アールグレーン公爵領は選ばれた人間だけが住み続けられるんだ」
この町に神様でもいるのだろうか。
選ばれなかったら住めないって、そんなことある?
「選ばれるって、誰にですか?」
「それはね、美しく才能あふれる芸術神にだよ。女神たちは美しいものを愛する」
私とフランが振り返ると、そこにいたのはユディン・アールグレーン。
サーラの兄だった。
白い手袋をはめた手で、亜麻色の髪を手ではらい、微笑を浮かべた。
「女神たちに愛されし者たちが、アールグレーン公爵領を美しく華やかにするのさ!」
ユディンが現れた後、私がさっきの路地裏へ視線を向けると、人の姿は消えていた。
フランがなにか見たのか、怯えた顔をしていた。
「フラン?」
「い、今さ……。路地裏の人たちが兵士に連れられていったよ。自分の力で動けないみたいだったから、引きずられて……」
「町の外に何度捨てても、戻ってくるんだよ。困るよね~」
そう言って微笑むユディンの周囲は、美しいもので固められていた。
御者も従者も、ユディンを取り巻く人々で着飾っていない者はいない。
「サーラ、お兄様にご挨拶は~? ごきげんようくらい言ったらどうなのかな~?」
戸惑う私とフランに気づいたリアムが、間に割って入った。
「ユディン。俺への挨拶はどうした?」
華やかな空気の中に、ずしりと重い黒の色――なにもかも染める漆黒の黒。
笑顔だったユディンが、わずかに身を引いた。
「……失礼。リアム様もご一緒でしたね」
ユディンは胸の前に手を置き、リアムに向かって頭を下げた。
「ヴィフレアの大地、神々に愛された我ら魔術師の王。その存在に敬意を」
詩を詠んでいるかのように、ユディンは軽やかに挨拶をした。
「王は父上だ」
「たとえ、ですよ?」
口元に指をあて、ふふっとユディンは笑う。
「サーラ。リアム様を連れてくるとは、お前にしては素晴らしい出来だよ。褒めてあげよう」
アールグレーン公爵家の人間は、サーラに対し、ずっと上から目線で馬鹿にし続けてきた。
それはこれからも続く――と思ったら大間違いですよ?
「ユディンお兄様ご自慢の領地が、どれだけ豊かで素晴らしいのか、これから見せていただきますわ。アールグレーン商会の女主人として」
――私とあなたはほとんど他人です。
他人行儀な挨拶をした。
以前のサーラとのギャップが激しすぎたのか、ユディンは笑顔のまま、しばらく動かなくなった。
彼がサーラとほとんど交流がなかったとしても、サーラの性格や雰囲気を知らないはずがない。
今まで反抗したことのない妹が、一撃ぶちかましてきたのだから、動揺するのも当然だ。
しかも、これは私からの宣戦布告だと気づいた。
「ずいぶん、強くなったね。汚らしい裏通りに住んで、体だけじゃなく脳みそまで鍛えられたのかな?」
「私はか弱い乙女ですよ? 初めての兄妹げんかになりそうですね?」
確かに右腕は作業のせいで、ちょっとばかり筋肉がついてるけど、か弱い乙女である。
筋肉をネタにされて嬉しいお年頃ではない。
火花を散らす私とユディンに、いつドンパチやらかすのかと、公爵家からついてきた従者たちは、はらはらしていた。
私はひるまない!
なぜなら、こっちには悪魔を超える大魔王がいる!
「おい、サーラ」
「私のバックには魔王がいるから大丈夫なんて思ってませんよ?」
「誰が魔王だ。燃やすぞ」
「燃やっ……!? 私たち、仲間ですよね!?」
ちらとリアムがフランを見る。
フランは耳と尻尾を隠し、おとなしい。
――そういえば、獣人たちは耳と尻尾を隠している気が……
「サーラ、長居は無用だ。サインをしたら、さっさと帰るぞ」
「そうですね」
私が『紙をください』と手を差し出すと、ユディンはそれを拒んだ。
「言っただろう? 親族が集まる場で、サインをする必要があるって。報酬もちゃんと支払ったよ?」
リアムと私を見て、ユディンは楽しげに笑った。
「それにさぁ~。せっかく妹が初めてここまで来たんだから、公爵家へおいでよ。 リアム様もいることだし、一番いい部屋に泊めてあげるよ」
「断る」
「それはいいです」
私とリアムは即答した。
これは明らかに罠。
こんな見え透いた罠にひっかかるほど、おまぬけな私ではない。
リアムと私が同時に断られ、ユディンは頬をひきつらせた。
「二人とも俺がアールグレーン公爵になるって知ってるよね~? ま・さ・か、アールグレーン公爵の誘いを断るとか?」
――うわ、めんどくさい。
ユディンは思いどおりにならなかったからか、アールグレーン次期公爵の権威をふりかざしてきた。
「アールグレーン公爵になる俺と仲良くしておいたほうがいいよ?」
半ば強制的に屋敷へ招待するユディンに、リアムは諦めた様子で返事をした。
「わかった。屋敷へ行くが、おかしな真似をすれば、宮廷魔術師長の権限で、屋敷を吹き飛ばす。その覚悟で招待するんだな」
「ちょ、ちょっと、リアム? 吹き飛ばす前提ですか?」
「大事な屋敷を壊されたくないな~。おかしな真似なんてするつもりないし、丁重におもてなしするよ」
――絶対、嘘ですよね。
胡散臭い笑顔が嘘だと告げている。
「なにはともあれ、我が妹よ! ようこそ、アールグレーン公爵家へ!」
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