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第4章
5 国王代行 ※ルーカス視点
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リアムとサーラを阻み、父上の元へ行こうとしたのを止めた。
そこまではよかったが、なぜサーラがここにいるのかわからない。
僕がサーラを少し見ただけで、リアムは前に出て警戒する。
――リアムは王宮の異変に気づいたか。まぁ、気づくだろうね。
だが、今さら気づいても手遅れだ。
リアムは馬鹿ではない。
自分が王都から遠ざけられ、竜の巣へ行ったのは偶然ではないとようやくわかったはずだ。
単純な性格をしたフォルシアン公爵を利用し、わざと竜とリアムを戦うよう仕向け、対立させたのは僕に協力するサンダール公爵の手の者だ。
竜と戦い、リアムは竜族に殺されるはずだったというのに、企みはサーラの介入によって失敗した。
そして、サーラ本人は自分がリアムの命を救ったことに気づいてない。
サーラはリアムの隣に立ち、硬い表情で、僕とセアンを眺めている。
氷の中から助け出されてから、サーラは予想外な行動ばかりする困った存在だ。
リアムの味方をし、僕の邪魔となる面倒な存在のはずがなぜか憎めない。
「サーラ。竜の巣は楽しかったかな? 怖い思いをしているんじゃないかと、心配していたんだよ」
「りゅ、竜の巣は……えっと、その……」
――うん? なぜ、サーラは赤面しているのかな?
しかも、もじもじしていて十年前のサーラを彷彿とさせた。
リアムのほうは表情を変えていないが、二人の間になにかあったのは一目瞭然だ。
「た、た、楽しかったですよ!」
照れながら言ったサーラにムッとしたのは、僕だけではなかった。
「できそこないの足手まといが図々しい。あれは事故だよ」
セアンがじろりとサーラをにらんだ。
やはり、リアムとサーラの間になにかあったらしい。
セアンは現場にいたらしいが、僕に一切報告がなかった。
「やっぱり……事故……? 私もそうじゃないかと思ってたんです。パンをくわえて激突と同じ現象ですよね」
「パンで激突? 現象? つまり、普段の彼と違う一面を見れてよかったって意味?」
「おい。なにを話しているのか、さっぱりわからないんだが?」
リアムが二人の会話に加わると、サーラは慌てだした。
「リアムはわからなくていいです!」
――気に入らない。
恋愛に不慣れなサーラのくせに――いや、リアムも恋愛に不慣れだが、どうやって二人の仲が進展したのだろうか。
まったく想像できない。
そもそも、ここで僕がリアムを待っていたのには理由がある。
サーラがいるのなら、なおさら都合がいい。
「婚約は認めない」
この言葉をリアムに伝えるために待っていた。
サーラは僕の元妻であり、王宮の慣例に従えば、リアムの妻にはできない。
歴代の王が守ってきた慣例を破ろうとしたのは、父上とリアムだ。
二人の婚約を破棄させるのは当然で、僕は間違っていないというのに、サーラは僕がなにを言っているのだろうという顔をして首を傾げた。
「私は離縁された妻ですよ?」
「兄上。サーラは兄上から離縁された身とはいえ、まだ十八歳で未来がある。自由に生きても許されるはずだ」
貴族の結婚に自由などない――そして、リアムにも自由はない。
父上はリアムばかりを幼い頃から贔屓し、勝手な行動を容認してきた。
王子でありながら、パーティーにほとんど出席せず、魔術師としての勉学を優先させてきた。
宮廷魔術師長になったが、第二王子としてはどうだ?
僕は父上とは違う。
リアムが好き勝手に振舞うような自由を与える気はない。
「リアム。第二王子のお前が王宮のしきたりを破ってどうする」
「悪習は必要ないかと。サーラに復縁の意思はないとわかっていながら、迫るのはいがかなものかと思いますが?」
「元は夫婦。お前にはわからない関係だ」
サーラがハラハラした顔で、僕とリアムを見ていた。
「兄上。近く王位継承を指名する式典があります。そこで、俺とサーラの婚約が発表される。もうサーラのことは諦めていただきたい」
「そっ、そうなんです! 国王陛下が私たちの婚約を認めてくださったんです!」
――国王陛下か。あと少し早ければ、父上に次期国王として指名されていたのはリアムだったんだけどね。
リアムを指名する前に父上は倒れ、意識がなく口も利けない。
二人はまだなにも知らないのだ――そう思うと笑えてきた。
「それで?」
サーラの戸惑いが伝わってきた。
リアムはなにか察っしたのか、表情を険しくさせた。
「リアム。お前は人を好きになることがないと思っていた。自分以外は人だと認識していない気がしていた」
「そんなことは……」
「そうだろうか? 自分より劣っていると、僕を馬鹿にしていただろう?」
サーラが両手を胸の前に組み、祈るように僕とリアムを見つめる。
だが、リアムはそんなサーラに気づいていなかった。
いつも通りのド直球な発言をした。
「俺が馬鹿にしていたのは兄上の行動であって、魔力や知識は別に……」
「僕の行動だと!?」
「女性関係はだらしなく、金遣いも荒い。自分の期待に応えられない息子は放置で、老いた父を支えるどころか悩ませる。どこに尊敬できる余地が?」
リアムに僕の気持ちは永遠にわからない。
「お前が僕をそんなふうに思っていたとはね……。まあ、いい。今だけはその無礼な態度を許そう」
二人が僕の前で恋愛ごっこを楽しむのも後わずか。
現実を突きつける前に、リアムの本心を知りたいと思った。
――本当にサーラが好きなのかどうか。リアムにとってサーラが他の人間に比べ、特別であるなら奪いがいがあるというもの。
「さっきも言った通り、お前が人に好意を持つとは思えない。サーラに好意を持っているというのなら、その証拠を見せてもらいたい」
「証拠……? ああ、なるほど。そういうことか」
「リアム、なにがわかったんですか? 私はさっぱり……」
リアムは表情一つ変えず、行動に移す――リアムはあろうことか、僕の前で堂々とサーラに口づけしようというのである。
どこまで、こいつは僕を軽んじ、不遜な男なんだ。
さすがの僕もこれには驚き、セアンは固まっていた。
サーラの唇に触れる手前で、リアムを手で制した。
それに気づいたサーラが閉じた目を開けた。
「兄上?」
「ルーカス様?」
――じゅうぶんだ。
リアムは嫌いな人間に自分から近づくことはない。
もちろん、触れることすらない。
「リアムがサーラに好意を持っていることは、よくわかった。本当にリアムはサーラが気に入っているんだとわかって嬉しいよ」
リアムが僕に服従し、逆らい続けたサーラが僕の元へ戻る――それを想像し、可笑しくて仕方がなかった。
「第二王子リアム。国王代行として命じる。サーラ・アールグレーンとの婚約は認められない。二人の婚約は破棄とする!」
二人は驚き、僕を見る。
――僕が王だ。
手に入らないはずだった王位。
それを僕は失う寸前のところで手にしたのだ。
今や僕が王で、リアムは臣下の宮廷魔術師長でしかない。
「宮廷魔術師長。竜の巣はどうだった? 竜族はすぐにカッとなる困った連中だからな」
「竜についての報告は父上に直接する。代行とはどういうことなのか、説明していただく」
リアムは僕には関係ないと言わんばかりの態度だ。
なにもかも、もう遅いというのに――そのかたくななリアムの態度が滑稽だった。
父上は虫の息、母上は声を封じられて魔術を使えない。
とどめを刺さなかったのは、母上が父上のそばから離れなかったのもあるが、どうせ生きてきても長くはないと判断したからだ。
サンダール公爵は反対したが、僕は『母上に父上の最期を看取らせてあげよう』と言った。
それくらいは許してやってもいい。
僕が正式に王になるまで、この状況が外へ漏れないようサンダール公爵の配下が見張っている。
つまり、現在の王宮は僕とサンダール公爵の支配下にあるということだ。
サンダール公爵は自分の養子たちを王宮へ紛れ込ませ、侍女や兵士、侍従として勤めさせていた。
彼らはサンダール公爵の恩に報いるためなら、なんでもやる連中だ。
だが、僕はサンダール公爵を恐れていない。
なぜなら、僕はいずれ王となる。
いつでもサンダール公爵が潜ませた連中を命令一つで解雇できる。
――それがセアンであってもだ。
「兄上が答えないのであれば、セアンに聞こう。父上はどうしている?」
「えっ! それはっ……」
セアンはリアムを尊敬し、リアムに対して弱いところがある。
魔道具師としての腕は天才クラスだというのに、天才だけにリアムの優秀さが理解できるらしい。
「セアン。お前はもういい。下がれ。三人で話をしたい」
セアンは今の僕に逆らえる立場でない。それがわかるセアンは、渋々離れていった。
僕がセアンをも、従えているとリアムは知り、王宮の現状を理解しただろう。
その表情は険しく、鋭い目が僕をにらみ、余裕を失っていた。
「国王代行となった僕に宮廷魔術師長は従わなくてはいけない。僕に逆らえば、第二王子といえど反逆罪にあたる」
リアムがどれだけ怒ろうと、僕を攻撃できない。
攻撃したら最後、リアムは王に害なす者として死罪となる。
リアムに勝利し、人生で最高に幸せな気分を味わった瞬間だった。
だが、その幸せな気持ちは、サーラが放った一言で消えた。
「ルーカス様は代行ですよね?」
僕の頬がひきつった。
「今は代行だが、いずれ正式に王として認められる。サーラ、王妃になりたいだろう? 王妃になれば、君を馬鹿にしてきた人間を見返せるよ」
サーラはにこっと笑った。
これは手ごたえアリだ。
そう確信したが――
「私を一番馬鹿にしていたのは、ルーカス様です」
「今の君は馬鹿にしてないよ。むしろ、面白いと思ってる」
昔のことをほじくり返したサーラに反撃したつもりが、逆に鋭い一撃を繰り出した。
「王妃だろうがなんだろうが、ルーカス様の妻になるのはお断りです!」
それは、王に対する態度ではないはずだ。
僕が国王代行だと言っているのに、彼女の態度はまったく変わらない。
「何度も言いましたよね」
復縁は絶対にしないという頑なな意思を感じた。
僕ではなく、リアムを選ぶのか――君は。
それなら、僕は強硬な手に出るしかなくなる。
「サーラ、国王代行命令だ。王宮へ戻れ」
逆らえば、ヴィフレア王家に忠誠を誓う宮廷魔術師、宮廷魔道具師、騎士たちを敵に回すということだ。
従うしか選択肢はない。
そもそも、僕の申し出を断るのもおかしい。
彼女は僕の元妻なのだから――ね?
そこまではよかったが、なぜサーラがここにいるのかわからない。
僕がサーラを少し見ただけで、リアムは前に出て警戒する。
――リアムは王宮の異変に気づいたか。まぁ、気づくだろうね。
だが、今さら気づいても手遅れだ。
リアムは馬鹿ではない。
自分が王都から遠ざけられ、竜の巣へ行ったのは偶然ではないとようやくわかったはずだ。
単純な性格をしたフォルシアン公爵を利用し、わざと竜とリアムを戦うよう仕向け、対立させたのは僕に協力するサンダール公爵の手の者だ。
竜と戦い、リアムは竜族に殺されるはずだったというのに、企みはサーラの介入によって失敗した。
そして、サーラ本人は自分がリアムの命を救ったことに気づいてない。
サーラはリアムの隣に立ち、硬い表情で、僕とセアンを眺めている。
氷の中から助け出されてから、サーラは予想外な行動ばかりする困った存在だ。
リアムの味方をし、僕の邪魔となる面倒な存在のはずがなぜか憎めない。
「サーラ。竜の巣は楽しかったかな? 怖い思いをしているんじゃないかと、心配していたんだよ」
「りゅ、竜の巣は……えっと、その……」
――うん? なぜ、サーラは赤面しているのかな?
しかも、もじもじしていて十年前のサーラを彷彿とさせた。
リアムのほうは表情を変えていないが、二人の間になにかあったのは一目瞭然だ。
「た、た、楽しかったですよ!」
照れながら言ったサーラにムッとしたのは、僕だけではなかった。
「できそこないの足手まといが図々しい。あれは事故だよ」
セアンがじろりとサーラをにらんだ。
やはり、リアムとサーラの間になにかあったらしい。
セアンは現場にいたらしいが、僕に一切報告がなかった。
「やっぱり……事故……? 私もそうじゃないかと思ってたんです。パンをくわえて激突と同じ現象ですよね」
「パンで激突? 現象? つまり、普段の彼と違う一面を見れてよかったって意味?」
「おい。なにを話しているのか、さっぱりわからないんだが?」
リアムが二人の会話に加わると、サーラは慌てだした。
「リアムはわからなくていいです!」
――気に入らない。
恋愛に不慣れなサーラのくせに――いや、リアムも恋愛に不慣れだが、どうやって二人の仲が進展したのだろうか。
まったく想像できない。
そもそも、ここで僕がリアムを待っていたのには理由がある。
サーラがいるのなら、なおさら都合がいい。
「婚約は認めない」
この言葉をリアムに伝えるために待っていた。
サーラは僕の元妻であり、王宮の慣例に従えば、リアムの妻にはできない。
歴代の王が守ってきた慣例を破ろうとしたのは、父上とリアムだ。
二人の婚約を破棄させるのは当然で、僕は間違っていないというのに、サーラは僕がなにを言っているのだろうという顔をして首を傾げた。
「私は離縁された妻ですよ?」
「兄上。サーラは兄上から離縁された身とはいえ、まだ十八歳で未来がある。自由に生きても許されるはずだ」
貴族の結婚に自由などない――そして、リアムにも自由はない。
父上はリアムばかりを幼い頃から贔屓し、勝手な行動を容認してきた。
王子でありながら、パーティーにほとんど出席せず、魔術師としての勉学を優先させてきた。
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僕は父上とは違う。
リアムが好き勝手に振舞うような自由を与える気はない。
「リアム。第二王子のお前が王宮のしきたりを破ってどうする」
「悪習は必要ないかと。サーラに復縁の意思はないとわかっていながら、迫るのはいがかなものかと思いますが?」
「元は夫婦。お前にはわからない関係だ」
サーラがハラハラした顔で、僕とリアムを見ていた。
「兄上。近く王位継承を指名する式典があります。そこで、俺とサーラの婚約が発表される。もうサーラのことは諦めていただきたい」
「そっ、そうなんです! 国王陛下が私たちの婚約を認めてくださったんです!」
――国王陛下か。あと少し早ければ、父上に次期国王として指名されていたのはリアムだったんだけどね。
リアムを指名する前に父上は倒れ、意識がなく口も利けない。
二人はまだなにも知らないのだ――そう思うと笑えてきた。
「それで?」
サーラの戸惑いが伝わってきた。
リアムはなにか察っしたのか、表情を険しくさせた。
「リアム。お前は人を好きになることがないと思っていた。自分以外は人だと認識していない気がしていた」
「そんなことは……」
「そうだろうか? 自分より劣っていると、僕を馬鹿にしていただろう?」
サーラが両手を胸の前に組み、祈るように僕とリアムを見つめる。
だが、リアムはそんなサーラに気づいていなかった。
いつも通りのド直球な発言をした。
「俺が馬鹿にしていたのは兄上の行動であって、魔力や知識は別に……」
「僕の行動だと!?」
「女性関係はだらしなく、金遣いも荒い。自分の期待に応えられない息子は放置で、老いた父を支えるどころか悩ませる。どこに尊敬できる余地が?」
リアムに僕の気持ちは永遠にわからない。
「お前が僕をそんなふうに思っていたとはね……。まあ、いい。今だけはその無礼な態度を許そう」
二人が僕の前で恋愛ごっこを楽しむのも後わずか。
現実を突きつける前に、リアムの本心を知りたいと思った。
――本当にサーラが好きなのかどうか。リアムにとってサーラが他の人間に比べ、特別であるなら奪いがいがあるというもの。
「さっきも言った通り、お前が人に好意を持つとは思えない。サーラに好意を持っているというのなら、その証拠を見せてもらいたい」
「証拠……? ああ、なるほど。そういうことか」
「リアム、なにがわかったんですか? 私はさっぱり……」
リアムは表情一つ変えず、行動に移す――リアムはあろうことか、僕の前で堂々とサーラに口づけしようというのである。
どこまで、こいつは僕を軽んじ、不遜な男なんだ。
さすがの僕もこれには驚き、セアンは固まっていた。
サーラの唇に触れる手前で、リアムを手で制した。
それに気づいたサーラが閉じた目を開けた。
「兄上?」
「ルーカス様?」
――じゅうぶんだ。
リアムは嫌いな人間に自分から近づくことはない。
もちろん、触れることすらない。
「リアムがサーラに好意を持っていることは、よくわかった。本当にリアムはサーラが気に入っているんだとわかって嬉しいよ」
リアムが僕に服従し、逆らい続けたサーラが僕の元へ戻る――それを想像し、可笑しくて仕方がなかった。
「第二王子リアム。国王代行として命じる。サーラ・アールグレーンとの婚約は認められない。二人の婚約は破棄とする!」
二人は驚き、僕を見る。
――僕が王だ。
手に入らないはずだった王位。
それを僕は失う寸前のところで手にしたのだ。
今や僕が王で、リアムは臣下の宮廷魔術師長でしかない。
「宮廷魔術師長。竜の巣はどうだった? 竜族はすぐにカッとなる困った連中だからな」
「竜についての報告は父上に直接する。代行とはどういうことなのか、説明していただく」
リアムは僕には関係ないと言わんばかりの態度だ。
なにもかも、もう遅いというのに――そのかたくななリアムの態度が滑稽だった。
父上は虫の息、母上は声を封じられて魔術を使えない。
とどめを刺さなかったのは、母上が父上のそばから離れなかったのもあるが、どうせ生きてきても長くはないと判断したからだ。
サンダール公爵は反対したが、僕は『母上に父上の最期を看取らせてあげよう』と言った。
それくらいは許してやってもいい。
僕が正式に王になるまで、この状況が外へ漏れないようサンダール公爵の配下が見張っている。
つまり、現在の王宮は僕とサンダール公爵の支配下にあるということだ。
サンダール公爵は自分の養子たちを王宮へ紛れ込ませ、侍女や兵士、侍従として勤めさせていた。
彼らはサンダール公爵の恩に報いるためなら、なんでもやる連中だ。
だが、僕はサンダール公爵を恐れていない。
なぜなら、僕はいずれ王となる。
いつでもサンダール公爵が潜ませた連中を命令一つで解雇できる。
――それがセアンであってもだ。
「兄上が答えないのであれば、セアンに聞こう。父上はどうしている?」
「えっ! それはっ……」
セアンはリアムを尊敬し、リアムに対して弱いところがある。
魔道具師としての腕は天才クラスだというのに、天才だけにリアムの優秀さが理解できるらしい。
「セアン。お前はもういい。下がれ。三人で話をしたい」
セアンは今の僕に逆らえる立場でない。それがわかるセアンは、渋々離れていった。
僕がセアンをも、従えているとリアムは知り、王宮の現状を理解しただろう。
その表情は険しく、鋭い目が僕をにらみ、余裕を失っていた。
「国王代行となった僕に宮廷魔術師長は従わなくてはいけない。僕に逆らえば、第二王子といえど反逆罪にあたる」
リアムがどれだけ怒ろうと、僕を攻撃できない。
攻撃したら最後、リアムは王に害なす者として死罪となる。
リアムに勝利し、人生で最高に幸せな気分を味わった瞬間だった。
だが、その幸せな気持ちは、サーラが放った一言で消えた。
「ルーカス様は代行ですよね?」
僕の頬がひきつった。
「今は代行だが、いずれ正式に王として認められる。サーラ、王妃になりたいだろう? 王妃になれば、君を馬鹿にしてきた人間を見返せるよ」
サーラはにこっと笑った。
これは手ごたえアリだ。
そう確信したが――
「私を一番馬鹿にしていたのは、ルーカス様です」
「今の君は馬鹿にしてないよ。むしろ、面白いと思ってる」
昔のことをほじくり返したサーラに反撃したつもりが、逆に鋭い一撃を繰り出した。
「王妃だろうがなんだろうが、ルーカス様の妻になるのはお断りです!」
それは、王に対する態度ではないはずだ。
僕が国王代行だと言っているのに、彼女の態度はまったく変わらない。
「何度も言いましたよね」
復縁は絶対にしないという頑なな意思を感じた。
僕ではなく、リアムを選ぶのか――君は。
それなら、僕は強硬な手に出るしかなくなる。
「サーラ、国王代行命令だ。王宮へ戻れ」
逆らえば、ヴィフレア王家に忠誠を誓う宮廷魔術師、宮廷魔道具師、騎士たちを敵に回すということだ。
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彼女は僕の元妻なのだから――ね?
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◇◇◇◇◇◇
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