9 / 72
2章 再会
9.アラン様の香り
しおりを挟む無事にウサギの子が、仲間達と帰って行ってホッとしていた。
英雄騎士 アラン様にまた会えたし、良かった。
「……こっちへ」
突然、アラン様が険しい顔をして僕の肩を掴んで物陰へ身を隠した。ちょうど木箱が2つ重ねてあり、人が隠れる高さだ。しゃがんで背中で隠すように、僕を後ろに押し込んだ。
「どうしましたか……ん!」
大きな手で口を塞がれた。静かにしてないといけないみたいだ。
そっとアラン様が警戒している方向をそっと見てみると、先程噴水広場で大声を出して騒いでいた男達だった。間違いない。
その男達に、身なりの良い男性が近づいて話しかけた。
「……ご苦労。……まあ、思ったより……。……、……」
遠くてあまり聞こえなかった。
身なりの良い男性は、騒いでいた男達にお金を渡していた。
なんだろう……。何か……。なぜお金を渡しているの?
「う、」
アラン様が体ごと振り返って、僕を後ろから抱きしめてきた。
え!? どうして……?口を塞がれているので話せない。
「獣人のガキが逃げたのは失敗したな。偶然故障した噴水には参ったぜ」
コツコツ……と、こちらに向かって近づいて来る靴音が聞こえた。
獣人の、ガキ? 逃がした?
キュッと、庇うように僕を包む。
「捕まえて売ろうとしたのに、惜しいことをしたぜ」
「まったくだぜ。騎士団が来たり、焦ったな」
コツコツと靴音がすぐ近くで聞こえる。
「まあ、金は貰えたから依頼を受けて良かったぜ」
「本当だぜ。酒を飲みに行こうぜ」
はははは!
男達は上機嫌で通り過ぎて行った。
依頼を受けて? まさか……。
「まだだ。もう少し奴らが行ってからだ」
僕が身動きしたら、動けないようにさらにキツく掴まえられた。
密着しているので、アラン様の香りがする。薫り高いムスクの様な香りがふんわりと僕の鼻をかすめた。
今、騒いでいた男達が近くに歩いていて危険な場面だと思ってるけど。
アラン様の息づかいまで聞こえてきて、ドキドキしている。ダメだ。もっと危機感を抱かないと!
「……行ったようだな」
ふっ……と、抱きしめていた体温が離れて寂しい気持ちになった。口を塞いでいた手も離れて話せるようになった。
「い、今のは……」
冷静を装ってアラン様に話しかけた。アラン様は男達が去った方を見ながら険しい顔をした。
その横顔は凛々しくカッコ良かった。僕は見惚れていた。
「あの騒ぎは作為的なものらしい。やつらは雇われたらしいな」
「なんのために……、でしょうか?」
意図がわからない。
「騒いでいたやつらは、獣人の子供を売って金にするつもりだったらしいが、依頼した男は別の思惑がありそうだな」
嫌な感じ……。依頼主は別の思惑があって、お金で男達を騒がせたみたいだ。
「巻き込まれたルカは危険かも知れない。家まで送ろう」
「え」
家まで送ろう? いやいやいや! 国を救った英雄騎士様に送ってもらうなんて! それは一番最強の護衛だけど!
「い、いえ! このあと、仕事の配達をしないといけませんから!」
僕は焦った。本気だろうか? 彼ほどの騎士団長まで実力でのし上がった、実力ある騎士様が平民の護衛をするなんて!
「配達があるのか。ではそれにも付き合おう」
えっ!? 聞き違いかな。アラン様は貴族ですよね。
「そんな! 僕なんかほっといて、大丈夫ですから!」
そう言うとアラン様は、じ――っと僕を凝視してきた。
「君は一人であの男達に勝てるのか?」
……魔法を使えれば大丈夫なんだけど、目立ちたくないから使えない。なので、魔法の加護を付けたアクセサリーはあるけどあまり強力だと多数の加護がついてるのを知られたくない。肉弾戦は無理だ。
「勝てません……」
「では行こう」
僕はアラン様に負けた。
噴水広場での騒動から、だいぶ時間が経ってしまった。配達は今日中に、なので大丈夫だけど。早く渡してあげたい。
「ルカの店は、アクセサリーなどを扱っているのか」
配達が終わり、アラン様が話しかけてきた。
銀の指輪を配達した家では、本当に喜んでくれた。
このような、お客様が僕が作った物で喜んでくれるのが嬉しい。
「そうです。小さなお店、ですけど」
そのあと何件か配達をして、終えた。
いつの間にか夕方になっていて、街の人達は家路を急いていた。
配達の時、アラン様は目立たないように離れていてくれた。配達先に、英雄騎士様がいきなり来たらびっくりするだろう。
クスっと笑みがこぼれる。
「家まで送ろう」
英雄騎士様は、真面目で優しい人だ。偉い人なのに偉ぶらず、平民や獣人とか差別をしないでくれる。
「……ありがとう御座います」
遠慮しても、危険だと思ったのか身を守ろうとしてくれる。頼りがいがあり、さすがは英雄騎士様だなと思った。
しばらく他愛のない話をしながら歩いた。今日は商店街をかなり歩いて、そして走った。
喉もかなり乾いている。家に帰ったらお茶を飲もう。
住居とお店の僕の小さなお城に着いた。
「猫の目。可愛い名前だな」
可愛いと褒めてくれた。
「ありがとう御座います」
『お店の名前は、あなたの下さった猫の顔のクッキーなのです』
いつか伝えたい。あの日のお礼と一緒に。
「では、失礼する」
お店の扉の鍵を開けて開いた。英雄騎士様はそれを見届けて帰ろうとした。
「あ! 待って下さい。お茶でも飲んでいきませんか?」
僕はお礼に、お茶をご馳走することにした。
530
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!
ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。
ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。
これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。
ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!?
ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19)
公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
【完結】悪役令息⁈異世界転生?したらいきなり婚約破棄されました。あれこれあったけど、こんな俺が元騎士団団長に執着&溺愛されるお話
さつき
BL
気づいたら誰かが俺に?怒っていた。
よくわからないからボーっとしていたら、何だかさらに怒鳴っていた。
「……。」
わけわからないので、とりあえず頭を下げその場を立ち去ったんだけど……。
前世、うっすら覚えてるけど名前もうろ覚え。
性別は、たぶん男で30代の看護師?だったはず。
こんな自分が、元第三騎士団団長に愛されるお話。
身長差、年齢差CP。
*ネーミングセンスはありません。
ネーミングセンスがないなりに、友人から名前の使用許可を頂いたり、某キングスゴニョゴニョのチャット友達が考案して頂いたかっこいい名前や、作者がお腹空いた時に飲んだり食べた物したものからキャラ名にしてます。
異世界に行ったら何がしたい?との作者の質問に答えて頂いた皆様のアイデアを元に、深夜テンションでかき上げた物語です。
ゆるゆる設定です。生温かい目か、甘々の目?で見ていただけるとうれしいです。
色々見逃して下さいm(_ _)m
(2025/04/18)
短編から長期に切り替えました。
皆様 本当にありがとうございます❤️深謝❤️
2025/5/10 第一弾完結
不定期更新
氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います
黄金
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻!
だったら離婚したい!
ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。
お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。
本編61話まで
番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。
※細目キャラが好きなので書いてます。
多くの方に読んでいただき嬉しいです。
コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる