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2章 再会

8.ふたたび

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  人々が英雄騎士様に気を取られているうちに、僕は獣人の子を抱っこしながら抜け道に走った。
 アラン様はなぜ僕に『今のうちに、行け』と伝えて抜け道を教えてくれたのだろう?
 とにかく人々から離れようとした。

 噴水広場の近くにあるカフェと花屋さんとの間の道は、見ただけでは行き止まりに思えたがカフェの裏側で真っ直ぐに細い道が続いていた。
 建物が向い合せの裏側で従業員さんが裏口から入るような場所らしい。

「お兄ちゃん、誰も追いかけて来ない?」
不安そうにウサギの子は僕に聞いてきた。
「英雄騎士様が、この抜け道を教えてくれたから大丈夫だよ」 
 僕が笑ってウサギの子に言うと、体の力を抜いたのがわかった。

 しばらく走って行くと見慣れた場所に行き着いた。自分のお店の近くの道に出れたようだ。
「この辺だったら大丈夫だよ。腕輪は外すね?」
 さすがに小さくても、獣人の子は重く疲れたので抱っこから降ろした。
「うん」

 立っている獣人の子の腕輪を、手探りして外す。可愛い姿が見えるようになった。
落ちついたのか耳としっぽは、引っ込んでいた。また見つかりたくないので良かった。
 
「あ! お母さんだ! お母さ――ん!」
ウサギの子は、遠くで人探し風の大人数人に呼びかけて手を振った。
「見つかって良かったね」
「うん!」
気がついたウサギの子の仲間達が、こちらに気がついて走り寄ってきた。

「怖い思いしちゃったね。いつか皆が仲良く暮らせたら良いのにね……」
 僕がしゃがんで目線を合わせて言うと、ウサギの子が笑った。
「怖かったけど、お兄ちゃんみたいな優しい人がいて良かった! いつか、そうなるといいね」
そう言ってくれた。

「もう魔法は解いたから姿は見えなくならないけど、良かったらその腕輪あげるよ」
 姿が見えなくなる魔法は解除したけど、魔物よけや防護魔法を加護として付属させている。つけていればこの子を守ってくれるだろう。
「え! いいの? ありがとう!」

 ウサギの子はお礼を言って僕の頬にキスをした。
「え……」
 僕はびっくりして固まっているうちに、ウサギの子は走って仲間の所に行った。
「お兄ちゃん、ありがとう! バイバイ! またね!」と言って手を振った。
 仲間達は、ペコペコと何度も振り返りながらお辞儀をして去って行った。

「はぁ……。無事に仲間達に会えて良かった……」
しゃがんだまま、くたりと両腕を前に投げ出して頭を抱えた。

 わからないようにとはいえ、魔法を使った。しかもびしょ濡れにしてしまった。
 助けた所を、誰かに見られていたかもしれない。結果的に無事にウサギの子の仲間を見つけられたから良かったけど、英雄騎士様が来てくれなかったら危なかったかも……。

 
「無事に迷子を送り届けられたようだな」

 ふいに声が、頭の上から聞こえて顔を上げた。
視界の右側に脚が見えた。
 脚から目線を上に辿っていけば……。
「英雄、騎士様……!」
気配が全くなく、いつの間にか隣に立っていた。

「噴水広場にいた者達から話は聞いた」
圧倒的な力の持ち主に、僕はゴクリと喉を潤した。
 ただ、そこにいるだけで何もしていないのに強者の佇まいを感じた。
「獣人の子供が迷い込んだそうだな」

 ヒヤリとした。
さっきは夢中だったから考えられなかったけど……。ウサギの子は腕輪のせいで姿が見えなかったはずだが、あの時見えていて僕達を逃がしてくれたように思えた。

「……子供に罪はない。礼を言う」
英雄騎士様は僕にお礼を言ってくれた。慌てて立ち上がって僕は頭を下げた。
「い、いえ! アラン様のおかげで無事に、あの子の仲間達のもとに帰してあげられました」

 顔を上げると、英雄騎士 アラン•バレンシア様が隣に立っていた。見上げないと顔が見えないくらい背が高く、ガッシリとした鍛えられた体と凛々しい顔が近くで見れた。助けてもらった頃のお姿と違っていて、ドキドキした。

 きっと僕を助けたことなんて、覚えてはいないと思うけどこうしてお話できて嬉しい。
 長い前髪が邪魔だったけど、一生の思い出にしよう。

 「え?」
フード越しに頭を撫でられた感触がした。
「君のその優しさが、あの子供を救った」
 ナデナデナデナデ……と、英雄騎士様は僕の頭をフード越しに撫でてくれた。
 懐かしい……。あの時もこうやって、頭を撫でてくれたっけ。

「ん! ゴホン! すまん、つい……」
 我に返ったようにアラン様は手を引っ込めてしまった。もう少し撫でて欲しかった……。
「いえ。ありがとう御座います」
 ニコニコしながら返事をすると、口を手のひらで覆って横を向いた。

「英雄騎士様?」
どうしたのかな? 気のせいか顔が赤いような?
「君は……。君の名前を、聞いていいか?」
 英雄騎士様は僕の名前を尋ねた。ああやっぱり、僕の事はわからないよね。姿も変わっているし。

「……光栄です。僕は ルカ と言います」
あなたに昔、助けられた子供です。
 そのことは言えなくて。

「ルカ……。良い名だ」
英雄騎士様が僕の名を褒めてくれた。僕は嬉しくなって笑みがこぼれた。
 
「ありがとう御座います」
 キラキラと景色が輝いて見えた。

  
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