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3章 二人の過去と今と未来へ
35.黒いローブの男(注意 暴力&暴言の表現あり)
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暴力&暴言の表現あります。
苦手な方はご注意してください。
――――――――
「あうっ……!」
床に顔がこすれて、背中を足でグリグリと踏みつけられている。
「みんな、お前が原因だ……」
僕が、原因……?
「父がおかしくなっていったのも、母が死んだのも!」
「ぐっ……!」
足に体重を乗せ、背中を踏みつけた。
「しっぽは、出さないのか? ちぎり取ってやるのに」
ハハハハッ! 男は僕を踏みつけ見下して笑う。
どうして……。
子供の頃を思い出して、体が竦む。
震える。いや……駄目だ!
――すべて、やめさせないと。
「ルカ!」
ドカドカドカ!
アラン様が異変に気がついて来てくれた。鍵はかけてなかったので良かった。入口からリビングまですぐだ。
「ちっ……、面倒くさい」
黒いローブの男はダルそうに、何かの魔法の詠唱を始めた。
「くっ! 駄目だ!」
僕はひじを床につけて上半身を少し起こし、うつ伏せの体勢からひねって、手のひらを黒いローブの男に向けた。
「疾風!」
「は? え、うああああ――!」
手のひらから、強い風を出して男を吹き飛ばした。リビングからキッチンへ、男は背中から壁にぶつかって落ちた。
「アラン様!」
「ルカ! 大丈夫か!?」
急いで僕に駆け寄って来てくれる。腕を伸ばしてアラン様の手を取ろうとした。
「ルカリオン、お前さえいなければ! 父は獣人を憎むこと無く、獣人奴隷売買に手を染めなかった! 母も父に斬り殺されなかった!」
男は叫んで、指先からバチバチと音を立て小さな稲妻を出した。
それはあっという間に大きくなって、僕達に向けて放たれた。
近い距離で放たれた、眩しい電撃は防ぐ間もない。
僕が出来るのは目を伏せることだけだった。
バチンッッ!
一瞬、リビング中が眩しい光でいっぱいになった。
「?」
体に衝撃が来ない。この距離からだと、あの魔法が直撃する。無傷ではいられないはず……?
そお……っと目を開けると、アラン様の背中が見えた。しゃがんで僕の盾になっていた。
「アラン様!?」
ゾッとした。僕をかばってあの魔法を体で受けた!?
「アラン様!!」
急いで起き上がって、アラン様の広い背中にしがみついた。
「アラン様! アラン様、大丈夫ですか!?」
どうしよう、どうしよう! 僕はどうすればいい?
焦る僕の、肩にアラン様の大きな手がポン! と、乗せられた。
「大丈夫だ。ほら、見てみろ」
「え……?」
大丈夫? 大丈夫のはずはない! かなり強力な稲妻の魔法だ。ケガは!?
「指輪だ。この指輪のおかげで、俺は生き残れた。仲間も」
指輪がはまっている方の手の甲を相手に向けて、アラン様は足の片方を立膝でしゃがんでいた。
指輪から、魔法を弾く結界の盾が展開されていた。
「結界の盾……」
あれはあのとき、アラン様が無事に帰って来れますようにと願ってつけた加護。
無意識に色々な加護をつけた……。それがアラン様の命を守れた?
「だから、この指輪の創り手を探していた。もう見つかったが、な……」
ニヤリと笑って僕を見た。
はは……と力の無い、乾いた笑いが男から聞こえた。
「何もかも、うまくいかない……」
ユラリと、黒いローブの男は立ち上がった。かなりの怪我を負っている。
動けば動くほど傷口が開いていく。また指をこちらに向けて、魔法を出そうとしていた。
「お前のせいだ」
「もうやめて! もうやめて、リオネス兄様!!」
パリン……! と、口封じの魔法が解けた。身体中、痛みが走ったが夢中でリオネス兄様の名を呼んだ。
「ッ! 何だと……! 俺の口封じの魔法が!」
「母様は最期に、リオネス兄様のことを呼んでた。『体が弱くて離れ離れになって、ごめんなさい』『リオネスとルカリオン、二人とも愛しているわ』『リオネス、最期に会えなくて残念だけどいつも見守っているわ』と。僕が孤児院を抜け出して、最期に会って、穏やかな顔で逝ったよ……」
「……!」
「リオネス兄様……」
僕は知らないうちに涙を流していた。
「母様は僕達二人を心配していた。でも最期まで僕達を愛して、そして逝った」
『母様! 母様!』と何度も呼んだ。
けれどもう返事がないので、悲しくて。
でも僕は、孤児院の皆や商店街の皆さんに優しくされて、頑張れた。
もちろんアラン様に助けてもらったことは、忘れてない。国を皆の平和を守ってくれたこの人を、誇りに思う。
「はっ……? いまさら何だよ。俺は、俺達は母様にだけは愛されていたのか……」
ヨロヨロと壊された勝手口に歩いていく。
「俺は馬鹿みたいじゃないか」
「調査した所。君の父君は、獣人達を奴隷として売買していた。もう拘束されるだろう」
アラン様が立ち上がり、兄様に話しかける。
「だが君は、獣人や人間の子供達を管理はしていたが売買はせず、逃がしていたと報告があった」
「兄様……!」
逃がしていた?
「父君よりは罪が軽くなりそうだ。事情を聞きたいので、同行してもらえないだろうか?」
アラン様は穏やかに伝えた。でも隙がなくピリピリと威圧感があった。また魔法を使えば、さらに罪になる。
「ルカリオン」
兄様が僕の名を呼んだ。
「はい」
しばらく僕を見つめて、口を開いた。
「その母様譲りの、緑の瞳がうらやましかった。お前が半獣人と分かる前は仲良かったな……」
傷口から赤い血が床に色づく。
「兄様、傷口が!」
「あの日、私は学校にいて家にいなかった。母様は切られて深い傷を負っていて、ルカリオンは半獣人の半端者と父に教えられた」
兄様はかすかに笑っていた。泣きそうな顔だった。
「あまり母様に会えないまま、逝ってしまったから……」
悲しみをお前にぶつけた……と兄様は呟く。
「みんなお前のせいだ、と思わなければ生きて行けなかった……。ごめんな、ルカリオン」
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