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「ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました」
2 宿屋にて 露天風呂
しおりを挟む二階への階段を登って、右側の奥が予約した部屋だと聞いた。
アランと手を繋いで部屋の扉を開けた。
「わあ! 窓から遠くに川が見えるね。二階からだから眺めが良い」
部屋の中を真っすぐ窓まで行って、アランに話しかけた。
「珍しい宿屋だろう? 遠い東の国の、古い文献を参考にして作られた宿で、外に『露天風呂』というものがある」
「『露天風呂』?」
初めて聞くお風呂に、僕はアランに聞き返した。
「『露天風呂』というのは、外にお風呂があって、景色を眺めたりしながら入る風呂だ」
「へえ……」
外にあるお風呂か……。
「貸し切りにしてあるから、あとで入りに行こう」
そう言い、僕の肩をポンと叩いた。
部屋の中はベッド、ソファーとテーブルのセット。隣の部屋はお風呂がついていた。
「ここ、良い部屋だよね……?」
僕は部屋の値段が気になってしまった。余計なものはなかったけれど、家具とか古いけれど質が良さそうな物だった。
「これでも抑えた方だぞ? 国の代表で行くのだから、それなりに安全が保障される宿屋でないと、危険だ」
「あ……」
そうか。贅沢をするわけじゃなくて、身の安全を一番に考えた宿屋なのか。
「考えなしで、ごめん。浮かれてた」
反省しなくちゃ。僕達は獣人の国へ和平大使として行くのだから。
「いや。安全を考慮しつつ、少しは楽しまないとやってられん」
アランが真面目な顔をして言ったので、おかしくて笑ってしまった。
「そういえば……。王様に、和平の記念のためアクセサリーを献上してくれと頼まれて作って持ってきたけど、大丈夫かな?」
一度、王様や臣下の方に見てもらったけれど……。そう言い、アランに見てもらった。
「ああ。サファイアの宝石をメインにしたブローチか。大丈夫。良い作品だ」
アランに褒められてホッとした。質の良いサファイアの宝石を使って、金細工でブローチを製作した。久しぶりの高価な材料を使ったアクセサリーだ。
「良かった。ブローチにするか、腕輪にするか迷って」
「腕輪は、やめていて正解だ。腕輪を贈るのは、あの国では意味がある」
「そうなんだ」
僕は、初めて知った獣人の国の話を聞いた。
「そろそろ食事になる。荷物の整理が終わったら行こう」
「うん」
僕はカバンから荷物を出して、整理していた。
「そういえば、ニールさんから何か液体の入った小瓶をもらったのだけど。獣人の国に、入る前につけてって言われたから香水かな? でもなんでだろう?」
アランが険しい顔をして「貸してみろ」と言ったので、渡した。
「これは……。香水だな。しかも……」
「しかも? 何?」
ニールめ……と、呟きながら言いにくそうに言った。
「俺が普段使っている香水と、同じ物だ。獣人は鼻が良い。虫よけだろう」
虫よけ? 本当の虫よけじゃなくて?
「そうなの? あ、ホントだ。アランの香りがする」
クン……、と香水のびんの中の香水を嗅いだ。
「……」
「アランが良いなら。この香水を少しだけ、つけていい?」
アランは複雑そうな表情をしていた。
「ああ。虫除けになればいいが」
荷物を片付けて、アランと下の階に降りて行った。
案内されて広い部屋に入ると、テーブルがいくつも並んでいて美味しそうな食事がたくさん並んでいた。
キノコや山菜など珍しい料理が並んでいた。
「苦手なものがあったら、遠慮なく言え。俺が食べるから」
皆の前だからか、素っ気なく言っているけどアランは優しい。
「大丈夫。好き嫌いはないよ」
「そうか」
お互いに顔を見合わせて微笑んだ。
「おい。団長が笑ったぞ!?」
「しっ! バカ! 黙ってろ!」
そんな声がヒソヒソと聞こえた。
美味しい料理を食べ終わり、それぞれ自由に休む時間だ。見張りと見回り番の、騎士さん以外だけど。
「さて。風呂に入るか、ルカ」
「うん」
階段を登って部屋に戻ると、アランは言った。あ、でもどちらのお風呂に入るのかな?
「アラン。部屋のお風呂に入るの? それとも……」
着替えを用意していた。
「露天風呂だ」
護衛騎士二人が、露天風呂入口の所で待機してくれていた。
「ごゆっくり」と騎士さん達は言ってくれたけど、何だか申し訳ないな。
「明日の朝に出発して、夕方位には獣人の国に着くだろう。それからゆっくりは出来ないだろうから、今のうちに休んでおけ」
「分かった」
アランに言われて、ゆっくりすることにした。
服を脱いで、アランの後ろについて行って扉を開けると、室内に浴場があった。
「まずここのお風呂に入って温まってから、露天風呂へ行こう」
「うん」
僕はいつもと違うお風呂だったので、キョロキョロと全体を見ていた。
「ここのお湯は、地下で温まったお湯を組み上げて使っている。体に良い成分が入っていて、疲れが取れるらしい。あと美肌になるらしいが……俺には関係ないかな」
「そうなんだ。疲れが取れるし、美肌になるなんて良いね。腕を触っていい?」
「……いいぞ」
アランが右腕を差し出してきたので、上腕二頭筋を触った。
「凄い筋肉だね。僕の倍ぐらいの太さがある」
僕も鍛えたらこんな筋肉がつくかな?
「ん? いつもより肌がすべすべしてるね。やっぱりお湯の効果かな?」
僕はアランの腕を撫でた。
「ルカ」
「何?」
すべすべの肌をまだ撫でていた。アランは撫でていた僕の手首を掴んで、腕から離した。
「のぼせそうだから、体を洗おう。ルカ、洗ってやるぞ」
「え、僕がアランを洗うよ」
アランの広い背中を洗うのが、僕の楽しみなのに!
「じゃあ、交互に洗うぞ? それでいいか?」
「うん」
僕とアランは交互に体を洗った。
「この石鹸、良い香りだね。お土産に買っていきたい」
「そうだな」
体を洗った後は、ゆっくりとお湯に浸かって体をほぐした。
「ご苦労。お前達も交代で風呂に入れ」
アランがお風呂から出て部屋に戻る時に、護衛騎士に話しかけた。
「ありがとう御座います!」
良かった。騎士さん達もお風呂にゆっくり入れそう。
「ご苦労様です」
僕も挨拶をすると、顔を赤くした。気のせいかな?
部屋に戻るとアランは僕の肩を撫でた。
「まったく……自覚がないのも困ったものだな」
「ん?」
自覚がないのも? 何のことだろう。
「……まあいい。眠るぞ。明日は早朝に出発だ」
「はい」
公爵家と違うベッドの感触に、ちゃんと眠れるか心配だった。
だけどアランが腕枕をしてくれて、いつものように抱きしめてくれたので安心した。
明日は獣人の国へ着くだろう。
僕はアランの香りに包まれて眠った。
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