15 / 36
2
#14 妹は見た!“怪しい昼休み”の現場の件
しおりを挟む
教室に入り、自分の席に腰を下ろす。
まだ生徒がまばらな朝の教室は静かで、一日の中で最も落ち着ける時間だ。
予習をしようと机にノートを広げ、ペンケースを開く。
そして、違和感に気付いた。
シャーペンが一本足りない。
(今朝、天音の宿題を解いていた時か?)
歩きながら問題を解いていて、ノートに挟んだまま天音に返してしまったのかもしれない。
まあ、他にペンはある。
俺は気にせずに予習を始めた。
五分後、ふらふらと周が前の席に座る。
「おはよー……」
力のない声。目の下には隈。明らかに寝不足の顔だ。
「徹夜したのか?」
俺が尋ねると、周は驚いたように目を見開いた。
「すっげぇ……何でわかんの?」
この時間は、いつも遅刻ギリギリの周が登校してくるには早すぎる。
夜更かしをして朝になり、このまま寝ると遅刻確定だから、徹夜で登校してきた。
簡単に導き出される事実だ。
「ヤバい……居眠りしたらバレるよな」
「いつものことだろ」
ペンを止めずに答える。
授業中に安らかに眠る周の頭を、教師が叩く光景は日常茶飯事だ。
「周」
俺はノートから目を離さずに言った。
「さっき、天音と話してただろ」
「……うぇっ?!え、見てた?!」
周が飛び起きた。
眠気が吹き飛んだらしく、目をまん丸にしてこちらを凝視している。
「見てはいない」
俺は淡々と答えた。
「でも、二人で俺を見てるのは気付いた」
「うわぁ……気配で分かるタイプかよ。ただもんじゃないな」
「別に。普通だ」
「どこの世界の普通だよ……」
周は苦笑し、すぐに机に突っ伏した。
数秒で脱力モードに入るのは、ある意味才能だ。
「声までは聞こえなかった。何を話してたんだ」
「えー……ちょっとした世間話だよ」
言いながら、周はごそごそと寝る体勢を整えている。
「うーん……言ってもいいのかな……黙ってろって言われてないし、いいような気も……」
そこで周の声がぷつりと途切れた。
数秒待つと、すやすやと寝息が聞こえてくる。
「……寝たのか」
寝坊による遅刻を防いだところで、授業中に居眠りをすれば教師の心証が悪くなるのは同じのような気がする。
俺は窓の外、中学校舎の方を眺めた。
天音と周が話す内容なんて、俺の話題以外にない。
学校でも家でも俺が「普通」でいなくてはならないのは、天音という監視の目があるからだ。
天音に悪意はない。
ただ、妹は俺の言動を母親に報告する役目を――おそらく無自覚に――担っている。
そして最近、天音の勘が妙に鋭くなってきている気がする。
(まあ、放っておくか)
天音は単なる中学生だ。
できることは高が知れている。
俺は何もなかったように背筋を伸ばし、ノートを閉じた。
今日も一日、長くなりそうだ。
-----
昼休み。
天音は高校校舎の廊下を歩いていた。
手には兄のシャーペン。
宿題用のノートを開いたら、転がり落ちてきたものだ。
(お兄ちゃん、困ってないかな……教室にいるといいんだけど)
類の教室を覗くと、兄の姿はなかった。
代わりに、見覚えのある眼鏡の女子生徒がひとりでノートを整理していた。
(この人……今朝、お兄ちゃんと一緒にいた)
地味で大人しそうな雰囲気。
けれど、どこか優しげな印象を受ける。
(強羅さん……っていうんだよね)
女子生徒――強羅ひまり――は、ノートをカバンに入れると教室を出た。
天音は少し迷った後、廊下の陰に隠れながらひまりの後を追う。
(お兄ちゃんと仲良くしてる女子……ちょっとだけ観察してみよう)
高校校舎と中学校舎で共通の図書室は、生徒で賑わっていた。
ひまりは人の少ない実用書の棚へ向かう。
天音は足音を殺して後を付けた。
生徒の声が聞こえない本棚の隙間で、ひまりは一冊取り出してページをめくる。
『身体表現の基礎理論』――天音にとって少し難しそうなタイトルだ。
(……真面目そうな人……でも、見た目に騙されちゃダメ。あのお兄ちゃんと親しくなるなんて、何か秘密があるはず)
天音は本棚の隙間から姿を現し、ひまりに声をかけた。
「あの、こんにちは!」
突然声をかけられて、ひまりは驚いて顔を上げた。
「えっ……こんにちは。えっと……?」
「兎山天音です。あの、お兄ちゃんと同じクラスですよね?」
「あ……もしかして、類くんの……」
「妹です!」
天音はにっこり笑った。
互いに初対面を演じていたが、ひまりは天音をよく知っていた。
(類くんの妹……というか、いつも来てくれてるあの子だ!お渡し会でわたしに並んでくれる子!)
ひまりは「応援してくれてありがとう」と言いたくなるのを堪えた。
学校ではアイドルであることを隠している。
そして、天音の様子から、ひまりが「ひめさきひまり」だと気付いていないようだ。
「わたし、強羅ひまりって言います。類くんのクラスメイト」
「強羅さんですね!少しお話してもいいですか?」
ひまりは少し戸惑いながらも頷いた。
「う、うん。いいよ」
天音は彼女の隣に座った。
突然話しかけられてひまりは驚いていたが、人懐こく寄ってくる天音には後輩らしい可愛げがある。
「強羅さんって、お兄ちゃんと仲良いんですか?」
「えっ、な、仲……?」
ひまりは一瞬、言葉に詰まった。
頬がほんのり赤くなる。
「あ、うーん……最近、ちょっと一緒にいることが多くて……」
「へぇ~!どんなことしてるんですか?」
天音が身を乗り出すと、ひまりは慌てたように視線を泳がせた。
「え、えっと……その……」
(しまった。何て答えよう……)
ひまりの脳裏に、類との放課後の特訓風景が浮かぶ。
二人きりで練習を重ねた日々。
でも、それをそのまま言うわけにはいかない。
「練習のことで……ちょっと……」
「練習?」
ひまりは焦った。
(ダンスって言っちゃダメ。でも、何の練習なら自然……?)
「えっと……体育の課題で、創作ダンスがあって……類くんが、その……教えてくれるの」
言いながら、ひまりは内心で冷や汗をかいていた。
嘘は得意じゃない。
天音に見抜かれないだろうか。
「え……お兄ちゃんが?!」
天音は驚いたように身を乗り出した。
兄の無愛想な姿が頭に浮かび、どうにも想像がつかない。
「お兄ちゃん、人と一緒に何かやるとか、すっごい珍しいです!」
「そ、そうなんだ……」
ひまりは焦りと照れで少し頬を赤くした。
天音はひまりの表情をじっと観察する。
(この人……地味そうに見えて、意外とかわいい……)
眼鏡をかけて大人しそうな見た目。
しかし、よく見ると整った顔立ちをしている。
ダンスを踊る姿は想像できないが、類がわざわざ教えるくらいだから、それなりの実力があるのだろう。
(……あれ?なんか見たことあるような……もしかして、芸能活動してる人……?うーん……気のせいかなぁ……)
天音は一瞬、既視感を覚えたが、すぐに打ち消した。
天音が好きなアイドルたちはキラキラした華やかな衣装を着ている。
目の前の強羅さんは眼鏡にポニーテール、地味な制服姿。
まさか、自分の最推しのアイドルだとは思いもしない。
(でも……このポニーテールの揺れ方、どこかで……)
「類くんって、本当に優しいよね」
ひまりが小さく呟いた。
「厳しいけど、ちゃんと見てくれてる。わたしの悪いところも、良いところも、全部、教えてくれるの」
「え……」
天音は一瞬、黙った。
(この人……お兄ちゃんのこと、ちゃんとわかってる)
嬉しい、と思うと同時に、微妙な感情が天音の胸に湧き上がる。
類のことを一番わかっているのは、同じ家で家族として暮らしている妹の自分だと思っているのに。
でも、強羅さんの表情は嘘をついていない。
心から類を信頼している顔だ。
(……それに、やっぱりなんか引っかかる。この人、本当にただのクラスメイト?)
天音の脳裏に、とあるアイドルのステージ姿が一瞬よぎる。
緑担当。人気はグループで最下位。だけど誰よりも頑張る姿が目を離せないあの子。
しかし、目の前の地味な眼鏡少女とは、あまりにもかけ離れている。
(うそー……まさかねー……)
「強羅さん、良い人ですね……」
「え?」
「お兄ちゃんのこと、理解してあげてるみたいで」
天音の声にやや棘があったのに気付いて、ひまりは少し首を傾げた。
しかし、照れくさそうに笑った。
「そんなことないよ。類くんに教えてもらって、見捨てられないように必死だもん」
ひまりはそう言って、自分のカバンの中から図書室の本を取り出した。
「この本も、類くんが似たようなこと言ってたなぁって思って借りてて……身体の使い方とか、表現の仕方とか……」
その時――ひまりのカバンから、何かが転がり出た。
コトン、と音を立てて床に落ちたそれを見て、天音は目を瞬かせる。
「……人参?」
「あ!」
ひまりが慌てて拾い上げたのは、小さな人参。
どうして、カバンの中に丸ごと人参を入れているのか。
天音は一瞬、目を凝らした。
「そうだ!放課後に行けないから、今のうちに寄らないと!」
「え?」
ひまりが小さく呟きながら時計を見た。
慌てて立ち上がり、カバンを肩にかける。
「ごめんね、天音ちゃん!わたし、ちょっと中等部の方に行かなきゃ!」
「中等部?」
天音が「どうして」と尋ねる前に、ひまりは手を振って早足で図書室を出ていった。
天音はぽかんとその背中を見送り、それから立ち上がる。
(なんか、怪しい……!優しくていい人そうなのに、一人で昼休みにこんな本読んでるのが、もう強烈に怪しいもん!)
それに、お兄ちゃんからダンスを教わって、妙に親しそう。
人参をカバンに入れている。
役満だった。
(それに……なーんか、見ていたくなる感じがあるんだよねぇ……)
天音はひまりを追って、図書室を飛び出した。
まだ生徒がまばらな朝の教室は静かで、一日の中で最も落ち着ける時間だ。
予習をしようと机にノートを広げ、ペンケースを開く。
そして、違和感に気付いた。
シャーペンが一本足りない。
(今朝、天音の宿題を解いていた時か?)
歩きながら問題を解いていて、ノートに挟んだまま天音に返してしまったのかもしれない。
まあ、他にペンはある。
俺は気にせずに予習を始めた。
五分後、ふらふらと周が前の席に座る。
「おはよー……」
力のない声。目の下には隈。明らかに寝不足の顔だ。
「徹夜したのか?」
俺が尋ねると、周は驚いたように目を見開いた。
「すっげぇ……何でわかんの?」
この時間は、いつも遅刻ギリギリの周が登校してくるには早すぎる。
夜更かしをして朝になり、このまま寝ると遅刻確定だから、徹夜で登校してきた。
簡単に導き出される事実だ。
「ヤバい……居眠りしたらバレるよな」
「いつものことだろ」
ペンを止めずに答える。
授業中に安らかに眠る周の頭を、教師が叩く光景は日常茶飯事だ。
「周」
俺はノートから目を離さずに言った。
「さっき、天音と話してただろ」
「……うぇっ?!え、見てた?!」
周が飛び起きた。
眠気が吹き飛んだらしく、目をまん丸にしてこちらを凝視している。
「見てはいない」
俺は淡々と答えた。
「でも、二人で俺を見てるのは気付いた」
「うわぁ……気配で分かるタイプかよ。ただもんじゃないな」
「別に。普通だ」
「どこの世界の普通だよ……」
周は苦笑し、すぐに机に突っ伏した。
数秒で脱力モードに入るのは、ある意味才能だ。
「声までは聞こえなかった。何を話してたんだ」
「えー……ちょっとした世間話だよ」
言いながら、周はごそごそと寝る体勢を整えている。
「うーん……言ってもいいのかな……黙ってろって言われてないし、いいような気も……」
そこで周の声がぷつりと途切れた。
数秒待つと、すやすやと寝息が聞こえてくる。
「……寝たのか」
寝坊による遅刻を防いだところで、授業中に居眠りをすれば教師の心証が悪くなるのは同じのような気がする。
俺は窓の外、中学校舎の方を眺めた。
天音と周が話す内容なんて、俺の話題以外にない。
学校でも家でも俺が「普通」でいなくてはならないのは、天音という監視の目があるからだ。
天音に悪意はない。
ただ、妹は俺の言動を母親に報告する役目を――おそらく無自覚に――担っている。
そして最近、天音の勘が妙に鋭くなってきている気がする。
(まあ、放っておくか)
天音は単なる中学生だ。
できることは高が知れている。
俺は何もなかったように背筋を伸ばし、ノートを閉じた。
今日も一日、長くなりそうだ。
-----
昼休み。
天音は高校校舎の廊下を歩いていた。
手には兄のシャーペン。
宿題用のノートを開いたら、転がり落ちてきたものだ。
(お兄ちゃん、困ってないかな……教室にいるといいんだけど)
類の教室を覗くと、兄の姿はなかった。
代わりに、見覚えのある眼鏡の女子生徒がひとりでノートを整理していた。
(この人……今朝、お兄ちゃんと一緒にいた)
地味で大人しそうな雰囲気。
けれど、どこか優しげな印象を受ける。
(強羅さん……っていうんだよね)
女子生徒――強羅ひまり――は、ノートをカバンに入れると教室を出た。
天音は少し迷った後、廊下の陰に隠れながらひまりの後を追う。
(お兄ちゃんと仲良くしてる女子……ちょっとだけ観察してみよう)
高校校舎と中学校舎で共通の図書室は、生徒で賑わっていた。
ひまりは人の少ない実用書の棚へ向かう。
天音は足音を殺して後を付けた。
生徒の声が聞こえない本棚の隙間で、ひまりは一冊取り出してページをめくる。
『身体表現の基礎理論』――天音にとって少し難しそうなタイトルだ。
(……真面目そうな人……でも、見た目に騙されちゃダメ。あのお兄ちゃんと親しくなるなんて、何か秘密があるはず)
天音は本棚の隙間から姿を現し、ひまりに声をかけた。
「あの、こんにちは!」
突然声をかけられて、ひまりは驚いて顔を上げた。
「えっ……こんにちは。えっと……?」
「兎山天音です。あの、お兄ちゃんと同じクラスですよね?」
「あ……もしかして、類くんの……」
「妹です!」
天音はにっこり笑った。
互いに初対面を演じていたが、ひまりは天音をよく知っていた。
(類くんの妹……というか、いつも来てくれてるあの子だ!お渡し会でわたしに並んでくれる子!)
ひまりは「応援してくれてありがとう」と言いたくなるのを堪えた。
学校ではアイドルであることを隠している。
そして、天音の様子から、ひまりが「ひめさきひまり」だと気付いていないようだ。
「わたし、強羅ひまりって言います。類くんのクラスメイト」
「強羅さんですね!少しお話してもいいですか?」
ひまりは少し戸惑いながらも頷いた。
「う、うん。いいよ」
天音は彼女の隣に座った。
突然話しかけられてひまりは驚いていたが、人懐こく寄ってくる天音には後輩らしい可愛げがある。
「強羅さんって、お兄ちゃんと仲良いんですか?」
「えっ、な、仲……?」
ひまりは一瞬、言葉に詰まった。
頬がほんのり赤くなる。
「あ、うーん……最近、ちょっと一緒にいることが多くて……」
「へぇ~!どんなことしてるんですか?」
天音が身を乗り出すと、ひまりは慌てたように視線を泳がせた。
「え、えっと……その……」
(しまった。何て答えよう……)
ひまりの脳裏に、類との放課後の特訓風景が浮かぶ。
二人きりで練習を重ねた日々。
でも、それをそのまま言うわけにはいかない。
「練習のことで……ちょっと……」
「練習?」
ひまりは焦った。
(ダンスって言っちゃダメ。でも、何の練習なら自然……?)
「えっと……体育の課題で、創作ダンスがあって……類くんが、その……教えてくれるの」
言いながら、ひまりは内心で冷や汗をかいていた。
嘘は得意じゃない。
天音に見抜かれないだろうか。
「え……お兄ちゃんが?!」
天音は驚いたように身を乗り出した。
兄の無愛想な姿が頭に浮かび、どうにも想像がつかない。
「お兄ちゃん、人と一緒に何かやるとか、すっごい珍しいです!」
「そ、そうなんだ……」
ひまりは焦りと照れで少し頬を赤くした。
天音はひまりの表情をじっと観察する。
(この人……地味そうに見えて、意外とかわいい……)
眼鏡をかけて大人しそうな見た目。
しかし、よく見ると整った顔立ちをしている。
ダンスを踊る姿は想像できないが、類がわざわざ教えるくらいだから、それなりの実力があるのだろう。
(……あれ?なんか見たことあるような……もしかして、芸能活動してる人……?うーん……気のせいかなぁ……)
天音は一瞬、既視感を覚えたが、すぐに打ち消した。
天音が好きなアイドルたちはキラキラした華やかな衣装を着ている。
目の前の強羅さんは眼鏡にポニーテール、地味な制服姿。
まさか、自分の最推しのアイドルだとは思いもしない。
(でも……このポニーテールの揺れ方、どこかで……)
「類くんって、本当に優しいよね」
ひまりが小さく呟いた。
「厳しいけど、ちゃんと見てくれてる。わたしの悪いところも、良いところも、全部、教えてくれるの」
「え……」
天音は一瞬、黙った。
(この人……お兄ちゃんのこと、ちゃんとわかってる)
嬉しい、と思うと同時に、微妙な感情が天音の胸に湧き上がる。
類のことを一番わかっているのは、同じ家で家族として暮らしている妹の自分だと思っているのに。
でも、強羅さんの表情は嘘をついていない。
心から類を信頼している顔だ。
(……それに、やっぱりなんか引っかかる。この人、本当にただのクラスメイト?)
天音の脳裏に、とあるアイドルのステージ姿が一瞬よぎる。
緑担当。人気はグループで最下位。だけど誰よりも頑張る姿が目を離せないあの子。
しかし、目の前の地味な眼鏡少女とは、あまりにもかけ離れている。
(うそー……まさかねー……)
「強羅さん、良い人ですね……」
「え?」
「お兄ちゃんのこと、理解してあげてるみたいで」
天音の声にやや棘があったのに気付いて、ひまりは少し首を傾げた。
しかし、照れくさそうに笑った。
「そんなことないよ。類くんに教えてもらって、見捨てられないように必死だもん」
ひまりはそう言って、自分のカバンの中から図書室の本を取り出した。
「この本も、類くんが似たようなこと言ってたなぁって思って借りてて……身体の使い方とか、表現の仕方とか……」
その時――ひまりのカバンから、何かが転がり出た。
コトン、と音を立てて床に落ちたそれを見て、天音は目を瞬かせる。
「……人参?」
「あ!」
ひまりが慌てて拾い上げたのは、小さな人参。
どうして、カバンの中に丸ごと人参を入れているのか。
天音は一瞬、目を凝らした。
「そうだ!放課後に行けないから、今のうちに寄らないと!」
「え?」
ひまりが小さく呟きながら時計を見た。
慌てて立ち上がり、カバンを肩にかける。
「ごめんね、天音ちゃん!わたし、ちょっと中等部の方に行かなきゃ!」
「中等部?」
天音が「どうして」と尋ねる前に、ひまりは手を振って早足で図書室を出ていった。
天音はぽかんとその背中を見送り、それから立ち上がる。
(なんか、怪しい……!優しくていい人そうなのに、一人で昼休みにこんな本読んでるのが、もう強烈に怪しいもん!)
それに、お兄ちゃんからダンスを教わって、妙に親しそう。
人参をカバンに入れている。
役満だった。
(それに……なーんか、見ていたくなる感じがあるんだよねぇ……)
天音はひまりを追って、図書室を飛び出した。
0
あなたにおすすめの小説
クラスで3番目に可愛い無口なあの子が実は手話で話しているのを俺だけが知っている
夏見ナイ
恋愛
俺のクラスにいる月宮雫は、誰も寄せ付けないクールな美少女。そのミステリアスな雰囲気から『クラスで3番目に可愛い子』と呼ばれているが、いつも一人で、誰とも話さない。
ある放課後、俺は彼女が指先で言葉を紡ぐ――手話で話している姿を目撃してしまう。好奇心から手話を覚えた俺が、勇気を出して話しかけた瞬間、二人だけの秘密の世界が始まった。
無口でクール? とんでもない。本当の彼女は、よく笑い、よく拗ねる、最高に可愛いおしゃべりな女の子だったのだ。
クールな君の本当の姿と甘える仕草は、俺だけが知っている。これは、世界一甘くて尊い、静かな恋の物語。
バイト先の先輩ギャルが実はクラスメイトで、しかも推しが一緒だった件
沢田美
恋愛
「きょ、今日からお世話になります。有馬蓮です……!」
高校二年の有馬蓮は、人生初のアルバイトで緊張しっぱなし。
そんな彼の前に現れたのは、銀髪ピアスのギャル系先輩――白瀬紗良だった。
見た目は派手だけど、話してみるとアニメもゲームも好きな“同類”。
意外な共通点から意気投合する二人。
だけどその日の帰り際、店長から知らされたのは――
> 「白瀬さん、今日で最後のシフトなんだよね」
一期一会の出会い。もう会えないと思っていた。
……翌日、学校で再会するまでは。
実は同じクラスの“白瀬さん”だった――!?
オタクな少年とギャルな少女の、距離ゼロから始まる青春ラブコメ。
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
10年ぶりに再会した幼馴染と、10年間一緒にいる幼馴染との青春ラブコメ
桜庭かなめ
恋愛
高校生の麻丘涼我には同い年の幼馴染の女の子が2人いる。1人は小学1年の5月末から涼我の隣の家に住み始め、約10年間ずっと一緒にいる穏やかで可愛らしい香川愛実。もう1人は幼稚園の年長組の1年間一緒にいて、卒園直後に引っ越してしまった明るく活発な桐山あおい。涼我は愛実ともあおいとも楽しい思い出をたくさん作ってきた。
あおいとの別れから10年。高校1年の春休みに、あおいが涼我の家の隣に引っ越してくる。涼我はあおいと10年ぶりの再会を果たす。あおいは昔の中性的な雰囲気から、清楚な美少女へと変わっていた。
3人で一緒に遊んだり、学校生活を送ったり、愛実とあおいが涼我のバイト先に来たり。春休みや新年度の日々を通じて、一度離れてしまったあおいとはもちろんのこと、ずっと一緒にいる愛実との距離も縮まっていく。
出会った早さか。それとも、一緒にいる長さか。両隣の家に住む幼馴染2人との温かくて甘いダブルヒロイン学園青春ラブコメディ!
※特別編6が完結しました!(2026.1.21)
※小説家になろう(N9714HQ)とカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた
九戸政景
恋愛
高校三年生の柴代大和は、小学校一年生の頃からの付き合いである秋田泰希の姉である夕希に恋心を抱いていたが、夕希の結婚をきっかけに恋心を諦めていた。
そして小学生の頃の夢を見た日、泰希から大和は夕希の離婚を伝えられ、それと同時にある頼みをされる。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
君と暮らす事になる365日
家具付
恋愛
いつでもぎりぎりまで疲れている主人公、環依里(たまき より)は、自宅である築28年のアパートの扉の前に立っている、驚くべきスタイルの良さのイケメンを発見する。このイケメンには見覚えがあった。
何故ならば、大学卒業後音信不通になった、無駄に料理がうまい、変人の幼馴染だったのだから。
しかし環依里は、ヤツの職業を知っていた。
ヤツはメディアにすら顔を出すほどの、世間に知られた天才料理人だったのだ!
取扱説明書が必要な変人(世間では天才料理人!?)×どこにでもいる一般人OL(通訳)の、ボケとツッコミがぶつかりあうラブコメディ!(予定)
百合ゲーの悪女に転生したので破滅エンドを回避していたら、なぜかヒロインとのラブコメになっている。
白藍まこと
恋愛
百合ゲー【Fleur de lis】
舞台は令嬢の集うヴェリテ女学院、そこは正しく男子禁制 乙女の花園。
まだ何者でもない主人公が、葛藤を抱く可憐なヒロイン達に寄り添っていく物語。
少女はかくあるべし、あたしの理想の世界がそこにはあった。
ただの一人を除いて。
――楪柚稀(ゆずりは ゆずき)
彼女は、主人公とヒロインの間を切り裂くために登場する“悪女”だった。
あまりに登場回数が頻回で、セリフは辛辣そのもの。
最終的にはどのルートでも学院を追放されてしまうのだが、どうしても彼女だけは好きになれなかった。
そんなあたしが目を覚ますと、楪柚稀に転生していたのである。
うん、学院追放だけはマジで無理。
これは破滅エンドを回避しつつ、百合を見守るあたしの奮闘の物語……のはず。
※他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる