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隣人を回避せよ(6)
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この男のことを簡単に信じるのはどうかと思ったが、ここで嘘をつくメリットはなさそうだ。それに、嘘をついているようには見えない。
「で、本題なんだけど」
いきなり立ち上がった英司。
本題?今のが本題ではなかったのか。
その様子を不思議に思いながら見ていると、英司は何を思ったか、向かい側に座る千秋の方に回ってくる。そして、そのまま横に腰をおろした。
「ちょ……!なんで横、近寄らないでくださいよ」
「なんだよ。俺たち付き合ってただろ」
はあ!?
「それにしてもお前成長したよなぁ。……昔より大人っぽくなった」
当たり前だ、会わなかった期間は五年。たかが五年、されど五年である。成長期、思春期を舐めちゃいけない。
体を寄せた英司は、当然のように千秋の腰に手を回してくる。
な、なんなんだ、この手……。
それに、それは中学の頃の話だ。しかもガキの、付き合っていたと言えるのかもわからないそれは、当の英司のせいで黒歴史と化している。
たとえ柳瀬さんはなんとも思ってなかろうが、俺は……。
「離して、ください」
ずっと拒絶モードの千秋に、英司はいい加減我慢できなくなったようだ、グイと腰を引き寄せて真剣な顔で覗き込んできた。
うっとなってその目から離せなくなる前に、視線をそらす。
「たしかに今は付き合ってないけど、そんな邪険にすることもないだろ」
「……」
「……なあ。俺が卒業した後、なんで連絡つかなくなったんだ」
……それが本題か。
たしかに、一方的に連絡を絶ったのは千秋の方だ。そして、それから今まで一度も会うことはなかった。
しかし、忘れてはいけない。それも全てはこの目の前の男のせいなのである。
高梨千秋が中学一年の頃のことである。
何となく小学生からやっていたからという理由でサッカー部に入ったが、そこで今は柳瀬だが、菊池英司先輩と出会うことになる。
最初は普通に、部活の先輩の一人として慕っていただけだった。何を考えてるかわからないところがあるし、たまにからかってくるけど、彼は優しい先輩だった。
サッカーが上手くてイケメンで、他の生徒よりも落ち着いた雰囲気の彼は、千秋だけではなく他の生徒の憧れでもあったのだ。他の先輩たちは彼のことを「英司」と呼んでいたし、千秋も含む部活の後輩らも揃って「英司くん」と呼んでいた。
しかし一年生も終わる頃、いつの間にか恋に変わっていたそれを、自覚する。
たしかに男を好きになったことに対する困惑はあったが、どこかしっくりくるものも感じていた。
それは、初めての恋。
初めての気持ちに、純情だった千秋は好きなあまり英司を避けてしまったり、逆にもっと話したいと思ったり。今思えば、バレバレすぎだ。しかしガキなりに、千秋はバレまいと必死であった。バレたらなんか、ダメな気がした。
英司とは部活で会って話したり、廊下ですれ違ったら何かしら反応してくれたり、家でゲームしたり(他の部活仲間もいたけど)。
ただの部活の後輩として良くしてくれているのだとわかってはいたが、行き場のない気持ちを抱えること一年ほど。二年の後半に差し掛かる頃、状況は一転することになる。
それは、部活内でメンバーが確立されつつあったゲーム仲間の連中が、部活のない日にうちに来ていたときだった。
「俺、コンビニでなんか買ってくる」と言った一人に千秋と英司を除く全員が続いたために、二人きりになったことがあった。
部屋で二人きりなんてむり……!と思った千秋もついていこうと思ったが「家主は大人しく待ってろよ、俺らが買ってくるから!」と別の先輩に言われてしまい、上げかけた腰はまた元の位置に戻ることとなった。
いい人たちだけど、今回ばかりは……!
そんな千秋の心の叫びは届くことなく、結局リビングの扉は自分たちのみ残し、パタンと閉じてしまった。
「で、本題なんだけど」
いきなり立ち上がった英司。
本題?今のが本題ではなかったのか。
その様子を不思議に思いながら見ていると、英司は何を思ったか、向かい側に座る千秋の方に回ってくる。そして、そのまま横に腰をおろした。
「ちょ……!なんで横、近寄らないでくださいよ」
「なんだよ。俺たち付き合ってただろ」
はあ!?
「それにしてもお前成長したよなぁ。……昔より大人っぽくなった」
当たり前だ、会わなかった期間は五年。たかが五年、されど五年である。成長期、思春期を舐めちゃいけない。
体を寄せた英司は、当然のように千秋の腰に手を回してくる。
な、なんなんだ、この手……。
それに、それは中学の頃の話だ。しかもガキの、付き合っていたと言えるのかもわからないそれは、当の英司のせいで黒歴史と化している。
たとえ柳瀬さんはなんとも思ってなかろうが、俺は……。
「離して、ください」
ずっと拒絶モードの千秋に、英司はいい加減我慢できなくなったようだ、グイと腰を引き寄せて真剣な顔で覗き込んできた。
うっとなってその目から離せなくなる前に、視線をそらす。
「たしかに今は付き合ってないけど、そんな邪険にすることもないだろ」
「……」
「……なあ。俺が卒業した後、なんで連絡つかなくなったんだ」
……それが本題か。
たしかに、一方的に連絡を絶ったのは千秋の方だ。そして、それから今まで一度も会うことはなかった。
しかし、忘れてはいけない。それも全てはこの目の前の男のせいなのである。
高梨千秋が中学一年の頃のことである。
何となく小学生からやっていたからという理由でサッカー部に入ったが、そこで今は柳瀬だが、菊池英司先輩と出会うことになる。
最初は普通に、部活の先輩の一人として慕っていただけだった。何を考えてるかわからないところがあるし、たまにからかってくるけど、彼は優しい先輩だった。
サッカーが上手くてイケメンで、他の生徒よりも落ち着いた雰囲気の彼は、千秋だけではなく他の生徒の憧れでもあったのだ。他の先輩たちは彼のことを「英司」と呼んでいたし、千秋も含む部活の後輩らも揃って「英司くん」と呼んでいた。
しかし一年生も終わる頃、いつの間にか恋に変わっていたそれを、自覚する。
たしかに男を好きになったことに対する困惑はあったが、どこかしっくりくるものも感じていた。
それは、初めての恋。
初めての気持ちに、純情だった千秋は好きなあまり英司を避けてしまったり、逆にもっと話したいと思ったり。今思えば、バレバレすぎだ。しかしガキなりに、千秋はバレまいと必死であった。バレたらなんか、ダメな気がした。
英司とは部活で会って話したり、廊下ですれ違ったら何かしら反応してくれたり、家でゲームしたり(他の部活仲間もいたけど)。
ただの部活の後輩として良くしてくれているのだとわかってはいたが、行き場のない気持ちを抱えること一年ほど。二年の後半に差し掛かる頃、状況は一転することになる。
それは、部活内でメンバーが確立されつつあったゲーム仲間の連中が、部活のない日にうちに来ていたときだった。
「俺、コンビニでなんか買ってくる」と言った一人に千秋と英司を除く全員が続いたために、二人きりになったことがあった。
部屋で二人きりなんてむり……!と思った千秋もついていこうと思ったが「家主は大人しく待ってろよ、俺らが買ってくるから!」と別の先輩に言われてしまい、上げかけた腰はまた元の位置に戻ることとなった。
いい人たちだけど、今回ばかりは……!
そんな千秋の心の叫びは届くことなく、結局リビングの扉は自分たちのみ残し、パタンと閉じてしまった。
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