リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

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隣人を回避せよ(5)

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 すごい勢いでご飯を掻き込む目の前の男を、じとっと見る。

「うまい。そういえばお前、料理できたんだったな」

「……簡単なものですけど」

 飯二人分は余裕であったからいいけど、と自分も食事をする手を進める。

 まさか腹が減りすぎて倒れたなんて、驚かせやがって。二日水しか飲んでないなんていったい何してたんだよ、そりゃ倒れてもおかしくない。

「ごちそうさま。ありがとな、高梨」

 千秋も食べ終えると、英司は二人分の食器を持って立ち上がり「シンクでいいか」と尋ねてきた。

「あ、はい。ありがとうございます」

 英司はキッチンの方へ消えていく。

 ……いや、どう考えてもこの状況、おかしい。

 嫌いな相手に手料理をご馳走した挙句仲良くテーブルを囲むなんてありえないだろ。倒れるなんてアクシデントがあったから仕方ないと思えるけど、自分の思いとは裏腹に接触時間が多すぎる。

 でも食べ終わったことだし、このまま帰ってくれるだろう。

 ところが、キッチンから戻ってきた英司は、当たり前のように千秋の向かい側に再び座った。

「なにしてんですか……」

 ひくひくと顔を引き攣らせて英司の顔を見ると、やつはテーブルに肘をついてこちらを無表情に見る。

「なんでそんなツンツンしてんのか、教えてもらおうと思って」

「は、はあ?」

 お前のせいだろ!と言いそうになるのを抑えて、英司を睨む。本人を目の前にトラウマ兼黒歴史を掘り返すなんてのは、ごめんだ。

「先週話したのに、知らないふりされるし。その感じだと気づいてたんだろ、俺のこと」

「俺のことは、気づかなかったじゃないですか」

 英司は少し目を見開くと、今度は意地悪く微笑んだ。

「なに、悲しかった?」

「な、んなわけねえだろ!」

 ふーっふーっと否定すると、英司は満足げに笑った。思わず乱暴な口調になってしまった……

 そうだ、この男は昔からこんな感じだった。

 強引で、たまに意地悪で、妙に鋭い。そんなところが好きだった時代もあった……けど、今はそれのせいで逆に困っている。

「まあ、あのときコンタクトしてなくて」

「え?」

「俺、目悪いの。急いでたし、よくあることだから気づかなかったんだよ。メガネ常備してるから問題ないしな」

 今はコンタクトだ、といらない情報も付け加えてきた。

「なんか高梨っぽい雰囲気だなとは思ったけど声変わりしてるし。前の住人が女の人だったから、新しい人かなってのはわかったんだけど」

 いや、その彼氏っていう可能性もあったな。と英司は顎に手をやった。

 ちょっと待て、つまり……

 俺に気づかなかったのはコンタクトしてなくて顔がよく見えなかったせいであって、記憶から抹消されたわけではなく。

「でも、なんで今さら」

「あの日、用事とか言って急に部屋に入っただろ。名前聞けてないの気づいて今朝表札見に行ったんだ。そしたら高梨って書いてあって、もしかしてってな」

「でも、朝ならなんで今なんですか」

「朝って言っても4時だぞ。一旦家に物取りに行っただけだ。で、本当に高梨か確かめるために急いで帰ってきたら、やっぱりお前だったってわけ。全力で拒否されたけど。納得いった?」

「う……」

 二日間何も食べてなかったり、朝4時に一旦帰ってくるとか、普段一体何やってるんだとか、色々疑問点はあった。

 が、それよりも怒涛の答え合わせに、全ての辻褄が合っていく、追い込まれていく感覚を覚える。

 気づかなかったのは、コンタクトをしていなかったから。今日気づいたのは、俺の部屋の表札を見たから。息切れを起こしていたのは…俺を確かめるために、空腹にもかかわらず急いで帰ってきたから。
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