リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

文字の大きさ
7 / 75

隣人を回避せよ(7)

しおりを挟む

 さっきまで賑やかだった空間は、シーンと沈黙に包まれる。

 どうしよう。気まずいし、緊張する……。学校で二人きりになることなんてないし、やっと普通に振る舞えるようになったのに変なこと言ってしまったらどうしよう。千秋の緊張はマックスに迫っていた。

「高梨」

「は、はいっ」

 沈黙を破って、ソファに座っている英司はその横をぽんぽんと叩いた。

「お前んちなんだし、ここ座れよ。ずっと床じゃ痛いだろ」

「あ、はい……」

 心配してくれているだけなのに、英司の隣に座るだけで千秋はドキドキしてしまう。だって、英司くんが近すぎる……!

「お前、よく俺のこと見てるよな」

「えっ!」

 うそだ、バレてたのか。
 見るだけならと隙あらば英司のことを見ていたのは間違いないが、完全に気づかれていないと思い込んでいた。

「なんか言いたいことでもあんの?」

「ないですっ、あの、本当に……」

 文句あんのか?みたいなニュアンスかと思って、慌てて否定する。が、聞いた本人は納得いってないって顔だ。

「じゃあ、俺の勘違いかな」

「勘違い?」

 そのきれいな横顔は、独り言のように呟いた。引き続きなにやら思案中のようだが、「勘違い」というのが引っかかる。

 英司は、顔だけ千秋の方に向けた。

「すげえ見つめてくるから、好かれてるのかと思った」

 その鋭くも優しい眼差しが千秋を捉える。

 好かれてるって、

 千秋は、視線に捕まったように動けなくなってしまった。

「あ……」

 どうしよう、言葉が出てこない。英司くんの目、好きだな…とか考えている場合ではない。

 好かれてるって、先輩としてってことだよな。まず初めに英司相手に、好きイコール恋愛となる千秋の思考が、すでに期待に侵されていておかしいに違いない。

 大丈夫、バレてるわけない。
 第一、英司は女が好きなんだし、男なんて気づく余地もないだろう。

 なら、普通に、普通に……

「そりゃ、好きですよ。サッカー上手いし、みんなに人気だし、それに……」

「こら、そういう意味じゃないだろ」

「わっ」

 こつんと軽く当てられた拳に、千秋はビクッと少し大袈裟な反応をしてしまう。

「高梨ー?」

 追い詰めるように、顔を覗き込んでくる英司。

 どうしよう、これってまさか、本当にバレてるのか……?


「あの、俺……!」

 そんなに知られたくなかったなら最後まではぐらかせばよかったのに、もう白状しないといけない、逃げられないと思ってしまったのは若さゆえか。

「お、俺……っ」

「うん」

 告白なんてしたことないけど、何を言えばいいかくらいわかっているのに、肝心の言葉が出てこない。

「俺……っ、ぅ」

 それどころか、なぜか泣きそうになる。というか、すでに涙目だったのか、ふっと笑った英司が高梨の頭に手を置いた。

「英司くん、」

「言えない?」

「い、言える……」

 謎の意地を張りつつも、そんな千秋の頭を英司は優しく撫でる。

「でも、時間切れ」

「えっ」

 そんな、元々言うつもりはなかったけど、もうここまでバレてるのに。最悪、明日から話せなくなるかもしれない。そんなのいやだ……!

 それに、英司はあと半年で卒業なのだ。ここで言わなくていいのか、俺!

「英司くん、おれっ」

「俺は好きだよ、高梨のこと」

「……えっ?」

 完全に不意を狙って出てきたその言葉。まさに、千秋が言おうとしていた言葉だ。

 え?……今、好きだ、って言った?
 聞き間違いか?英司くんが、俺を……。

「高梨は?今度は言えるよな?」

「っ……」

 いたずらっぽく笑いながら言った英司は、頭に乗せられていた手を肩へ滑らせた。そして、そのまま千秋の体ごと引き寄せる。

 え、だ、抱きしめられっ……

 英司どころか、家族以外とこんなに密着したことがなかったから、沸騰するんじゃないかというほど体が熱くなった。

 どうしよう。今までで一番、ドキドキする……。

 も、これ、なんかだめだ、おれ……

 千秋は無意識に英司の背中の服をぎゅっと掴むと、

「英司くん、好き……」

 と、口にしていた。

「高梨……」

 千秋の言葉に、英司は抱きしめる力を強める。

 その後すぐコンビニに出かけた連中が戻ってきて、千秋は大変慌てふためくことになるのだが、英司はさすが、何もなかったかのように振る舞っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

ワケありくんの愛され転生

鬼塚ベジータ
BL
彼は”勇敢な魂"として、彼が望むままに男同士の恋愛が当たり前の世界に転生させてもらえることになった。しかし彼が宿った体は、婚活をバリバリにしていた平凡なベータの伯爵家の次男。さらにお見合いの直前に転生してしまい、やけに顔のいい執事に連れられて3人の男(イケメン)と顔合わせをさせられた。見合いは辞退してイケメン同士の恋愛を拝もうと思っていたのだが、なぜかそれが上手くいかず……。 アルファ4人とオメガ1人に愛される、かなり変わった世界から来た彼のお話。 ※オメガバース設定です。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

刺されて始まる恋もある

神山おが屑
BL
ストーカーに困るイケメン大学生城田雪人に恋人のフリを頼まれた大学生黒川月兎、そんな雪人とデートの振りして食事に行っていたらストーカーに刺されて病院送り罪悪感からか毎日お見舞いに来る雪人、罪悪感からか毎日大学でも心配してくる雪人、罪悪感からかやたら世話をしてくる雪人、まるで本当の恋人のような距離感に戸惑う月兎そんなふたりの刺されて始まる恋の話。

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

【完結】愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

【BL】正統派イケメンな幼馴染が僕だけに見せる顔が可愛いすぎる!

ひつじのめい
BL
αとΩの同性の両親を持つ相模 楓(さがみ かえで)は母似の容姿の為にΩと思われる事が多々あるが、説明するのが面倒くさいと放置した事でクラスメイトにはΩと認識されていたが楓のバース性はαである。  そんな楓が初恋を拗らせている相手はαの両親を持つ2つ年上の小野寺 翠(おのでら すい)だった。  翠に恋人が出来た時に気持ちも告げずに、接触を一切絶ちながらも、好みのタイプを観察しながら自分磨きに勤しんでいたが、実際は好みのタイプとは正反対の風貌へと自ら進んでいた。  実は翠も幼い頃の女の子の様な可愛い楓に心を惹かれていたのだった。  楓がΩだと信じていた翠は、自分の本当のバース性がβだと気づかれるのを恐れ、楓とは正反対の相手と付き合っていたのだった。  楓がその事を知った時に、翠に対して粘着系の溺愛が始まるとは、この頃の翠は微塵も考えてはいなかった。 ※作者の個人的な解釈が含まれています。 ※Rシーンがある回はタイトルに☆が付きます。

優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」 卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。 一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。 選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。 本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。 愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。 ※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。 ※本作は織理受けのハーレム形式です。 ※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください

処理中です...