嫌われものと爽やか君

黒猫鈴

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謝る…
そう決めたものの、結果的にはできないでいた。

高宮にはすぐに菅原に呼び出してもらって頭を下げ誠心誠意何度も謝る。
「へー?…まぁいいや、それより道万!今日の昼一緒に食べようぜ!」
彼は僕に一切の関心がないようですぐに菅原に引っ付いてしまった。
これは許してくれたってことで合っているの?


謝りたい相手はまだいる。
僕が退学に追いやってしまった人達も勿論。
そして深文様。
彼に近付くことが何より難しいことだった。
深文様は基本的、生徒会室から出てこない方だから。

前は親衛隊長の肩書きもあり会うことはある程度出来ていた。
比べ今は一般生徒で、更に彼に嫌われ接触出来ることも無理に等しい。

だから謝ると決意しても、それが酷く難しいことだと知る。
接点など何もない…その現状がすごく悲しかった。



そして何も出来ぬまま引きずり…今日で一週間目。

また数日前から高宮、副会長、会計に書記は毎日の様に遊んでいるという噂が流れてきた。

その中に深文様が入ってないことに安心しながら、しかし1人で仕事をしていることに心配する。

深文様は何でも出来るが無理をすることが多い。
故に、毎回心配なのだ。

昔は近くで見れていたのに今は大分遠い…。
今の親衛隊長はしっかり体調を見ているか…考えながらも…僕は今日も何もしないまま授業を終えた。



放課後。
寮に帰っても何もすることがなかったので、図書室へ行くことにした。
図書室、と言っても在庫数を数えたら何千万ともある本を保管している部屋は大きくまるで図書館のようだが。
そこで読みたかった本を端の椅子に座り読みふける。

何度かコソコソ陰口を言う人達がいたが、気にとめ ずにいたら何処かに行ってしまった。



「図書室閉めますよ」
そんな声が聞こえ、ハッと顔を上げ時間を見ると9時前。
周りには人は居らず自分1人だけだった。
カウンターには図書委員の生徒がいて、此方をみている

「もう閉めますけど?」

冷たく言われ慌て立ち上がった。
本を棚に戻し、足早に図書室から出た。
カウンターの生徒はやはり冷めた瞳でみるばかりだった。
図書室から出て、時間を見れば丁度9時。
寮に着くのは9時15分くらいかと頭で考え、1階へ降りる。
補助電球に移された小さな電気を頼りに、靴箱から外履きを出し入れ替えるように内履きを中に仕舞い込んだ。
靴を履いて、真っ暗な夜道を歩き始める。
とは言っても電灯も月明かりも手伝い、明るくもあるけれど。

少し足早になりながら、寮までの道のりを歩いていたら…

「あれ?」

前方に人影。
影は僕と同じ方向に歩いているのに、とても遅く、さらにふらついている様に見えた。

具合でも悪いのか?

思って少し足を早める。
今すぐにでも倒れてしまいそうな、そんな気がしたから。

だから、

「っ危ない…!」

案の定ぐらりと傾いた体に、なんとか辿り着いた時はホッとした。
しかし相手を見てすぐに固まる。
それは紛れもなく…僕の好きな

「深文、様…」

呟いた。
途端に支えている体が一気に重くなった。
どうやら気を失ったみたいだった。
なんとか踏ん張り体格差のある深文様を支え…ゆっくり歩き出す。
とても不格好だけれど持ち上げることが困難な為仕方ない…
これでも重くて、時々休憩を入れながらじゃなきゃ歩けなかった。

「はぁ…はぁ…」

でも背負っていると時折聞こえてくる荒い息と窶(やつ)れてしまった顔を見て…とても胸が痛んだ。

やはり噂は本当で、無理をしていたんだ。

キツい…僕を睨みつけていた瞳は静かに閉じていて瞼の下に隈があって…

「…っ」

その瞳が開いて…僕を見てしまったら冷たく罵られてしまうのだろうけれど…でも開いてほしいと、そう望んでしまう。

「深文様、もう少ししたら着きますからね…」

見えてきた寮にそう呟いた。

のはいいけれど…深文様の部屋まで連れて行くにはどうしたらいいのだろうか?
生徒会役員は特別で一般生徒には入れない階層に部屋があると聞く。悪いと思いつつ深文様のポケットを探ったが何も出てこなかった為、結局深文様の部屋には行けず僕の部屋に連れてくることにした。
深文様をソファに寝かせ、そこでやっと一息つく。
疲れたと腕を何度か回し解す。

時計を見ればもう10時前。
連れてくるまで休憩入れつつだったから、ここまで時間が掛かっても仕方なかっただろうけれど、この時間だと残念なことに食堂も閉まっている。

「…」

立ち上がり、冷蔵庫を覗けば卵が数個と野菜…ハム。
これで簡単に作れる料理を考えながら、キッチンへ向かった。



出来たのはオムライス。
フワフワとまでいかなかったが、料理を余りしない僕にしては良くできた方だとケチャップで好きな字を書きながら思った。

深文様の分…消化の良いお粥も一応作って、ラップしておいた。

テーブルに料理を運びながら、ソファを見る。
瞳を閉じた綺麗な顔がそこにあって、ぼんやりと眺めた。

「…」

先程料理前に熱を測ったら、微熱があって氷枕をしいた。
ベッドから持ってきた布団も掛けて…あとは起きた時に薬飲ませて…。

「…深文様」

矛盾する気持ちを感じながら、僕はとりあえず冷めない内にとオムライスを食べ始めた。



机でうとうと、眠気と戦っていると

「―――っ」

ギシ。
ソファの軋む音
眠気など消え去り、ソファを見れば深文様が起きていた。
寝ぼけているのか、ぼんやりとしている。
その顔色は前より大分いいように見えて一安心したのも束の間、自分の部屋じゃないとわかってか部屋を見渡して…そして、バチリと目線が合った
途端、歪められた顔。

「テメェは俺の親衛隊長の――って、なんで俺がこんな場所にいるっ!」
「…それは、」
「まさかお前俺を」
「落ち着いて、ください。ただ僕の目の前で深文様が倒れたので…部屋に連れてきただけで何の目的もありません。」

本当です信じてください、と言うけれど

「お前等親衛隊なんぞ信じられるか!」

と一蹴され

「もう二度と現れるな!」

布団を蹴飛ばし部屋の扉を引っ張るようにして開ける。

そんなに…嫌われていたんだ。
いや、わかっていたことだ。
大丈夫…。

キュッと痛む胸を押さえ、

「っ――あの、仕事…無理しないでくださいね」
「ふん、」

見下す瞳。
出て行く際には鼻を鳴らされ、大きな音を立てて扉が閉まった。

「…はぁ…」

やっぱり、辛いよ…

それに…と僕は、空を見上げた。

「謝れなかったなぁ…」
更に言いにくくなってしまった。

嫌いな人から何を言われたって…関心ないのだ。
そして彼が嫌う原因は勿論、僕。
僕が間違った行動を起こさなければ深文様は…。
「…よし、次こそ…」

そう呟き机に伏して瞳を閉じた。
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