嫌われものと爽やか君

黒猫鈴

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「槻嶋、いるか?」

昼休み。
ぼんやりとしていれば、突然僕の教室にやってきた菅原。
しかも呼び出したのはまさかの僕、だ。

菅原が高宮側の人間で僕のことを嫌っていることは殆どの全校生徒が知っている。
そして彼は嫌っている、この僕を呼び出したのだ

自然と教室内がざわめき出す。

大きな騒ぎになる前に素早く立ち上がり、僕は菅原の前に出た

「…なに?」
「…、いやあの後のこと、気になってて」
「あ、そう…」

菅原が僕を呼び出した理由は分かってる。

昨日…のことでしょう?

今日起きたら何故か見知らぬ部屋で寝ていた。
ぼんやりする頭で、何処だろう?と考えて隣を見たら何故か菅原がいた。
しかも同じベッド、にだ。

一気に固まる体。
とりあえずすぐに体の様子を見た。
お尻は痛くはなく、体を触られた感覚もない。
服も乱れた様子もなく安心したが、何故ここに寝ているかが尚更わからなくなった。
更に菅原が起きる気配もない為、好都合だと勝手に部屋から出る…のも悪いからごめんなさい、と一言紙に書いて。

部屋を出てから初めて表札に菅原の名前があったことから当たり前なのだが、今居た場所は菅原の部屋にいたのだとわかる。


確かに昨日菅原に会った。
途中で記憶が消えている為、曖昧だが。

何故菅原は僕を抱き締めたのか。
部屋に寝かせてくれたのか。

特に親しくもなく…いや、寧ろ嫌われているのに…
だから何故あんなことしたのか、何故菅原の部屋にいるのかがわからなくて…


菅原は…何がしたかったの?





登校してからも、授業中、休憩中もそのことを考えていた。
お陰で授業が全く頭に入ってこなかったが。

しかし考えてもわからなくて八方塞がりだった時に突然訪ねてきた菅原。


好都合だと僕は菅原を引っ張り出し人気のない空き教室に連れてきた。

とりあえず昨日のことを謝りたい。

「菅原君、ごめんなさい」
「っ!何故謝るんだ?!」

突然の大声に吃驚する。
目を丸くしながら、ゆっくりと言いたかった言葉をはいた。

「だって…昨日、迷惑掛けたし…。だからごめんなさい。」
「っだから、」
「でも混乱しているとは言え嫌いな僕を抱き締めたのかの真意はわからないけれど。でもお陰で落ち着けたから…。それにベッドまで運んでくれたみたいだし…ありがとう」
「い…や、」

戸惑ったように首を振り、それから真剣な瞳で

「なんで…あんなこと言ったんだ?」
「…ん、と」

こう聞かれることは予想していたので僕は苦笑いした。
このことは、暫く悩んだ
夢でのことを言ったらいいか。
それとも誤魔化すか。

しかし今、やっと決めることが出来た。

「昨日怖い夢をみた…それだけ」
「は?」

そんな、真剣な顔で僕のことを聞いてくるんだもん。
別に嫌いだからで済ましてくれたらよかったのに、彼はとても良い人のようだ。
 まぁ嫌いな人に軟膏をくれるような人だし。

だから、菅原には真相を話してみようと思った

まぁあのことを話してどうしようと言うこともないんだけれど。


「怖い夢…って…なんだそれ」

呆れている音色。
それに怖じ気づきそうになるが僕は続けた。

「…夢の中で僕は1人暗い中にいた。」
「…」
「でも突然僕の周りには、学園の生徒達が現れて…」

思い出すだけで、気分が悪くなる。

「そして口々に言うんだ」

死ね、と
「死ねって」
「っ」

菅原が息をのんだのがわかった。
「…みんなに言われたんだ…高宮や菅原も」
「っ俺は、」
「深文様にも…!」

我慢出来ず叫ぶ。

「っ分ってる!僕が悪いんだって!深文様が好きだからと言って近付く人に制裁なんかしたら駄目だったって!でも、抑えが効かなくて…深文様が、誰の者にもならないって快感からは逃れられなくて…!」

全て、吐き出したかった。
こんなこと、菅原に言って何になるかもわからなかったけれど、でも…

「僕が制裁した人達の人生を滅茶苦茶にした、自覚はある…。だからこんなことになっても仕方ないかもしれないけれど…っ!でも…深文様に、言われるのだけは、…辛い…。好きだから、ずっと憧れているから」

深文様が本当に好きだった。
何処が好きだと聞かれたら全てだと答える自信もある。
深文様の顔、体、身分…そんなので好きになった訳じゃない。
俺様で我が儘で意地っ張りで、でもやることはしっかりとやる生真面目で生徒会になってからは文句言わず仕事を取り組む、その姿が輝いて見えていた。


そんな深文様が好きだったのに…突然現れた高宮が簡単に奪っていった。
悔しくて悔しくて…制裁したが、高宮には味方が多くて寧ろ僕がやられてしまう結果になってしまったけれど…。

「…僕が悪いことは自分がよくわかっているよ?結果こうなってよかったとも…だから仕方ないって…」
「仕方ないで諦められるなら…そんなに好きじゃないんだろ?」
「っ話聞いてた?!大好きだって言った!」
「じゃあ関係を修復しようとは思わないのか?」

僕は菅原を睨んだ。

「修復なんて、出来るわけない!どうしたって直らないんだ!」

「俺は、」と菅原が僕の瞳を真っ直ぐに見つめてくる

「俺は、槻嶋の謝罪に少なくとも印象は変わった…悪いって思っているって相手に伝わるだけでも少しはわかるかもしれないだろ…」
「…菅、原」
「確かに制裁してきた人達の人生を壊したし槻嶋が悪いことをしたのは事実で…変えようにも許してもらえるわけもないかもしれない。」
「…うん、」
「謝ったことと、謝らないこと…じゃ、全然違うだろ」
ごめんなさい。で、許してもらうなんて僕も思わないよ。
僕は許されないことを沢山してきたんだから。
でも少しでも深文様が、僕を…見直してくれたら…それはすごい嬉しいこと…で…

「う…ん、ありがとう菅原君…僕、謝ってみる」

夢の言葉を言われたら…怖いけれど。

「ありがとう」
ニッコリ、久しぶりに本当に笑えた気がした
ありがとう、菅原君。


「…っ、」

菅原が顔を赤くさせていたなんて、僕はしらない。
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