運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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6 辺境伯領の噴出編

5-9

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 翌日。

 私はニグラート辺境伯家のタウンハウスから、直接、第三騎士団の団長室に出勤した。

「というわけで、エルシア・ルベラス以下二名、ニグラートの大噴出処理より帰還しました」

 フィリアとバルトレット卿の二人を引き連れて。




 ニグラート辺境伯家のタウンハウスは、旧市街の外れの方にある。
 そのためタウンハウスから王城まで通うとなると、毎朝がいつもより早くなった。

「お嬢、緊張します」

 朝から緊張でガチガチのバルトレット卿は、自主的に車の御者を務めていて、比較的余裕を見せているフィリアは女装のまま私といっしょに車に乗っている。

 グレイがいたら、きっとフィリアは車外に突き落とされてただろうけど。

 グレイがいないので、フィリアの表情はゆったりと姿勢はかちっと。見た目は長身のスレンダーな女性に仕上がっていた。

 うん。やっぱり。格好いいよな。女性騎士として抜群の格好良さ。

 元々が中性的な容姿でムキムキしにくい体格なので、男性としても女性としても、とても格好良く見える。

「あら、お嬢。あたしに見惚れました?」

 もちろん、男性としてはこの口調が難点だけど。

「でも、だからって、あたしに惚れないでくださいよ。あたしに明日が来なくなっちゃうので」

 フィリアが明るく怖いことを言うので、その心配はないと口を開こうとすると、フィリアがさらに怖いことを付け加えた。

「それと、隊長って、お嬢の発言はどれだけ離れていても分かるので」

「何それ?!」

「お世辞でもあたしのことを格好いいなんて、言わないでくださいよ。隊長の嫉妬って本当に、えげつないんで」

 言葉だけなら冗談のようなのに、フィリアの目がいっさい笑っていない。まさか本当に本当のこと?

 外で御者をやってるバルトレット卿にも確認しようと、心に決めた私であった。




 そんな感じで車に乗って、王城までやってきた私たちは、すぐに第三騎士団の団長室にまでやってきた。

 私はともかく、二人は完全に飲まれてしまっている。

 バルトレット卿は、春の剣術大会に参加しているはずなのに緊張しっぱなしだし。余裕を見せていたフィリアも、団長室に入ったとたんに動きが堅くなった。

 団長室の面々に挨拶しながら団長の机の前まで行くと、そこには、いつも通りのヴァンフェルム団長の姿がある。

 でも、なんだろう。いつも通りなのにいつもとは違う雰囲気を、私は団長から感じた。第三騎士団の制服も、団長の表情も、まるで変わりないはずなのに。

「お疲れさまだったなぁ、ルベラス君。さて。大噴出について聞かせてもらえるかなぁ?」

 団長に促され、私は報告を始めるのだった。




 ヴァンフェルム団長に特大大噴出の処理報告を一通り終えると、それまで、静かにしていた団長が困ったような顔をした。

「えーーっと。報告は事前に受けてはいたんだけどなぁ。同行者が入れ替わってるよなぁ?」

「あ」

 大噴出の報告に気を取られてたわ。

 私はこの時点でようやく、二人の紹介をすっ飛ばしたことに気がついた。

 私が簡単にフィリアとバルトレット卿を紹介すると、団長はさらに困ったような顔をする。

 一体、なんなの?と息巻きそうになった私の耳元で、

「お嬢、出向者二人が交代になった理由ですよ。一応、口頭でも報告しないと」

 と、フィリア。

「ああ」

 ここまできて、ようやくようやく、私は団長の違和感の原因に思い至る。

 ヴァンフェルム団長はグレイとバルザード卿が戻ってこなかった理由を知りたがっていたのか。

 前日に送っておいた報告書には、出向者については手短にしか書かれてない。別の者に代わる旨、単身者の官舎を一つ増やしてほしい旨、この二つだけ。

 フィリアに耳打ちされた私を、団長がじっと見つめていて、その目が「事情を説明しろ」と訴えている。

 私はパンと両手を胸の前で合わせた。

「グレイもバルザード卿も、大噴出に巻き込まれたせいで交代になりました」

 うん、簡潔!

 私が見事な報告に、


 ゲホゲホゲホゲホ!


 盛大にむせる後ろの二人。

 目の前には「ルベラス君に聞いたのが間違いだったなぁ」とぼやく団長。
 離れたところでは、ユースカペル副団長とパシアヌス様が、はぁぁぁ、とため息をついている。

 あれ? 言葉をちょっと間違えたかな?

 首を傾げる私に、後ろから訂正を求めるヒソヒソ声。

「お嬢、大枠ではその通りですけど、それだと語弊があるというか、誤解されますって」

「そうです、お嬢。隊長は元気ですし。むしろ、今は隊長の周りの人間の方が危険です」

「えー」

 後ろからの声に応じていると、今度は前からの声。

「そもそも、大噴出に巻き込まれたら二人とも死んじゃうだろう?」

「それは普通の人だけです。グレイを普通だと思わないでください」

 うん、的確!

 私の見事な反論に、


 ゲホゲホゲホゲホ。


 またもや、盛大にむせる後ろの二人。

「お嬢、それだと隊長がおかしい人だと思われますって!」

「そうです、お嬢。隊長は無敵なだけで中身は普通の一般男性です!」

 今度は大声で騒ぎ出す。

 あまりのうるささに私は耳を塞いだ。まったく。団長の前だというのに二人とも何をやってるんだろう。

 と、そのとき。


 ガタン


 ヴァンフェルム団長が立ち上がった。


 ビクッ


 私も、私の後ろの二人も、自然と団長に注目する。 

 騒ぎすぎたか。

 怒られるよな。

 ところが私の予想とは裏腹に、団長は別のことを口にした。至って真面目な顔で。

「グレイアドが一般男性なわけがないだろう。あれは『規格外』だ」


 ……………………え?


 思わず顔を見合わせる私たち。

「ヴァンフェルム団長。突っ込むところはそこなんですか?」

 私の質問に当然だろうと言わんばかりの表情を浮かべる団長。

「団長。前の話ではグレイを普通扱いしてたじゃないですか」

「普通扱いはしてないなぁ。規格外扱いしているだけであって」

「えええ? 大噴出に巻き込まれたら死ぬって言ってましたよね?」

「あのね、ルベラス君。大噴出に巻き込まれても死なないのは、『規格外』じゃなくて『人外』だなぁ」

「私、大丈夫ですよ?」

 静まり返る周り。

「え? つまり、私は『人外』ってこと?」

 黙り込む団長。

 ここで否定しないで黙り込まれると、肯定しているのと同じになるんですけど。

 目で催促しても団長は黙ったまま。代わりに口を開いたのは、今まで黙って成り行きを見守っていたパシアヌス様だった。

「『規格外』は人間の規格からはみ出ている人間で、『人外』は人間の規格を凌駕する存在ということですよ、ルベラス君」

 開口一番、余計な解説を加える。

「つまり、隊長は桁外れに強い『人間』、お嬢は桁外れに強い『存在』ってことですね」

 続いてフィリアが余計な受け答えを加えると、団長室はさらにさらに静まりかえることとなった。


 パンパンパン。


「まぁまぁまぁまぁ。とにかく、話を元に戻して。グレイアドとバルザード卿はどうしたんだい? 具体的に」

 ヴァンフェルム団長が立った状態で手を叩き、場の静けさを打ち払うと、団長室にざわめきが戻ってくる。残念ながら、私の心に安寧は戻ってこなかったけど。

 とにかく、団長はグレイとバルザード卿の動向を知りたいようだ。

 フィリアが何かに気づいたようで、隣に立つバルトレット卿を肘で突く。突かれたバルトレット卿はハッとして、反射的に喋り始めた。

「あの、それが…………」

 この後のやり取りで、私は団長の真の目的に気がつくこととなった。
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