運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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7 王女殿下と木精編

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「しかし、大変ですね、お嬢も」

「何が?」

「王女殿下の教育係ですよ」

「なんで、大変だと思うの?」

「だぁって。あの殿下。隙あらば授業をサボろうとしてます。午前の特訓だって。事あるたびに休もうとするし」

「まぁ、ねぇ」

 ニグラートのタウンハウスについた私たちは、そんな会話を続けながら、ささっと建物の中に入っていった。

 入り口の大きな扉がタイミングよく開き、中に進むと、玄関ホールにはずらっと使用人が並んで私を出迎えている。

 毎回こんな感じなので申し訳なく思う一方で、いずれは辺境伯夫人になるから慣れないといけない、と思う自分がいた。

 いったん会話を止め、出来るだけ堂々と優雅に見えるよう、手を挙げてみんなの出迎えをねぎらう。

 顔を伏せる使用人の間を歩いていくと、執事長が寄ってきて、グレイの到着が少し遅くなる旨を伝えられた。

 ほらほら。グレイ、忙しいんだよ。

 転移魔法陣で一瞬、だとはいえ、今日の分の仕事をある程度、片付けないといけないだろうし。

 私が心配そうな顔でもしていたようで、

「グレイアド様なので大丈夫です」

 みたいなことを執事長から言われる。

 それで心配がなくなるはずないのに、フィリアもバルトレット卿も、他の使用人も揃って頷くのはどういうことだろう。

 まぁ、いいや。

 私は考えるのを止めた。
 先にお風呂だ。

 私は侍女さんに声をかけると自室に向かったのであった。




 デルティ殿下の教育係の件については、車内で別のやりとりがあったのだ。

 とにかく、フィリアはデルティ殿下に対して怒り心頭。

 騎士の才能もあって努力もしているのに、「筋肉がムキムキじゃないから」という訳の分からない理由で、ニグラートでは騎士になれなかったフィリア。

 私の一言で、騎士の採用基準から筋肉ムキムキが削除され、細マッチョ可となるまでの間、フィリアは侍従をしていたのだ。

 だからなのか、才能もあって、周りの環境も整っているのに、努力が嫌いで適当に生きている人間を殊の外、フィリアは嫌う。

「本気で、リグヌム殿を使えるようになりたいなら、もっと真剣に取り組むべきですわ」

「それは私もそう思うけど」

 フィリアは何かとデルティ殿下を攻撃する。不敬になるので、フィリアも場所を選んで文句を言ってるようだけど。
 胸の中にくすぶっている物はなかなか消えないようだった。

「真剣に頑張らないから上達しないし、リグヌム殿を呼び出せないんです」

「上達は亀の歩みというか、そんな感じだけどね。リグヌムは呼び出せるよ?」

 あまりにもデルティ殿下が攻撃されっぱなしなので、弁護したら、これまたフィリアのしゃくに障る。目がつり上がって凄い形相。

「あの方、気配を感じられないとか、通じないとかおっしゃってましたよ!」

「まぁ、気配を感じられないのは、修行不足のせいだけど。通じたり呼び出せたりは出来るんだよね」

「え。あんな、不真面目に特訓をしていても、ですか?!」

「その辺、才能ってヤツがあるんだろうねぇ」

 残念なことに、努力しなくても出来ちゃう人が世の中にはいるんだよ。デルティ殿下がそういう人だった。

 そこから先、残念な人になっちゃうかどうかは本人の意志と頑張り次第。

 五強の主が残念な人では困るので、王太子殿下に教育を任されたと。そんなところなわけ。

 だからここで、手を抜くわけにはいかなかった。

「でも、呼び出せていませんよね?」

 という、フィリアのもっともな質問に、私の隣にちょこんと顕現したクラヴィスが答える。




「リグヌムを呼び出せないよう、主が邪魔してるんだよ」




「………………………………!」

 クラヴィスの話の内容が、衝撃的だったのか、フィリアが動かなくなった。

 ガタガタと車が動く音だけが聞こえる。

「フィリアも思ったでしょ? あんな力を抜いて特訓してて、簡単に出来るようになっちゃうのってどうよ? って」

「…………………………はい」

「だから、簡単に出来るようにならないよう、私がリグヌムを圧してるの」

 そう。

 リグヌムが消えた云々と王太子殿下が言ってた最初はともかく、一日くらいの特訓で呼び出せるようになっちゃって。

 焦った私は急遽、方針を変更したと。

「でも、王太子殿下の依頼は、王女殿下がリグヌム殿を呼び出せるように、ってことですよね?」

 呆然と私の話を聞くフィリアに、今度はセラフィアスまで顕現して喋り出した。

「お前さぁ、よく話を聞いてないだろ」

「それか、勝手に解釈してるかだね」

 私は両脇に座る二人の背中に手をあてると、賛同するように大きく頷く。フィリアを混乱させて悪いけど。これは必要な『邪魔』だったから。

「王太子殿下はこう言ったんだよ。『デルティの教育を頼む。リグヌムをまともに扱えるようにしてもらいたい』って」

 呼び出せるだけではダメ。
 力を使いこなせるまでにならないと。

「つまり、才能に頼ってちょいちょいと出来るようになっても、意味がないの」

 私はそう言って、この話を切り上げて、フィリアはこの話を聞いて「お嬢は大変」という感想に辿り着いた訳だった。




 入浴もご飯も終えて、一人自室でまったりする私。

《主は優しいよな》

「《え? 何が?》」

 ベッドに寝転んでグレイを待っていると、セラフィアスが話しかけてきた。

《あの、やたらキーキー喚いて自分は王族だから周りが便宜をはかるのは当然のように思ってる女のことを、親身になって鍛え上げようとしているだろ?》

 続いてクラヴィスも。

《あの、やたら張り合ってきて自分の方がかわいがられているアピールが凄い魔術師擬きの女のことも、心配してるんだよね》


 ゴフッ


 あまりの酷い言い方に思わず、噴き出す。

「《凄い酷い言いよう》」

 魔導語で話しかけなくても二人には通じるのに、なぜか、他の人に会話を聞かせたくなくて、魔導語で応じた。

 キーキー女はデルティ殿下、擬きはおそらくフォセル嬢のことか。

《事実だよ。あんなキーキー女や擬きの心配より、極悪魔剣士の心配してやった方がいいよ》

「《なんで、そこにグレイ?》」

《キーキー女や擬きはどうにかなっても、どうにでも出来るから。極悪人が暴走したら僕もちょっとキツいからな》

《あー、僕も》

 頭の中で二人の会話が交錯する。

「《ところで。なんで、みんなして、グレイのことを『あれ』とか『極悪人』とか言うの?》」

《まぁ。大人になれば分かるよ、主》

「《私、れっきとした大人だけど》」

《とにかく、極悪人を大事にしろよ?》

「うん。言われなくても」


 コンコン


 杖たちの会話が途切れたところで、部屋の扉を叩く音。

 私はガバッと身体を起こした。

 扉の向こう側には魔剣の気配。それも二本。

「グレイ!」

 扉を開けるとそこには疲れきった彼の姿がある。

 私はそのまま、グレイを出迎えたのだった。
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