運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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7 王女殿下と木精編

2-12 またある日のダイアナ

 わたくしは今日もまた、王城内の結界の補強を行っています。

 結界補強は重要作業。

 とはいえ、結界修復と違って、防壁に適した魔力をこめれば終わる作業です。

 今までわたくしが連日担当することなどなかったのに。担当を決め、最後に確認を行って了承を出すのは筆頭様なので、不満など滅多なことも言えません。

 お父さまやお母さまに話をしても「重要作業を任されるまでになった」と喜んでくださるので、まさか、その重要作業が地味で嫌だなど、口が裂けても言えませんでした。

「クラウド先輩、聞きましたか? ルベラス先輩が、臨時で本部に異動になったって話」

 あぁ。嫌だわ。また、あの二人。

 わたくしは自分が今、三聖の展示室の近くにまで来ているのに気がつきました。

「いや、初耳だ。あいつ。また何か、やらかしたんじゃないよな」

「あー、それがですね。私、ちょうど団長室に用があって、見ちゃったんですけど」

 キンキンする喋り方。
 頭が痛くなります。

 三聖の展示室とその前の広場は、王城の結界とは関係のない場所。すみやかに移動しようとするわたくしは、二人の会話に聞き耳を立ててしまいました。

 どうやら、どなたかの悪口を言ってるようです。

「今度は何、やったんだ?」

「第三騎士団の仕事はほぼ覚えたから、ついでに本部の仕事を見てくるのはどうかなぁ、って。団長に言われてました」

「あぁ、そういうことか」

「ルベラス先輩が第三騎士団にいるのは、騎士団付きの魔術師の仕事を覚えるためですもんね」

「いや、今回のはそれが理由じゃないな」

 わたくしが足を止めて見ているというのに、二人は構うことなく、悪口を続けておりました。

 いえ。悪口ではなく憶測ですわね。

「ほら、あいつ。他の騎士団から闘技会に出るだろ? だから、一時的に第三騎士団から追い出されたんだよ」

 男性の方が事情を分かっているかのような口振りで話をしています。

「表向きは、本部の仕事を覚えるってことにすれば、角も立たないだろ?」

「クラウド先輩、さすがです! そこまで裏の裏を読むなんて」

「まぁな」

 それから二人は他の話も交えて笑いながら、わたくしの前から姿を消したのでした。




「なんですの、まったく。婚約者でもない男性と密接に。それに憶測の話を大声で。みっともない」

 また今回も憤りが言葉となって口から出てきます。
 わたくし、こんなに感情が沸き起こることなんてあったかしら。

「あんな女が、五強の主だなんて、わたくしは認めませんわ! 魔力も実力も人並み以下の癖に」

 何かにとりつかれたかのように、次から次へと憤りが溢れてきました。

 下を向いてブツブツつぶやく私は、三聖の展示室の前の広場に立ち尽くしたまま。

 誰もいないこの場所で、恨み辛みを吐き出します。そうすれば少し心が軽くなるような気がしましたから。

「だいたい、金冠も五強の杖も、どうしてわたくしみたいな優秀な魔術師を見逃すのかしら」

 金冠と五強。どちらが上かなど分かりませんけど、わたくしならどちらの主にもなれたはずですわ。

「わたくしだって、機会さえあれば、五強の主になれましたのに。わたくしの方があんな女より上ですのに」

「何が上なんだい?」

 とそこへ、またもや、突然の声。

 この声は、

「筆頭様」

「あー、今日は喚かないのか」

 さすがにわたくし、二度も失態は犯しませんわ。
 この三聖の展示室の前で、筆頭様にお会いしたのも何かのお導きなのかもしれません。

「筆頭様、折り入ってご相談したいことがありますの」

 わたくし、大きな建物を指差して、こうお願いいたしました。
 筆頭様は銀髪に青い綺麗な瞳を細め、笑顔でわたくしの様子を窺っております。

「あの、三聖の展示室の入室許可をいただきたいんです」

「入ってどうするんだい? 知ってると思うけど、今はお披露目会の準備で、あちこち点検したり整備したり、忙しいんだ」

 だから、君まで結界の補強に駆り出されているだろう?と筆頭様。

 しかし。

 筆頭様は頭ごなしにダメとは言わず、わたくしに入室の理由を聞いてきました。

「三聖の展示室の中はさすがに狭いから招待客は通さないけど、この広場をお披露目会場にする予定なんだよ」

 そう言って、筆頭様は手を広げて広場を指し示します。

 ダメですわ! 話が入室許可から別の話に変わってしまう!

 わたくし、焦って筆頭様に対して大きく出てみました。筆頭様はわたくしの実力をお認めくださる方の一人。わたくしの可能性をきっと見いだしてくださいます。

「筆頭様、わたくし、五強の主になってみせますわ。五強の主が三人となれば、さらに話題になりますわよ?」

「うーん。でも、主になるには素質も必要だからねぇ」

「わたくしなら、素質も十分だと想いますわ。学院でも期待されていましたの。いずれ、名を持つ杖の主になるだろうと」

 わたくしは食い下がりました。

 ここで筆頭様と直接やり取りする機会を逃せば、次はいつになるか分かりませんから。

 筆頭様はうーんと唸った後、意外な言葉を口にします。キラキラとした笑みを浮かべて。

「そうか。それなら、僕の下で、少し訓練をしてみないか?」

「わたくしに訓練なぞ必要ありませんわ」

「訓練すれば、五強の杖の二本持ちになれるとしても?」


 ドクン


 心臓が大きく跳ねました。

「二本持ち?」

 筆頭様でさえ杖は一本しかお持ちでないのに、わたくしが二本持ち?

 それほど、筆頭様はわたくしの実力を買っていらっしゃる、と?

 わたくし、頬が緩むのをこらえて、筆頭様を見上げました。

「あぁ。五強の杖の二本持ちなんて前代未聞だろう? きっともの凄く注目される。アクアを手にしたフォセル嬢よりも、もっともっと」

 筆頭様の魅力的な提案はわたくしの耳から胸に入り、わたくしの心をかたく捕らえたのでした。
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