運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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7 王女殿下と木精編

3-6

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 バルトレット卿が予告をしてから、ほんの十分後。

「オーホッホッホッホ。このあたしにかかったら、あーんな胡散臭いヤツ、敵ではないわ!」

 訓練場には、フィリアの高笑いが響いていた。

「素敵です、ロード卿」

「ロード卿、その美しさと強さの秘訣は何ですか?」

 侍女さんたちに囲まれてほめちぎられ、満更でもない様子で、フィリアは高笑いを続ける。

 フィリアが調子に乗るのも仕方ないくらい、最後はキレイに終わったのだ。

 私は十分前のフィリアを思い返す。




 フィリアが追い詰められたと見て取ったカイエン卿は、剣を組み合った後、力任せにフィリアをグイッと押した。


 ガキーン、ザザザザッ


 派手な金属音を立てて、フィリアが後ろに吹き飛ばされる。

 倒れまいとして、ずり下がった拍子に、地面から砂埃が舞い立ち、一瞬、視界が悪くなった。

 互いに相手が見えなくなっているのに、カイエン卿は余裕そうな顔。

「そうだ。カイエン卿って魔力の動きに敏感だったっけ」

「お嬢、そういう重要なことは先に教えておいてくださいよ」

 私が何気につぶやいたことを、バルトレット卿はさっそく手元のメモに付け加えていた。
 ついでに、私のデータ収集に対する姿勢に、注意をするのも忘れない。

 そんなことを言われても。

 第三騎士団の中で諜報活動をしろ、と言われているようで、私は拒否感を持ってしまった。

 第三騎士団は私にとって、初めての職場で仲間なのに。

 それなら、バルトレット卿たち、北部辺境騎士団は仲間じゃないのか、と問われると、こちらも大事な仲間であることに変わりはない。私にとっては大事な『家』だ。

 職場の仲間を取るか、家族の仲間を取るか。

 どちらか片方しか選べないとしたら?

 私はどうしたらいいのか。どうすべきなのか。

 答えはハッキリ出ているはずなのに、なぜか、躊躇してしてしまっている自分がいて、私は戸惑いを隠せなかった。

 ともあれ、今はフィリアの応援に集中しないと!

 砂埃が舞い上がって視界は悪いけど、カイエン卿とフィリアの魔力はハッキリと見えた。

 カイエン卿はうっすらながら、フィリアを捉えているのだろう。

 視界が悪いのにも関わらず、正確にフィリアがいる場所に剣先を向け、大きく振りかぶった。

 自分が優位に立っている余裕からか、さきほどより動きが大きい。

 とそこに、


 ゴウッ


 と強風が吹き荒れ、一瞬で砂埃が吹き払われた。

 カイエン卿が剣を振り下ろそうとしている場所には、フィリアの姿が。

 危ない! 避けてフィリア!

 そう思っているのに、喉が渇いて張り付いたようになって、声が出ない。

 バルトレット卿も同様で、メモを取るペンに力が入って、ガリッと音を立てていた。

 カイエン卿の剣が大きく勢いをつけて振り下ろされる。

 フィリア! 剣は?

 フィリアは剣を構えていなかった。

 いや、正確には剣を脇構えにして、カイエン卿の剣に相対していた。

 自分の剣を相手から隠すようにする構え。

 正面にいる人間からは見えないけど、真横から見ている私たちには、フィリアの剣が鈍く光っているのが目に入る。

 そろそろ仕掛ける。

 バルトレット卿が言っていた『仕掛ける』とはこの鈍い光のこと?

 そうだとしても、この構えだと、防御するにしても攻撃するにしても、カイエン卿が振り下ろす剣の勢いに間に合わない!

 カイエン卿が自分の勝ちを確信してニヤリと笑った。

 と、その時。


 キィーーーーーン


 今までで一番、高い金属音。


 ザシュッ


 遅れて何かが突き刺さる音。

 何が起こったか分からないとでもいう風に、カイエン卿が口をあんぐりと開けて立ち尽くしている。

 その手には半分しかない刀身の剣を携えていた。残りの半分は、と辺りを見回すと、少し離れた地面に見事に突き刺さっている。


 キャァァァァァ


 次の瞬間、侍女さんたちの割れるような歓声が辺りに響き渡り、フィリアの勝利で決闘は終了となった。




「フィリア、ご機嫌だわ」

「わたくしもカイエン卿もご機嫌斜めだけれどね」

 フィリアの勝利を目にして、ひたすら走っていたデルティ殿下も、私のそばに寄ってきて足を止める。

「自業自得」

「ともあれ、凄いわね。カイエン卿をあそこまで叩き伏せるなんて」

 うん、私もダメかと思ったわ。

「基本、殲滅隊は魔剣士なので、剣に魔力を込めて威力を増すという芸当が可能なんです」

 バルトレット卿は自分の手柄のように自慢をしていて、その話に侍女さんたちが聞きほれている。

 そう。

 フィリアは脇構えで剣を相手から隠しながら、剣に魔力を込めていた。

 魔力の動きは分かるけど、具体的にどう動かされているのかは分からないカイエン卿。
 フィリアが魔剣士だという情報もはいってないだろうから、まさか、目の前の人間が、剣に魔力を込められる人間だとは思ってもみなかったらしい。

 カイエン卿の油断もあって、フィリアは最後の最後の瞬間、一気に魔力を解放し一点に集中させることに成功した。

 自分の腰を中心にして、大きく勢いよく剣を振り抜くと、カイエン卿の剣先はいとも簡単に切り落とされることになる。

「デルティ殿下。フィリアは最初、騎士になれなかったの、体格が細いからって」

 正確には、ムキムキじゃなかったから。

 勝って鼻高々なフィリアに私は拍手を送った。

 パチパチという私の小さな拍手が、訓練場全体に広がる。デルティ殿下も合わせて手を打った。

「はぁぁ? 職業って体格で決まるの? 能力や実力ではなく?」

 拍手をしながらも、悪態じみたものを吐き出すデルティ殿下。

 私はデルティ殿下に視線を向けずに、フィリアの境遇を語り出した。

「以前は、辺境の騎士はムキムキじゃないとダメで。
 でも、ムキムキじゃなくても騎士として優秀なら、日頃の訓練についていけるなら、良いんじゃないかって思って、変えてもらったの。採用試験だけでも受けられるように」

「そうよね! 見た目が採用基準なんてあり得ないわ!」

 デルティ殿下は私の話を遮る。

 デルティ殿下が喋る当たり前のことが、当たり前ではなかったんだ、昔は。

「でも、世の中、実力以外の物が基準になることは多いから」

 私はデルティ殿下の言葉に、そう返す以外の言葉を持ち合わせていなかった。




 そうして、決闘が無事、フィリアの勝利で終わった日の午後の授業。

「地位もその一つですよ、王女殿下」

「げげっ。授業。そこから続いていてくるのね」

 午後の講義の先生は、基準となる実力以外の物がどういった物かを、丁寧に説明してくれた。

「実力がある者が遺憾なく発揮できる社会を作るために、地位ある者は存在しています」

 と。

「だから、王族は奢らず卑屈にもならず、広い目で世の中を俯瞰し、万人の利益を考えて行動しなければならない。でしょ?」

 デルティ殿下も負けじと、先生に言い返した。

 デルティ殿下の話を受けた先生は、言い換えされてもなお、話を続ける。

「では、今日はその『万人の利益』とは何かについて、話をしていきましょうか」

「ひぃぃぃ」

 先生とデルティ殿下の言葉の勝負は、先生の方に軍配があがったようだった。
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