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7 王女殿下と木精編
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カイエン卿とフィリア。キラキラしい美男美女(?)の決闘なので、さぞかし、中身もキラキラしいのかの思っていたけど。
決闘をしている当人たちは、意外と静かで、決闘自体も静かに始まり静かに進んでいた。
真剣なので当たると切れる。下手をすると骨まで砕く。
二人の素早い攻撃は、交互に繰り広げられていった。
キャァァァァァ
静かでないのは周りの見物人かな。
離れて見ている私にも振るった剣の唸りが聞こえてくるほど、素早く、そして鋭い攻撃が繰り出されるたびに、侍女さんたちの悲鳴があがる。
ハァァァァァァ
すんでのところでかわしたり、受け止めたり。鋭い攻撃は互いの身体に当たることなく、やはり、そのたびに侍女さんたちの安堵の呻きが漏れた。
攻防の激しさとは反対に、試合は淡々と進んでいく。
打ち込んで、受け止めて、払ったり返したりいなしたりして、また打ち込む。その繰り返し。
上を攻めていたと思ったら、急に下を攻め、バランスを崩したところへ蹴りをいれて。
ガキーン、ガキーン
剣を打ったり、受け止めたりする音が途切れることなく続いた。
しばらくすると、剣を打ち付ける音や、それに伴ってキャーキャー言う声とは違った、カリカリとした音が聞こえてくる。
私は背後を振り返った。
カリカリは間違いなく私の真後ろから聞こえてきた。そこにいるのは一人しかいない。
「バルトレット卿は何をしてるの?」
「あの胡散臭い笑顔を浮かべている騎士のデータ取りですよ、お嬢」
「データ取り?」
バルトレット卿は手元のノートを私に見せる。そこにはびっしりと文字と数字が並んでいた。
「剣術大会の優勝者なので、以前もデータは取ってるんですが」
と言いながら、何かを書き付けていくバルトレット卿。
「例えば、どんな?」
私は興味を覚えて、具体的なことが聞きたくなった。
デルティ殿下の底上げ計画でも、体力測定やら検査やらは行っている。
その時の手際や評価がいやに見事だったのは、普段から、データ取りをしていたからだったのか。
「まずは、筋力、持久力、スピード、反射力といった身体的な部分ですね。あくまで、試合の中での物になりますが」
簡単な質問だったのに、意図をくんで丁寧に説明してくれるバルトレット卿。
「そして、観察力、構成力、対応力といった思考的な部分です。
相手の実力や動きを観察し隙を見いだす力、相手への攻め方を考える力、相手からの反撃や反応に対して応対する力になります」
この分だと、観察するポイントがはっきり決められているだけでなく、評価方法もきちんと整備されているようだ。
私が殲滅隊の訓練に参加しているときも、同じことをやっていたっけ?
いやいや、見たこともないし聞いたこともないし。初見で初耳な情報に驚かされるばかり。
「意外と理路整然としてる」
私がそう思ってしまったのも、致し方ないと思う。思われた方はいい気はしないだろうけど。
「お嬢は殲滅隊をなんだと思ってるんですか」
予想通りの反応。憮然とした顔をするバルトレット卿に、普段から思っていることを伝える。一言で。
「脳筋集団」
「それはフェルム一族でしょう」
メモをする手は止めず、バルトレット卿は話を続けた。
「隊長が殲滅隊の長になってから、単純な身体能力以外の部分も重視するようになったんです」
なるほどね。
私は少し意外に思った。そして、グレイが発案者だということを聞いて、余計に意外に思った。
グレイといえば、辺境騎士の素質の塊のような人物だろうに。
「各自のデータを取ることで、どう鍛えていくかを個別に判断しているんだ」
「そうなんです。それまでは、ムキムキになればいいって感じの鍛え方だったようですし」
ムキムキ。それはきっと、ベイオス閣下の方針だね。と、なんとはなしに理解してしまった私。
その染み付いた慣例を変えるのに、きっと反発もあっただろう。
「隊長が殲滅隊の長になって変わったのがこの鍛え方の部分だったそうです。欠点を補ったり、長所を伸ばしたり。
そうしているうちに、殲滅隊の生存率が各段にあがったんですよ」
自分のことのように自慢げに誇らしげに語るバルトレット卿の表情は、とても晴れやかだった。
辺境を守る騎士にとって、命をかけるのは当然のこと。
だとはいえ、無駄に命を散らすことはあってはならないし、生き残れる方がいいに決まっている。ケガがないならなお良い。
殲滅隊が強いのは、強くて才能がある騎士を集めているのだと思っていたので、地道な改革と努力あってのものだということを聞き、改めて、グレイの凄さを思い知った。
「グレイって、私が関係しないところは普通に機能しているんだね」
「お嬢、そこは気がついてたんですね」
「うん、つい最近だけど」
改革を推し進め、結果を導くことで、グレイは北の英雄になったんだ。
バルトレット卿だけでなく、私まで誇らしげになってしまった。
ふと、とあることに気がつく。
「もしかして。第三騎士団の騎士もデータ取りしてたの?」
「バルザードがやってましたよ」
言葉が出ない。
抜け目がないというか、なんというか。
黙り込んだ私に、バルトレット卿が声をかけてきた。
「お嬢、そろそろロード先輩が仕掛けますよ」
傍目では少しおされ気味になってきたフィリア。とくに焦った表情も苦しげな表情も見せず、淡々としている。
対して、自分の優位を感じて少し余裕が出てきたのか、睨むような表情の中にもホッとしたものが見えてきたカイエン卿。
侍女さんたちは祈るような表情で、二人を見守っていた。
その様子を評して、バルトレット卿がフィリアの反撃を予告すると、その言葉を待っていたかのように、フィリアがあり得ない動きをし始めた。
決闘をしている当人たちは、意外と静かで、決闘自体も静かに始まり静かに進んでいた。
真剣なので当たると切れる。下手をすると骨まで砕く。
二人の素早い攻撃は、交互に繰り広げられていった。
キャァァァァァ
静かでないのは周りの見物人かな。
離れて見ている私にも振るった剣の唸りが聞こえてくるほど、素早く、そして鋭い攻撃が繰り出されるたびに、侍女さんたちの悲鳴があがる。
ハァァァァァァ
すんでのところでかわしたり、受け止めたり。鋭い攻撃は互いの身体に当たることなく、やはり、そのたびに侍女さんたちの安堵の呻きが漏れた。
攻防の激しさとは反対に、試合は淡々と進んでいく。
打ち込んで、受け止めて、払ったり返したりいなしたりして、また打ち込む。その繰り返し。
上を攻めていたと思ったら、急に下を攻め、バランスを崩したところへ蹴りをいれて。
ガキーン、ガキーン
剣を打ったり、受け止めたりする音が途切れることなく続いた。
しばらくすると、剣を打ち付ける音や、それに伴ってキャーキャー言う声とは違った、カリカリとした音が聞こえてくる。
私は背後を振り返った。
カリカリは間違いなく私の真後ろから聞こえてきた。そこにいるのは一人しかいない。
「バルトレット卿は何をしてるの?」
「あの胡散臭い笑顔を浮かべている騎士のデータ取りですよ、お嬢」
「データ取り?」
バルトレット卿は手元のノートを私に見せる。そこにはびっしりと文字と数字が並んでいた。
「剣術大会の優勝者なので、以前もデータは取ってるんですが」
と言いながら、何かを書き付けていくバルトレット卿。
「例えば、どんな?」
私は興味を覚えて、具体的なことが聞きたくなった。
デルティ殿下の底上げ計画でも、体力測定やら検査やらは行っている。
その時の手際や評価がいやに見事だったのは、普段から、データ取りをしていたからだったのか。
「まずは、筋力、持久力、スピード、反射力といった身体的な部分ですね。あくまで、試合の中での物になりますが」
簡単な質問だったのに、意図をくんで丁寧に説明してくれるバルトレット卿。
「そして、観察力、構成力、対応力といった思考的な部分です。
相手の実力や動きを観察し隙を見いだす力、相手への攻め方を考える力、相手からの反撃や反応に対して応対する力になります」
この分だと、観察するポイントがはっきり決められているだけでなく、評価方法もきちんと整備されているようだ。
私が殲滅隊の訓練に参加しているときも、同じことをやっていたっけ?
いやいや、見たこともないし聞いたこともないし。初見で初耳な情報に驚かされるばかり。
「意外と理路整然としてる」
私がそう思ってしまったのも、致し方ないと思う。思われた方はいい気はしないだろうけど。
「お嬢は殲滅隊をなんだと思ってるんですか」
予想通りの反応。憮然とした顔をするバルトレット卿に、普段から思っていることを伝える。一言で。
「脳筋集団」
「それはフェルム一族でしょう」
メモをする手は止めず、バルトレット卿は話を続けた。
「隊長が殲滅隊の長になってから、単純な身体能力以外の部分も重視するようになったんです」
なるほどね。
私は少し意外に思った。そして、グレイが発案者だということを聞いて、余計に意外に思った。
グレイといえば、辺境騎士の素質の塊のような人物だろうに。
「各自のデータを取ることで、どう鍛えていくかを個別に判断しているんだ」
「そうなんです。それまでは、ムキムキになればいいって感じの鍛え方だったようですし」
ムキムキ。それはきっと、ベイオス閣下の方針だね。と、なんとはなしに理解してしまった私。
その染み付いた慣例を変えるのに、きっと反発もあっただろう。
「隊長が殲滅隊の長になって変わったのがこの鍛え方の部分だったそうです。欠点を補ったり、長所を伸ばしたり。
そうしているうちに、殲滅隊の生存率が各段にあがったんですよ」
自分のことのように自慢げに誇らしげに語るバルトレット卿の表情は、とても晴れやかだった。
辺境を守る騎士にとって、命をかけるのは当然のこと。
だとはいえ、無駄に命を散らすことはあってはならないし、生き残れる方がいいに決まっている。ケガがないならなお良い。
殲滅隊が強いのは、強くて才能がある騎士を集めているのだと思っていたので、地道な改革と努力あってのものだということを聞き、改めて、グレイの凄さを思い知った。
「グレイって、私が関係しないところは普通に機能しているんだね」
「お嬢、そこは気がついてたんですね」
「うん、つい最近だけど」
改革を推し進め、結果を導くことで、グレイは北の英雄になったんだ。
バルトレット卿だけでなく、私まで誇らしげになってしまった。
ふと、とあることに気がつく。
「もしかして。第三騎士団の騎士もデータ取りしてたの?」
「バルザードがやってましたよ」
言葉が出ない。
抜け目がないというか、なんというか。
黙り込んだ私に、バルトレット卿が声をかけてきた。
「お嬢、そろそろロード先輩が仕掛けますよ」
傍目では少しおされ気味になってきたフィリア。とくに焦った表情も苦しげな表情も見せず、淡々としている。
対して、自分の優位を感じて少し余裕が出てきたのか、睨むような表情の中にもホッとしたものが見えてきたカイエン卿。
侍女さんたちは祈るような表情で、二人を見守っていた。
その様子を評して、バルトレット卿がフィリアの反撃を予告すると、その言葉を待っていたかのように、フィリアがあり得ない動きをし始めた。
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