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7 王女殿下と木精編
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「それで、決闘になったわけなのね?」
「まぁ、そういうことになるかな」
私たちは場所を王女宮から王太子宮に移して、それぞれやるべきことに取りかかっていた。
カイエン卿とフィリアは決闘、デルティ殿下は走り込み、私はデルティ殿下の見張り。
侍女さんたちはデルティ殿下の見守りを理由に集まってはいるけど、どう見ても、決闘の見物をしている。
キャッキャッとはしゃいでいて、いつもの侍女さんとは違った姿。
王女宮の侍女さんたちは仕事は出来るがのんびりした人たち、というイメージでいたけれど。
年齢相応の姿を見られて、侍女さんたちも私と同じように、笑って、はしゃいで、悲しんで、とするんだなと思って。私は安心した気持ちに包まれていた。
私と同じようにデルティ殿下も侍女さんたちの姿を見て、ほっこりした気分になっているようだ。
侍女さんたちが指をさしては笑う姿を、目を細めて穏やかな顔で眺めている。
て。
デルティ殿下、そんなにのんびりしている時間はなかったよね?
私はデルティ殿下のそばにタタタと駆け寄る。
「ほら、デルティ殿下は走って走って」
デルティ殿下の腕を無理やり取って、引っ張ると、デルティ殿下は名残惜しそうに走り始めた。
ところが、
「わたくし、考えたんだけど」
走り始めたと思ったら、デルティ殿下は思い出したように何か喋り出す。
うん、集中が出来てないな。
私は走るデルティ殿下がよく見えるような位置にイスを置いて座って、そこから怒鳴った。
「デルティ殿下! 喋りながら走ると体力つきるよ?!」
デルティ殿下は訓練場の外周、つまり壁に沿ったところを走っていて、カイエン卿とフィリアは訓練場の中央の試合場のよう円形に区切られているところで睨み合っていた。
デルティ殿下はチラリチラリと、侍女さんや中央の二人に目を向けている。
ボテッボテッボテッと足取りは重い。これでも一番最初に比べたら、マシな方だけど。
「魔術師に体力や筋力は不要でしょう?」
「これだから、素人は」
私も昔、グレイに同じことを言ったことがあるけどね。
「素人ってねぇ! わたくし、ちゃーーーんと専門家に確認したのよ?」
ボテボテ走りながら、意外と大きな声で喋る。だから、私も同じように大きな声で返事をした。
「専門家って、三聖五強の専門家?」
「え」
「まさか、名のある強力な杖持ちと、普通の魔術師が同じだとは思ってないよね?」
返事はない。
ボテボテと地面を蹴って走る足音だけが聞こえてきた。
「名のある強力な杖持ちなんだから、ある程度、体力つけとかないと、強力な魔法を使ったときに身体がキツくなるよ?」
やっぱり返事はない。
と思ったら、お腹の底から絞り出すような声が聞こえた。
「わたくし、頑張るからー!」
叫んだ後は何も言わず、黙り込んだままただひたすら走るデルティ殿下。
とくに走る早さは指定してないので、決まった周回を走ればいい。ただ走るだけであっても、体力はそれなりにつくというもの。
額に汗を光らせ、ヒイヒイと息を切らせて走るデルティ殿下は真剣だった。さきほどまでの散漫だった集中も戻ってきているし。
重そうにボテボテ走るのは体力の無さが原因だけれど、これも少ししたら解消してくるだろう。
もちろん、
しっかり続けられれば。
「エルシア、ちゃーーーーんと数えているわよね?」
「もちろん!」
すれ違いざまに周回数のカウントを確認するデルティ殿下に、私は手を振って答える。
うん、まだ一周終わったばかりなのに。
すれ違うたびに同じことを確認してくるんじゃないよね。
私はボテボテと走るデルティ殿下の後ろ姿をそっと見送った。意外と文句も言わずに走っている。
うん、その調子で頑張って。
さて。
私は走るデルティ殿下から、中央の試合場に視線を移した。
私はイスに座ったまま。
バルトレット卿は私の斜め後ろに控えている。
侍女さんたちがグルッと試合場を囲み、決闘が始まるのを今か今かと待っているところだった。
決闘は訓練用の木剣で、と思ったら、ちゃんとした真剣でやるようで。今は真剣のチェックが終わり、立会人から決闘のルールについての説明が行われている。
立会人は、近衛騎士のタルパー卿。
あれ? タルパー卿に付き添っている使用人ぽい人って。研修部のケルウス部長だわ。変装の名人で、姿を変えては城内のあちこちに出没している。
カイエン卿かフィリアかの調査なんだろうけど、よくも堂々と王太子宮まで潜り込むよな、あの人。
目が合う私に、指を唇にあてて、しーっという仕草をするケルウス部長は、手慣れた様子で決闘の準備を始めていた。
見なかったことにしよう。
と、
突然、歓声があがった。
ようやく、決闘が始まるらしい。
沸き立つのはもちろん侍女さんたちだ。
そんなに娯楽が少ないのか、はたまた決闘自体が物珍しいのか。
侍女さんたちの視線の先を追って、注目の人物を見つけると、あまりの意外さに思ったことが口から溢れてきた。
「意外と人気があったんだね」
注目の人物が私に大きく手を振るので、私も手を振り返す。
「フィリアって」
バルトレット卿も複雑そうな表情で頷いた。
「ロード先輩の美しさと格好良さが、侍女さんに人気なようです」
私がふーんと軽く答えた瞬間、決闘が始まった。
「まぁ、そういうことになるかな」
私たちは場所を王女宮から王太子宮に移して、それぞれやるべきことに取りかかっていた。
カイエン卿とフィリアは決闘、デルティ殿下は走り込み、私はデルティ殿下の見張り。
侍女さんたちはデルティ殿下の見守りを理由に集まってはいるけど、どう見ても、決闘の見物をしている。
キャッキャッとはしゃいでいて、いつもの侍女さんとは違った姿。
王女宮の侍女さんたちは仕事は出来るがのんびりした人たち、というイメージでいたけれど。
年齢相応の姿を見られて、侍女さんたちも私と同じように、笑って、はしゃいで、悲しんで、とするんだなと思って。私は安心した気持ちに包まれていた。
私と同じようにデルティ殿下も侍女さんたちの姿を見て、ほっこりした気分になっているようだ。
侍女さんたちが指をさしては笑う姿を、目を細めて穏やかな顔で眺めている。
て。
デルティ殿下、そんなにのんびりしている時間はなかったよね?
私はデルティ殿下のそばにタタタと駆け寄る。
「ほら、デルティ殿下は走って走って」
デルティ殿下の腕を無理やり取って、引っ張ると、デルティ殿下は名残惜しそうに走り始めた。
ところが、
「わたくし、考えたんだけど」
走り始めたと思ったら、デルティ殿下は思い出したように何か喋り出す。
うん、集中が出来てないな。
私は走るデルティ殿下がよく見えるような位置にイスを置いて座って、そこから怒鳴った。
「デルティ殿下! 喋りながら走ると体力つきるよ?!」
デルティ殿下は訓練場の外周、つまり壁に沿ったところを走っていて、カイエン卿とフィリアは訓練場の中央の試合場のよう円形に区切られているところで睨み合っていた。
デルティ殿下はチラリチラリと、侍女さんや中央の二人に目を向けている。
ボテッボテッボテッと足取りは重い。これでも一番最初に比べたら、マシな方だけど。
「魔術師に体力や筋力は不要でしょう?」
「これだから、素人は」
私も昔、グレイに同じことを言ったことがあるけどね。
「素人ってねぇ! わたくし、ちゃーーーんと専門家に確認したのよ?」
ボテボテ走りながら、意外と大きな声で喋る。だから、私も同じように大きな声で返事をした。
「専門家って、三聖五強の専門家?」
「え」
「まさか、名のある強力な杖持ちと、普通の魔術師が同じだとは思ってないよね?」
返事はない。
ボテボテと地面を蹴って走る足音だけが聞こえてきた。
「名のある強力な杖持ちなんだから、ある程度、体力つけとかないと、強力な魔法を使ったときに身体がキツくなるよ?」
やっぱり返事はない。
と思ったら、お腹の底から絞り出すような声が聞こえた。
「わたくし、頑張るからー!」
叫んだ後は何も言わず、黙り込んだままただひたすら走るデルティ殿下。
とくに走る早さは指定してないので、決まった周回を走ればいい。ただ走るだけであっても、体力はそれなりにつくというもの。
額に汗を光らせ、ヒイヒイと息を切らせて走るデルティ殿下は真剣だった。さきほどまでの散漫だった集中も戻ってきているし。
重そうにボテボテ走るのは体力の無さが原因だけれど、これも少ししたら解消してくるだろう。
もちろん、
しっかり続けられれば。
「エルシア、ちゃーーーーんと数えているわよね?」
「もちろん!」
すれ違いざまに周回数のカウントを確認するデルティ殿下に、私は手を振って答える。
うん、まだ一周終わったばかりなのに。
すれ違うたびに同じことを確認してくるんじゃないよね。
私はボテボテと走るデルティ殿下の後ろ姿をそっと見送った。意外と文句も言わずに走っている。
うん、その調子で頑張って。
さて。
私は走るデルティ殿下から、中央の試合場に視線を移した。
私はイスに座ったまま。
バルトレット卿は私の斜め後ろに控えている。
侍女さんたちがグルッと試合場を囲み、決闘が始まるのを今か今かと待っているところだった。
決闘は訓練用の木剣で、と思ったら、ちゃんとした真剣でやるようで。今は真剣のチェックが終わり、立会人から決闘のルールについての説明が行われている。
立会人は、近衛騎士のタルパー卿。
あれ? タルパー卿に付き添っている使用人ぽい人って。研修部のケルウス部長だわ。変装の名人で、姿を変えては城内のあちこちに出没している。
カイエン卿かフィリアかの調査なんだろうけど、よくも堂々と王太子宮まで潜り込むよな、あの人。
目が合う私に、指を唇にあてて、しーっという仕草をするケルウス部長は、手慣れた様子で決闘の準備を始めていた。
見なかったことにしよう。
と、
突然、歓声があがった。
ようやく、決闘が始まるらしい。
沸き立つのはもちろん侍女さんたちだ。
そんなに娯楽が少ないのか、はたまた決闘自体が物珍しいのか。
侍女さんたちの視線の先を追って、注目の人物を見つけると、あまりの意外さに思ったことが口から溢れてきた。
「意外と人気があったんだね」
注目の人物が私に大きく手を振るので、私も手を振り返す。
「フィリアって」
バルトレット卿も複雑そうな表情で頷いた。
「ロード先輩の美しさと格好良さが、侍女さんに人気なようです」
私がふーんと軽く答えた瞬間、決闘が始まった。
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