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7 王女殿下と木精編
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フィリアの提案で話がまとまった後、私たちはようやく、デルティ殿下が待っている部屋の前までやってきた。
いきなり屋外特訓としないのは、特訓前に落ち着いた場所で健康状態と魔力の状態を確認するため。
そのための待機場所に立ちふさがっているのが、この偽爽騎士カイエン卿。
「ルベラス嬢、殿下が中でお待ちです」
周囲からは爽やかだなんだと高評価の笑顔も、私から見たらただの胡散臭い顔。おまけに私の方に手を伸ばしている。
「その手は何?」
手のひらを上にして伸ばされた手を、私はまじまじと見つめた。
「エスコートですが?」
首を軽く傾げ、胡散臭い笑顔がさらに濃くなった。
手はさらに私の方へと延びてくる。
獲物を見つけた蛇を思わせるような動きに、私は思わず身体を退いた。
そこへ、
パシン
派手な音とともに、蛇、じゃなくて、カイエン卿の手が叩き落とされる。
「あなたねぇ。近衛騎士殿だかなんだか分からないけど、うちのお嬢に馴れ馴れしいのではなくて?」
「フィリア、落ち着いて」
「これが落ち着いていられますか、お嬢。こいつ、うちのお嬢に馴れ馴れしすぎますよ」
「フィリア、凄く目立ってるから」
「(目立つようにワザとです)」
まぁ、そうだろうけど!
偽爽やかでもイケメンはイケメンのカイエン卿と、スラッとした格好いい美人のフィリア。
美男美女(?)の対決を目の当たりにして、隅に隠れていた侍女さんたち全員が、固唾をのんで見守っている。やたらと目をキラキラと輝かせながら。
「うちのお嬢は、隊長のパートナーなんですから。やたら、馴れ馴れしくされるのはいただけません」
「そうは言っても、ルベラス嬢の美しさに心を奪われる男性は少なくないかと思いますが?」
少ないって。確実に少ないって。
あぁ、自分で思っていて心がすさむ。
悲しいことに、私のようなコワカワ系というのは、世の中が認めていない。コワカワ系の良さが分かるのは、ごく少数の変な人だけ。
「パートナーのいる女性に馴れ馴れしくするのが、こちらのやり方なんですか? うちの領では考えられませんわ!」
フィリアは正論でカイエン卿を押しまくるので、不利に思った他の騎士が助けに入ってきた。
「カイエン、何をやってるんだよ。殿下が中でお待ちだ。早急に入室してもらえ」
チッと小さく舌打ちをするカイエン卿を無視して、騎士は「さぁ、こちらへ」と扉を開けて誘導する。
しかし、その隙を逃さないのがフィリアだった。
「ちょっと、そこのあなた!」
「私、ですか?」
フィリアに呼び止められて、びくっとする騎士。扉を開ける手が止まった。
すかさずフィリアはカイエン卿を指差して、持論を展開する。
「この男、女性に対して馴れ馴れしすぎますわ!」
「あー。カイエンはフェルムなので、黒髪の美人に弱いんです。失礼がありましたら申し訳ありません」
黒髪の美人。うん、悪くない。
「(お嬢、ニヤニヤしている場合じゃないですよ)」
私の袖をつんつんとつついて、バルトレット卿が私の思考に水を差す。
「(いいじゃないの、少しくらいいい気分に浸っても。黒髪の美人なんて、滅多に言われないんだし)」
「(隊長に言ってもらってください。それより、ロード先輩です)」
バルトレット卿の注意を受け、私の集中が再び、フィリアたちに戻った。
「フェルムだから? それ、理由になります?」
ギャンギャンとしつこく絡むフィリアに対して、扉を開けている騎士ではなく、何もせずに突っ立ったままのカイエン卿が暴言を吐く。
「まったく。男だか女だか分からないが、うるさいヤツだな、お前」
「はぁぁぁぁぁ?!」
フィリアは大声を上げると、左手で右手の手袋を外すとそのまま、カイエン卿の顔に投げつけた。
ベシッという革の良い音がして、手袋はそのまま床に落ちる。
「お嬢、今のうちに、入ってください」
「いや、だって。大変なことに」
目が離せないんだけど。
さきほどのフィリアの提案というのが、カイエン卿を焚きつけて怒らせ、決闘に持ち込んでボコボコにしてしまおう!という物。
カイエン卿に手袋を投げつけさせるはずが、
「フィリアの方がケンカ、売ってるし」
開いた扉の隙間にすべりこんで、私は二人の様子を眺めていた。
バルトレット卿もちゃっかり私の後ろをキープして、高みの見物。
「女装がバレそうになったので、そうとう慌てたんでしょうね。ロード先輩、大丈夫かなぁ」
バルトレット卿、バラしちゃってるし。
普通に喋ったにも関わらず、決闘騒ぎに興奮マックスの侍女さんたちには聞こえなかった模様。
侍女さんたちの歓声に囲まれて、カイエン卿は落ちた手袋を流れるような仕草で拾う。
次に出てくるのは、あまりにも決まりに決まった台詞だった。
「この俺に決闘を申し込むとは、命知らずなヤツだな。後悔するぞ?」
売り言葉に買い言葉。
フィリアもさきほどの勢いのまま、言葉を返す。
「この世にうちの隊長以上に強くてヤバいヤツなんて、ありえませんわ」
フィリアの勢いを受けたカイエン卿からは、偽爽やかな胡散臭い笑みが完全に引っ込んで、上から他人を見下ろすような傲慢な笑みが顔に出ていた。
いつもより悪い顔。
でも、この顔がいつもより、生き生きと私の目には映っている。
カイエン卿は、好きで偽りの仮面をかぶっているわけではなかったんだ。
カイエン卿を取り巻く環境のことを考えると、胸の奥が痛むような気がした。
いきなり屋外特訓としないのは、特訓前に落ち着いた場所で健康状態と魔力の状態を確認するため。
そのための待機場所に立ちふさがっているのが、この偽爽騎士カイエン卿。
「ルベラス嬢、殿下が中でお待ちです」
周囲からは爽やかだなんだと高評価の笑顔も、私から見たらただの胡散臭い顔。おまけに私の方に手を伸ばしている。
「その手は何?」
手のひらを上にして伸ばされた手を、私はまじまじと見つめた。
「エスコートですが?」
首を軽く傾げ、胡散臭い笑顔がさらに濃くなった。
手はさらに私の方へと延びてくる。
獲物を見つけた蛇を思わせるような動きに、私は思わず身体を退いた。
そこへ、
パシン
派手な音とともに、蛇、じゃなくて、カイエン卿の手が叩き落とされる。
「あなたねぇ。近衛騎士殿だかなんだか分からないけど、うちのお嬢に馴れ馴れしいのではなくて?」
「フィリア、落ち着いて」
「これが落ち着いていられますか、お嬢。こいつ、うちのお嬢に馴れ馴れしすぎますよ」
「フィリア、凄く目立ってるから」
「(目立つようにワザとです)」
まぁ、そうだろうけど!
偽爽やかでもイケメンはイケメンのカイエン卿と、スラッとした格好いい美人のフィリア。
美男美女(?)の対決を目の当たりにして、隅に隠れていた侍女さんたち全員が、固唾をのんで見守っている。やたらと目をキラキラと輝かせながら。
「うちのお嬢は、隊長のパートナーなんですから。やたら、馴れ馴れしくされるのはいただけません」
「そうは言っても、ルベラス嬢の美しさに心を奪われる男性は少なくないかと思いますが?」
少ないって。確実に少ないって。
あぁ、自分で思っていて心がすさむ。
悲しいことに、私のようなコワカワ系というのは、世の中が認めていない。コワカワ系の良さが分かるのは、ごく少数の変な人だけ。
「パートナーのいる女性に馴れ馴れしくするのが、こちらのやり方なんですか? うちの領では考えられませんわ!」
フィリアは正論でカイエン卿を押しまくるので、不利に思った他の騎士が助けに入ってきた。
「カイエン、何をやってるんだよ。殿下が中でお待ちだ。早急に入室してもらえ」
チッと小さく舌打ちをするカイエン卿を無視して、騎士は「さぁ、こちらへ」と扉を開けて誘導する。
しかし、その隙を逃さないのがフィリアだった。
「ちょっと、そこのあなた!」
「私、ですか?」
フィリアに呼び止められて、びくっとする騎士。扉を開ける手が止まった。
すかさずフィリアはカイエン卿を指差して、持論を展開する。
「この男、女性に対して馴れ馴れしすぎますわ!」
「あー。カイエンはフェルムなので、黒髪の美人に弱いんです。失礼がありましたら申し訳ありません」
黒髪の美人。うん、悪くない。
「(お嬢、ニヤニヤしている場合じゃないですよ)」
私の袖をつんつんとつついて、バルトレット卿が私の思考に水を差す。
「(いいじゃないの、少しくらいいい気分に浸っても。黒髪の美人なんて、滅多に言われないんだし)」
「(隊長に言ってもらってください。それより、ロード先輩です)」
バルトレット卿の注意を受け、私の集中が再び、フィリアたちに戻った。
「フェルムだから? それ、理由になります?」
ギャンギャンとしつこく絡むフィリアに対して、扉を開けている騎士ではなく、何もせずに突っ立ったままのカイエン卿が暴言を吐く。
「まったく。男だか女だか分からないが、うるさいヤツだな、お前」
「はぁぁぁぁぁ?!」
フィリアは大声を上げると、左手で右手の手袋を外すとそのまま、カイエン卿の顔に投げつけた。
ベシッという革の良い音がして、手袋はそのまま床に落ちる。
「お嬢、今のうちに、入ってください」
「いや、だって。大変なことに」
目が離せないんだけど。
さきほどのフィリアの提案というのが、カイエン卿を焚きつけて怒らせ、決闘に持ち込んでボコボコにしてしまおう!という物。
カイエン卿に手袋を投げつけさせるはずが、
「フィリアの方がケンカ、売ってるし」
開いた扉の隙間にすべりこんで、私は二人の様子を眺めていた。
バルトレット卿もちゃっかり私の後ろをキープして、高みの見物。
「女装がバレそうになったので、そうとう慌てたんでしょうね。ロード先輩、大丈夫かなぁ」
バルトレット卿、バラしちゃってるし。
普通に喋ったにも関わらず、決闘騒ぎに興奮マックスの侍女さんたちには聞こえなかった模様。
侍女さんたちの歓声に囲まれて、カイエン卿は落ちた手袋を流れるような仕草で拾う。
次に出てくるのは、あまりにも決まりに決まった台詞だった。
「この俺に決闘を申し込むとは、命知らずなヤツだな。後悔するぞ?」
売り言葉に買い言葉。
フィリアもさきほどの勢いのまま、言葉を返す。
「この世にうちの隊長以上に強くてヤバいヤツなんて、ありえませんわ」
フィリアの勢いを受けたカイエン卿からは、偽爽やかな胡散臭い笑みが完全に引っ込んで、上から他人を見下ろすような傲慢な笑みが顔に出ていた。
いつもより悪い顔。
でも、この顔がいつもより、生き生きと私の目には映っている。
カイエン卿は、好きで偽りの仮面をかぶっているわけではなかったんだ。
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