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7 王女殿下と木精編
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「エンデバート卿」
先行はフィリア。
なんだけど。
フィリアに呼ばれたエンデバート卿は、パァァァァァッと満面の笑みを浮かべて、フィリアに視線を向けた。
「フィリア嬢!」
小走りで駆け寄り、今にも抱きつこうとでもするかのような勢い。
「げげっ」
「お嬢、俺の後ろに隠れてください」
私は小さく頷いて、バルトレット卿の後ろに隠れる。
バルトレット卿はそのまま、素知らぬ顔でエンデバート卿に近づいていくが、エンデバート卿はフィリアに釘付け。私たちのことは眼中にもないようだった。
こちらとしては都合がいいけど。
どういうつもりなんだろうか。
バルトレット卿に指示して、さっさと王女宮の建物に入り、建物の通路の窓から二人の様子を観察することになった。
「あらぁ、エンデバート卿。ロード卿と呼んでもらえます?」
「ならば、フィリア卿と呼ばせてもらえないだろうか?」
私たちから見ると、フィリアは正面、エンデバート卿の背面から覗く形となっているので、エンデバート卿の表情は分からない。
フィリアの方は、額には縦筋が入り、頬がヒクヒクと痙攣していて、相当、機嫌が悪い。
エンデバート卿の不躾な提案に、フィリアは切れる寸前。
「あたし、そう名乗りましたっけ?」
フィリアの様子を建物の中から見ていた私は、エンデバート卿とフィリアが初めて会ったときのことを思い出していた。
「あ。そういえば」
「ロード先輩。珍しく本名で自己紹介してましたね」
バルトレット卿も覚えていたようだ。
確かにフィリアは、こう、自己紹介したのだ。
フィルア・ロードと。
他にも余計なことを言っていたような気もするけど、大事なのはフィリアがフィルアと名乗ったこと。
この王城で、フィリアをフィリアと呼んでいるのは私だけなので、エンデバート卿はフィリアの自己紹介を適当に聞き逃した疑惑が浮上する。
「すまない。気持ちが先走ってしまったようだ、ロード卿」
エンデバート卿は、フィリアの指摘を正確に把握しないまま、改めて呼び直した。
ロード卿と呼ばれてしまえば、フィリアも大きく反発は出来ない。
「それで、あたしに何か用でも?」
フィリアは首をこてんと傾げて、エンデバート卿を軽く見上げた。
「かわいい。私よりかわいい」
あれは、以前、ユリンナ先輩から教わったヤツだ。
女性の私には習得できなかったのに、男性のフィリアがあれを習得していたとは。
悔しさと悲しさで、喉の奥からぐるぐると唸り声が出てきそうになる。
「お嬢。自分で言ってて悲しくなりませんか?」
バルトレット卿もバルトレット卿だわ。
自分で言ってて、だなんて。私の言葉をなんら否定しない言葉に、私はさらに打ちのめされる。
「今、バルトレット卿からフォローが入らなかったのが、一番、悲しい」
ここはお世辞でもいいから、お嬢だってがわいいじゃないですか、くらい言えっての。
なのに、バルトレット卿が言うのはこうだ。
「お嬢は怖くてかわいい感じで、隊長から絶大な人気を得ていますから」
ある意味、私のかわいさを肯定してくれるのはありがたいけど、
「人気の範囲がピンポイント過ぎる」
別の意味で、私は打ちひしがれることになった。
私とバルトレット卿のやり取りの最中も、フィリアとエンデバート卿の話は続いている。
途中、よく聞いてなかったし、よく見てもいなかったので、話が見えない。
いつの間にやら、フィリアは赤いバラの花束を渡されていて、何かを一生懸命、説明されているところなようだ。
「いや、その。お披露目会が終わったら、すぐに帰国するようだから」
「そうですよね」
「お披露目会ももう明後日だろう?」
そうそう。
明後日はお披露目会。明明後日にはエンデバート卿は帰る。それで終わり。
「目前ですね。王女殿下の方は間に合いますか?」
「私が抑圧を解除すれば、普通に呼び出せるけど?」
「あー、そうでした」
毎日、特訓続きなので誤解するのも仕方ないけど。
「細かいところはまだまだでしょ。一朝一夕でどうこうなる物じゃないわ」
バルトレット卿に話したとおり、リグヌムの召喚という部分だけ見ると、デルティ殿下は問題なし。リグヌムをきちんと使いこなせるかについてはまだまだ。
デルティ殿下の特訓はまだまだ始まったばかりだ。地道に頑張っていこうと思う。私はデルティ殿下を頑張らせるのを頑張るだけだし。
アクアがどうなっているかは、まるで分からない。
クズ男とアクアには、それぞれ何らかの目的があり、目的達成のために協力しているんだと睨んでいる。王太子殿下が。
突然、エンデバート卿が声を大きくした。
「それでだ。さっき言ったとおりなんだが。今日の午後、ある場所に行くのに付き合ってもらいたいんだ」
「さっきも断りましたよね? あたし、お嬢の護衛なんで」
さっきも?
バルトレット卿を振り返ると、彼は両手をあげて首を振る。バルトレット卿も聞き逃したのか。
私たちは会話に集中した。
二度も誘うだなんて、ただのデートの申し込みではなさそうな気がする。
「遠縁にあたる家門なんだが、ルベラス嬢の知人だと説明したら、とたんに会ってくれることになってね」
背中を向けているので、エンデバート卿の表情は見えないけど、自分、いい仕事した、みたいな声色で会話が続いていた。
「え。勝手に私の名前、使ってるし」
「知人、といえば知人になりますかねぇ」
「バルトレット卿はどちらの味方なのよ」
悪態をつくついでに、バルトレット卿のスネを蹴飛ばすと、私はフィリアの反応に注目した。
「あたしの、お嬢の、名前を、勝手に使ったんですか!」
あー、首、絞めてる。
行け! フィリア! 殺ってしまえ!
「いや、その。メッサリーナ殿が調べたところでは、ルベラス嬢と血縁の家門のようだったし」
苦し紛れに出た言葉に、フィリアは絞める手の力を抜いた。
「お嬢と縁戚って」
「まさか」
窓からこっそり覗いている私たちも、動きを止めて、二人に注目する。
「どちらの家門ですか?」
「ロード卿も、名前は聞いたことがあるだろう。ルベル公爵家だよ」
エンデバート卿が答えた瞬間、フィリアがニタリと笑うのが見えた。
先行はフィリア。
なんだけど。
フィリアに呼ばれたエンデバート卿は、パァァァァァッと満面の笑みを浮かべて、フィリアに視線を向けた。
「フィリア嬢!」
小走りで駆け寄り、今にも抱きつこうとでもするかのような勢い。
「げげっ」
「お嬢、俺の後ろに隠れてください」
私は小さく頷いて、バルトレット卿の後ろに隠れる。
バルトレット卿はそのまま、素知らぬ顔でエンデバート卿に近づいていくが、エンデバート卿はフィリアに釘付け。私たちのことは眼中にもないようだった。
こちらとしては都合がいいけど。
どういうつもりなんだろうか。
バルトレット卿に指示して、さっさと王女宮の建物に入り、建物の通路の窓から二人の様子を観察することになった。
「あらぁ、エンデバート卿。ロード卿と呼んでもらえます?」
「ならば、フィリア卿と呼ばせてもらえないだろうか?」
私たちから見ると、フィリアは正面、エンデバート卿の背面から覗く形となっているので、エンデバート卿の表情は分からない。
フィリアの方は、額には縦筋が入り、頬がヒクヒクと痙攣していて、相当、機嫌が悪い。
エンデバート卿の不躾な提案に、フィリアは切れる寸前。
「あたし、そう名乗りましたっけ?」
フィリアの様子を建物の中から見ていた私は、エンデバート卿とフィリアが初めて会ったときのことを思い出していた。
「あ。そういえば」
「ロード先輩。珍しく本名で自己紹介してましたね」
バルトレット卿も覚えていたようだ。
確かにフィリアは、こう、自己紹介したのだ。
フィルア・ロードと。
他にも余計なことを言っていたような気もするけど、大事なのはフィリアがフィルアと名乗ったこと。
この王城で、フィリアをフィリアと呼んでいるのは私だけなので、エンデバート卿はフィリアの自己紹介を適当に聞き逃した疑惑が浮上する。
「すまない。気持ちが先走ってしまったようだ、ロード卿」
エンデバート卿は、フィリアの指摘を正確に把握しないまま、改めて呼び直した。
ロード卿と呼ばれてしまえば、フィリアも大きく反発は出来ない。
「それで、あたしに何か用でも?」
フィリアは首をこてんと傾げて、エンデバート卿を軽く見上げた。
「かわいい。私よりかわいい」
あれは、以前、ユリンナ先輩から教わったヤツだ。
女性の私には習得できなかったのに、男性のフィリアがあれを習得していたとは。
悔しさと悲しさで、喉の奥からぐるぐると唸り声が出てきそうになる。
「お嬢。自分で言ってて悲しくなりませんか?」
バルトレット卿もバルトレット卿だわ。
自分で言ってて、だなんて。私の言葉をなんら否定しない言葉に、私はさらに打ちのめされる。
「今、バルトレット卿からフォローが入らなかったのが、一番、悲しい」
ここはお世辞でもいいから、お嬢だってがわいいじゃないですか、くらい言えっての。
なのに、バルトレット卿が言うのはこうだ。
「お嬢は怖くてかわいい感じで、隊長から絶大な人気を得ていますから」
ある意味、私のかわいさを肯定してくれるのはありがたいけど、
「人気の範囲がピンポイント過ぎる」
別の意味で、私は打ちひしがれることになった。
私とバルトレット卿のやり取りの最中も、フィリアとエンデバート卿の話は続いている。
途中、よく聞いてなかったし、よく見てもいなかったので、話が見えない。
いつの間にやら、フィリアは赤いバラの花束を渡されていて、何かを一生懸命、説明されているところなようだ。
「いや、その。お披露目会が終わったら、すぐに帰国するようだから」
「そうですよね」
「お披露目会ももう明後日だろう?」
そうそう。
明後日はお披露目会。明明後日にはエンデバート卿は帰る。それで終わり。
「目前ですね。王女殿下の方は間に合いますか?」
「私が抑圧を解除すれば、普通に呼び出せるけど?」
「あー、そうでした」
毎日、特訓続きなので誤解するのも仕方ないけど。
「細かいところはまだまだでしょ。一朝一夕でどうこうなる物じゃないわ」
バルトレット卿に話したとおり、リグヌムの召喚という部分だけ見ると、デルティ殿下は問題なし。リグヌムをきちんと使いこなせるかについてはまだまだ。
デルティ殿下の特訓はまだまだ始まったばかりだ。地道に頑張っていこうと思う。私はデルティ殿下を頑張らせるのを頑張るだけだし。
アクアがどうなっているかは、まるで分からない。
クズ男とアクアには、それぞれ何らかの目的があり、目的達成のために協力しているんだと睨んでいる。王太子殿下が。
突然、エンデバート卿が声を大きくした。
「それでだ。さっき言ったとおりなんだが。今日の午後、ある場所に行くのに付き合ってもらいたいんだ」
「さっきも断りましたよね? あたし、お嬢の護衛なんで」
さっきも?
バルトレット卿を振り返ると、彼は両手をあげて首を振る。バルトレット卿も聞き逃したのか。
私たちは会話に集中した。
二度も誘うだなんて、ただのデートの申し込みではなさそうな気がする。
「遠縁にあたる家門なんだが、ルベラス嬢の知人だと説明したら、とたんに会ってくれることになってね」
背中を向けているので、エンデバート卿の表情は見えないけど、自分、いい仕事した、みたいな声色で会話が続いていた。
「え。勝手に私の名前、使ってるし」
「知人、といえば知人になりますかねぇ」
「バルトレット卿はどちらの味方なのよ」
悪態をつくついでに、バルトレット卿のスネを蹴飛ばすと、私はフィリアの反応に注目した。
「あたしの、お嬢の、名前を、勝手に使ったんですか!」
あー、首、絞めてる。
行け! フィリア! 殺ってしまえ!
「いや、その。メッサリーナ殿が調べたところでは、ルベラス嬢と血縁の家門のようだったし」
苦し紛れに出た言葉に、フィリアは絞める手の力を抜いた。
「お嬢と縁戚って」
「まさか」
窓からこっそり覗いている私たちも、動きを止めて、二人に注目する。
「どちらの家門ですか?」
「ロード卿も、名前は聞いたことがあるだろう。ルベル公爵家だよ」
エンデバート卿が答えた瞬間、フィリアがニタリと笑うのが見えた。
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