運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

文字の大きさ
428 / 573
7 王女殿下と木精編

4-1

しおりを挟む
「エンデバート卿」

 先行はフィリア。

 なんだけど。

 フィリアに呼ばれたエンデバート卿は、パァァァァァッと満面の笑みを浮かべて、フィリアに視線を向けた。

「フィリア嬢!」

 小走りで駆け寄り、今にも抱きつこうとでもするかのような勢い。

「げげっ」

「お嬢、俺の後ろに隠れてください」

 私は小さく頷いて、バルトレット卿の後ろに隠れる。

 バルトレット卿はそのまま、素知らぬ顔でエンデバート卿に近づいていくが、エンデバート卿はフィリアに釘付け。私たちのことは眼中にもないようだった。

 こちらとしては都合がいいけど。

 どういうつもりなんだろうか。

 バルトレット卿に指示して、さっさと王女宮の建物に入り、建物の通路の窓から二人の様子を観察することになった。

「あらぁ、エンデバート卿。ロード卿と呼んでもらえます?」

「ならば、フィリア卿と呼ばせてもらえないだろうか?」

 私たちから見ると、フィリアは正面、エンデバート卿の背面から覗く形となっているので、エンデバート卿の表情は分からない。

 フィリアの方は、額には縦筋が入り、頬がヒクヒクと痙攣していて、相当、機嫌が悪い。

 エンデバート卿の不躾な提案に、フィリアは切れる寸前。

「あたし、そう名乗りましたっけ?」

 フィリアの様子を建物の中から見ていた私は、エンデバート卿とフィリアが初めて会ったときのことを思い出していた。

「あ。そういえば」

「ロード先輩。珍しく本名で自己紹介してましたね」

 バルトレット卿も覚えていたようだ。

 確かにフィリアは、こう、自己紹介したのだ。

 フィルア・ロードと。

 他にも余計なことを言っていたような気もするけど、大事なのはフィリアがフィルアと名乗ったこと。

 この王城で、フィリアをフィリアと呼んでいるのは私だけなので、エンデバート卿はフィリアの自己紹介を適当に聞き逃した疑惑が浮上する。

「すまない。気持ちが先走ってしまったようだ、ロード卿」

 エンデバート卿は、フィリアの指摘を正確に把握しないまま、改めて呼び直した。

 ロード卿と呼ばれてしまえば、フィリアも大きく反発は出来ない。

「それで、あたしに何か用でも?」

 フィリアは首をこてんと傾げて、エンデバート卿を軽く見上げた。

「かわいい。私よりかわいい」

 あれは、以前、ユリンナ先輩から教わったヤツだ。
 女性の私には習得できなかったのに、男性のフィリアがあれを習得していたとは。

 悔しさと悲しさで、喉の奥からぐるぐると唸り声が出てきそうになる。

「お嬢。自分で言ってて悲しくなりませんか?」

 バルトレット卿もバルトレット卿だわ。

 自分で言ってて、だなんて。私の言葉をなんら否定しない言葉に、私はさらに打ちのめされる。

「今、バルトレット卿からフォローが入らなかったのが、一番、悲しい」

 ここはお世辞でもいいから、お嬢だってがわいいじゃないですか、くらい言えっての。

 なのに、バルトレット卿が言うのはこうだ。

「お嬢は怖くてかわいい感じで、隊長から絶大な人気を得ていますから」

 ある意味、私のかわいさを肯定してくれるのはありがたいけど、

「人気の範囲がピンポイント過ぎる」

 別の意味で、私は打ちひしがれることになった。




 私とバルトレット卿のやり取りの最中も、フィリアとエンデバート卿の話は続いている。

 途中、よく聞いてなかったし、よく見てもいなかったので、話が見えない。

 いつの間にやら、フィリアは赤いバラの花束を渡されていて、何かを一生懸命、説明されているところなようだ。

「いや、その。お披露目会が終わったら、すぐに帰国するようだから」

「そうですよね」

「お披露目会ももう明後日だろう?」

 そうそう。

 明後日はお披露目会。明明後日にはエンデバート卿は帰る。それで終わり。

「目前ですね。王女殿下の方は間に合いますか?」

「私が抑圧を解除すれば、普通に呼び出せるけど?」

「あー、そうでした」

 毎日、特訓続きなので誤解するのも仕方ないけど。

「細かいところはまだまだでしょ。一朝一夕でどうこうなる物じゃないわ」

 バルトレット卿に話したとおり、リグヌムの召喚という部分だけ見ると、デルティ殿下は問題なし。リグヌムをきちんと使いこなせるかについてはまだまだ。

 デルティ殿下の特訓はまだまだ始まったばかりだ。地道に頑張っていこうと思う。私はデルティ殿下を頑張らせるのを頑張るだけだし。

 アクアがどうなっているかは、まるで分からない。

 クズ男とアクアには、それぞれ何らかの目的があり、目的達成のために協力しているんだと睨んでいる。王太子殿下が。

 突然、エンデバート卿が声を大きくした。

「それでだ。さっき言ったとおりなんだが。今日の午後、ある場所に行くのに付き合ってもらいたいんだ」

「さっきも断りましたよね? あたし、お嬢の護衛なんで」

 さっきも?

 バルトレット卿を振り返ると、彼は両手をあげて首を振る。バルトレット卿も聞き逃したのか。

 私たちは会話に集中した。

 二度も誘うだなんて、ただのデートの申し込みではなさそうな気がする。

「遠縁にあたる家門なんだが、ルベラス嬢の知人だと説明したら、とたんに会ってくれることになってね」

 背中を向けているので、エンデバート卿の表情は見えないけど、自分、いい仕事した、みたいな声色で会話が続いていた。

「え。勝手に私の名前、使ってるし」

「知人、といえば知人になりますかねぇ」

「バルトレット卿はどちらの味方なのよ」

 悪態をつくついでに、バルトレット卿のスネを蹴飛ばすと、私はフィリアの反応に注目した。




「あたしの、お嬢の、名前を、勝手に使ったんですか!」




 あー、首、絞めてる。

 行け! フィリア! 殺ってしまえ!

「いや、その。メッサリーナ殿が調べたところでは、ルベラス嬢と血縁の家門のようだったし」

 苦し紛れに出た言葉に、フィリアは絞める手の力を抜いた。

「お嬢と縁戚って」

「まさか」

 窓からこっそり覗いている私たちも、動きを止めて、二人に注目する。

「どちらの家門ですか?」

「ロード卿も、名前は聞いたことがあるだろう。ルベル公爵家だよ」

 エンデバート卿が答えた瞬間、フィリアがニタリと笑うのが見えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

【完結】身代わりとなります

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。 レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。 そんなレイチェルに婚約者ができた。 侯爵令息のダニエルだ。 彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。 はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。 彼のレイチェルへの想いが同情であっても。 彼がレイチェルではない人を愛していても。 そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。 そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・ *過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんがご了承ください。

婚約破棄でお願いします

基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。 「君は、そんな人だったのか…」 王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして… ※ギャグかもしれない

【完結】わたしは大事な人の側に行きます〜この国が不幸になりますように〜

彩華(あやはな)
恋愛
 一つの密約を交わし聖女になったわたし。  わたしは婚約者である王太子殿下に婚約破棄された。  王太子はわたしの大事な人をー。  わたしは、大事な人の側にいきます。  そして、この国不幸になる事を祈ります。  *わたし、王太子殿下、ある方の視点になっています。敢えて表記しておりません。  *ダークな内容になっておりますので、ご注意ください。 ハピエンではありません。ですが、救済はいれました。

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

愛はリンゴと同じ

turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。 夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。 ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。 幾つもあるなど考えられない。

処理中です...