436 / 573
7 王女殿下と木精編
4-9
しおりを挟む
その日の終業後。
私はしつこく王太子殿下に呼び出されていた。
今日は朝からエンデバート卿に隠れて移動したり、クラヴィスからとんでもない話を聞かされたり、デルティ殿下の最終仕上げに付き合って最後に爆発したり(どうして?)、突っ込みどころ満載の一日で。
それだけではなく、他の理由もいろいろあって、私は疲れていたのだ。とてもとても疲れていたのだ。
だから。
「入ってくるなり、嫌そうにするのは止めてもらえないか?」
「疲れてるんです。理由は分かりますよね」
疲れが顔に出ていた模様。
デルティ殿下と王族教育は受けていて、表情コントロールも前より幾分かはマシになったと思っていたのに。
それに、私がこんなに疲れているのは、遡れば王太子殿下のせい。
私は心の中だけで不平を漏らした。
ところが、心の中だけのはずなのに、
「私がお願いしたのが原因なのは、理解しているが。面と向かって、そこまで嫌そうにされると堪えるな」
王太子殿下は正確に私の心を指摘する。
ここで私はようやく、回りの反応に気づいた。
専属の侍従さんや護衛騎士はともかく、補佐官たちが怪訝な顔をしているのを。
「もしかして。私、嫌そうな顔をしているようには見えない、とか?」
「面と向かって嫌そうな顔をしたら、相手に失礼だろう」
「でも、今。言いませんでした?」
「嫌そうにしている、とは言ったが、嫌そうな顔をしているとは言ってない」
そうだった。王太子殿下はちょくちょく、私の心の声を正確に読みとってくる人だったわ。
私は改めて、目の前の殿下を見る。
ユニシス・グラディア第一王子。グラディア王国の次期国王で、三聖の一つ、統率のスローナスの主。
スローナスに読心の能力があるとは聞いてないけど、何度もやられているし、おそらくそういうことか。
「言っておくが、スローナスの力ではないからな」
「えっ、違うんですか?!」
うん、見事に違ったらしい。
顔に手を当てて、はぁぁぁ、とため息をつく王太子殿下は金髪を左右に振った後、真っ直ぐ私を見つめてきた。
王太子殿下の瞳は金色。いわゆる、スロンの金眼。
そちらか。
王太子殿下はうむっ、と小さく頷いてから、口を開いた。
「セラの金眼と同様に、スロンの金眼も得意分野があるからな」
この辺、よく誤解される話なんだよね。
同じことを思ったのか、わざわざ、丁寧に説明をし始める王太子殿下。
「スローナスは統率の個有能力を持ち、統率することに長けた魔導具だ。それとは別に、スロンの金眼を持つ者は、統率に長けた能力を有している」
私にではなく、周りの人間に説明するために。
「統率に長けた能力を持って生まれたから、五歳の時にスロンの金眼として発現し、スローナスの主となったのだ。
スローナスの主となったから、能力を得たわけではない」
よくいるんだ。
自分が杖の主になっていたら、自分が力を発言させていたのに。て、言う人。
主になる前に、力を発言させてないとしたら、主として選ばれないのにね。
私がスローナスの能力とスロンの力を見誤ったから、わざわざ丁寧に説明したと最初は思ったけど、どうやらそういうわけではなさそうだ。
ふと手元の紙束に目を落とす殿下。
束は二つ。
私のところからも表題が見えた。隠す気はないらしい。
一つは五強の杖の報告書、もう一つはルベル公爵邸の報告書、と書いてある。サインはケルビウス。
わざわざ、スローナスの主云々を口にしたのは、五強の仮主、フォセル嬢の件があったからなのかも。
と、推測してみた。顔には出さずに。
珍しく王太子殿下は自分の話を語り続ける。
「それにスロンの金眼は、魔力の量や強さがスローナスに見合うだけないと発現しない。セラもケルも同様。
見合う能力と素質があるから、杖の主になれる。使いこなせるかはその後の努力次第。
逆に言えば、見合う能力と素質がなければ、杖の主にはなれぬし、なったところで努力せねばならない」
フォセル嬢とアクアのことだけでなく、同時にデルティ殿下とリグヌムのこともあった。どちらも王太子殿下としては、頭の痛い内容だろう。
「まぁ、私の話はここまでにして」
不意に王太子殿下が、いつもの王太子殿下に戻る。
表情は相変わらず読めないけれど、読めたら読めたで怖さしか感じない。だから、いつもの王太子殿下に戻って、少しだけ安堵する私。
王太子殿下は私の様子を見て、とくに突っ込むこともせずに、さっさと本題へ。
「ケルビウスからも話は聞いた」
本題はケルビウスから聞いた話の方だ。
王太子殿下の手元にあった紙束は、いつの間にか、一つになっている。表題はルベル公爵邸の報告書。
「あのー」
「なんだ?」
「話の流れからすると、二十年前のお披露目会で、私の母が金冠の主になって、金冠をグラディアに連れてきてしまった、ということになりますけど」
ケルビウスたちはそう推察したようだけれど、真実かどうかは、かなり疑わしいと私は思っている。
王太子殿下はどうだろうか。
私は挑むような目で王太子殿下を見た。
「ケルビウスが、あのメッサリーナ殿に張り付いて調べたところからすると、そういうことになるな」
「二十年前のお披露目会云々の話って、本当なんですか?」
私の挑戦的な質問に、殿下は私とは違う煌めきを持つ金色の瞳を輝かせた。
私はしつこく王太子殿下に呼び出されていた。
今日は朝からエンデバート卿に隠れて移動したり、クラヴィスからとんでもない話を聞かされたり、デルティ殿下の最終仕上げに付き合って最後に爆発したり(どうして?)、突っ込みどころ満載の一日で。
それだけではなく、他の理由もいろいろあって、私は疲れていたのだ。とてもとても疲れていたのだ。
だから。
「入ってくるなり、嫌そうにするのは止めてもらえないか?」
「疲れてるんです。理由は分かりますよね」
疲れが顔に出ていた模様。
デルティ殿下と王族教育は受けていて、表情コントロールも前より幾分かはマシになったと思っていたのに。
それに、私がこんなに疲れているのは、遡れば王太子殿下のせい。
私は心の中だけで不平を漏らした。
ところが、心の中だけのはずなのに、
「私がお願いしたのが原因なのは、理解しているが。面と向かって、そこまで嫌そうにされると堪えるな」
王太子殿下は正確に私の心を指摘する。
ここで私はようやく、回りの反応に気づいた。
専属の侍従さんや護衛騎士はともかく、補佐官たちが怪訝な顔をしているのを。
「もしかして。私、嫌そうな顔をしているようには見えない、とか?」
「面と向かって嫌そうな顔をしたら、相手に失礼だろう」
「でも、今。言いませんでした?」
「嫌そうにしている、とは言ったが、嫌そうな顔をしているとは言ってない」
そうだった。王太子殿下はちょくちょく、私の心の声を正確に読みとってくる人だったわ。
私は改めて、目の前の殿下を見る。
ユニシス・グラディア第一王子。グラディア王国の次期国王で、三聖の一つ、統率のスローナスの主。
スローナスに読心の能力があるとは聞いてないけど、何度もやられているし、おそらくそういうことか。
「言っておくが、スローナスの力ではないからな」
「えっ、違うんですか?!」
うん、見事に違ったらしい。
顔に手を当てて、はぁぁぁ、とため息をつく王太子殿下は金髪を左右に振った後、真っ直ぐ私を見つめてきた。
王太子殿下の瞳は金色。いわゆる、スロンの金眼。
そちらか。
王太子殿下はうむっ、と小さく頷いてから、口を開いた。
「セラの金眼と同様に、スロンの金眼も得意分野があるからな」
この辺、よく誤解される話なんだよね。
同じことを思ったのか、わざわざ、丁寧に説明をし始める王太子殿下。
「スローナスは統率の個有能力を持ち、統率することに長けた魔導具だ。それとは別に、スロンの金眼を持つ者は、統率に長けた能力を有している」
私にではなく、周りの人間に説明するために。
「統率に長けた能力を持って生まれたから、五歳の時にスロンの金眼として発現し、スローナスの主となったのだ。
スローナスの主となったから、能力を得たわけではない」
よくいるんだ。
自分が杖の主になっていたら、自分が力を発言させていたのに。て、言う人。
主になる前に、力を発言させてないとしたら、主として選ばれないのにね。
私がスローナスの能力とスロンの力を見誤ったから、わざわざ丁寧に説明したと最初は思ったけど、どうやらそういうわけではなさそうだ。
ふと手元の紙束に目を落とす殿下。
束は二つ。
私のところからも表題が見えた。隠す気はないらしい。
一つは五強の杖の報告書、もう一つはルベル公爵邸の報告書、と書いてある。サインはケルビウス。
わざわざ、スローナスの主云々を口にしたのは、五強の仮主、フォセル嬢の件があったからなのかも。
と、推測してみた。顔には出さずに。
珍しく王太子殿下は自分の話を語り続ける。
「それにスロンの金眼は、魔力の量や強さがスローナスに見合うだけないと発現しない。セラもケルも同様。
見合う能力と素質があるから、杖の主になれる。使いこなせるかはその後の努力次第。
逆に言えば、見合う能力と素質がなければ、杖の主にはなれぬし、なったところで努力せねばならない」
フォセル嬢とアクアのことだけでなく、同時にデルティ殿下とリグヌムのこともあった。どちらも王太子殿下としては、頭の痛い内容だろう。
「まぁ、私の話はここまでにして」
不意に王太子殿下が、いつもの王太子殿下に戻る。
表情は相変わらず読めないけれど、読めたら読めたで怖さしか感じない。だから、いつもの王太子殿下に戻って、少しだけ安堵する私。
王太子殿下は私の様子を見て、とくに突っ込むこともせずに、さっさと本題へ。
「ケルビウスからも話は聞いた」
本題はケルビウスから聞いた話の方だ。
王太子殿下の手元にあった紙束は、いつの間にか、一つになっている。表題はルベル公爵邸の報告書。
「あのー」
「なんだ?」
「話の流れからすると、二十年前のお披露目会で、私の母が金冠の主になって、金冠をグラディアに連れてきてしまった、ということになりますけど」
ケルビウスたちはそう推察したようだけれど、真実かどうかは、かなり疑わしいと私は思っている。
王太子殿下はどうだろうか。
私は挑むような目で王太子殿下を見た。
「ケルビウスが、あのメッサリーナ殿に張り付いて調べたところからすると、そういうことになるな」
「二十年前のお披露目会云々の話って、本当なんですか?」
私の挑戦的な質問に、殿下は私とは違う煌めきを持つ金色の瞳を輝かせた。
25
あなたにおすすめの小説
彼の過ちと彼女の選択
浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。
そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。
一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。
【完結】身代わりとなります
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。
レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。
そんなレイチェルに婚約者ができた。
侯爵令息のダニエルだ。
彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。
はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。
彼のレイチェルへの想いが同情であっても。
彼がレイチェルではない人を愛していても。
そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。
そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・
*過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんがご了承ください。
婚約破棄でお願いします
基本二度寝
恋愛
王太子の婚約者、カーリンは男爵令嬢に覚えのない悪行を並べ立てられた。
「君は、そんな人だったのか…」
王太子は男爵令嬢の言葉を鵜呑みにして…
※ギャグかもしれない
結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)
愛はリンゴと同じ
turarin
恋愛
学園時代の同級生と結婚し、子供にも恵まれ幸せいっぱいの公爵夫人ナタリー。ところが、ある日夫が平民の少女をつれてきて、別邸に囲うと言う。
夫のナタリーへの愛は減らない。妾の少女メイリンへの愛が、一つ増えるだけだと言う。夫の愛は、まるでリンゴのように幾つもあって、皆に与えられるものなのだそうだ。
ナタリーのことは妻として大切にしてくれる夫。貴族の妻としては当然受け入れるべき。だが、辛くて仕方がない。ナタリーのリンゴは一つだけ。
幾つもあるなど考えられない。
家出を決行した結果
棗
恋愛
フィービーの婚約者ミゲルには大切な幼馴染がいる。病弱な幼馴染をいつも優先するミゲルや母が亡くなって以降溝が出来てしまった父と兄との関係にフィービーは疲れていた。
デートの約束をしてもいつも直前になって幼馴染を理由にキャンセルされ、幼馴染にしか感情を見せないミゲルを、フィービーを見ようとしない父や兄を捨てる決心をしたフィービーは侍女や執事の手を借りて家出を決行した。
自分を誰も知らない遠い場所へ行ったフィービーは、新しい人生の幕開けに期待に胸を躍らせた。
※なろうさんにも公開しています。
妖精隠し
棗
恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。
4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。
彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる