運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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7 王女殿下と木精編

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 王太子殿下はしばらく無言で私を見つめると、一言二言、周りの補佐官に指示を出し、自分でも立ち上がって執務の机に向かった。

 私が眺めていると、補佐官の人たちは何かの資料をテーブルに並べだし、王太子殿下は机から何かを持ち出してきて、再び、ソファーに座る。

「今回、金冠のお披露目会の招待を受けてから、私なりに調べてはいたんだよ」

 そう言いながら、王太子殿下はテーブルの上の物を手で示した。

「これは?」

「元ルベル公爵令嬢に関する資料だ」

 かなりの量がある。

「元ルベル公爵令嬢といえば、現アルゲン大公による婚約破棄やその後に流行した恋愛小説が前に出てしまう。
 でも、彼女の本質はそれだけではないはずだ。そこで、いろいろと集めてみたんだよ」

 そう言って王太子殿下は、資料を一つ一つ開いて、説明を始めた。

 公式な記録として残っている物なので、間違いがない、文句の言いようのない物が目の前に積まれていく。

 学院時代の成績や活動記録から始まって、王城での勤務や王族としての公務の記録まで。意外とたくさんある。なのに、どれも知らないことばかり。

「学院の記録によれば、元ルベル公爵令嬢は魔術師コース。それも首席だな。魔力量もずば抜けていたそうだ。そして金眼。この辺は王家の血を引くから当然だろう」

「お母さまは、母は、魔術師だったんですね。知りませんでした」

「君の血統上の父親が、この頃、最年少で王宮魔術師団の筆頭になっている。天才魔術師の登場で、すべての目がそちらに注目していたから」

「母はあまり騒がれなかったと」

「おそらく、意図して、だな。従兄であった陛下の話では、元ルベル公爵令嬢は稀代の魔術師だったそうだ。それも王国最強の」

 そんな話はまったく知らない。

 私は目の前に置かれた資料にそっと手を伸ばした。私の知らないお母さまのことが書かれているのに、なんだか、見る気がしなかった。

 私が黙り込む中、王太子殿下がまた別な資料を手に取る。

「学院卒業後は、王族の一人として外交部に身を置いていた。王太子時代の陛下と、金冠のお披露目会に参席したのも、外交に長けた王族だったためらしい」

 その後は、外交部時代のお母さまの話がつらつらと語られていった。
 私の耳に殿下の声は入ってくるのに、フィルターでも張られているのか、すべてがぼんやりと聞こえる。

 唐突に、王太子殿下の声が止まった。

 私は顔を上げて殿下を見ると、少し、本当に本当に少しだけ私を責めるような表情。
 それから、次に口から出てきた言葉も、私を責めるような調子の物だった。

「突然の話で混乱するのは仕方ないが、冷静に事実と向き合い、分析すべきではないか?」

 そして言い切る。

「君は鎮圧のセラなんだから」

 今度は責めるような眼差しを隠すことなく、私に真っ直ぐに向けてきた。

 私はぐぐっと言いたいことを飲み込む。

 確かに私は鎮圧のセラだ。相手を鎮圧するための判断材料の解析は得意だけれど、それと今の話はまったく異なる。

 だから、王太子殿下が言いたいのはそういうことじゃない。

 力を持つ杖を従える者として、家族に振り回されるな、切り離して考えろ。そう言いたいんだ。

「私の母が金冠の主だという話、どうしても納得しがたいんです」

「具体的には?」

「私の母は虚弱、病弱なんですよ? 療養の邪魔になるからという理由で、私は魔塔に捨てられたんですから」

 この指摘は、セラフィアスやクラヴィスも首を傾げていて、答えられなかった。

 その指摘を今度は王太子殿下に向ける。

「回復や治癒が得意な金冠の主なのに、どうして病弱で若くして亡くなったのか? だったな」


 トントントン。


 目を閉じて、人差し指でテーブルを叩く王太子殿下。

 悔しいけど、考え込む姿まで様になってるし。

「仮説は二つほど、あげられる」

「えっ、理由が分かるんですか?!」

「確たる証拠はないから、あくまでも仮説、推論だがな」

 考え込んだわりに、あっさりと答えを導き出した模様。
 この人、頭が良すぎない? セラフィアスやクラヴィスでも分からなかったのに。

「凄い」

 感動で言葉が漏れる。
 こんなにあっさり分かるのなら、最初から王太子殿下に尋ねれば良かった。

 ところが、

 王太子殿下が口にしたのは、私が期待したのとは違ったもので、仮説とも推論とも呼べないような代物だったのだ。

「一つは、金冠の魔法を自分自身に使わなかった。もう一つは、金冠の魔法を逆転させて自分自身に使った」

 はぁぁ?

 せっかくの感動を返してもらいたいほど。

「そんなことして、何になるんです? 母にメリットなんてありませんけど?」

 ちょっと言葉遣いも刺々しくなる。きっと目つきも悪くなってただろう。

「人間はメリットばかりを追求するものではない。それに、一見、メリットがないように見えて実は…………ということもある」

「意味が分からないんですけど」

 平然と突拍子もないことを言い出して、呆気に取られる私。本当になんなんだか、この人。

「それでだ。現実には、元ルベル公爵令嬢が金冠の主だと証明するためには、状況証拠を積み上げるしかない」

「突然、現実に戻ってきましたね」

 その上、突然、本題に戻ったおかげで、先ほどまでの話が煙に巻かれたようになってしまった。

「そこで。君の専属護衛に良いものを持ってきてもらったんだ」

 うん? 私の護衛ってことは、

「フィリア?!」

「はい、お嬢。これです」

 私の後ろに控えていたフィリアが元気よく私の声に応じる。

 いやいやいやいや。これです、じゃないでしょ。いつの間に王太子殿下から指示なんて受けてたのよ。

 て、ケルビウスか。ルビーお姉さまか。

 そんな言葉たちが怒涛のように頭の中に流れてこんでくる私の目の前に、フィリアはある物を置いた。

「これは…………」

 間違いなく、昔に見た覚えのある物だった。
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