運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

SA

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7 王女殿下と木精編

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 そして、あっという間にお披露目会本番の前日がやってきた。

 本当はあれこれ準備でバタバタしないといけないようなんだけど、昨日の今日で、すっかり脱け殻のようになっている私。

 脱け殻になるタイミングがかなり早いけど、致し方ない。私だって精神的に疲弊することだってあるんだから。

 私は昨日、王太子殿下のところで、フィリアから手渡された物を抱きしめて、ボソッとつぶやく。

「お母さまは本当に、金冠の主なの?」




 昨日、手渡された物は、幼い頃にお母さまの部屋で見た物だった。

 表紙にも中にも精巧な絵が描かれていて、幼いながらも、とても綺麗だと感嘆した覚えがある。

「金冠の絵本」

 私は表紙をさらっと撫でてみた。

 あまりにもキラキラしていたから、当時は何かの魔法でもかかっている絵本なのかと思ったほど。
 触れてみると、魔法でも何でもない普通の絵本だということが分かっただけ。

 懐かしむように、手にした本の表紙を眺めていると、フィリアの声が聞こえてきた。

「ルベル公爵夫人からです。お嬢が大好きだったと伝えたら、すぐにいただけました。元ルベル公爵令嬢が自ら描いた絵本だそうです」

 続いて、王太子殿下の声。

「そして、これだ」

 ペラリと見せられたのはただの紙切れ。

 ではなく、

「グリプス伯から取り上げたんですか?」

 新リテラ王国に行ったときに見せてもらった金冠を描いた絵。グリプス伯が、お母さまからもらった物だと言っていたっけ。

 そのグリプス伯がもの凄く大事そうに持っていた物が、今、殿下の手の中にある。

「検証のため借りただけだ。人聞きの悪いことを言わないでくれ」

 珍しく焦った口調の王太子殿下。これは図星だ。図星なんだ。私はなんとなく分かってしまった。

 殿下は私の視線を無視して、絵本をテーブルに置くよう指示をする。
 私が金冠の絵が描かれた表紙を上にしてテーブルに置くと、隣に殿下が紙を広げた。
 大きさの違いはあるものの、細部までまったく同じ。

 その事実に私は愕然とする。

「どちらも、実物を目にすることが出来るからこそ描けるレベルの物だな」

 実際、私も王太子殿下も、実物の金冠を見たことはない。見たことがなくても、この絵が本物とまったく同じだということが分かってしまう。

 それほどの画力で描かれている絵を見て、私はついに拒むのを諦めた。

 一度諦めてしまうと、不思議と冷静に物を見ることができ、考えることもできた。

 お母さまが金冠の主なら、金冠は…………。




「あら、それは何の本かしら?」

 突然、横からかけられた声が、私の回想を中断させた。

 もちろん、デルティ殿下だ。

 なにせ、私は今、デルティ殿下の衣装部屋で、明日の準備の見物をしているのだから。

 おおよその支度が終わったようで、デルティ殿下はまったりとお茶を飲み始めている。
 明日が本当の本番となるため、少し表情は堅い。

 私は絵本を胸に抱えたまま、デルティ殿下の質問に答える。

「金冠の絵本。昔、一人で読めなくて、母に読んでもらったんだよね」

「へー。見せていただいても?」

「そう言えば、表紙ばかりで中は見てなかったわ」

 お茶会状態になっているテーブルにスペースを作ってもらって、絵本を置いた。表紙を撫でて滑らかな紙の触感を味わってから、表紙をめくる。

 中表紙も同じく、見事な金冠の絵。

 手書きの表題が読む者を圧倒してくる。

「エルシア、これ、読んでたの?」

 デルティ殿下も、絵本から発せられる何かを敏感に感じ取ったようだ。

 私が頷くと「嘘でしょう」と小さくつぶやく。

 あれ? そういえば、幼いときは片言でしか読めなかったっけ?

 改めて、デルティ殿下が指さすところを見てみると、

「オール魔導語」

 そうそう。私も昔はスラスラとは読めてないわ。デルティ殿下に嘘を教えちゃったなぁと思う横で、デルティ殿下は殿下でサラッと嘘をつく。

「読むのは、わたくし、苦手なのよね」

「嘘つけ。話す方もまだ、たどたどしいくせに」

 魔導語を話すのも、未だにたどたどしいのに、魔導語を読む方なんててんでダメだろうに。

「エルシアが酷い。でもまぁ、いいわ。事実だから。読んでくれないかしら、これ」

「まぁ、いいけど」

 私はさらにページを進めて、読み出した。幼いときにお母さまといっしょに読んだ、金冠のお話を。




『ある魔術師が、森の中の美しい泉のほとりで、泥まみれの冠を拾った。

 そんな汚い冠など捨てておしまい。

 みんながそう言う中、魔術師は冠を泉の水で丁寧に洗い、泥を落として、キレイに磨くと、汚れた冠は金色に輝き始めた。

 そんな美しい冠は自分の方が似合う。

 今度はそう言って、自分に譲れと言う人ばかりが押し寄せてきたので、魔術師は金色の冠を自分と似た姿の人間に変えた。

 人間の姿をした冠は、自分を磨き上げ、欲深い者から守ってくれた魔術師を主君と仰ぎ、仕えるようになった。

 そうして魔術師は冠を従えて、幸せな一歩を踏み出した。

 …………かのように見えた』
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