運命の恋に落ちた最強魔術師、の娘はクズな父親を許さない

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7 王女殿下と木精編

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 三聖の展示室から出てきた人影に気を取られていると、

「遅いぞ、二人とも」

 静かな、でもこの大混雑している広場の中でもしっかり耳まで届くような声で叱咤された。

「ドレスでここまで移動するのって、大変なのよ、兄さま!」

 デルティ殿下の言い分はもっともで。

 王太子殿下の格好に比べると、デルティ殿下の装いは動きにくいのは否めない。そもそも、着替えて移動している時に会場変更を言い渡されたんだから。こちらとしてはいい加減にしてくれ、と言いたい気分。

 私の方は『王女付き補佐官』という設定なので、スカートではあるけどかなり動きやすくなっていて。デルティ殿下ほど文句は出てこなかった。

 なので、黙っておく。遅かったのは事実だし。

「まさか、特任チームの準備と段取りを無視して、好き勝手に始めるとは思いませんでしたので」

 素直な感想を伝えると、

「同感だな」

 王太子殿下も同じ意見だったようだ。

 あのクズ男。中身はクズでも、グラディア王国にとっては手放せない存在。

 とりわけ、魔導具開発では生活基盤に関わる魔導具を一手に手がけて、王都を中心に生活水準の向上に貢献している。

 だからこそ、多少の、いやかなりのムチャクチャに対しても、陛下も殿下も見て見ぬ振りをしてきた。

 それが、仇となった。

「何をやっても許されると思わせてしまったのは、こちらの落ち度だな」

 珍しく、渋い顔をしている。

「しかし、間に合わなかったか」

 渋い顔のままで、王太子殿下も三聖の展示室の入り口を見ていた。

 そこには、クズ男以外に三人の姿。

 そして、その三人に、取り憑くようにまとわりついている四人の杖精の姿も見える。

「アクア以外も気がついてたんですか?」

 もしやと思って聞いてみると、王太子殿下は残念そうに首を振った。

「いや。まさか、他の三本も呼び出すとは思わなかった。アクアの力を何かに利用するのかとばかり思っていたから」

「この様子だと五強の一つ一つの力ではなく、五強としてのまとまった力を利用するつもりのようですね」

 私も王太子殿下も、リグヌムとアクア以外の杖精をただ呆然と眺める。

 すると、横から私の袖がつんつんと引っ張られた。

 引っ張る方に顔を向けると、そこにはムスッとしたデルティ殿下。

「エルシア、どういうことかしら? 五強は一つもいないじゃないの」

 だよね。そうくるよね。

「見えないのか?」

 デルティ殿下の反応を見て、不思議そうに尋ねる王太子殿下。とたんに、デルティ殿下の方はさらにムスッとした顔になる。

「デルティ殿下は金眼でもないですし、魔術師としても、そのレベルにまでは至ってないんです。これでもかなり頑張りましたけど」

「…………なるほど」

 ていうか。王太子殿下の金眼なら言わなくても分かるでしょうに。残念な子を見るような顔をしないでほしい。

 私は切にそう思った。




「さぁ、ご注目ください」




 クズ男の司会進行でお披露目会は勝手に始まり、勝手に進んでいる。

 なにより、

「陛下がまだいらっしゃってないのに、どんどん進めて良いんですか?」

「筆頭殿は段取りなど知らないからな」

 王太子殿下はそう言った後、陛下にも会場と開始時間の変更は急ぎ伝えてあると、教えてくれたけど。

 陛下を待たずして始めてはダメだろう。

 陛下はまだまだ姿を現さないし。

「余興みたいな形になっているから、大丈夫じゃないの?」

 呑気なことを言うデルティ殿下に、王太子殿下が少し怯みかけた。

 …………のをすかさず、私がフォローする。

「余興だとしても。国王陛下を待ってからやるでしょ。なにせ五強なのよ、五強」

 五強を強調してみると、デルティ殿下はあっさりと「そうよねー」と納得してくれた。

 最初からそうであってくれ。

「ところで。さすがに、止めた方がいいんじゃないですか?」

「人が集まりすぎている。特任チームが立てた予定では、招待客はここで外観の見学を終えてお披露目会場へ、という流れだったから」

 あぁ、いちおうルートにはなっていたのか、と思うと同時に、そこを利用してきたクズ男のずる賢さに危機感を抱いた。

 あいつ、頭は良かったっけ。

 そして、問題は立て続けに起きるというか、山積みになるとでもいうべきか。

「しかも。フォセル嬢以外に二人増えてますよ?」

 うん、三人。いるんだよね。
 一人、二人、三人。何回数えても三人。

 一人はフォセル嬢で、後の二人のうち、一人はそれなりに知っている人だったのには驚いた。

「王宮魔術師団所属のダイアナ・セイクリウス嬢」

 残りの一人を差して、名前を呼んでみる。

 王太子殿下の居る場所は、三聖の展示室の入り口のすぐ前。護衛にぐるっと囲まれているため、すぐ前とは言っても距離がある。

 指を差して名前を呼んでも、まったく反応しないくらいの距離だ。

「と、もう一人は誰だろう?」

 ピンクがかった金髪に薄いブルーの瞳。背は低めでガリガリな体躯。どこかで見たことがあるようなないような?

 私の質問を聞いて、ギョッとした顔を見せる王太子殿下。

 その殿下が、ため息をついてから、私の質問に答えてくれた。

「ルルーナ・アルゲン大公妃。あの『真実の愛』の主人公で、筆頭殿の親友で、グレイアドの血縁上の母親だ」
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