16 / 54
第二章
第12話『プレゼント』
しおりを挟む
(____ン__)
(__レイン__)
誰かに声を掛けられたような気がした。ゆっくりと目を開けるとそこは寝室だった。私の部屋だ。繁華街から人々の声が薄っすらと聞こえるのがわかる。いつの間にか宿屋に戻っていたのだろうか。
起き上がって横を向くとトリッシュが読書をしていた。私が起きたのに気付いて本に栞を挟んでこちらを向く。
「起きた?身体は大丈夫?」
そう言われ、自分の身体を知覚する。懈い感じはしないが、足だけは壊れたように動かない。
「足がちょっと重いかも…」
「あはは。そうだよねぇ。あの距離を息まずに走ったんだから」
そうだ。確か私はアロマッシュを採って帰ろうとして悪党に襲われて、それで其奴等から馬車の襲撃を聞いて…。
「っ!そうだ!馬車は!?」
「大丈夫。無事にヴェレンまで到着したらしいよ」
ほっと胸を撫で下ろす。もし数秒でも遅れていたらと想像するとゾッとする。よかった…。
「んもー。いきなり走り出しちゃうんだから吃驚したよ」
「うっ、すみませんでした…」
「あはは、大丈夫。馬車に傷一つ無くて、レイン自身も無事だったんだから。偉かったよ」
トリッシュは座ったままの私に近づいてニコッと微笑んだ。私も嬉しくて思わずニコッと笑ってしまった。
「今日はまだ身体をしっかり休めて、明日ギルドに来てね」
「わかった。ありがとう」
そう礼を言うと、トリッシュは手を振って部屋から出た。私が起きるまでずっと居てくれたのだろうか。姉がいたらこんな感じなのかもしれない。
…ん?そういえば声を掛けたのはトリッシュなのか?それにしては子守唄を歌うような掠れ気味の声だったような気もしたが…。
後日私はギルドへ赴いた。受付の前にアポロンとトリッシュが待っていたが、私が来たことを確認したアポロンは応接室に行ってしまった。
「おはよう!身体は万全そうだね!」
一方でトリッシュは子どものような振る舞いをする。悪党と対峙した時に見せた雰囲気が嘘のようである。
「それじゃ今日は依頼の前に、アポロンとお話してもらうね」
もしかして悪党について事情聴取でもされるのだろうか。それとも今日は何か依頼とは別の仕事を任されるのだろうか。そんなことを考えながら私とトリッシュは応接室に向かった。
応接室では既にアポロンがソファーについていた。アポロンは私と目が合うともう一つのソファーに座るように手で合図をした。
その通りにソファーに座ったが、トリッシュは執事のようにアポロンが座るソファーの斜め後ろに立ったままだった。
「さて、レインに報告と質問が二つずつある」
アポロンが口を開いた。相変わらずゆっくりとした口調だ。私はそれを聞いて背筋を伸ばす。反対にトリッシュはニコニコとしていた。
「報告の一つ目はギルドランクについてだ。今日から君はFランクだ」
「…え?」
突然の言い渡しに私は混乱した。トリッシュからそろそろランクアップかもしれないと言われてはいたが、まさか今日そうなるとは思ってもみなかったからだ。
アポロンはテーブルの上にギルドカードを置いた。私の名前が入ったFランクのカードだ。続いてそのまま掌を差し出してきた。私は喜びと多少の不安を感じつつまじまじとFランクカードを見ていた。
「Gランクのカードはこちらで処分する」
私はバッグからGランクカードを取りアポロンに手渡した。そしてテーブルの上に置かれたランクカードを両手で取った。初めての昇格に喜んでいる自分がいた。
「報告の二つ目は、悪党捕縛について。あの馬車はギルドを運営するうえで重要なものだ。しかし、君はその護衛依頼を請け負った立場ではないため、報酬金は一切ない」
私はコクリと頷いた。少し残念な気もするが、もし私に報酬金が渡ってしまったら、護衛任務を遂行した冒険者の仕事を横取りしたことになってしまう。
「だが、君の働きがなければ結果は最悪の形になっていたことも事実だ。だから私が個人的に君に褒美を用意しようと思う」
「いいの?」
「あぁ。あくまでプライベートで君にプレゼントをするっていう話だな。そこで一つ目の質問なんだが、君は何が欲しい?」
これはアポロンの厚意ということだろうか。特に断る理由もないため、自分の欲しいものを考えた。
…とはいうものの、あまりに高価すぎるものを頼んでも図々しい。かといって安いものを頼むのは厚意にそぐわない気もする。丁度いい塩梅のものが中々見つからない。そもそもここ一週間の行動範囲がギルド繁華街周辺だったから、そこまで高いものに巡り会えていない気がする。
物品に限らなくてもいいのか。例えば…この世界の情報とか。いや、流石に規模が大きすぎる。あと情報を欲しがるなんてヤクザじゃないんだから。そう、例えば…知識とか。うん。悪くないかもしれない。ただアポロン一人に教授してもらってもその量はたかが知れている。何より彼の時間を奪ってまで欲しいかと言われると…。
と、ここで私は以前立てた方針を思い出した。
「図書館がある場所に連れて行ってほしい」
「図書館?」
「うん。できればいろんなジャンルの本がある図書館。あと、数日間居てもいい場所」
史料集めがメインだが、その他にも小説や伝記、図鑑、戦闘に関する学術書など、兎に角広く学べるところがいい。まずこのアルガード王国や世界の文化というものを知る必要がある。一日に読める本の量を考えれば、その図書館の近くの宿屋に泊まり込んで行き来するのも悪くない。
アポロンは暫く考え込んだが、何か決心したかのように頷いた。
「…分かった。それで最後の質問だが」
…少しアポロンの雰囲気が変わったような気がした。淡々とはしているが、注意深く観察するような目になっていた。
「パトリシアの話によると、君は無魔術を使いこなしていたそうじゃないか」
「えぇ」
「君はどの属性の魔法が使えるんだ?」
どうしてそんな質問をするのか一瞬考えたが、その理由は全く思い浮かばなかった。ここで嘘を付く必要があるのか?いや、この二人は信頼できる気がする。少なくとも私を利用するようなことはないだろう。
「…全部使える」
珍しくアポロンが目を見開いて驚いている。同時に信じられないという態度で腕を組みソファーに靠れかかった。反対にトリッシュは恍惚の表情を惜しみなく出している。
やはり全属性の魔法を使うのは稀有なのだろうか。いや、反応を見るに無属性魔法を使うこと自体が珍しいのかもしれない。実際、魔力の消費量と攻撃範囲を鑑みれば使う機会は限られる。他の魔法に比べて効率が悪いのだ。
「それを知ってどうするの?」
私は堪らず聞いてしまった。
「全属性の魔法を習得するには、例えLv1だとしても十年から十五年かかると言われている。闇、無属性の魔法の習得が難しいからだ。…なぜ難しいか、わかるか?」
私は首を横に振った。シェーラに魔法を教えてもらった際、どの属性も然程習得難度は変わらなかったような気がする。強いて言えば、水属性魔法は体に馴染むように習得できたような気はするが…。多分、私の属性が水だからだろう。
「闇属性は魔族由来の魔法で、無属性は人工的創られた魔法だからだ」
「魔法は全部人工的に創られたんじゃないの?」
「さぁ、俺は魔法使いじゃないから詳しい仕組みはわからない。ただ、闇や無の属性魔法を習得する場合、学問をしっかり学べるハイソサエティーな立場の人間しか普通は不可能だ。例えば王族や貴族などだな」
学校に通う為のお金がある身分でしか学べないということか。まぁ、ファンタジーではありがちな気がする。
「私の知る限り、レインという名前の貴族は聞いたことがない。もし君がアルガード王国以外の国の貴族だとしても、ギルドに捜索依頼がくるはずだ。要するに、君は何者なのか、ということだ」
以前にも似たようなやりとりがあった。ギルド入会の日のことだ。しかし、今回はニュアンスが違うような気がする。アポロンが聞いているのは、私は何処から来たのか、ということだろう。
「私も、自分が何者なのか知りたい。だから、世界を冒険したいの」
私は真っ直ぐにアポロンの目を見つめ答えた。転生者など言えるわけもないが、少なくとも嘘はついていない。そして、真に世界を冒険したい理由だ。
「…わかった。これ以上追及はしない」
そう言われ私は安心してソファーに靠れた。強張った顔がふやけるような感覚に陥る。反対にアポロンはソファーから立ち上がり扉へ向かっていった。
「図書館の件、あまり期待するなよ」
アポロンが去り際に残した言葉が印象的だった。この世界では読書をするのにも身分というものが絡んでくるのだろうか。それとも単にアルガード王国には図書館の類の施設がないのだろうか。流石に一国家としてそれはないと思うのだが。
「昇格おめでとう、レイン!」
弾けるようにトリッシュが抱きついてきた。我が身かのように振る舞ってくれるのが温かかった。
「ありがとう。でも昇格なんて、どうして急に?」
「馬車襲撃の件ね、ギルド運営でギルド外実績に含めるか否かの会議があったんだよ。それで結論として、ギルド規約に則った行動として相応しいから昇格しようってなったんだ」
あぁ、なんだ。報酬金に代替するようなもの、既に貰っていたのか。じゃあアポロンが言っていた褒美というのは、本当に個人的な褒美なのか。
「それと、昇格祝いにこれ、プレゼントね」
トリッシュは直方体の小さな箱を差し出した。私はそれを受け取り蓋を取ると、中身は道具屋で見た黒色の眼帯だった。
「眼帯?」
「うん。ほら、レインって前に道具屋でこれをじっと見てたけど、結局買わなかったから。もしかして欲しいのかなって」
初めての道具屋で商品を物色したときのことだ。見られていたと思うと小っ恥ずかしいと感じる。しかし、トリッシュが私にプレゼントをしてくれたことが大変嬉しかった。
「…ありがとう」
早速付けてみようとする。どうやらこれは右目用の眼帯のようだ。紐の部分は柔らかく肌触りの良い素材でできているのか、締め付けられるような感覚は全くない。そして目の部分にも圧迫感がなく、つけた心地は悪くない。
「かっこいいー!」
その言葉に面食らった。かっこいいなんて言われたことがない。
「えと、あり、がとう?」
どう反応すればいいか分からなかった。でも、トリッシュの顔を見ると悪い気はしなかった。
その日はそのまま依頼を一つ熟して、宿屋に帰っていった。無論、眼帯はお風呂と就寝時以外はつけたままである。
(__レイン__)
誰かに声を掛けられたような気がした。ゆっくりと目を開けるとそこは寝室だった。私の部屋だ。繁華街から人々の声が薄っすらと聞こえるのがわかる。いつの間にか宿屋に戻っていたのだろうか。
起き上がって横を向くとトリッシュが読書をしていた。私が起きたのに気付いて本に栞を挟んでこちらを向く。
「起きた?身体は大丈夫?」
そう言われ、自分の身体を知覚する。懈い感じはしないが、足だけは壊れたように動かない。
「足がちょっと重いかも…」
「あはは。そうだよねぇ。あの距離を息まずに走ったんだから」
そうだ。確か私はアロマッシュを採って帰ろうとして悪党に襲われて、それで其奴等から馬車の襲撃を聞いて…。
「っ!そうだ!馬車は!?」
「大丈夫。無事にヴェレンまで到着したらしいよ」
ほっと胸を撫で下ろす。もし数秒でも遅れていたらと想像するとゾッとする。よかった…。
「んもー。いきなり走り出しちゃうんだから吃驚したよ」
「うっ、すみませんでした…」
「あはは、大丈夫。馬車に傷一つ無くて、レイン自身も無事だったんだから。偉かったよ」
トリッシュは座ったままの私に近づいてニコッと微笑んだ。私も嬉しくて思わずニコッと笑ってしまった。
「今日はまだ身体をしっかり休めて、明日ギルドに来てね」
「わかった。ありがとう」
そう礼を言うと、トリッシュは手を振って部屋から出た。私が起きるまでずっと居てくれたのだろうか。姉がいたらこんな感じなのかもしれない。
…ん?そういえば声を掛けたのはトリッシュなのか?それにしては子守唄を歌うような掠れ気味の声だったような気もしたが…。
後日私はギルドへ赴いた。受付の前にアポロンとトリッシュが待っていたが、私が来たことを確認したアポロンは応接室に行ってしまった。
「おはよう!身体は万全そうだね!」
一方でトリッシュは子どものような振る舞いをする。悪党と対峙した時に見せた雰囲気が嘘のようである。
「それじゃ今日は依頼の前に、アポロンとお話してもらうね」
もしかして悪党について事情聴取でもされるのだろうか。それとも今日は何か依頼とは別の仕事を任されるのだろうか。そんなことを考えながら私とトリッシュは応接室に向かった。
応接室では既にアポロンがソファーについていた。アポロンは私と目が合うともう一つのソファーに座るように手で合図をした。
その通りにソファーに座ったが、トリッシュは執事のようにアポロンが座るソファーの斜め後ろに立ったままだった。
「さて、レインに報告と質問が二つずつある」
アポロンが口を開いた。相変わらずゆっくりとした口調だ。私はそれを聞いて背筋を伸ばす。反対にトリッシュはニコニコとしていた。
「報告の一つ目はギルドランクについてだ。今日から君はFランクだ」
「…え?」
突然の言い渡しに私は混乱した。トリッシュからそろそろランクアップかもしれないと言われてはいたが、まさか今日そうなるとは思ってもみなかったからだ。
アポロンはテーブルの上にギルドカードを置いた。私の名前が入ったFランクのカードだ。続いてそのまま掌を差し出してきた。私は喜びと多少の不安を感じつつまじまじとFランクカードを見ていた。
「Gランクのカードはこちらで処分する」
私はバッグからGランクカードを取りアポロンに手渡した。そしてテーブルの上に置かれたランクカードを両手で取った。初めての昇格に喜んでいる自分がいた。
「報告の二つ目は、悪党捕縛について。あの馬車はギルドを運営するうえで重要なものだ。しかし、君はその護衛依頼を請け負った立場ではないため、報酬金は一切ない」
私はコクリと頷いた。少し残念な気もするが、もし私に報酬金が渡ってしまったら、護衛任務を遂行した冒険者の仕事を横取りしたことになってしまう。
「だが、君の働きがなければ結果は最悪の形になっていたことも事実だ。だから私が個人的に君に褒美を用意しようと思う」
「いいの?」
「あぁ。あくまでプライベートで君にプレゼントをするっていう話だな。そこで一つ目の質問なんだが、君は何が欲しい?」
これはアポロンの厚意ということだろうか。特に断る理由もないため、自分の欲しいものを考えた。
…とはいうものの、あまりに高価すぎるものを頼んでも図々しい。かといって安いものを頼むのは厚意にそぐわない気もする。丁度いい塩梅のものが中々見つからない。そもそもここ一週間の行動範囲がギルド繁華街周辺だったから、そこまで高いものに巡り会えていない気がする。
物品に限らなくてもいいのか。例えば…この世界の情報とか。いや、流石に規模が大きすぎる。あと情報を欲しがるなんてヤクザじゃないんだから。そう、例えば…知識とか。うん。悪くないかもしれない。ただアポロン一人に教授してもらってもその量はたかが知れている。何より彼の時間を奪ってまで欲しいかと言われると…。
と、ここで私は以前立てた方針を思い出した。
「図書館がある場所に連れて行ってほしい」
「図書館?」
「うん。できればいろんなジャンルの本がある図書館。あと、数日間居てもいい場所」
史料集めがメインだが、その他にも小説や伝記、図鑑、戦闘に関する学術書など、兎に角広く学べるところがいい。まずこのアルガード王国や世界の文化というものを知る必要がある。一日に読める本の量を考えれば、その図書館の近くの宿屋に泊まり込んで行き来するのも悪くない。
アポロンは暫く考え込んだが、何か決心したかのように頷いた。
「…分かった。それで最後の質問だが」
…少しアポロンの雰囲気が変わったような気がした。淡々とはしているが、注意深く観察するような目になっていた。
「パトリシアの話によると、君は無魔術を使いこなしていたそうじゃないか」
「えぇ」
「君はどの属性の魔法が使えるんだ?」
どうしてそんな質問をするのか一瞬考えたが、その理由は全く思い浮かばなかった。ここで嘘を付く必要があるのか?いや、この二人は信頼できる気がする。少なくとも私を利用するようなことはないだろう。
「…全部使える」
珍しくアポロンが目を見開いて驚いている。同時に信じられないという態度で腕を組みソファーに靠れかかった。反対にトリッシュは恍惚の表情を惜しみなく出している。
やはり全属性の魔法を使うのは稀有なのだろうか。いや、反応を見るに無属性魔法を使うこと自体が珍しいのかもしれない。実際、魔力の消費量と攻撃範囲を鑑みれば使う機会は限られる。他の魔法に比べて効率が悪いのだ。
「それを知ってどうするの?」
私は堪らず聞いてしまった。
「全属性の魔法を習得するには、例えLv1だとしても十年から十五年かかると言われている。闇、無属性の魔法の習得が難しいからだ。…なぜ難しいか、わかるか?」
私は首を横に振った。シェーラに魔法を教えてもらった際、どの属性も然程習得難度は変わらなかったような気がする。強いて言えば、水属性魔法は体に馴染むように習得できたような気はするが…。多分、私の属性が水だからだろう。
「闇属性は魔族由来の魔法で、無属性は人工的創られた魔法だからだ」
「魔法は全部人工的に創られたんじゃないの?」
「さぁ、俺は魔法使いじゃないから詳しい仕組みはわからない。ただ、闇や無の属性魔法を習得する場合、学問をしっかり学べるハイソサエティーな立場の人間しか普通は不可能だ。例えば王族や貴族などだな」
学校に通う為のお金がある身分でしか学べないということか。まぁ、ファンタジーではありがちな気がする。
「私の知る限り、レインという名前の貴族は聞いたことがない。もし君がアルガード王国以外の国の貴族だとしても、ギルドに捜索依頼がくるはずだ。要するに、君は何者なのか、ということだ」
以前にも似たようなやりとりがあった。ギルド入会の日のことだ。しかし、今回はニュアンスが違うような気がする。アポロンが聞いているのは、私は何処から来たのか、ということだろう。
「私も、自分が何者なのか知りたい。だから、世界を冒険したいの」
私は真っ直ぐにアポロンの目を見つめ答えた。転生者など言えるわけもないが、少なくとも嘘はついていない。そして、真に世界を冒険したい理由だ。
「…わかった。これ以上追及はしない」
そう言われ私は安心してソファーに靠れた。強張った顔がふやけるような感覚に陥る。反対にアポロンはソファーから立ち上がり扉へ向かっていった。
「図書館の件、あまり期待するなよ」
アポロンが去り際に残した言葉が印象的だった。この世界では読書をするのにも身分というものが絡んでくるのだろうか。それとも単にアルガード王国には図書館の類の施設がないのだろうか。流石に一国家としてそれはないと思うのだが。
「昇格おめでとう、レイン!」
弾けるようにトリッシュが抱きついてきた。我が身かのように振る舞ってくれるのが温かかった。
「ありがとう。でも昇格なんて、どうして急に?」
「馬車襲撃の件ね、ギルド運営でギルド外実績に含めるか否かの会議があったんだよ。それで結論として、ギルド規約に則った行動として相応しいから昇格しようってなったんだ」
あぁ、なんだ。報酬金に代替するようなもの、既に貰っていたのか。じゃあアポロンが言っていた褒美というのは、本当に個人的な褒美なのか。
「それと、昇格祝いにこれ、プレゼントね」
トリッシュは直方体の小さな箱を差し出した。私はそれを受け取り蓋を取ると、中身は道具屋で見た黒色の眼帯だった。
「眼帯?」
「うん。ほら、レインって前に道具屋でこれをじっと見てたけど、結局買わなかったから。もしかして欲しいのかなって」
初めての道具屋で商品を物色したときのことだ。見られていたと思うと小っ恥ずかしいと感じる。しかし、トリッシュが私にプレゼントをしてくれたことが大変嬉しかった。
「…ありがとう」
早速付けてみようとする。どうやらこれは右目用の眼帯のようだ。紐の部分は柔らかく肌触りの良い素材でできているのか、締め付けられるような感覚は全くない。そして目の部分にも圧迫感がなく、つけた心地は悪くない。
「かっこいいー!」
その言葉に面食らった。かっこいいなんて言われたことがない。
「えと、あり、がとう?」
どう反応すればいいか分からなかった。でも、トリッシュの顔を見ると悪い気はしなかった。
その日はそのまま依頼を一つ熟して、宿屋に帰っていった。無論、眼帯はお風呂と就寝時以外はつけたままである。
1
あなたにおすすめの小説
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
農家の四男に転生したルイ。
そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。
農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。
十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。
家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。
ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる!
見切り発車。不定期更新。
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?
Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。
貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。
貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。
ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。
「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」
基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。
さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・
タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる