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第二章
第11話『悪党の襲撃』
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走り出してから数十分。草原の中の一本の土の道を辿ってゆく。道には薄っすらと馬の足や車輪の跡があるから、確実にこの方向へ向かっていったはずだ。
どうして駆け出してしまったのか。ギルドに応援を頼むべきじゃなかったか。たった一人向かって、もし太刀打ちできなかったらどうするのか。だが今更引き返すことなんてできない。本能で動いてしまった以上、それに従う他ない。
記憶を無くす前の私は、こんなに無鉄砲な正義感を振り翳す人間だったのだろうか。
だんだん足が疲れていった。しかし、ここで一度足を息めようと歩けば、再び走れないような気がしてならなかった。おかげで感覚が麻痺して自分の足が自分の意志で動いていないように錯覚する。
『今頃うちの親分が馬車を襲ってんだからな』
悪党の言葉を思い出す。もしまだ戦っていたら__。さっきの戦いで魔力が半分も減っている。馬車を襲うのに少数は考えられない。さきほどの人数以上の悪党がいると考えてもおかしくない。走りながらマジックバッグから魔力瓶を取り出して飲み干す。すぐに喉を通り味わう瞬間なんてなかった。
蜜柑色の空は暗黒色に染められ、足元も見えづらくなってきた。この世界に来て一度も使わなかった暗視スキルを使うと、空は闇に包まれているのに辺りが一層明るくなった。だがそれに感動する余裕はなかった。
死に物狂いで走っていると馬車とそれを囲う人たちが見えた。間違いない。悪党だ。
だんだんと近づいてゆくと争っている様子が見えてきた。馬車に背を向けているあれは…護衛だろう。剣や槍を持った二人が馬車に近づけないように善戦している。しかし、目に見えて劣勢だと分かる。お互いに傷だらけだが、護衛よりも悪党の人数が多いのだ。術がなくなったのか、尻餅をついた女の姿もある。
_と、その女にゆっくりと剣を持って近づいてゆくと男がいる。女はその男から逃げるように後退りをするが、恐怖からか腰が引けて立つことができない。まずい、間に合って__。
「<<ファイアボール>>!!」
火の玉は勢いよく男へ飛んでゆき、横っ腹に打ち付けた。しかし同時に持っていた杖が砕けてしまった。それを気にする間もなく、私は倒れていた女の前に立った。
「あ、貴女は…」
後ろで枯れそうな声が聞こえる。今からでも助けたいところだ。しかし、この人数を相手に隙を見せる瞬間が命取りだった。__それはさっき学んだことだった。
周りの悪党は私が現れて一瞬たじろいだが、私の姿を見ると鼻で笑いまた剣を構えなおした。応援が女の子一人だと侮っている。
悪党を分析すると、先程私を襲った悪党たちとほぼ同じ程度の能力だった。ただこっちは護衛が先に戦っていたからか、残り体力は少なかった。一人を除いて。
「おいおいお前ぇ、女一人助けてヒーローになった心算かぁ?」
一人の男が挑発的な態度で話しかける。その男は体力が一切減っていない。更に周りの男達は指示を待っているかのようにちらりとそいつの顔を見ている。どうやらこの男が親玉ということか。
【名称】トーマス・キーラ
【種族】人間
【性別】男
【年齢】26
【職業】-
【体力】1,300/1,300
【魔力】100/100
【属性】風
【弱点】火
【スキル】剣技Lv2・身体強化Lv1・斧技Lv1
【異常】-
こいつとの一対一ならそこまで苦労はしない。ただ周りにはまだ悪党の仲間がいる。一斉に襲われたら、勝算は分からなくなる。無魔術は効果的かもしれないが、何故か他の魔法に比べて消費魔力が多い。それにどちらかというと迎撃に向いた魔法だ。一人や二人ならともかく、五人や七人相手では対処できない。魔力瓶を飲み続ければいいが、そんな暇を与えてくれるのかさえ怪しい。さっき一本飲んでおいてよかった。
一回で、多くの敵を巻き込める魔法…。私の持つ魔法ではまだ一つしかなかった。
「だが杖も無くなって、こんな人数を相手にするなんて、命知らずだよなぁ?てめぇら、いけ!」
親玉の合図で悪党は一斉にかかってきた。だが、纏まってくれるのなら都合が良かった。
「<<スプラッシュ>>!!」
空から勢いよく溢れた水が悪党を飲み込んでいった。流されていく悪党の体力を奪って行き、残ったのはまだ体力が余っている親玉だけである。
親玉は唖然とした様子でこちらを見ていた。まさかこんな子どもに抑えられるなんてことを予想していなかったのだろう。
「な、ななんだよお前ぇ!」
焦りの顔を隠せないまま親玉は私に襲いかかってきた。だけど、これで一対一になりポーションも魔法瓶も残っている私に負ける要素はなかった。
「<<ファイアボール>>!!」
数発の火魔術を打ち込むと、親玉は気絶した。周囲を確認すると、他の護衛もなんとか接戦に勝利したようで、これで襲ってきた悪党は全員倒したようだ。
これで終ったと思うと膝から崩れ落ちた。ここまで走ってきたのだ。残り魔力も尽き疲労困憊である。今まで息を止めていたかのように過呼吸をする。心臓が激しく鼓動するのが頭にまで伝わってくる。このあとは…。
「…!そうだ、縄、縄はある!?」
私が襲われたときのことを思い出して、護衛に呼びかける。護衛は戸惑いつつも返答をして、馬車の中に避難していた御者から縄をもらっていた。トリッシュは倒した悪党を縄で縛っていた。奴らは今動けない状態だが、いつ逃げられても、いつ不意打ちされてもおかしくない。
いや、暗視スキルを使っているが、そもそも今は夜だ。悪党のみならず、魔物が襲ってきてもおかしくない。私はバッグからポーションと魔力瓶、包帯を全て取り出して、後ろで座り込んでいる女に渡した。
「これ、他の護衛にもあげて」
「えぇ!?でも貴女の、物じゃ…」
「私は大丈夫だから。もう、無いんでしょ?」
私のまだ荒い呼吸は続いていた。ただ、それ以上に護衛の人たちが疲弊しているのも分かった。また敵襲が来たときにすぐに動ける人間は多いほうがいい。
「ありがとう、ございます」
女は悩んだ挙げ句それを受け取った。今にも泣き出しそうな表情をしているが、すぐに立ち上がり護衛の人たちへと駆けてゆく。
その護衛の人たちは倒れた悪党を順々に縛ってゆく。ポーションがあるとはいえ、彼らも相当に傷を負っている。私も手伝おうとするが、膝が地面から離れない。それどころか、意識が朦朧として前のめりに倒れてしまった。まだ、安心するのは早いのに。
最後に聞こえたのは助けた女の声だった。なんと言っていたのかは分からなかった。
どうして駆け出してしまったのか。ギルドに応援を頼むべきじゃなかったか。たった一人向かって、もし太刀打ちできなかったらどうするのか。だが今更引き返すことなんてできない。本能で動いてしまった以上、それに従う他ない。
記憶を無くす前の私は、こんなに無鉄砲な正義感を振り翳す人間だったのだろうか。
だんだん足が疲れていった。しかし、ここで一度足を息めようと歩けば、再び走れないような気がしてならなかった。おかげで感覚が麻痺して自分の足が自分の意志で動いていないように錯覚する。
『今頃うちの親分が馬車を襲ってんだからな』
悪党の言葉を思い出す。もしまだ戦っていたら__。さっきの戦いで魔力が半分も減っている。馬車を襲うのに少数は考えられない。さきほどの人数以上の悪党がいると考えてもおかしくない。走りながらマジックバッグから魔力瓶を取り出して飲み干す。すぐに喉を通り味わう瞬間なんてなかった。
蜜柑色の空は暗黒色に染められ、足元も見えづらくなってきた。この世界に来て一度も使わなかった暗視スキルを使うと、空は闇に包まれているのに辺りが一層明るくなった。だがそれに感動する余裕はなかった。
死に物狂いで走っていると馬車とそれを囲う人たちが見えた。間違いない。悪党だ。
だんだんと近づいてゆくと争っている様子が見えてきた。馬車に背を向けているあれは…護衛だろう。剣や槍を持った二人が馬車に近づけないように善戦している。しかし、目に見えて劣勢だと分かる。お互いに傷だらけだが、護衛よりも悪党の人数が多いのだ。術がなくなったのか、尻餅をついた女の姿もある。
_と、その女にゆっくりと剣を持って近づいてゆくと男がいる。女はその男から逃げるように後退りをするが、恐怖からか腰が引けて立つことができない。まずい、間に合って__。
「<<ファイアボール>>!!」
火の玉は勢いよく男へ飛んでゆき、横っ腹に打ち付けた。しかし同時に持っていた杖が砕けてしまった。それを気にする間もなく、私は倒れていた女の前に立った。
「あ、貴女は…」
後ろで枯れそうな声が聞こえる。今からでも助けたいところだ。しかし、この人数を相手に隙を見せる瞬間が命取りだった。__それはさっき学んだことだった。
周りの悪党は私が現れて一瞬たじろいだが、私の姿を見ると鼻で笑いまた剣を構えなおした。応援が女の子一人だと侮っている。
悪党を分析すると、先程私を襲った悪党たちとほぼ同じ程度の能力だった。ただこっちは護衛が先に戦っていたからか、残り体力は少なかった。一人を除いて。
「おいおいお前ぇ、女一人助けてヒーローになった心算かぁ?」
一人の男が挑発的な態度で話しかける。その男は体力が一切減っていない。更に周りの男達は指示を待っているかのようにちらりとそいつの顔を見ている。どうやらこの男が親玉ということか。
【名称】トーマス・キーラ
【種族】人間
【性別】男
【年齢】26
【職業】-
【体力】1,300/1,300
【魔力】100/100
【属性】風
【弱点】火
【スキル】剣技Lv2・身体強化Lv1・斧技Lv1
【異常】-
こいつとの一対一ならそこまで苦労はしない。ただ周りにはまだ悪党の仲間がいる。一斉に襲われたら、勝算は分からなくなる。無魔術は効果的かもしれないが、何故か他の魔法に比べて消費魔力が多い。それにどちらかというと迎撃に向いた魔法だ。一人や二人ならともかく、五人や七人相手では対処できない。魔力瓶を飲み続ければいいが、そんな暇を与えてくれるのかさえ怪しい。さっき一本飲んでおいてよかった。
一回で、多くの敵を巻き込める魔法…。私の持つ魔法ではまだ一つしかなかった。
「だが杖も無くなって、こんな人数を相手にするなんて、命知らずだよなぁ?てめぇら、いけ!」
親玉の合図で悪党は一斉にかかってきた。だが、纏まってくれるのなら都合が良かった。
「<<スプラッシュ>>!!」
空から勢いよく溢れた水が悪党を飲み込んでいった。流されていく悪党の体力を奪って行き、残ったのはまだ体力が余っている親玉だけである。
親玉は唖然とした様子でこちらを見ていた。まさかこんな子どもに抑えられるなんてことを予想していなかったのだろう。
「な、ななんだよお前ぇ!」
焦りの顔を隠せないまま親玉は私に襲いかかってきた。だけど、これで一対一になりポーションも魔法瓶も残っている私に負ける要素はなかった。
「<<ファイアボール>>!!」
数発の火魔術を打ち込むと、親玉は気絶した。周囲を確認すると、他の護衛もなんとか接戦に勝利したようで、これで襲ってきた悪党は全員倒したようだ。
これで終ったと思うと膝から崩れ落ちた。ここまで走ってきたのだ。残り魔力も尽き疲労困憊である。今まで息を止めていたかのように過呼吸をする。心臓が激しく鼓動するのが頭にまで伝わってくる。このあとは…。
「…!そうだ、縄、縄はある!?」
私が襲われたときのことを思い出して、護衛に呼びかける。護衛は戸惑いつつも返答をして、馬車の中に避難していた御者から縄をもらっていた。トリッシュは倒した悪党を縄で縛っていた。奴らは今動けない状態だが、いつ逃げられても、いつ不意打ちされてもおかしくない。
いや、暗視スキルを使っているが、そもそも今は夜だ。悪党のみならず、魔物が襲ってきてもおかしくない。私はバッグからポーションと魔力瓶、包帯を全て取り出して、後ろで座り込んでいる女に渡した。
「これ、他の護衛にもあげて」
「えぇ!?でも貴女の、物じゃ…」
「私は大丈夫だから。もう、無いんでしょ?」
私のまだ荒い呼吸は続いていた。ただ、それ以上に護衛の人たちが疲弊しているのも分かった。また敵襲が来たときにすぐに動ける人間は多いほうがいい。
「ありがとう、ございます」
女は悩んだ挙げ句それを受け取った。今にも泣き出しそうな表情をしているが、すぐに立ち上がり護衛の人たちへと駆けてゆく。
その護衛の人たちは倒れた悪党を順々に縛ってゆく。ポーションがあるとはいえ、彼らも相当に傷を負っている。私も手伝おうとするが、膝が地面から離れない。それどころか、意識が朦朧として前のめりに倒れてしまった。まだ、安心するのは早いのに。
最後に聞こえたのは助けた女の声だった。なんと言っていたのかは分からなかった。
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