分析能力で旅をする ~転生した理由を探すためにレインは世界を回る

しき

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第三章

第30話『魔法使いとしての強さ』

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「調査の結果、ポイズントードの討伐が確認されました。こちら、Eランクカードです。おめでとうこざいます」

街に戻った翌日、私は晴れてEランクのギルドメンバーとして認められることとなった。

「ありがとう」

Fランクのカードを返却し、受付台の上にあるEランクカードを手に取った。見た目は殆ど変わらず、ただ文字が変わっただけである。それでも新しく発行されたギルドカードはちょっと特別に感じた。

「これからも、人のため街のために、よろしくお願いいたします」



さて、折角なら新しいランクでの依頼を請けてみたいところではあるが、生憎未だに冒険に出られるような服装をしていない。今も掲示板に残った依頼を吟味している冒険者達から、ちらちらと視線を感じる。

別に依頼を請けたら即出発しなければいけないという決まりはない。実際、ポイズントードの討伐のときは、依頼を請けてから二日三日経ってから街を出たわけで。依頼書に書いてある期間までに報告さえできれば、あとはそれぞれの冒険者のタイミングで完了すればいい。

ただまぁ今は依頼書を手に取る気分ではない。なんだろう、冒険するスイッチというかなんというか、ローブなしじゃ依頼を請けようというマインドにならない。

「あっ、レインだ。やっほー」

声をかけられてギルドの入り口へ向くと、チーム雷神の一行がやってきた。声をかけたのはアンナである。私も、やっほー、と応じた。

「今日も精が出るねー。どんな依頼をする予定なの?」

「いや、今日は依頼じゃなくて、ランクカードを受け取りに来たんだ」

「ランクカード?じゃあ、Fランクになったの?」

するとアンナの言葉に反応して、横にいたボールが口を挟んだ。

「レインさんはもうDとかCとかじゃないのか?」

「ううん。私は今日からEランクだよ」

「もうEランクなの!?」

「まだEランクだったのか」

そういえばアンナとジェイシーは初めて会った時に、ギルドに入ったばかりだと自己紹介したっけ。反応を見る限り、一ヶ月あまりでEランクまで昇格するのは結構早いほうな気がする。

「お、追いつかれた…。これは負けてらんない!ポール!早く依頼を選ぶわよ!」

アンナは意気軒昂に掲示板へ向かった。顔見知りなのか、そこにいる冒険者とも二言三言言葉を交わしている。

追いつかれたってことは、チーム雷神はEランクなのか。どのくらいでEになったかは分からないけれど…、チームで活動しているのなら、私より早く昇格したんだろうな。

「レインさんならそのまま俺らを追い抜きそうだなぁ」

ポールがアンナの姿に呆れながら言った。

「どうなんだろ。でも、お互いに頑張ろうね」

私がそう言うと、ポールは勿論とでも言いたげに親指を立ててから、アンナの元へと向かった。

「あ、あの、レインさん」

今度はジェイシーが話しかけてきた。相変わらず辿々たどたどしい話し方だった。別に私なんか全然緊張するような相手でもないだろうに。背も私のほうが小さいし。

「なぁに?」

「そ、その、少し、買い物にお付き合い、していただけませんか」

買い物か。特に買いたい物はないけれど…折角誘われたんだから付いていってみようかな。

「うん。いいよ」

そう応じると、ジェイシーの表情は少し和らいで、ちょっとだけ笑顔を見せた。

そこでどうして彼女が緊張しているかがわかった。彼女は人見知りだから、断られるかもしれないという不安を抱えつつ、それでも尚私のことを誘ったのだろう。

「デニス。私、ちょっと買い足しに行ってくるね」

「あぁ。一人で平気?」

「うん。レインさんが一緒に来てくれるから」

ジェイシーが私に目配せしつつデニスと話していると、デニスは気障きざな笑みを浮かべて私に手を振り、アンナとポールの元へと向かった。

「そ、それじゃあ、行きましょう」

ジェイシーは改めて私にそう言い、私も、うん、と頷いて、二人でギルドから出ていった。



誰かと買い物なんてギルドに入ったときに、ギルドスタッフのトリッシュとギルド繁華街を歩いたとき以来だ。少しわくわくとした気分で道を歩いていた。

ただ、反対にジェイシーはもじもじとしていて、時々顔色を窺うようにちらと私の方を見ていた。

特に会話をすることもなく道具屋に入る。買いたい物は特にない…と思いつつ、何となくジェイシーの後に付いていった。ところが、彼女はポーションと魔力瓶を二本ずつしか買わずに、道具屋を出てしまった。

チームで活動しているなら、もっとあっていいと思うけれど。

それで私も店を出ると、丁度反対側に武具屋があり、そういえば杖が壊れてしまっていたことを思い出した。

「ごめん、武器屋に寄ってもいい?」

「あ、はい。もちろんです」



ヴェレン街の武器屋は、王都アルガードに比べてラインナップが少なかった。例えば杖でいうと、木製の物と石製の物は並べられていたが、鉄製の物はなかった。

木の杖は一週間程度で壊れ、鉄の杖は一ヶ月余りで壊れた。一見鉄のほうがいいようにも感じるが、木の価格は大銅貨3枚、鉄は小銀貨2枚、丁度鉄杖は木の杖四本分に値している。それを考えると、二つの杖にそこまで差は無いように思えた。勿論嵩張かさばるかどうかのは違いはあるが。

じゃあ石製はどうだろう?価格での比較ならば、二本買えば鉄と同等の価値になるはずだから、二週間程度で壊れるんじゃないだろうか。流石に一週間で壊れるなんてことはないだろうが、例えば三週間保つなら、実は石が一番コストがいいということになる。

「あ、あの。レインさん、は、いつもどうやって、買う杖を、選んでらっしゃるんですかっ」

考え事をしていると、私の横にいるジェイシーが質問をしてきた。

「特に決め方とかは無いけど…どうして?」

「その、随分と悩んでらっしゃったから」

「あー…まぁ、そういう意味なら、コストについて考えてた」

そう言いつつ、私は石の杖を一本取って、会計へと足を運んだ。

杖無しでも一応魔法は打てるから、特別必須というわけでもない。ただ、杖を持っているのがこの世界では恐らく普通なんだろうと、ならって買っているだけだ。

とはいえメリットがないわけではない。例えば属性魔法が強化されたり、魔法が制御しやすかったりと、寧ろ普通に過ごす分にはあったほうがいいとまで言えるかもしれない。その分、魔法を放つまでの所要時間はコンマ秒単位で掛かるわけだが。

武器も無事に買い、店を出てギルドへ戻ろうとした。チームの仲間ではなく、私を誘ってきたから何か話したいこととかあるのかと思ったが、会話らしい会話は武器屋でしか無かった。

「あの!レインさん!」

突然ジェイシーが呼び掛けてきた。やっぱり何かあるのか、と思い、彼女の方に振り向いた。彼女は歩みを止めて、私を見ていた。

「なぁに?」

「そ、その、えぇっと…」

張り上げた声から一変して、今度はへこたれそうな弱々しい態度をとっていた。

私は急かすことなく、彼女の口から出る言葉を待った。できるだけ、彼女が切り出しやすいように、朗らかな表情で。

そして、その口は遂に開かれた。

「わ、私を、強く、強くしてほしい、です!」

想像より斜め上の言葉で、私のつくった顔も戸惑いに移ろいでしまった。

「強く?」

「す、すみません!いきなり、不躾なお願いをして…」

「いや全然。でも、どうして私に?」

「その、やっぱり私、チームの負担になりたくないんです。でも、あんまり頼れる人がいなくって、同じ魔法使いのレインさんになら、話だけでも聞いてもらえるかなって…」

以前彼女はチーム内での、自身の力不足かもしれないという不安を私に吐露していた。勿論力になりたいところではあるけれど…。

「頼ってくれるのは嬉しいけど、教授できるほど私は強くないよ?」

ギルド的には私はまだEランク程度の分際で、戦闘は疎か魔法の知識も他人より劣っているだろう。属性魔法の多さと、分析スキルで賄っている状態だ。魔法は一朝一夕でなんとかなるものではないと思うし、分析スキルはそもそも他人に教えるものではないし、持っていることすら教えないようにしている。

すると、彼女は私に近づき、道を通る人々に聞かれないような小さな声で囁いた。

「レインさんは、その、分析スキルを、持ってらっしゃいますよね…?」

一瞬ドキリとした。どうして知っているのか、いつ知ったのか。過去を振り返っても、そのタイミングは数が限られている。

いや、慌てるな。私が情報を隠していながら、分析スキルを持っていることを見抜かれたのは初めてではない。アルガード学院のベローズ学長がその例だ。つまり…。



【名称】ジェイシー・ロー・キャトレット
【種族】人間
【性別】女
【年齢】20
【職業】魔法使い
【体力】1,200/1,200
【魔力】1,000/1,000
【属性】風
【弱点】地
【スキル】地魔術Lv2・火魔術Lv3・風魔術Lv3・分析Lv1・結界Lv1
【異常】-



そう、分析スキルを持っていると見抜く人は、大抵その人自身が分析スキルを持っている。

「ジェイシーも持ってたんだね」

「はい。でも、私のスキルレベルでは、レインさんのことが全く分からなかったので…」

「…あれ、そうなの?」

今の私は体力、魔力、弱点以外はオープンな状態なはずだ。彼女とのスキルレベルを比較しても、火魔術、風魔術については彼女のほうが上だと思うが…。

「今は分かりますけど、初めて会ったときは、名前と種族、性別と職業はわかったんですけど、年齢だけ分かりませんでした」

「…あぁ、なるほどね」

そうか、スキルレベルで解る情報に差があるのか。 そういえばそうだったな。

スキルレベルが1のときに分かるのは、名前、種族、性別と職業、それと年齢、か。各レベルで会得できるスキルも学んでいく必要がありそうだな。

「だから、私よりもスキルレベルが高いレインさんは、何か鍛錬を積んでからギルドに入ったのかなと思って、それで、お願いしたんですけど…」

ジェイシーが私にお願いした理由は分かった。近しい魔法使いだから頼んだわけではないことも分かった。ただ、彼女が期待するほど私は戦闘に手熟しているわけではない。

「えっとね、多分私はジェイシーに教えられるほどの知識も経験も無いんだけど…」

教えられるほどの知識はないし、見本になるような戦闘経験もない。むしろ他の人の戦闘を見て学びたいぐらいだった。

「だから、一緒に勉強してくってのはどう?」

私がそんな提案をすると、意外な返答だったのか、彼女は少し驚いた表情を浮かべた後に、その感情を振り払うように首を振って、顔を近づけてきた。

「は、はい!よろしくおねがいしまぁす!」

ちょっと張り切りすぎたのか、彼女の声が裏返った。彼女は手を口で塞いで、恥ずかしそうに顔を赤くしている。思わず、ふふっ、と笑ってしまった。

仕切り直すために、私は右手を出して握手を求めた。すると、彼女は右手だけでなく、両手で私の手を握ってきた。あれだけ緊張していたから、私の返事を聴いて、昂ぶった気分は抑えられないんだろうな、と私まで嬉しくなった。

「と言っても、結局実戦を積んでいくしかない気がするんだけどね」

結局戦闘は座学で学ぶ知識だけでは、勝手が分からない部分のほうが多い。特に私は感覚的に魔法を扱っているから、実践で学んでいったほうが都合がいい。問題は彼女と一緒に実践に出向く時間があるかどうかだが…。

「その、レインさんが良ければ、レインさんが請ける依頼に私が付いて行ってもいいですか?」

「…チームのほうはどうするの?」

そう言うと、あっ、と彼女は声を出して固まってしまった。チームとして行動する以上、やはりそこはネックになってしまうようだ。もし万が一彼女が負傷してしまったときのことを考えると、私自身も中々承認しづらい節がある。

「じゃあ、私が雷神の請ける依頼に付いて行くってことにしよっか?」

これなら問題点は特にない、はず。個人で行動している私なら時間や誰かに縛られることもないし、何かあっても自己責任で済ませられる。

「ポールを説得してみせますっ!」

いつになく勢いのある返答だった。説得という言葉を使ってはいるが、認めてもらうまで意地になって話し続けそうだった。

再びギルドへ向かう足を進めた。ジェイシーはどうやって説得しようかとぶつぶつと呟いていた。

ただそこで私も忘れていたことがあった。ローブがまだ私の手元にないのだ。外に出るにはこの格好じゃちょっと心許ない。

「付いていくってなったら、明後日からかな」

「どうしてですか?」

「ちょっと色々あってね。ローブを洗濯に出したばっかりなんだ」

「ローブ、ですか?」

彼女は私の服装を見て、私がローブを纏っていないことに初めて気づいた。

「結構泥だらけになっちゃってね。完璧に綺麗になるのは三日ぐらいって言われちゃったから…」

そこまで言っていいことを思いついた。彼女に服を売っている店について聞けばいいのだ。

「そうだ、いい服飾店とか知らない?」

「服飾店ですか」

地理に関しては私よりも彼女のほうが明らかに詳しいだろう。自力で見つけるのも一興だけど、聞いておいて損することはない。

「その、デルタ帝国へ行けば、色々あります」

「そうなの?」

「はい。それ以外にも、お店がいっぱいありますよ」

デルタ帝国といえばアルガード王国の東方、つまりここから東に向かえばある、世界の心臓とも比喩される国だ。世界の各国と貿易のやりとりをしている国だから、きっといろんな国の物が売られているのだろう。

「じゃあ、デルタ帝国の方で探してみようかな」

そこならば、服だけではなく、何かしら有益な情報も転がっていそうだ。次の目的地はデルタ帝国で決まりかな。

「い、一緒に行けたら、いいですね」

「そうだね」

チーム雷神の行く先がどうなるかは分からないけれど、もし一緒に行けたら、きっとすごく楽しくて賑やかな度になるだろうな、と思った。

ギルド前に着いて、私とジェイシーはそこで別れた。彼女は一目散に中へ駆けていった。私が付いてくることを早く仲間に言いたそうだった。そんな特別なものでもないのにな、と思った。

けどそういう私も、どこか心が躍っていた。
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