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19 肖像画
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今週は、王国建国記念を祝うクラウンウィークだ。
7日間にわたり祝日が続き、学校も少し長い休暇となる。
休暇を利用し、カリンがシャロンの屋敷に泊まりに来ていた。
「シャローン、動かないで~」
イーゼルを立てキャンバスに向かっているカリンが、絵筆をびしっとシャロンに向ける。
両手を膝に重ね、椅子に座っているシャロンは、
「だって~もう無理~」
と言いながら、お尻をそわそわ動かしている。
「写真が苦手だから肖像画を描いて欲しいって、シャロンが私に言ったのよ?」
「そうだけどー。写真は20分もじっとしてないといけないって聞いたから。でも絵も同じ……いやもっと長いなんて!……ねえ、もうメガネかけていい?」
肖像画を描いているのだから当たり前だが、今のシャロンは裸眼である。
「まだだめー!目の表情はとっても大事なんだから」
カリンは眉根を寄せ、キャンバスとシャロンを交互に見比べながら、丁寧に色をのせていく。
カリンは転校前、美術部に所属していて、王国内の絵画コンクールで何度も入賞する腕を持っていた。
だから自分の素顔がどんなものか知りたくなったシャロンは、絵の上手なカリンに肖像画を頼んだのだ。
けれど。
「あ~~~!果物食べたいーーマーサ、マーサ、果物持ってきて~」
シャロンが両手を上げ、ジタバタした。
「動くなあああーー!!」
シャロンが叱り飛ばす声が数日にわたりシャロンの屋敷に響き渡った。
休暇の終わり頃、ようやく絵が完成した。
「どう?シャロン。自信作よ。気に入った?」
「……」
シャロンはメガネを握り直し、少し遠くから見たり、近づいたり、何度も絵を確認している。
「き、気に入らなかった?」
肖像画は素晴らしい出来で、シャロンの持つ知性と愛らしさが見事に表現されていた。
もちろん、顔もそっくりに描けていたが、シャロンはいまいち納得していない様子だ。
「本当に申し訳ないんだけど、正直に言うね。私、こんな顔じゃないよね」
「いや、そっくりだと思うけど!??」
カリンが汗をかきながら力説する。
「いや、私ってさ、もっとぼんやりとした顔してるだろ?目もこんな人形みたいにさ、輝いてないだろう?」
「それはあなたの視力がそうであって、こういう顔なのあなたはっ!」
何度言ってもシャロンは首を捻るばかりだ。
シャロンは自分の目で確かめたものしか、本当のところ信じられないのだ。
裸眼で鏡を見ても、ぼやけた顔しか見えないのだから、絵と違って見えるのは当たり前だった。
カリンは首を捻ってばかりのシャロンに、あるアイデアを思いついた。
「ねえ、シャロン。その絵、ルアージュ様に差し上げてみたら?」
「え?この絵を?」
「そう。婚約者からはお相手に肖像画を贈るものなのよ」
「へえ。ルアージュ様、喜ぶのかな。似てなくても」
「大丈夫、喜ぶ、喜ぶ!」
カリンにそそのかされ、シャロンは休み明け、絵を持ってルアージュのクラスに会いに行った。
「シャロン、来てくれて嬉しいよ」
「はい……」
ちょっと照れたあと、シャロンは布に包まれた絵をルアージュに差し出した。
「あの。カリンに肖像画を描いてもらったんですが、もしよかったらと思って」
「え?僕に?」
カリンが絵が得意なことはルアージュも知っていた。
布を丁寧に開くと、シャロンと生写しの絵が姿を現した。
被写体のシャロンが美しいのはもちろんだろうが、カリンが想いを込めて描いたからこその透き通るような輝きが、その絵には宿っていた。
「似てないと思うんですが、もし不要であれば屋敷に持ち帰ります」
「いや!」
シャロンの言葉をルアージュは力強く否定した。
「ありがたく頂くよ。カリンには僕からお礼の手紙を書いておくから」
「?」
似てなくても受け取ってくれたなんて。
心の広い方だな~。
シャロンはルアージュが再び布に包んだ絵を宝物のように胸に抱える姿を不思議そうに見ていた。
王宮に帰宅したルアージュは、さっそく私室の壁にシャロンの肖像画を飾った。
「うん、いい。とてもいい!」
ルアージュの声が弾む。
「本当にいい絵だ。将来カリンを宮廷画家として召し抱えよう」
ルアージュはいつまでも、こちらを見て微笑んでいる絵の中のシャロンを幸せそうに眺めていた。
7日間にわたり祝日が続き、学校も少し長い休暇となる。
休暇を利用し、カリンがシャロンの屋敷に泊まりに来ていた。
「シャローン、動かないで~」
イーゼルを立てキャンバスに向かっているカリンが、絵筆をびしっとシャロンに向ける。
両手を膝に重ね、椅子に座っているシャロンは、
「だって~もう無理~」
と言いながら、お尻をそわそわ動かしている。
「写真が苦手だから肖像画を描いて欲しいって、シャロンが私に言ったのよ?」
「そうだけどー。写真は20分もじっとしてないといけないって聞いたから。でも絵も同じ……いやもっと長いなんて!……ねえ、もうメガネかけていい?」
肖像画を描いているのだから当たり前だが、今のシャロンは裸眼である。
「まだだめー!目の表情はとっても大事なんだから」
カリンは眉根を寄せ、キャンバスとシャロンを交互に見比べながら、丁寧に色をのせていく。
カリンは転校前、美術部に所属していて、王国内の絵画コンクールで何度も入賞する腕を持っていた。
だから自分の素顔がどんなものか知りたくなったシャロンは、絵の上手なカリンに肖像画を頼んだのだ。
けれど。
「あ~~~!果物食べたいーーマーサ、マーサ、果物持ってきて~」
シャロンが両手を上げ、ジタバタした。
「動くなあああーー!!」
シャロンが叱り飛ばす声が数日にわたりシャロンの屋敷に響き渡った。
休暇の終わり頃、ようやく絵が完成した。
「どう?シャロン。自信作よ。気に入った?」
「……」
シャロンはメガネを握り直し、少し遠くから見たり、近づいたり、何度も絵を確認している。
「き、気に入らなかった?」
肖像画は素晴らしい出来で、シャロンの持つ知性と愛らしさが見事に表現されていた。
もちろん、顔もそっくりに描けていたが、シャロンはいまいち納得していない様子だ。
「本当に申し訳ないんだけど、正直に言うね。私、こんな顔じゃないよね」
「いや、そっくりだと思うけど!??」
カリンが汗をかきながら力説する。
「いや、私ってさ、もっとぼんやりとした顔してるだろ?目もこんな人形みたいにさ、輝いてないだろう?」
「それはあなたの視力がそうであって、こういう顔なのあなたはっ!」
何度言ってもシャロンは首を捻るばかりだ。
シャロンは自分の目で確かめたものしか、本当のところ信じられないのだ。
裸眼で鏡を見ても、ぼやけた顔しか見えないのだから、絵と違って見えるのは当たり前だった。
カリンは首を捻ってばかりのシャロンに、あるアイデアを思いついた。
「ねえ、シャロン。その絵、ルアージュ様に差し上げてみたら?」
「え?この絵を?」
「そう。婚約者からはお相手に肖像画を贈るものなのよ」
「へえ。ルアージュ様、喜ぶのかな。似てなくても」
「大丈夫、喜ぶ、喜ぶ!」
カリンにそそのかされ、シャロンは休み明け、絵を持ってルアージュのクラスに会いに行った。
「シャロン、来てくれて嬉しいよ」
「はい……」
ちょっと照れたあと、シャロンは布に包まれた絵をルアージュに差し出した。
「あの。カリンに肖像画を描いてもらったんですが、もしよかったらと思って」
「え?僕に?」
カリンが絵が得意なことはルアージュも知っていた。
布を丁寧に開くと、シャロンと生写しの絵が姿を現した。
被写体のシャロンが美しいのはもちろんだろうが、カリンが想いを込めて描いたからこその透き通るような輝きが、その絵には宿っていた。
「似てないと思うんですが、もし不要であれば屋敷に持ち帰ります」
「いや!」
シャロンの言葉をルアージュは力強く否定した。
「ありがたく頂くよ。カリンには僕からお礼の手紙を書いておくから」
「?」
似てなくても受け取ってくれたなんて。
心の広い方だな~。
シャロンはルアージュが再び布に包んだ絵を宝物のように胸に抱える姿を不思議そうに見ていた。
王宮に帰宅したルアージュは、さっそく私室の壁にシャロンの肖像画を飾った。
「うん、いい。とてもいい!」
ルアージュの声が弾む。
「本当にいい絵だ。将来カリンを宮廷画家として召し抱えよう」
ルアージュはいつまでも、こちらを見て微笑んでいる絵の中のシャロンを幸せそうに眺めていた。
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