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10 聖域
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シャロンはカリンがいなくなって以来、ますます学園に居場所がなくなった。
そんな中、シャロンは一つだけ心休まる場所を見つけていた。
学園の図書館である。
最近、大量の古地図が寄贈されたと図書館司書に聞き、地図マニアのシャロンは毎日のように図書館に入り浸っていた。
アウレリウス学園の図書館はとても立派で、はしごで上らなければ取れないほど壁高くまでびっしりと蔵書が並べられている。
図書館に一歩足を踏み込むと、新旧ないまぜになった本たちの匂いが鼻をついた。
シャロンは本たちが呼んでいるようで、この匂いが大好きだった。
いくつも連なった書架を通り抜け、シャロンは早足で図書館の最奥へと向かう。
地図エリアは、棚に囲まれて仕切りのようになっており、周囲から切り離されたようにひっそりとした空間になっている。
人の気配はない。
地図に興味がある生徒がほとんどいないから、気楽でちょうどいい。
シャロンは古地図の保管棚に手を伸ばした。
まるで宝箱を開けるかのように、そっと保管箱の蓋を開く。
寄贈されたばかりの古地図を包む薄紙がカサリと音を立てると、シャロンの瞳がきらめいた。
「すごい!これ、湿地を埋め立てる前の地図だ!」
慎重にゆっくりと紙を広げて机に置く。
黄ばんだ地図の端には、見慣れない文字と湿地を示す記号が踊っていた。
「今から約……1000年前のだ!こんなものが残っていたなんて」
シャロンは興奮気味に地図の線をなぞりながら、小さな声で呟いた。
「あ!この洞窟は今でもある」
地図に使用されている文字は、レッドグレイブ王国の古代文字だったが、シャロンは古い地図を読むために習得済みだったので、すらすらと地図を解読していった。
「あれ?この川」
シャロンは目を細めて一筋の川をたどる。
細く描かれたその流れは、王国の周辺まで這うように走っていた。
「プルト川……聞いたことのない名前だな」
彼女は指先で、古びたインクの線に沿ってなぞりながら、ふと息をのんだ。
地図の端には、小さく刻まれた印。
古代文字のような記号が、川のほとりに寄り添っている。
「流れが変わったのか?それとも……隠されたまま?」
この謎にシャロンの胸は高鳴った。
地図の中の世界へ旅立ってしまったかのように、シャロンは時を忘れ、古地図たちに見入っていた。
「シャロン……」
棚の向こうに、気づかれないようにルアージュが佇んでいた。
あんな楽しそうなシャロン、見たことない。
ルアージュは古地図に嫉妬を覚えるほど、自分のそばで笑ってくれないシャロンに寂しさを感じていた。
カリンがいなくなって心配でシャロンの跡をつけてみたら、シャロンは地図エリアで微笑みを浮かべながら地図を見ている。
誰も近づけない聖域のようだった。
今の僕じゃ、シャロンを幸せにできないのかな。
歯がゆさと不甲斐なさで、ルアージュはシャロンに声をかける勇気もなく、立ちすくんだままだった。
「おい見ろよ。またシャロンのやつ古臭い地図見てるぜ?」
図書館を訪れていた生徒たちが地図エリアにいるシャロンを見かけて、悪口を言い始めた。
「目障りだからずっとあそこにいればいいのよ」
「シャロン専用って張り紙でもしてれば、誰も近寄らないわよ」
ははっと一同に笑いが起こる。
シャロンの耳にも生徒たちがバカにする声は聞こえていた。
それでもシャロンは大好きな地図さえあれば、そんなこと気にせずやり過ごすことができた。
中傷が耳に入り、一瞬止まっていた指で次の地図をめくりはじめる。
シャロンの古地図の知識が後に王国の危機を救うことになるなど、この時シャロンを馬鹿にした彼らには想像すらできなかっただろう。
そんな中、シャロンは一つだけ心休まる場所を見つけていた。
学園の図書館である。
最近、大量の古地図が寄贈されたと図書館司書に聞き、地図マニアのシャロンは毎日のように図書館に入り浸っていた。
アウレリウス学園の図書館はとても立派で、はしごで上らなければ取れないほど壁高くまでびっしりと蔵書が並べられている。
図書館に一歩足を踏み込むと、新旧ないまぜになった本たちの匂いが鼻をついた。
シャロンは本たちが呼んでいるようで、この匂いが大好きだった。
いくつも連なった書架を通り抜け、シャロンは早足で図書館の最奥へと向かう。
地図エリアは、棚に囲まれて仕切りのようになっており、周囲から切り離されたようにひっそりとした空間になっている。
人の気配はない。
地図に興味がある生徒がほとんどいないから、気楽でちょうどいい。
シャロンは古地図の保管棚に手を伸ばした。
まるで宝箱を開けるかのように、そっと保管箱の蓋を開く。
寄贈されたばかりの古地図を包む薄紙がカサリと音を立てると、シャロンの瞳がきらめいた。
「すごい!これ、湿地を埋め立てる前の地図だ!」
慎重にゆっくりと紙を広げて机に置く。
黄ばんだ地図の端には、見慣れない文字と湿地を示す記号が踊っていた。
「今から約……1000年前のだ!こんなものが残っていたなんて」
シャロンは興奮気味に地図の線をなぞりながら、小さな声で呟いた。
「あ!この洞窟は今でもある」
地図に使用されている文字は、レッドグレイブ王国の古代文字だったが、シャロンは古い地図を読むために習得済みだったので、すらすらと地図を解読していった。
「あれ?この川」
シャロンは目を細めて一筋の川をたどる。
細く描かれたその流れは、王国の周辺まで這うように走っていた。
「プルト川……聞いたことのない名前だな」
彼女は指先で、古びたインクの線に沿ってなぞりながら、ふと息をのんだ。
地図の端には、小さく刻まれた印。
古代文字のような記号が、川のほとりに寄り添っている。
「流れが変わったのか?それとも……隠されたまま?」
この謎にシャロンの胸は高鳴った。
地図の中の世界へ旅立ってしまったかのように、シャロンは時を忘れ、古地図たちに見入っていた。
「シャロン……」
棚の向こうに、気づかれないようにルアージュが佇んでいた。
あんな楽しそうなシャロン、見たことない。
ルアージュは古地図に嫉妬を覚えるほど、自分のそばで笑ってくれないシャロンに寂しさを感じていた。
カリンがいなくなって心配でシャロンの跡をつけてみたら、シャロンは地図エリアで微笑みを浮かべながら地図を見ている。
誰も近づけない聖域のようだった。
今の僕じゃ、シャロンを幸せにできないのかな。
歯がゆさと不甲斐なさで、ルアージュはシャロンに声をかける勇気もなく、立ちすくんだままだった。
「おい見ろよ。またシャロンのやつ古臭い地図見てるぜ?」
図書館を訪れていた生徒たちが地図エリアにいるシャロンを見かけて、悪口を言い始めた。
「目障りだからずっとあそこにいればいいのよ」
「シャロン専用って張り紙でもしてれば、誰も近寄らないわよ」
ははっと一同に笑いが起こる。
シャロンの耳にも生徒たちがバカにする声は聞こえていた。
それでもシャロンは大好きな地図さえあれば、そんなこと気にせずやり過ごすことができた。
中傷が耳に入り、一瞬止まっていた指で次の地図をめくりはじめる。
シャロンの古地図の知識が後に王国の危機を救うことになるなど、この時シャロンを馬鹿にした彼らには想像すらできなかっただろう。
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