学園の華たちが婚約者を奪いに来る

nanahi

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その知らせは突然もたらされた。

「急な話でみな驚くかもしれないが、カリンが本日付でアウレリウス学園の分校に転校することになった」

担任の言葉に、カリンのクラスにざわっと不穏な空気が流れた。

「やっぱり……」
「ソフィアの縁戚のリュシエンヌにあんな口きいたからよ」

え──
嘘だろう?

廊下で生徒たちの噂話が耳に入ってきたシャロンは頭が真っ白になったまま、立ちすくんでいた。
カリンからは何の話も聞いていなかった。

こんな事になるなんて。
私のせいだ。
きっとあいつらは権力を行使したんだ。

「シャロンなんかに関わるから」
「我が校の疫病神ね」

シャロンに聞こえよがしに、皆の中傷が飛び交った。
シャロンはその日一日、カリンがいなくなったショックで、何にも集中できなかった。

毎日カリンがシャロンの教室に顔を出してくれることが当たり前だった。
その当たり前が消失した今、シャロンの心にはぽっかりと穴が空いたようだった。

「カリン……」

彼女の名前を呟くと涙があふれそうになる。
さみしかった。
平民出の自分が貴族の学園で友達ができなくてもいいと思っていたのに、カリンがいてくれたことで自分がどんなに救われていたか、今更思い知った。

あいつらに涙なんか見せてたまるか。

その一心でシャロンは必死に涙を堪えていた。




「突然、カリンが転校したんですが何があったのですか!?」

ルアージュは学園長に聞いても理由を教えてくれなかったので、陛下の執務室におしかけていた。

「ルアージュ、落ち着きなさい」
「落ち着いてなんかいられません!」
「焦りは墓穴を掘る。シャロンのためにもならんぞ」
「──!」

ここでようやく、前のめりになっていたルアージュが口を閉じた。

「取り乱してしまい、申し訳ありません……」

ルアージュはしゅんとして陛下に謝った。

「ドゥフォード子爵に不正疑惑が持ち上がったのだ」
「え!何かの間違いでは!?」

カリンの実家であるドゥフォード家は古くから王家に忠実で信頼できる家門だった。そのデュフォード子爵が不正など、にわかには信じがたいことだった。

「ドゥフォードが国土院の会計に不正な操作を行ったと、レッドグレイブ公爵家から申し立てが入ったのだ」
「レッドグレイブ公爵家から!?」

ルアージュは顔を歪ませた。数日前から学園では、カリンがリュシエンヌを論破したとの噂で持ちきりだった。
リュシエンヌはソフィアと繋がりが強い。カリンへの仕返しをソフィアに頼んだのろう。

「証拠はあるんですか!?」
「提出された証拠はある。だがおそらく捏造だと私はにらんでいる」

陛下は眉根を寄せたまま、ドゥフォードの冤罪の可能性を口にした。

「だったらなぜ!?すぐに調査を命じればよいではありませんか!」

ルアージュはまた興奮気味に陛下に食いついた。
カリンはシャロンをかばってくれる唯一の友人だ。
心強い味方がいなくなり、シャロンも不安で仕方がないはずだ。

「もちろん、ドゥフォードの冤罪はいつかはらすつもりだ。しかし、今ではない」
「なぜです!?」

ルアージュの剣幕に陛下は、冷静に低い声を落とした。

「レッドグレイブ公爵が本気を出せば、ドゥフォードを亡き者にすることもいとわんだろう。今回、園地へ左遷ということで収まっているが、これ以上踏み込むと、ドゥフォードの身が危ない。デュフォードやカリンには気の毒だが、しばらくは遠地にいるほうが安全なのだ」
「亡き者って──」

ルアージュは絶句した。
そうだった。レッドグレイブ公爵家は、兄の死にも関わっているかもしれないのだ。

レッドグレイブ公爵はその強権で何をしてくるかわからない。
王である父も、貴族たちの間で、微妙な力のバランスを取らねばならない難しい立場なのだ。

「私も忠実なデュフォードの力になれず口惜しい。私からデュフォードには手紙を書いておく。ルアージュ、お前は何もするな。カリンやシャロンに肩入れしすぎて、他の貴族たちの反感を買わないように細心の注意を払うのだ。それがゆくゆくはお前のためになる」
「……っ」

ルアージュは何も言えなかった。
思った以上にレッドグレイブ公爵は王国で幅をきかせていた。
王国に根深く巣食う寄生虫のように。

自分にもっと力があったら。
こんな理不尽なこと絶対に許さないのに。

ルアージュは悔しさで唇を噛み、何度もそう反芻した。




「カリン!」

シャロンは馬車を急がせて、カリンの屋敷に来ていた。

「シャロン!来てくれたの!?」

カリンは引っ越し先に向かうため、馬車に乗り込むところだった。
シャロンはカリンに抱きついた。

「ごめんね、シャロン。そんなに泣かないで。急な事であなたに言う暇がなかったの」

シャロンは涙で目が真っ赤になっていた。

「私のせいだ──」

シャロンが嗚咽しながら言葉を振り絞ると、カリンが優しく諭すように答えた。

「シャロンのせいなんかじゃない!絶対によ。悪いのはあの人たちの方。私、間違ったことしたなんて思ってない」
「カリン……」

シャロンは涙に濡れた瞳でカリンを見上げた。

「陛下からお手紙いただいたの。陛下はお父様の冤罪を信じてくださってるわ。いつか冤罪がはれて王都に戻れる日がきっと来るはずよ」

カリンはソフィアたちの仕打ちに我慢していた涙を溢れさせながら、力強く宣言した。

「だから、自分のせいだなんて思わないで。私が悲しいから。引っ越し先は避暑地に使っていた別荘だから、馴染みの土地なの。だから私、平気よ。シャロンと離れることだけが、さみしくて仕方がないけど」
「カリン、今までありがとう」

シャロンは悲しみで喉が閉まったようになり、それ以上言葉が出なかった。

「お嬢様、そろそろお時間が」

御者がカリンに呼びかけた。

「ごめんね、シャロン。もう行かなきゃ」

カリンはシャロンの背中をぎゅっと抱きしめ、「手紙を書くわね」と言い残し、馬車に乗り込んだ。

馬車が走り出しても、カリンは小窓から顔を出し、ずっとシャロンに手を振っていた。
シャロンは、カリンの馬車が遠く見えなくなっても、しばらくその場から離れなかった。





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