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Ep.2-12
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ジェハスの背後に無数の兵士が並んだ。
「お前、見た顔だな」
ジェハスがアレクを見て、顎に手を当てて考えている。
アレクはヴィヴィアンの前に立ち背中で守ったまま、ジェハスを睨んでいる。
「ああ、毒のときの──お前が協力者か。しかも恋人か?」
抱き合っていたふたりを目撃したのだ。もう関係性はばれてしまっている。
ッピュッ!
神速でアレクが矢を放った。
ジェハスは野生的な勘でとっさに顔を斜めに傾け、矢を避けた。
どさっ。
背後の兵が一人、頭に矢を受け、床に倒れた。
「この男を連行しろ。拷問部屋行きだ」
「嫌!アレク!!」
アレクは屈強な兵士に数発なぐられたあと、連行されていった。
「私のことなんてどうでもいいんでしょう?もう放っておいてよ!!」
ヴィヴィアンは涙ぐみながら、ジェハスに怒りをぶつけた。
「残念だが興味があるのだよ。ゴールダー家の資産に。お前がなかなか死なないから悪いのだぞ」
憤って顔を背けたヴィヴィアンの手首をジェハスは掴んだ。
「お前にとっておきの贈り物があるんだ」
そう言うと、黒い石がはめられた冷たい金属の腕輪をヴィヴィアンの手首にはめた。
「何なの、これっ」
外そうとするも、なぜか外れない。
「バーネ王家に伝わる魔封じの腕輪だそうだ。お前が陰で何か余計なことをしているようだから、俺は魔法などたいして信じないが、ちょっと試してみたくなってな」
嘘。
ヴィヴィアンの直感が警鐘を鳴らした。渾身の力を込め腕輪を外そうとするも、一度はめられた腕輪はヴィヴィアンの魔力に強く吸い付くように、決して腕から離れなかった。
本物の魔封じの石だ──!
ヴィヴィアンはふらついた。
力がどんどん吸い取られるような、酔ったような気持ち悪い感覚になっていく。
「あの男のことが好きなのか?」
「アレクはただの下男です!」
ヴィヴィアンの反発ぶりに、ジェハスは図星だとさとった。
「ふはは、それはいい!あいつは人質だ」
ジェハスは後退りするヴィヴィアンを兵士に囲ませた。
「さあ、お前をどうしてやろうか」
睨みつけてくるヴィヴィアンを見て、にやけたままジェハスは「寝所へ連れて行け」と兵に命じた。
湯浴みをさせられ、寝所に連れて行かれたヴィヴィアンは、ベッドに固くなって横たわっていた。
そこに、ジェハスが入室してきた。
「どうやって恥をかかせてやろうか」
いやらしいハイエナのような声でレースをくぐりぬけてきたジェハスだったが、ヴィヴィアンの顔を見て、はっと動きを止めた。
目の覚めるような美しさだった。
「どういうことだ?お前は並の顔のはずだが」
ぎくりとしてヴィヴィアンはとっさに自分の頬に手をあてた。
もしかして、魔法が切れてしまったの!?
実は、ヴィヴィアンは大陸に渡るさい、幻術で顔をかなり変えていた。まだアレクに未練があったため、ジェハスにあまり愛されないようにするための自衛策だった。
森の奥深くで生まれ育ったヴィヴィアンの顔を知っているものは、ごく近しい家の者かアレクくらいだった。
この国の人々の目にヴィヴィアンは、素顔を知るアレク以外、普通の女性の顔に映っていたのである。
どころが、魔封じの腕輪をつけられたことで、魔力が弱り、幻術が解けてしまったのだ。
「来ないで!!」
抗議の声も耳に入らないかのようにジェハスはヴィヴィアンをまっすぐに見据えたまま、ずかずかと近づいてきた。そして細く形のいいあごを手でくいと上げ、まじまじとヴィヴィアンの顔を観察した。
ほうきのようなバサバサの赤だと思っていた髪は、赤みがかったコッパーに艶めき、雪のように白い肌に一房かかる髪が色香を放っている。
二重で切れ長の目。憂いを帯びている長いまつ毛は妖艶さを感じさせた。
極め付けは、永遠を閉じ込めたようなライムグリーンの透き通った瞳。どんな宝石より魅惑的に輝いて見えた。
ヴィヴィアンの父は、時折、絶世の美女を輩出する家門だった。ヴィヴィアンは母からは魔力を、父からは美貌を受け継いでいたのだ。
「すっかり騙されていたな。化粧かなにかで素顔を隠していたのか?これはもったいないことをした」
まずい状況になった。
ジェハスはヴィヴィアンの美しさに急激に惹かれ始めた。
ジェハスは本来、妖精のようなはかない美人や東欧風のミステリアスな美女が好みだった。
そんなジェハスにとって、美しい上に魔力を有し、異国の香りがするヴィヴィアンは、これまで出会ったことのないような新鮮さを感じさせた。
ジェハスはヴィヴィアンを見つめたまま、強引にベッドに押し倒した。
「嫌!離して!!」
ヴィヴィアンは抵抗するがとうてい力では敵わない。
ジェハスの頬を叩いた瞬間、豚になる魔法をかけてみたが、強靭な意志を持つジェハスに変化の魔術は効かなかった。
鉄のような太い腕で押さえつけられ、身動きが取れない。
「何よ!私のこと、あんなに冷遇したくせに!!あんたのことなんて、絶対に愛さないから!!」
ジェハスは眉ひとつ動かさない。女はモノだ。愛があるかどうかなどどうでもいいのだ。
ジェハスは嫌がるヴィヴィアンの赤く潤んだ唇に口を重ねた。
「んんん──!」
突き飛ばそうとしても、ジェハスの重い体はびくともしない。
「アレク、アレク──!!!」
どんなに叫んでも、アレクは来ない。
嫌がるヴィヴィアンに構うことなく、ジェハスはヴィヴィアンの服を脱がせていった。
「呼んでも無駄だ。あまり抵抗するなら、あいつをもっと拷問するぞ」
だめだ。
勝てない──
抵抗をあきらめたヴィヴィアンの目に、みるみる涙がふくらんでいった。
アレクを人質に取られ、ヴィヴィアンには従うしか道はなかった。
そうだ。
一瞬、何かを思いついたようにヴィヴィアンの目に鋭さが宿った。
魔封じの腕輪で魔力が完全に抑えられる前に──
ヴィヴィアンはジェハスに気づかれないよう自身の唇を強く噛んだ。
そして血が滲んだ唇で、素早く呪文を詠唱した。
言い終えたあと、アレクが呼ぶ声が聞こえた気がした。
「お前、見た顔だな」
ジェハスがアレクを見て、顎に手を当てて考えている。
アレクはヴィヴィアンの前に立ち背中で守ったまま、ジェハスを睨んでいる。
「ああ、毒のときの──お前が協力者か。しかも恋人か?」
抱き合っていたふたりを目撃したのだ。もう関係性はばれてしまっている。
ッピュッ!
神速でアレクが矢を放った。
ジェハスは野生的な勘でとっさに顔を斜めに傾け、矢を避けた。
どさっ。
背後の兵が一人、頭に矢を受け、床に倒れた。
「この男を連行しろ。拷問部屋行きだ」
「嫌!アレク!!」
アレクは屈強な兵士に数発なぐられたあと、連行されていった。
「私のことなんてどうでもいいんでしょう?もう放っておいてよ!!」
ヴィヴィアンは涙ぐみながら、ジェハスに怒りをぶつけた。
「残念だが興味があるのだよ。ゴールダー家の資産に。お前がなかなか死なないから悪いのだぞ」
憤って顔を背けたヴィヴィアンの手首をジェハスは掴んだ。
「お前にとっておきの贈り物があるんだ」
そう言うと、黒い石がはめられた冷たい金属の腕輪をヴィヴィアンの手首にはめた。
「何なの、これっ」
外そうとするも、なぜか外れない。
「バーネ王家に伝わる魔封じの腕輪だそうだ。お前が陰で何か余計なことをしているようだから、俺は魔法などたいして信じないが、ちょっと試してみたくなってな」
嘘。
ヴィヴィアンの直感が警鐘を鳴らした。渾身の力を込め腕輪を外そうとするも、一度はめられた腕輪はヴィヴィアンの魔力に強く吸い付くように、決して腕から離れなかった。
本物の魔封じの石だ──!
ヴィヴィアンはふらついた。
力がどんどん吸い取られるような、酔ったような気持ち悪い感覚になっていく。
「あの男のことが好きなのか?」
「アレクはただの下男です!」
ヴィヴィアンの反発ぶりに、ジェハスは図星だとさとった。
「ふはは、それはいい!あいつは人質だ」
ジェハスは後退りするヴィヴィアンを兵士に囲ませた。
「さあ、お前をどうしてやろうか」
睨みつけてくるヴィヴィアンを見て、にやけたままジェハスは「寝所へ連れて行け」と兵に命じた。
湯浴みをさせられ、寝所に連れて行かれたヴィヴィアンは、ベッドに固くなって横たわっていた。
そこに、ジェハスが入室してきた。
「どうやって恥をかかせてやろうか」
いやらしいハイエナのような声でレースをくぐりぬけてきたジェハスだったが、ヴィヴィアンの顔を見て、はっと動きを止めた。
目の覚めるような美しさだった。
「どういうことだ?お前は並の顔のはずだが」
ぎくりとしてヴィヴィアンはとっさに自分の頬に手をあてた。
もしかして、魔法が切れてしまったの!?
実は、ヴィヴィアンは大陸に渡るさい、幻術で顔をかなり変えていた。まだアレクに未練があったため、ジェハスにあまり愛されないようにするための自衛策だった。
森の奥深くで生まれ育ったヴィヴィアンの顔を知っているものは、ごく近しい家の者かアレクくらいだった。
この国の人々の目にヴィヴィアンは、素顔を知るアレク以外、普通の女性の顔に映っていたのである。
どころが、魔封じの腕輪をつけられたことで、魔力が弱り、幻術が解けてしまったのだ。
「来ないで!!」
抗議の声も耳に入らないかのようにジェハスはヴィヴィアンをまっすぐに見据えたまま、ずかずかと近づいてきた。そして細く形のいいあごを手でくいと上げ、まじまじとヴィヴィアンの顔を観察した。
ほうきのようなバサバサの赤だと思っていた髪は、赤みがかったコッパーに艶めき、雪のように白い肌に一房かかる髪が色香を放っている。
二重で切れ長の目。憂いを帯びている長いまつ毛は妖艶さを感じさせた。
極め付けは、永遠を閉じ込めたようなライムグリーンの透き通った瞳。どんな宝石より魅惑的に輝いて見えた。
ヴィヴィアンの父は、時折、絶世の美女を輩出する家門だった。ヴィヴィアンは母からは魔力を、父からは美貌を受け継いでいたのだ。
「すっかり騙されていたな。化粧かなにかで素顔を隠していたのか?これはもったいないことをした」
まずい状況になった。
ジェハスはヴィヴィアンの美しさに急激に惹かれ始めた。
ジェハスは本来、妖精のようなはかない美人や東欧風のミステリアスな美女が好みだった。
そんなジェハスにとって、美しい上に魔力を有し、異国の香りがするヴィヴィアンは、これまで出会ったことのないような新鮮さを感じさせた。
ジェハスはヴィヴィアンを見つめたまま、強引にベッドに押し倒した。
「嫌!離して!!」
ヴィヴィアンは抵抗するがとうてい力では敵わない。
ジェハスの頬を叩いた瞬間、豚になる魔法をかけてみたが、強靭な意志を持つジェハスに変化の魔術は効かなかった。
鉄のような太い腕で押さえつけられ、身動きが取れない。
「何よ!私のこと、あんなに冷遇したくせに!!あんたのことなんて、絶対に愛さないから!!」
ジェハスは眉ひとつ動かさない。女はモノだ。愛があるかどうかなどどうでもいいのだ。
ジェハスは嫌がるヴィヴィアンの赤く潤んだ唇に口を重ねた。
「んんん──!」
突き飛ばそうとしても、ジェハスの重い体はびくともしない。
「アレク、アレク──!!!」
どんなに叫んでも、アレクは来ない。
嫌がるヴィヴィアンに構うことなく、ジェハスはヴィヴィアンの服を脱がせていった。
「呼んでも無駄だ。あまり抵抗するなら、あいつをもっと拷問するぞ」
だめだ。
勝てない──
抵抗をあきらめたヴィヴィアンの目に、みるみる涙がふくらんでいった。
アレクを人質に取られ、ヴィヴィアンには従うしか道はなかった。
そうだ。
一瞬、何かを思いついたようにヴィヴィアンの目に鋭さが宿った。
魔封じの腕輪で魔力が完全に抑えられる前に──
ヴィヴィアンはジェハスに気づかれないよう自身の唇を強く噛んだ。
そして血が滲んだ唇で、素早く呪文を詠唱した。
言い終えたあと、アレクが呼ぶ声が聞こえた気がした。
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