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12 懐妊
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「イーリス。おいで」
陛下は私の手を取り引き寄せる。
「陛下…」
「愛しいぞ」
陛下との夜は幾日も続いた。陛下は朝まで私を離さなかった。
蜜月のあと、ついに私は懐妊した。
「大事ないか」
「順調ですわ」
つわりで少し痩せた私の様子を見に、陛下は足繁く私の部屋を覗いてくれる。公務中もそわそわと落ち着かない様子だ。
妊娠四ヶ月。安定期に入ったとはいえ油断できない。
”この国では外国から嫁いだ王妃はよく死ぬのよ”
ふとポリーヌの言葉が頭をよぎる。
「だめよ。しっかりしなきゃ」
私はお腹をさすって気合いを入れ直した。
ロビンが久々に私の部屋にやって来た。
「さみしかった?やっと鍵を壊せたんだ」
「鍵?」
確かにしばらく姿が見えなかったけど、幽閉でもされていたの!?
怪訝な顔の私をよそに、ロビンは私のお腹に顔を近づけた。エヴァは足を踏み出そうと構えたが、私が制した。
「いるの?中に」
懐妊のことを誰かに聞いたのだろう。
「ええ。赤ちゃんですわ。殿下の腹違いの兄弟姉妹になります」
「へえ!」
ロビンは目を丸くして不思議そうに私のお腹を見つめた。
「へえ。可愛いかな」
「そう願っていますわ」
「可愛いに決まってる!イーリスちゃんの子どもだもの」
「まあうれしい」
ロビンにそう言われ、私は本当に嬉しかった。
「大切なの?」
ロビンがまた聞いた。
「大切ですわ」
「じゃあ、僕も大切にする。今度は」
「今度は?」
「そうだこれ」
ロビンは小指ほどの小さな笛を私の掌に握らせた。
「これは?」
「耳がいい人しか聞こえない音が出るんだ。助けが必要な時吹いて」
「え」
「じゃあね」
ロビンは私の問いかけには答えず、謎かけのような言葉を残し部屋を去った。私は何となくその笛を胸にしまった。
気晴らしに散歩をしているイーリスに、オリヴァー殿下がお見舞いに訪れた。
「お加減はいかがですか?」
「おかげさまで。つわりもようやくおさまって落ち着いてきましたわ」
オリヴァーは少し面やつれしたイーリスから艶っぽさを感じ、密かに胸をときめかせていた。
父上の妃なのだ。
わかっているがどうしても惹かれてしまう。
ただ遠くから眺めてきたけれど。
「あ」
イーリスがドレスの裾を踏んだ。傾いた体をエヴァより早く隣にいたオリヴァーが支えた。
「大丈夫ですか?」
「ええ。申し訳ありません、殿下」
やわらかく笑みを返すイーリスが急に大人の女性に見えて、オリヴァーは息を呑んだ。
手を離したくなかった。けれど、すっとイーリスはオリヴァーから手を引いた。
「困ったことがあればいつでも頼ってください」
もう父上がいるのに。
それでも言わずにはいられない。
「ありがとうございます。心強いですわ」
イーリスは自分のことは王子として敬ってくれているが、愛は向けてくれていない。
陛下への眼差しと自分へのそれが明確に温度が異なることは重々承知していた。していたが。
陛下に腰を抱かれ歩くイーリスに強烈な渇望を覚えるオリヴァーがいた。
陛下は私の手を取り引き寄せる。
「陛下…」
「愛しいぞ」
陛下との夜は幾日も続いた。陛下は朝まで私を離さなかった。
蜜月のあと、ついに私は懐妊した。
「大事ないか」
「順調ですわ」
つわりで少し痩せた私の様子を見に、陛下は足繁く私の部屋を覗いてくれる。公務中もそわそわと落ち着かない様子だ。
妊娠四ヶ月。安定期に入ったとはいえ油断できない。
”この国では外国から嫁いだ王妃はよく死ぬのよ”
ふとポリーヌの言葉が頭をよぎる。
「だめよ。しっかりしなきゃ」
私はお腹をさすって気合いを入れ直した。
ロビンが久々に私の部屋にやって来た。
「さみしかった?やっと鍵を壊せたんだ」
「鍵?」
確かにしばらく姿が見えなかったけど、幽閉でもされていたの!?
怪訝な顔の私をよそに、ロビンは私のお腹に顔を近づけた。エヴァは足を踏み出そうと構えたが、私が制した。
「いるの?中に」
懐妊のことを誰かに聞いたのだろう。
「ええ。赤ちゃんですわ。殿下の腹違いの兄弟姉妹になります」
「へえ!」
ロビンは目を丸くして不思議そうに私のお腹を見つめた。
「へえ。可愛いかな」
「そう願っていますわ」
「可愛いに決まってる!イーリスちゃんの子どもだもの」
「まあうれしい」
ロビンにそう言われ、私は本当に嬉しかった。
「大切なの?」
ロビンがまた聞いた。
「大切ですわ」
「じゃあ、僕も大切にする。今度は」
「今度は?」
「そうだこれ」
ロビンは小指ほどの小さな笛を私の掌に握らせた。
「これは?」
「耳がいい人しか聞こえない音が出るんだ。助けが必要な時吹いて」
「え」
「じゃあね」
ロビンは私の問いかけには答えず、謎かけのような言葉を残し部屋を去った。私は何となくその笛を胸にしまった。
気晴らしに散歩をしているイーリスに、オリヴァー殿下がお見舞いに訪れた。
「お加減はいかがですか?」
「おかげさまで。つわりもようやくおさまって落ち着いてきましたわ」
オリヴァーは少し面やつれしたイーリスから艶っぽさを感じ、密かに胸をときめかせていた。
父上の妃なのだ。
わかっているがどうしても惹かれてしまう。
ただ遠くから眺めてきたけれど。
「あ」
イーリスがドレスの裾を踏んだ。傾いた体をエヴァより早く隣にいたオリヴァーが支えた。
「大丈夫ですか?」
「ええ。申し訳ありません、殿下」
やわらかく笑みを返すイーリスが急に大人の女性に見えて、オリヴァーは息を呑んだ。
手を離したくなかった。けれど、すっとイーリスはオリヴァーから手を引いた。
「困ったことがあればいつでも頼ってください」
もう父上がいるのに。
それでも言わずにはいられない。
「ありがとうございます。心強いですわ」
イーリスは自分のことは王子として敬ってくれているが、愛は向けてくれていない。
陛下への眼差しと自分へのそれが明確に温度が異なることは重々承知していた。していたが。
陛下に腰を抱かれ歩くイーリスに強烈な渇望を覚えるオリヴァーがいた。
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