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第十九話 信頼
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「景俊、広繁! 何をしておる! このような様では、お家を守れぬぞ!」
毛利秀包が何十人の武士相手に圧倒し、さらに腹心である桂広繁、白井景俊を相手に剣術の稽古をしている。
秀包は舌打ちをしながら用意した大きな岩を真剣で両断した。
刀に刃こぼれはない、
しかも……
「い、今の斬撃……見えたか?」
と、武士の一人が呟いた。
しかし、誰一人として見切ることはできず、横に首を振る。
「やはり……」
周囲の武士たちが恐れて後退りする。
秀包は彼らを一瞥した後に怒鳴り散らす。
「情けない……豊臣も毛利も小早川も父上の代で終わりじゃ! お主らは大切なものを守りたくないのか!? 守るためには敵であらば、父であろうと誰であろうと躊躇わずに斬れ!」
政権中枢にいた秀長が亡くなり、豊臣を守るために彼なりに必死なのである。
二条城内にいる駒姫が現れ、秀包の怒鳴り声を聞きつけて心配しながら声をかける。
「秀包殿、配下の者が苦しんでおります。やりすぎではございませぬか?」
秀包はハッと我に帰り、周囲を見渡す。
彼の配下は傷だらけとなり、息を切らせている。
「み、皆、すまぬ! 私は何を!」
秀包は自分のしたことを認識して周囲に詫びた。
しかし、彼と配下は厚い信頼関係で結ばれており、笑いながら
「いやいや、ワシらが悪いのです! 戦乱はいつ始まるかわかりませぬからな」
と返した。
近くの小姓に木刀を預け、駒姫にいつものように少年の表情で話しかけた。
「私としたことが……申し訳ありません」
駒姫は優しい笑みを見せながら水を差し出す。
「何か悪いものに取り憑かれておったのでしょう? 私が術をかけた水でございます。飲めば治りますよ」
秀包は安心したかのような笑みを見せて、水を口に含む。
「ありがたい。憑き物がとれていくようだ」
「よかった……」
「宗茂と会うのは昼からか……少しばかり横になろうか……皆も付き合わせて悪かった! 疲れたであろう。横になり、休め」
いつもの優しい秀包が帰ってきた。
配下たちは喜び、頷いた。
「父であろうと斬れとは……憑き物をとるとは……怖いのぉ」
去っていく秀包を見ながら元就の霊が呟く。
「はい、怖いです」
駒姫が元就を見ながら答えた。
「ニャポーン! な、何とワシが見えるのか!?」
彼は驚くと、駒姫は冷静に答える。
「見えるも何も……そこにいらっしゃるではないですか……父上から聞きましたが、貴方様は……毛利元就様でございますよね?」
「いかにも……桂姫といい、ワシが側にいること気づきよるとは……誠に恐ろしい。悪いことはできぬな」
元就と駒姫は笑い合う。
「駒殿……秀包が父と慕っておる秀吉も長くはあるまい。道を外さぬように秀包を見守ってくれぬか?」
「はい、私でよろしければ……」
駒姫は笑顔で頷き、元就の霊と笑い合う。
一方で最上領では……
駒姫を狙っていた者たちを義光は武将の一人として仕官すると約束していた。
男たちは喜ぶ……
しかし、
「今日より、お主らとなる者たちだ」
彼らと似ても似つかない連中を義光は笑顔で紹介する。
男は言う。
「え? いや、俺たち最上家に仕官できるって……」
「阿保が! 本気にしよったか!? 雇うわけねーよ! なぁ秀綱?」
最上義光が男たちを指差して笑い、筋肉があり体が大きい鮭延秀綱に問うた。
そして、
「当たり前だべよ。お館様の娘さん亡き者にしようとすんなんて許せね」
と、秀綱は返し、
「でもよぉ、お主ら殺したらウチに悪名が流れるであろう? だから、お前らは偽モンたちに仕官したフリしてもらうんじゃ。正直に話したから、もちろん褒美として地元の一族にも数年間は暮らせる金や米をやる……だから、安心して死ね」
義光は冷たく言い放つ。
男たちは泣きながら
「待ってください! 全部、主君だった吉川広家が悪いんです! 広家と内府は繋がってます! 間違いなく豊臣を裏切ります!」
と命乞いをするが、完全に聞こえないフリをして去っていく。
ーーフン、殺しはせぬ。駒は殺生が嫌いだからな。
「のぅ? 光安、秀綱、聞いたか?」
光安は義光の言葉に頷き、答える。
「は、内府殿と広家は殿下を裏切ると」
「義光様はどうすんべか?」
「ふふ……内府殿が殿下を裏切った頃合いであの不届者を広家のもとに逃せ。で、『最上義光は内府殿につく』と虚報を流させる。良いな?」
「しかし、下手をすれば伊達上杉から狙われてしまいますぞ」
「駒姫は淀様と北政所様と近いのであろう? 当家との橋渡しになろう。そして、何より竹中半兵衛は信頼できる」
光安と秀綱は頷いた。
幼い頃の黒田長政を守るために織田信長と言葉にならない争いをした情が厚い男。
その男が駒姫を斬るはずがない。
義光はそのように確信していた。
そして、大坂では豊臣秀吉の認知症が悪化しており、周囲の人間から次第に豊家との距離を置かれるようになり始めていた。
そして、秀吉は自身に向けられた冷たい視線を感じ取っていた。
それは秀吉の改革による地方への不平不満が溜まっていたのだ。
今までは秀長がそれらをまとめていたのだが、彼が亡くなり秀吉一人にそれがくる。
秀吉は恐怖政治によりそれを抑えていたが、この世界では秀長と半兵衛がそれを阻止していた為、露骨に態度に表していた。
彼はいつしか、多くの大名から敵視されていたのであった。
秀吉自身にも言いたいことは山ほどあるが、認知症の影響で上手く言葉にできない。
ーー早く内府殿の世にならぬものか
豊臣恩顧の大名である黒田長政、福島正則と加藤清正は言葉には出さないが、仕草の一つ一つにそれが現れるようになっていた。
彼らは既に次の権力者になるであろう徳川家康に近づいている……次に向けた動きをしている。
しかし、前に進まない状況。
ーーなぜ、皆、ワシを嫌うんや? ワシは何のために生きてきたんや……あんなに可愛がってた正則にも清正にも……
彼は大坂城から夕陽を見つめながら、呟く。
「ワシは何やったんや?」
そう思うと、目からじんわりと涙が出てくる。
「やはり、ここですか?」
秀吉が振り返ると、蜜柑のような色の光に染まった淀君がいた。
「ああ……しばらく夕陽を一緒に見んか?」
淀君は頷き、秀吉に肩を寄せて落ちていく夕陽を見つめていた。
「なにわのことも……夢のまた夢……」
秀吉の言葉に頷く淀君。
「すまんかったな。淀。お主の大切な人々をワシは……」
「もうよいのです。それよりも今は綺麗な夕陽を見ましょう。きっと明日も晴れますよ」
二人は黙り、ただ、夕陽を眺めていた。
しばらくすると、
「父上ー!」
秀包の声が聞こえてくる。
そして、秀包の背後には半兵衛がいる。
「殿下、最近は冷えます故、さぁ屋敷の中に入りましょう」
秀吉は頷いて、つぶやいた。
「ワシにはやらにゃいけんことがあるな……」
秀包がキョトンとした表情で秀吉に尋ねる。
「父上、どうかしましたか?」
秀吉は首を横に振り、
「何もない……秀包よぉ、配下の者には優しく……な?」
「かしこまりました!」
「そう……ワシは皆に優しくせんかったから一人じゃ……」
秀吉は寂しさと自嘲を合わせた笑みを浮かべながら、そう言うと、秀包が反論する。
「そんなことありません! 父上には私がいます。一人にはさせません。だから、斯様なことは言ってはなりません」
「せやな」
半兵衛は頷いて、微笑む。
「さぁ帰ろうか?」
四人の陰が屋敷の中に消えていくが、二人分のドタドタという足音が聞こえてくる。
北政所と薄田兼相だ。
「ちょっと! お猿さん! 何処行ってたんよ! 寂しいやないの! 淀ちゃんばっかり可愛がって! 嫉妬してまうわ」
「殿下ぁ! 勝手に消えられては困ります! 殿下に何かあれば、ワシは!」
「うん、首が飛ぶな」
北政所はそう言うと、兼相は瞳をウルウルさせながら
「そんなぁ」
と言う。
「ちょい、デカい図体のアンタが言ってもあかん! 秀包ちゃんならかわいいねん。アンタはあかん」
兼相と北政所の掛け合いに全員が笑う。
薄田兼相は史実でも豊臣家への忠誠は変わらず、夏の陣にて豊臣方で参戦し、十数騎の騎兵を討ち取り武士としての生き様を見せ、果てた。
この世界でも秀吉のボディガードとして忠誠を誓っている。
そして、駒姫が四人に近づいて言う。
「楽しそう。私も仲に入れてください」
駒姫も彼らの輪に加わり、歩き出すのであった。
続く
毛利秀包が何十人の武士相手に圧倒し、さらに腹心である桂広繁、白井景俊を相手に剣術の稽古をしている。
秀包は舌打ちをしながら用意した大きな岩を真剣で両断した。
刀に刃こぼれはない、
しかも……
「い、今の斬撃……見えたか?」
と、武士の一人が呟いた。
しかし、誰一人として見切ることはできず、横に首を振る。
「やはり……」
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秀包は彼らを一瞥した後に怒鳴り散らす。
「情けない……豊臣も毛利も小早川も父上の代で終わりじゃ! お主らは大切なものを守りたくないのか!? 守るためには敵であらば、父であろうと誰であろうと躊躇わずに斬れ!」
政権中枢にいた秀長が亡くなり、豊臣を守るために彼なりに必死なのである。
二条城内にいる駒姫が現れ、秀包の怒鳴り声を聞きつけて心配しながら声をかける。
「秀包殿、配下の者が苦しんでおります。やりすぎではございませぬか?」
秀包はハッと我に帰り、周囲を見渡す。
彼の配下は傷だらけとなり、息を切らせている。
「み、皆、すまぬ! 私は何を!」
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しかし、彼と配下は厚い信頼関係で結ばれており、笑いながら
「いやいや、ワシらが悪いのです! 戦乱はいつ始まるかわかりませぬからな」
と返した。
近くの小姓に木刀を預け、駒姫にいつものように少年の表情で話しかけた。
「私としたことが……申し訳ありません」
駒姫は優しい笑みを見せながら水を差し出す。
「何か悪いものに取り憑かれておったのでしょう? 私が術をかけた水でございます。飲めば治りますよ」
秀包は安心したかのような笑みを見せて、水を口に含む。
「ありがたい。憑き物がとれていくようだ」
「よかった……」
「宗茂と会うのは昼からか……少しばかり横になろうか……皆も付き合わせて悪かった! 疲れたであろう。横になり、休め」
いつもの優しい秀包が帰ってきた。
配下たちは喜び、頷いた。
「父であろうと斬れとは……憑き物をとるとは……怖いのぉ」
去っていく秀包を見ながら元就の霊が呟く。
「はい、怖いです」
駒姫が元就を見ながら答えた。
「ニャポーン! な、何とワシが見えるのか!?」
彼は驚くと、駒姫は冷静に答える。
「見えるも何も……そこにいらっしゃるではないですか……父上から聞きましたが、貴方様は……毛利元就様でございますよね?」
「いかにも……桂姫といい、ワシが側にいること気づきよるとは……誠に恐ろしい。悪いことはできぬな」
元就と駒姫は笑い合う。
「駒殿……秀包が父と慕っておる秀吉も長くはあるまい。道を外さぬように秀包を見守ってくれぬか?」
「はい、私でよろしければ……」
駒姫は笑顔で頷き、元就の霊と笑い合う。
一方で最上領では……
駒姫を狙っていた者たちを義光は武将の一人として仕官すると約束していた。
男たちは喜ぶ……
しかし、
「今日より、お主らとなる者たちだ」
彼らと似ても似つかない連中を義光は笑顔で紹介する。
男は言う。
「え? いや、俺たち最上家に仕官できるって……」
「阿保が! 本気にしよったか!? 雇うわけねーよ! なぁ秀綱?」
最上義光が男たちを指差して笑い、筋肉があり体が大きい鮭延秀綱に問うた。
そして、
「当たり前だべよ。お館様の娘さん亡き者にしようとすんなんて許せね」
と、秀綱は返し、
「でもよぉ、お主ら殺したらウチに悪名が流れるであろう? だから、お前らは偽モンたちに仕官したフリしてもらうんじゃ。正直に話したから、もちろん褒美として地元の一族にも数年間は暮らせる金や米をやる……だから、安心して死ね」
義光は冷たく言い放つ。
男たちは泣きながら
「待ってください! 全部、主君だった吉川広家が悪いんです! 広家と内府は繋がってます! 間違いなく豊臣を裏切ります!」
と命乞いをするが、完全に聞こえないフリをして去っていく。
ーーフン、殺しはせぬ。駒は殺生が嫌いだからな。
「のぅ? 光安、秀綱、聞いたか?」
光安は義光の言葉に頷き、答える。
「は、内府殿と広家は殿下を裏切ると」
「義光様はどうすんべか?」
「ふふ……内府殿が殿下を裏切った頃合いであの不届者を広家のもとに逃せ。で、『最上義光は内府殿につく』と虚報を流させる。良いな?」
「しかし、下手をすれば伊達上杉から狙われてしまいますぞ」
「駒姫は淀様と北政所様と近いのであろう? 当家との橋渡しになろう。そして、何より竹中半兵衛は信頼できる」
光安と秀綱は頷いた。
幼い頃の黒田長政を守るために織田信長と言葉にならない争いをした情が厚い男。
その男が駒姫を斬るはずがない。
義光はそのように確信していた。
そして、大坂では豊臣秀吉の認知症が悪化しており、周囲の人間から次第に豊家との距離を置かれるようになり始めていた。
そして、秀吉は自身に向けられた冷たい視線を感じ取っていた。
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今までは秀長がそれらをまとめていたのだが、彼が亡くなり秀吉一人にそれがくる。
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彼はいつしか、多くの大名から敵視されていたのであった。
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彼は大坂城から夕陽を見つめながら、呟く。
「ワシは何やったんや?」
そう思うと、目からじんわりと涙が出てくる。
「やはり、ここですか?」
秀吉が振り返ると、蜜柑のような色の光に染まった淀君がいた。
「ああ……しばらく夕陽を一緒に見んか?」
淀君は頷き、秀吉に肩を寄せて落ちていく夕陽を見つめていた。
「なにわのことも……夢のまた夢……」
秀吉の言葉に頷く淀君。
「すまんかったな。淀。お主の大切な人々をワシは……」
「もうよいのです。それよりも今は綺麗な夕陽を見ましょう。きっと明日も晴れますよ」
二人は黙り、ただ、夕陽を眺めていた。
しばらくすると、
「父上ー!」
秀包の声が聞こえてくる。
そして、秀包の背後には半兵衛がいる。
「殿下、最近は冷えます故、さぁ屋敷の中に入りましょう」
秀吉は頷いて、つぶやいた。
「ワシにはやらにゃいけんことがあるな……」
秀包がキョトンとした表情で秀吉に尋ねる。
「父上、どうかしましたか?」
秀吉は首を横に振り、
「何もない……秀包よぉ、配下の者には優しく……な?」
「かしこまりました!」
「そう……ワシは皆に優しくせんかったから一人じゃ……」
秀吉は寂しさと自嘲を合わせた笑みを浮かべながら、そう言うと、秀包が反論する。
「そんなことありません! 父上には私がいます。一人にはさせません。だから、斯様なことは言ってはなりません」
「せやな」
半兵衛は頷いて、微笑む。
「さぁ帰ろうか?」
四人の陰が屋敷の中に消えていくが、二人分のドタドタという足音が聞こえてくる。
北政所と薄田兼相だ。
「ちょっと! お猿さん! 何処行ってたんよ! 寂しいやないの! 淀ちゃんばっかり可愛がって! 嫉妬してまうわ」
「殿下ぁ! 勝手に消えられては困ります! 殿下に何かあれば、ワシは!」
「うん、首が飛ぶな」
北政所はそう言うと、兼相は瞳をウルウルさせながら
「そんなぁ」
と言う。
「ちょい、デカい図体のアンタが言ってもあかん! 秀包ちゃんならかわいいねん。アンタはあかん」
兼相と北政所の掛け合いに全員が笑う。
薄田兼相は史実でも豊臣家への忠誠は変わらず、夏の陣にて豊臣方で参戦し、十数騎の騎兵を討ち取り武士としての生き様を見せ、果てた。
この世界でも秀吉のボディガードとして忠誠を誓っている。
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