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第二十七話 分裂
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毛利輝元の代理として会談に向かう小早川秀包。
ーー何を考えているのかわからない。
秀包は輝元の野心に対して警戒している。
ーーいずれ、殿下……父上が亡き今、どう出るかわからぬ。
毛利輝元。
彼は自身が思う天下への道を着実に進み始めていた。
一度は織田信長、豊臣秀吉という圧倒的な存在の前に敗北するが、もはや二人は亡くなっている。
そして、今、権力を持つのは幼い秀頼。
自身が今の五大老筆頭である家康の地位につき、天下を動かせる。
鎌倉幕府における北条の地位に立つことができるのだ。
敵となりうるのは徳川家康のみだ。
そして、彼は文治派を排除したい加藤清正、福島正則、黒田長政や家康こそ天下人になるべきだと信じている配下たちに煽られて挙兵するだろう。
方や、毛利家はどうだろうか?
小早川や吉川は関係上、毛利から離れることは考えられないだろう。
勝算はあるのか?
竹中半兵衛は堅物ではあるが、徳川が動けば反発するだろう。
そして、彼の傘下部隊に近い軍事を担う秀包たち武将は毛利側につく。
前田利家の動向はわからないが、上杉、宇喜多は家康の天下となれば間違いなく領土を減らされ発言力も失くされる。
竹中、上杉、宇喜多。そこに五奉行という大軍団が形成されるのは明白だ。
そして、輝元の意図通りに徳川家康が動く。
加藤清正らと秀頼の許可を得ずに婚姻を結んだのだ。
ーーもはや、天下は我が手中に。
輝元は秀包に大坂での会談を任せる。
そして、彼は秀包に命じる「毛利輝元を五大老筆頭にさせる」ということを。
一方、佐和山には石田三成、大谷吉継と石田正澄がいた。
「殿下のことだが……」
吉継は三成より先に秀吉の死について話し出す。
「ああ、お亡くなりになった」
吉継は三成の淡々とした態度に驚いた。
ーーあれ程、慕っていた殿下に……どういうことだ。冷静でいられるのか?
三成はさらに続ける。
「まだ島津や鍋島の検地作業、蔵入地の管理は終わってはおらぬ。吉継、お主も宇喜多秀家殿の騒動は収束しておらぬであろう? 殿下のことで悲しむのは全てが終わった後よ」
「しかしだ、三成よ。内府殿は既に正則や清正と婚姻を結んだ。お主は正則や清正
と折り合いが悪い……もし……」
三成は吉継の言葉を遮る。
「だからどうした? 私は己がやるべきことを為すだけだ。しかし、此度のこと、五奉行としては見逃せぬ。勝手な婚姻は規律が乱れるからな。利家殿、半兵衛殿と共に後日、話をすることを決めておる」
吉継は躊躇いながらも言う。
「違う! 私はお主に生きてほしいのだ! いち早く内府殿に従え。糾弾などするな」
三成は何かを言い出そうとするが、やめた。
吉継はそれに気づく。
「何だ? 言いたいことがあるなら言え」
この数年の三成はおかしい。
武に長けた者を多数雇い入れ、まるで近いうちに戦があるのかと言うほどだ。
この度も前野長康の一族を豊臣秀次に許可を得て仕官させている。
そして、謎が多い志茂平兵衛という銃の扱いに長けた猟師も高待遇で仕官させた。
まるで、戦さが起こることを予見しているかのように……
だが、言葉にはできない。
言葉にすれば、愛おしい三成が自分から離れて行く可能性がある。
吉継は黙り込む。
「まぁ……まだ何も決まっておらぬからな。吉継殿、これからも豊家のため。共に働きましょうぞ」
吉継は正澄の優しい言葉に頷き、互いの政務についての話に変わった。
数日後、
竹中半兵衛、前田利家、徳川家康、小早川秀包、直江兼続、宇喜多秀家らが集まり、会談が始まる。
半兵衛は家康に聞きたいことは山ほどあっるが、
ーー今話しても真実は話さないだろう。
と思い、あえて聞かない。
家康の表情。
戦国を生き抜いてきただけはある。
にこやかであり、今、問いただせば、世を乱す者として逆に周辺の大名から敵として見られてしまうだろう。
ーー好機はあるはずだ。
半兵衛は黙り、周囲の様子を伺い、秀包の方を見た。
ーー……あの者、何か策があるな。うむ。今、話すべきではないな。
そして、婚姻のことは触れずに雑談に華を咲かせてから本題に入る。
本題に入るその直前に秀包が前に現れて言う。
「しばらくの間、輝元殿に五大老筆頭の役目を譲っていただきたいのですが。如何でしょうか?」
周囲の空気が凍る。
徳川と毛利、権力抗争が始まろうとしていたのだ。
続く
ーー何を考えているのかわからない。
秀包は輝元の野心に対して警戒している。
ーーいずれ、殿下……父上が亡き今、どう出るかわからぬ。
毛利輝元。
彼は自身が思う天下への道を着実に進み始めていた。
一度は織田信長、豊臣秀吉という圧倒的な存在の前に敗北するが、もはや二人は亡くなっている。
そして、今、権力を持つのは幼い秀頼。
自身が今の五大老筆頭である家康の地位につき、天下を動かせる。
鎌倉幕府における北条の地位に立つことができるのだ。
敵となりうるのは徳川家康のみだ。
そして、彼は文治派を排除したい加藤清正、福島正則、黒田長政や家康こそ天下人になるべきだと信じている配下たちに煽られて挙兵するだろう。
方や、毛利家はどうだろうか?
小早川や吉川は関係上、毛利から離れることは考えられないだろう。
勝算はあるのか?
竹中半兵衛は堅物ではあるが、徳川が動けば反発するだろう。
そして、彼の傘下部隊に近い軍事を担う秀包たち武将は毛利側につく。
前田利家の動向はわからないが、上杉、宇喜多は家康の天下となれば間違いなく領土を減らされ発言力も失くされる。
竹中、上杉、宇喜多。そこに五奉行という大軍団が形成されるのは明白だ。
そして、輝元の意図通りに徳川家康が動く。
加藤清正らと秀頼の許可を得ずに婚姻を結んだのだ。
ーーもはや、天下は我が手中に。
輝元は秀包に大坂での会談を任せる。
そして、彼は秀包に命じる「毛利輝元を五大老筆頭にさせる」ということを。
一方、佐和山には石田三成、大谷吉継と石田正澄がいた。
「殿下のことだが……」
吉継は三成より先に秀吉の死について話し出す。
「ああ、お亡くなりになった」
吉継は三成の淡々とした態度に驚いた。
ーーあれ程、慕っていた殿下に……どういうことだ。冷静でいられるのか?
三成はさらに続ける。
「まだ島津や鍋島の検地作業、蔵入地の管理は終わってはおらぬ。吉継、お主も宇喜多秀家殿の騒動は収束しておらぬであろう? 殿下のことで悲しむのは全てが終わった後よ」
「しかしだ、三成よ。内府殿は既に正則や清正と婚姻を結んだ。お主は正則や清正
と折り合いが悪い……もし……」
三成は吉継の言葉を遮る。
「だからどうした? 私は己がやるべきことを為すだけだ。しかし、此度のこと、五奉行としては見逃せぬ。勝手な婚姻は規律が乱れるからな。利家殿、半兵衛殿と共に後日、話をすることを決めておる」
吉継は躊躇いながらも言う。
「違う! 私はお主に生きてほしいのだ! いち早く内府殿に従え。糾弾などするな」
三成は何かを言い出そうとするが、やめた。
吉継はそれに気づく。
「何だ? 言いたいことがあるなら言え」
この数年の三成はおかしい。
武に長けた者を多数雇い入れ、まるで近いうちに戦があるのかと言うほどだ。
この度も前野長康の一族を豊臣秀次に許可を得て仕官させている。
そして、謎が多い志茂平兵衛という銃の扱いに長けた猟師も高待遇で仕官させた。
まるで、戦さが起こることを予見しているかのように……
だが、言葉にはできない。
言葉にすれば、愛おしい三成が自分から離れて行く可能性がある。
吉継は黙り込む。
「まぁ……まだ何も決まっておらぬからな。吉継殿、これからも豊家のため。共に働きましょうぞ」
吉継は正澄の優しい言葉に頷き、互いの政務についての話に変わった。
数日後、
竹中半兵衛、前田利家、徳川家康、小早川秀包、直江兼続、宇喜多秀家らが集まり、会談が始まる。
半兵衛は家康に聞きたいことは山ほどあっるが、
ーー今話しても真実は話さないだろう。
と思い、あえて聞かない。
家康の表情。
戦国を生き抜いてきただけはある。
にこやかであり、今、問いただせば、世を乱す者として逆に周辺の大名から敵として見られてしまうだろう。
ーー好機はあるはずだ。
半兵衛は黙り、周囲の様子を伺い、秀包の方を見た。
ーー……あの者、何か策があるな。うむ。今、話すべきではないな。
そして、婚姻のことは触れずに雑談に華を咲かせてから本題に入る。
本題に入るその直前に秀包が前に現れて言う。
「しばらくの間、輝元殿に五大老筆頭の役目を譲っていただきたいのですが。如何でしょうか?」
周囲の空気が凍る。
徳川と毛利、権力抗争が始まろうとしていたのだ。
続く
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