27 / 28
第二十七話 分裂
しおりを挟む
毛利輝元の代理として会談に向かう小早川秀包。
ーー何を考えているのかわからない。
秀包は輝元の野心に対して警戒している。
ーーいずれ、殿下……父上が亡き今、どう出るかわからぬ。
毛利輝元。
彼は自身が思う天下への道を着実に進み始めていた。
一度は織田信長、豊臣秀吉という圧倒的な存在の前に敗北するが、もはや二人は亡くなっている。
そして、今、権力を持つのは幼い秀頼。
自身が今の五大老筆頭である家康の地位につき、天下を動かせる。
鎌倉幕府における北条の地位に立つことができるのだ。
敵となりうるのは徳川家康のみだ。
そして、彼は文治派を排除したい加藤清正、福島正則、黒田長政や家康こそ天下人になるべきだと信じている配下たちに煽られて挙兵するだろう。
方や、毛利家はどうだろうか?
小早川や吉川は関係上、毛利から離れることは考えられないだろう。
勝算はあるのか?
竹中半兵衛は堅物ではあるが、徳川が動けば反発するだろう。
そして、彼の傘下部隊に近い軍事を担う秀包たち武将は毛利側につく。
前田利家の動向はわからないが、上杉、宇喜多は家康の天下となれば間違いなく領土を減らされ発言力も失くされる。
竹中、上杉、宇喜多。そこに五奉行という大軍団が形成されるのは明白だ。
そして、輝元の意図通りに徳川家康が動く。
加藤清正らと秀頼の許可を得ずに婚姻を結んだのだ。
ーーもはや、天下は我が手中に。
輝元は秀包に大坂での会談を任せる。
そして、彼は秀包に命じる「毛利輝元を五大老筆頭にさせる」ということを。
一方、佐和山には石田三成、大谷吉継と石田正澄がいた。
「殿下のことだが……」
吉継は三成より先に秀吉の死について話し出す。
「ああ、お亡くなりになった」
吉継は三成の淡々とした態度に驚いた。
ーーあれ程、慕っていた殿下に……どういうことだ。冷静でいられるのか?
三成はさらに続ける。
「まだ島津や鍋島の検地作業、蔵入地の管理は終わってはおらぬ。吉継、お主も宇喜多秀家殿の騒動は収束しておらぬであろう? 殿下のことで悲しむのは全てが終わった後よ」
「しかしだ、三成よ。内府殿は既に正則や清正と婚姻を結んだ。お主は正則や清正
と折り合いが悪い……もし……」
三成は吉継の言葉を遮る。
「だからどうした? 私は己がやるべきことを為すだけだ。しかし、此度のこと、五奉行としては見逃せぬ。勝手な婚姻は規律が乱れるからな。利家殿、半兵衛殿と共に後日、話をすることを決めておる」
吉継は躊躇いながらも言う。
「違う! 私はお主に生きてほしいのだ! いち早く内府殿に従え。糾弾などするな」
三成は何かを言い出そうとするが、やめた。
吉継はそれに気づく。
「何だ? 言いたいことがあるなら言え」
この数年の三成はおかしい。
武に長けた者を多数雇い入れ、まるで近いうちに戦があるのかと言うほどだ。
この度も前野長康の一族を豊臣秀次に許可を得て仕官させている。
そして、謎が多い志茂平兵衛という銃の扱いに長けた猟師も高待遇で仕官させた。
まるで、戦さが起こることを予見しているかのように……
だが、言葉にはできない。
言葉にすれば、愛おしい三成が自分から離れて行く可能性がある。
吉継は黙り込む。
「まぁ……まだ何も決まっておらぬからな。吉継殿、これからも豊家のため。共に働きましょうぞ」
吉継は正澄の優しい言葉に頷き、互いの政務についての話に変わった。
数日後、
竹中半兵衛、前田利家、徳川家康、小早川秀包、直江兼続、宇喜多秀家らが集まり、会談が始まる。
半兵衛は家康に聞きたいことは山ほどあっるが、
ーー今話しても真実は話さないだろう。
と思い、あえて聞かない。
家康の表情。
戦国を生き抜いてきただけはある。
にこやかであり、今、問いただせば、世を乱す者として逆に周辺の大名から敵として見られてしまうだろう。
ーー好機はあるはずだ。
半兵衛は黙り、周囲の様子を伺い、秀包の方を見た。
ーー……あの者、何か策があるな。うむ。今、話すべきではないな。
そして、婚姻のことは触れずに雑談に華を咲かせてから本題に入る。
本題に入るその直前に秀包が前に現れて言う。
「しばらくの間、輝元殿に五大老筆頭の役目を譲っていただきたいのですが。如何でしょうか?」
周囲の空気が凍る。
徳川と毛利、権力抗争が始まろうとしていたのだ。
続く
ーー何を考えているのかわからない。
秀包は輝元の野心に対して警戒している。
ーーいずれ、殿下……父上が亡き今、どう出るかわからぬ。
毛利輝元。
彼は自身が思う天下への道を着実に進み始めていた。
一度は織田信長、豊臣秀吉という圧倒的な存在の前に敗北するが、もはや二人は亡くなっている。
そして、今、権力を持つのは幼い秀頼。
自身が今の五大老筆頭である家康の地位につき、天下を動かせる。
鎌倉幕府における北条の地位に立つことができるのだ。
敵となりうるのは徳川家康のみだ。
そして、彼は文治派を排除したい加藤清正、福島正則、黒田長政や家康こそ天下人になるべきだと信じている配下たちに煽られて挙兵するだろう。
方や、毛利家はどうだろうか?
小早川や吉川は関係上、毛利から離れることは考えられないだろう。
勝算はあるのか?
竹中半兵衛は堅物ではあるが、徳川が動けば反発するだろう。
そして、彼の傘下部隊に近い軍事を担う秀包たち武将は毛利側につく。
前田利家の動向はわからないが、上杉、宇喜多は家康の天下となれば間違いなく領土を減らされ発言力も失くされる。
竹中、上杉、宇喜多。そこに五奉行という大軍団が形成されるのは明白だ。
そして、輝元の意図通りに徳川家康が動く。
加藤清正らと秀頼の許可を得ずに婚姻を結んだのだ。
ーーもはや、天下は我が手中に。
輝元は秀包に大坂での会談を任せる。
そして、彼は秀包に命じる「毛利輝元を五大老筆頭にさせる」ということを。
一方、佐和山には石田三成、大谷吉継と石田正澄がいた。
「殿下のことだが……」
吉継は三成より先に秀吉の死について話し出す。
「ああ、お亡くなりになった」
吉継は三成の淡々とした態度に驚いた。
ーーあれ程、慕っていた殿下に……どういうことだ。冷静でいられるのか?
三成はさらに続ける。
「まだ島津や鍋島の検地作業、蔵入地の管理は終わってはおらぬ。吉継、お主も宇喜多秀家殿の騒動は収束しておらぬであろう? 殿下のことで悲しむのは全てが終わった後よ」
「しかしだ、三成よ。内府殿は既に正則や清正と婚姻を結んだ。お主は正則や清正
と折り合いが悪い……もし……」
三成は吉継の言葉を遮る。
「だからどうした? 私は己がやるべきことを為すだけだ。しかし、此度のこと、五奉行としては見逃せぬ。勝手な婚姻は規律が乱れるからな。利家殿、半兵衛殿と共に後日、話をすることを決めておる」
吉継は躊躇いながらも言う。
「違う! 私はお主に生きてほしいのだ! いち早く内府殿に従え。糾弾などするな」
三成は何かを言い出そうとするが、やめた。
吉継はそれに気づく。
「何だ? 言いたいことがあるなら言え」
この数年の三成はおかしい。
武に長けた者を多数雇い入れ、まるで近いうちに戦があるのかと言うほどだ。
この度も前野長康の一族を豊臣秀次に許可を得て仕官させている。
そして、謎が多い志茂平兵衛という銃の扱いに長けた猟師も高待遇で仕官させた。
まるで、戦さが起こることを予見しているかのように……
だが、言葉にはできない。
言葉にすれば、愛おしい三成が自分から離れて行く可能性がある。
吉継は黙り込む。
「まぁ……まだ何も決まっておらぬからな。吉継殿、これからも豊家のため。共に働きましょうぞ」
吉継は正澄の優しい言葉に頷き、互いの政務についての話に変わった。
数日後、
竹中半兵衛、前田利家、徳川家康、小早川秀包、直江兼続、宇喜多秀家らが集まり、会談が始まる。
半兵衛は家康に聞きたいことは山ほどあっるが、
ーー今話しても真実は話さないだろう。
と思い、あえて聞かない。
家康の表情。
戦国を生き抜いてきただけはある。
にこやかであり、今、問いただせば、世を乱す者として逆に周辺の大名から敵として見られてしまうだろう。
ーー好機はあるはずだ。
半兵衛は黙り、周囲の様子を伺い、秀包の方を見た。
ーー……あの者、何か策があるな。うむ。今、話すべきではないな。
そして、婚姻のことは触れずに雑談に華を咲かせてから本題に入る。
本題に入るその直前に秀包が前に現れて言う。
「しばらくの間、輝元殿に五大老筆頭の役目を譲っていただきたいのですが。如何でしょうか?」
周囲の空気が凍る。
徳川と毛利、権力抗争が始まろうとしていたのだ。
続く
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる