40 / 41
第40話 #星見坂で、君に言う
しおりを挟む
その日、昼休みのチャイムが鳴った瞬間、胸の奥が変にうるさかった。
ひよりからのメッセージ――「次は、蒼汰くんの番ですね」。
あれ以来、頭のどこかでずっと響いている。
“番”ってつまり、“俺が答える”ってことだ。
……やばい。
昨日から返事の練習を、五十通りくらい考えたのに、どれも違う。
いざ“本番”ってなったら、どうすりゃいいんだよ。
「真嶋、お前、顔死んでるけど大丈夫か?」悠真が弁当を箸でつつきながら言った。
「問題ない」
「いや、問題だらけだろ。見ろよ、自分でほっぺ突っついてる」
「確認だ」
「顔の筋肉確認するやつ初めて見た」
「お前もやってみろ」
「遠慮するわ」
悠真が弁当の唐揚げを一個つまんで俺の弁当に入れる。
「ほら、糖分と油分で幸せになれ」
「薬みたいに言うな」
「で、七瀬とは進展あんの?」
「……あった」
「マジ!?」
「ラブレター、もらった」
「お前、もうドラマの主人公かよ」
「……いや、次、俺が言わなきゃいけないらしい」
「え、告白返し!?」
「その言い方やめろ」
「じゃあ“反射告白”な」
「余計ダサいわ」
放課後。
ひよりからメッセージが届いた。
『今日の放課後、星見坂に来てください。話があります。』
星見坂。
学校の裏にある、見晴らしのいい坂道。
校舎よりも高い位置から、町の灯が見渡せる場所だ。
この季節、空気が澄んでる日は星まで見える。
「……まじか」
心臓が一拍、跳ねる。
これは、もう“練習”じゃない。
“誤解”でもない。
逃げ道ゼロの、“本番”だ。
夕暮れ。
坂の上には、ひよりが立っていた。
風が少し冷たくて、彼女の髪がゆっくりと揺れている。
“また話そうライト”を手にして、俺を見て笑った。
「来てくれて、ありがとうございます」
「……あたりまえだろ」
「今日、空がきれいなんです。星が、たくさん見える」
「ほんとだな」
二人でしばらく空を見上げる。
街のざわめきが遠く、風の音だけが近い。
ライトの小さな光が、まるで星の一つみたいに瞬いていた。
「蒼汰くん」
「ん」
「昨日、手紙を渡してからずっと考えてました。
もし“誤解”がなくなったら、私たちはどうなるんだろうって」
「……どうなると思う?」
「わかりません。でも、誤解があっても、なくても、
今の蒼汰くんと話している時間が好きです」
その言葉が、風に溶けるみたいに静かに胸に入ってきた。
逃げ場がなくなるんじゃなく、余計な壁が消えていく感じ。
「ひより」
自然に名前が出た。
彼女が小さく目を見開く。
「名前で呼ばれると、ちょっとドキドキします」
「俺もだ」
「ふふっ」
手に持っていた“また話そうライト”を、彼女がそっと差し出す。
「これ、少し明るくなった気がします」
「……気のせいじゃない」
「ですよね」
「俺、言うよ」
深呼吸。
胸の奥で、星の瞬きみたいに言葉が生まれる。
「俺さ、最初は“誤解ばっかりだな”って思ってた。
でも、お前と話してるうちに、
“誤解されるのも悪くない”って思うようになった。
だって、誤解のたびに、お前のことをもっと知れるから」
ひよりが、ゆっくり瞬きをした。
風が二人の間を通り抜ける。
「それでな。昨日の手紙を読んで、気づいたんだ。
“好きです”って言葉、俺も言いたい。
ちゃんと、自分から」
その瞬間、胸が軽くなった。
言葉にしたら、心臓の奥のモヤがすっと消えた。
「……だから――俺も、お前が好きだ」
ひよりが目を伏せ、唇をきゅっと結んだ。
そして、顔を上げた。
「ありがとうございます。
“誤解から始まる恋”って、こういうことなんですね」
「たぶんな」
「少し、嬉しいです」
「少し?」
「全部言ったら、泣きそうなので」
「……それは困るな」
「じゃあ、半分こです」
「泣き半分、笑い半分か」
「はい。ちょうどいいです」
そのとき、坂の下のほうから声が聞こえた。
「おーい! お前らー! 星より目立ってるぞー!」
悠真だ。スマホを掲げながら、にやにやしている。
「マジで来たな、リアルドラマ最終章!」
「帰れえええ!!」
ひよりが笑う。
風の中で、笑い声が星の粒みたいに散っていく。
───────────────────────
StarChat #星見坂で、君に言う
【校内ウォッチ】
「星見坂で真嶋→七瀬“好きだ”発言確認!」
コメント:
・「#誤解完結」
・「#ついに相思相愛」
・「#星が祝福してる」
───────────────────────
「もう、逃げられないですね」
「いいよ、もう。これなら誤解されても悪くない」
「誤解じゃなくて、証拠です」
「どっちでもいいかもな」
夜空の下、二人でライトを見上げる。
それは星より小さくて、でも星より確かだった。
その夜。
StarChatの通知が一つ、光っていた。
───────────────────────
StarChat #星見坂で、君に言う
【七瀬ひより@2-B】
「“誤解”が“本当”になる瞬間を、見た星が笑っていました。」
コメント:
・「#好きって言ってないのに、バレてた件完結」
・「#恋の証明」
───────────────────────
スマホを見て、俺は笑った。
誤解の始まりも、笑われた日も、全部この瞬間のためだったんだと思う。
ひよりからのメッセージ――「次は、蒼汰くんの番ですね」。
あれ以来、頭のどこかでずっと響いている。
“番”ってつまり、“俺が答える”ってことだ。
……やばい。
昨日から返事の練習を、五十通りくらい考えたのに、どれも違う。
いざ“本番”ってなったら、どうすりゃいいんだよ。
「真嶋、お前、顔死んでるけど大丈夫か?」悠真が弁当を箸でつつきながら言った。
「問題ない」
「いや、問題だらけだろ。見ろよ、自分でほっぺ突っついてる」
「確認だ」
「顔の筋肉確認するやつ初めて見た」
「お前もやってみろ」
「遠慮するわ」
悠真が弁当の唐揚げを一個つまんで俺の弁当に入れる。
「ほら、糖分と油分で幸せになれ」
「薬みたいに言うな」
「で、七瀬とは進展あんの?」
「……あった」
「マジ!?」
「ラブレター、もらった」
「お前、もうドラマの主人公かよ」
「……いや、次、俺が言わなきゃいけないらしい」
「え、告白返し!?」
「その言い方やめろ」
「じゃあ“反射告白”な」
「余計ダサいわ」
放課後。
ひよりからメッセージが届いた。
『今日の放課後、星見坂に来てください。話があります。』
星見坂。
学校の裏にある、見晴らしのいい坂道。
校舎よりも高い位置から、町の灯が見渡せる場所だ。
この季節、空気が澄んでる日は星まで見える。
「……まじか」
心臓が一拍、跳ねる。
これは、もう“練習”じゃない。
“誤解”でもない。
逃げ道ゼロの、“本番”だ。
夕暮れ。
坂の上には、ひよりが立っていた。
風が少し冷たくて、彼女の髪がゆっくりと揺れている。
“また話そうライト”を手にして、俺を見て笑った。
「来てくれて、ありがとうございます」
「……あたりまえだろ」
「今日、空がきれいなんです。星が、たくさん見える」
「ほんとだな」
二人でしばらく空を見上げる。
街のざわめきが遠く、風の音だけが近い。
ライトの小さな光が、まるで星の一つみたいに瞬いていた。
「蒼汰くん」
「ん」
「昨日、手紙を渡してからずっと考えてました。
もし“誤解”がなくなったら、私たちはどうなるんだろうって」
「……どうなると思う?」
「わかりません。でも、誤解があっても、なくても、
今の蒼汰くんと話している時間が好きです」
その言葉が、風に溶けるみたいに静かに胸に入ってきた。
逃げ場がなくなるんじゃなく、余計な壁が消えていく感じ。
「ひより」
自然に名前が出た。
彼女が小さく目を見開く。
「名前で呼ばれると、ちょっとドキドキします」
「俺もだ」
「ふふっ」
手に持っていた“また話そうライト”を、彼女がそっと差し出す。
「これ、少し明るくなった気がします」
「……気のせいじゃない」
「ですよね」
「俺、言うよ」
深呼吸。
胸の奥で、星の瞬きみたいに言葉が生まれる。
「俺さ、最初は“誤解ばっかりだな”って思ってた。
でも、お前と話してるうちに、
“誤解されるのも悪くない”って思うようになった。
だって、誤解のたびに、お前のことをもっと知れるから」
ひよりが、ゆっくり瞬きをした。
風が二人の間を通り抜ける。
「それでな。昨日の手紙を読んで、気づいたんだ。
“好きです”って言葉、俺も言いたい。
ちゃんと、自分から」
その瞬間、胸が軽くなった。
言葉にしたら、心臓の奥のモヤがすっと消えた。
「……だから――俺も、お前が好きだ」
ひよりが目を伏せ、唇をきゅっと結んだ。
そして、顔を上げた。
「ありがとうございます。
“誤解から始まる恋”って、こういうことなんですね」
「たぶんな」
「少し、嬉しいです」
「少し?」
「全部言ったら、泣きそうなので」
「……それは困るな」
「じゃあ、半分こです」
「泣き半分、笑い半分か」
「はい。ちょうどいいです」
そのとき、坂の下のほうから声が聞こえた。
「おーい! お前らー! 星より目立ってるぞー!」
悠真だ。スマホを掲げながら、にやにやしている。
「マジで来たな、リアルドラマ最終章!」
「帰れえええ!!」
ひよりが笑う。
風の中で、笑い声が星の粒みたいに散っていく。
───────────────────────
StarChat #星見坂で、君に言う
【校内ウォッチ】
「星見坂で真嶋→七瀬“好きだ”発言確認!」
コメント:
・「#誤解完結」
・「#ついに相思相愛」
・「#星が祝福してる」
───────────────────────
「もう、逃げられないですね」
「いいよ、もう。これなら誤解されても悪くない」
「誤解じゃなくて、証拠です」
「どっちでもいいかもな」
夜空の下、二人でライトを見上げる。
それは星より小さくて、でも星より確かだった。
その夜。
StarChatの通知が一つ、光っていた。
───────────────────────
StarChat #星見坂で、君に言う
【七瀬ひより@2-B】
「“誤解”が“本当”になる瞬間を、見た星が笑っていました。」
コメント:
・「#好きって言ってないのに、バレてた件完結」
・「#恋の証明」
───────────────────────
スマホを見て、俺は笑った。
誤解の始まりも、笑われた日も、全部この瞬間のためだったんだと思う。
10
あなたにおすすめの小説
社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。
星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。
引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。
見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。
つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。
ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。
しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。
その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…?
果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!?
※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。
(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活
まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳
様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。
子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開?
第二巻は、ホラー風味です。
【ご注意ください】
※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます
※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります
※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます
第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。
この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。
表紙イラストはAI作成です。
(セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ)
題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。
桜庭かなめ
恋愛
高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。
とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。
ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。
お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2025.12.18)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる
歩く魚
恋愛
かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。
だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。
それは気にしてない。俺は深入りする気はない。
人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。
だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。
――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる