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2章
18話「血の記憶、選ばれる者」
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控室の重い扉が静かに閉じる音。
王都の魔導緊急会議の激震の只中で、私はエイミーとレオナート、レヴィアと並んで長椅子に腰を下ろしていた。
身体は現実の重力に縛られているはずなのに、心はまだ、アムネリスの言葉の重みに囚われている。
「ノクティアさん、水をどうぞ」
エイミーが差し出してくれた銀杯の水を受け取り、私は小さく頷いた。
「ありがとう、エイミー」
レオナートも険しい表情のまま、「無理はなさらないでください」と声をかけてくれる。
レヴィアだけが、静かに、まるで遠い昔を思い返すように私を見ていた。
* * *
その時――
外から爆発音と共に悲鳴が響く。
「異形が現れたぞ!」「裂け目が拡大している!」
急ぎ控室を出ようとした瞬間、空間がぐらりと歪む。
廊下が闇と光の狭間に変わり、私は吸い込まれるように視界を奪われた。
気が付くと、さっきまでの現実感が嘘のような無音の闇。
見上げると、アムネリスが淡く輝く衣をまとって立っている。
「また、あなた……」
レヴィアもすぐ傍らにいた。「アムネリス、何をする気だ」
「いまこそ“セフィラの血”に刻まれた全てを見なさい。あなたたちが本当に“未来”を選べるのか、私に証明して」
アムネリスが手を伸ばすと、私たちの周囲に幾重もの幻影が広がる。
それは“セフィラ一族”の遠い過去――
* * *
遥か昔、魔法という奇跡が生まれたばかりの時代。
アムネリスは、人々を守るために自分の身を差し出し、一族を作り上げた。
だが強すぎる力は、民衆に恐怖を与え、王国は「均衡」の名のもと、血族に犠牲を強いた。
「守るはずだったのに、私は皆を苦しめた……。
だから、均衡のため“血の儀式”を残した。誰か一人が全てを背負うことで、他が救われる仕組みを」
アムネリスの目には涙が光る。
「けれど、その輪廻は幾度も続き、一族は苦しみから解放されなかった」
幻影の中、ノクティアは幼い日の自分の姿、レヴィアもまた小さな少女として家族に囲まれている映像を見る。
愛され、失い、嘆き、怒り、強くなろうともがき続けた日々――
レヴィアがそっと呟く。「私は、ただ誰かを守りたかった。間違いだと分かっていても、止まれなかったんだ……」
私はその手を取る。「私もそう。けれど、もう同じ過ちを繰り返したくない」
* * *
アムネリスは手を振るう。
「ならば、“最後の選択”を下しなさい」
足元に赤い魔法陣が現れ、二人の身体を締め付けるように絡みつく。
「どちらかが“生贄”となり、呪いの輪廻を終わらせるか。拒めば、世界ごと滅びる」
その声は厳しくも、どこか救いを求める響きがあった。
私は強く叫んだ。
「私は誰も犠牲にしない未来を選ぶ! その道が険しくても、あなたの悲しみを終わらせてみせる!」
レヴィアも、顔を上げて同意する。
「私も、もう誰も見捨てない! 私たちで道を作ろう!」
アムネリスが静かに微笑む。
「お前たちの覚悟、本物ならその力を私に示して」
* * *
二人の魂が光と闇に引き裂かれるような激痛の中、
私は渾身の力で叫ぶ。
「私は“守る”ために生まれた! 血の呪いも運命も、私の意志で変えてみせる!」
眩い金色の光が爆発し、魔法陣が砕け散る。
その瞬間、世界が崩れるように視界が暗転した――
* * *
気が付くと、私は控室に倒れていた。
レヴィアも隣で息を切らしている。エイミーとレオナートが必死に私たちを呼んでいる。
「ノクティアさん!」
私はゆっくりと体を起こし、
「大丈夫。……全部、見てきた。絶対に諦めない。
誰も犠牲にしない方法を、私たちで見つけてみせる」
外からは鐘の音と、遠くからの悲鳴が重なる。
会議場の外では、裂け目がさらに拡大し、
世界の崩壊が現実になろうとしていた。
私は決意の眼差しで立ち上がった。
――これが、“血の選択”の本当の始まりなのだ。
王都の魔導緊急会議の激震の只中で、私はエイミーとレオナート、レヴィアと並んで長椅子に腰を下ろしていた。
身体は現実の重力に縛られているはずなのに、心はまだ、アムネリスの言葉の重みに囚われている。
「ノクティアさん、水をどうぞ」
エイミーが差し出してくれた銀杯の水を受け取り、私は小さく頷いた。
「ありがとう、エイミー」
レオナートも険しい表情のまま、「無理はなさらないでください」と声をかけてくれる。
レヴィアだけが、静かに、まるで遠い昔を思い返すように私を見ていた。
* * *
その時――
外から爆発音と共に悲鳴が響く。
「異形が現れたぞ!」「裂け目が拡大している!」
急ぎ控室を出ようとした瞬間、空間がぐらりと歪む。
廊下が闇と光の狭間に変わり、私は吸い込まれるように視界を奪われた。
気が付くと、さっきまでの現実感が嘘のような無音の闇。
見上げると、アムネリスが淡く輝く衣をまとって立っている。
「また、あなた……」
レヴィアもすぐ傍らにいた。「アムネリス、何をする気だ」
「いまこそ“セフィラの血”に刻まれた全てを見なさい。あなたたちが本当に“未来”を選べるのか、私に証明して」
アムネリスが手を伸ばすと、私たちの周囲に幾重もの幻影が広がる。
それは“セフィラ一族”の遠い過去――
* * *
遥か昔、魔法という奇跡が生まれたばかりの時代。
アムネリスは、人々を守るために自分の身を差し出し、一族を作り上げた。
だが強すぎる力は、民衆に恐怖を与え、王国は「均衡」の名のもと、血族に犠牲を強いた。
「守るはずだったのに、私は皆を苦しめた……。
だから、均衡のため“血の儀式”を残した。誰か一人が全てを背負うことで、他が救われる仕組みを」
アムネリスの目には涙が光る。
「けれど、その輪廻は幾度も続き、一族は苦しみから解放されなかった」
幻影の中、ノクティアは幼い日の自分の姿、レヴィアもまた小さな少女として家族に囲まれている映像を見る。
愛され、失い、嘆き、怒り、強くなろうともがき続けた日々――
レヴィアがそっと呟く。「私は、ただ誰かを守りたかった。間違いだと分かっていても、止まれなかったんだ……」
私はその手を取る。「私もそう。けれど、もう同じ過ちを繰り返したくない」
* * *
アムネリスは手を振るう。
「ならば、“最後の選択”を下しなさい」
足元に赤い魔法陣が現れ、二人の身体を締め付けるように絡みつく。
「どちらかが“生贄”となり、呪いの輪廻を終わらせるか。拒めば、世界ごと滅びる」
その声は厳しくも、どこか救いを求める響きがあった。
私は強く叫んだ。
「私は誰も犠牲にしない未来を選ぶ! その道が険しくても、あなたの悲しみを終わらせてみせる!」
レヴィアも、顔を上げて同意する。
「私も、もう誰も見捨てない! 私たちで道を作ろう!」
アムネリスが静かに微笑む。
「お前たちの覚悟、本物ならその力を私に示して」
* * *
二人の魂が光と闇に引き裂かれるような激痛の中、
私は渾身の力で叫ぶ。
「私は“守る”ために生まれた! 血の呪いも運命も、私の意志で変えてみせる!」
眩い金色の光が爆発し、魔法陣が砕け散る。
その瞬間、世界が崩れるように視界が暗転した――
* * *
気が付くと、私は控室に倒れていた。
レヴィアも隣で息を切らしている。エイミーとレオナートが必死に私たちを呼んでいる。
「ノクティアさん!」
私はゆっくりと体を起こし、
「大丈夫。……全部、見てきた。絶対に諦めない。
誰も犠牲にしない方法を、私たちで見つけてみせる」
外からは鐘の音と、遠くからの悲鳴が重なる。
会議場の外では、裂け目がさらに拡大し、
世界の崩壊が現実になろうとしていた。
私は決意の眼差しで立ち上がった。
――これが、“血の選択”の本当の始まりなのだ。
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