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3章
外伝3「エイミー式・魔導整理術!」
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「はあ……今日も、山だわ……」
辺境グランツ砦の食堂。朝の片付けも終わりかけた頃、私は伝票やメモの山を前にしてため息をついた。
“台所番”と名乗っているけれど、実は最近、書類仕事がやけに多い。
きっかけは「物が消える」騒動。
昨日はパン、その前はスプーン。さらには名簿や備品リスト、時には兵士の忘れ物まで。
「エイミーさん、あれどこ行きました?」「この書類、どこに戻せば?」
台所だけじゃなく、訓練場や文書室、果てはカイラス団長の部屋まで呼び出される始末だ。
「全部私に聞かないでよぉ……」
そうぼやきながらも、結局きっちり探してしまう自分がちょっと憎めない。
*
「エイミー、朝の点呼用の名簿が見つからないんだが……」
団長が頭をかきながら、食堂にやってくる。
「え? また? 昨日、訓練場の机の上に置いてあったのに」
「それが今朝は消えてた。誰かが持ち出したんだろうが……心当たりは?」
私は団長の顔を見て、ふふっと笑った。
「たぶん、物置きの赤い箱に紛れちゃってますよ」
「どうしてわかる?」
「昨日、サブちゃんが名簿の上でお昼寝してて……あの子、よく紙を引っ掻くから、掃除当番の兵士がまとめて箱にしまってたんです」
団長は「なるほど」と呟き、やがて「さすがだな」とぽつり。
私は少し得意げになる。
でも――こうして私が“みんなの物知りさん”になったのは、ごく最近のこと。
*
少し前まで、砦の物や書類は、正直かなり“適当”に片付けられていた。
料理用の鍋と訓練用の木剣が一緒に棚に入っていたこともある。カイラス団長の靴下が魔導書の隙間から見つかったときは、流石にみんな爆笑した。
でも、最近はそんな笑い話だけじゃ済まされない。
「名簿がなくなった」「備品が数えきれない」「道具箱の中身が変わってる」
小さな“違和感”が、毎日のようにあちこちで積み重なっていく。
私は、何か役に立てることがあるはず!と、決意を新たにした。
「よーし、こうなったらエイミー式整理術、発動よ!」
朝早くから厨房、訓練場、文書室を回って“物の位置と量”をノートに書き留めていく。
「これで全部、頭に叩き込めば大丈夫!」
……と息巻いたものの、覚えることが多すぎて混乱しそうになる。
「うーん、これじゃ魔導士じゃなくて記憶術士だわ……」
*
ふと、ノクティアさんが廊下を通りかかった。
「お疲れさま、エイミー。最近、物がなくなったりしない?」
「しますします! ノクティアさんも何か失くしました?」
「私は……昨日まであったはずの古い呪符が一枚見当たらなくて」
ノクティアさんは小さな声で、少し困ったように笑った。
「最近、砦の中だけじゃなくて、私自身の記憶もちょっとあやふやになることがあって……」
「それ、私もです! 昨日、厨房の片付けをしようとしたのに、どこまで片付けたかわからなくなっちゃって……」
ふたりで首を傾げ合う。
“世界の綻び”なんて、大袈裟なことは私にはわからない。
でも、みんなが安心して毎日を過ごせるように――私ができることは、まず“整理”だ!
*
「エイミーさーん、訓練用のダミー剣が一本足りません!」
慌てて駆け込んでくる兵士たち。
「えーと、昨日誰が使ってたっけ? 団長?」
「昨日は新人が使ってて、その後文書室に運んだはず……」
「じゃあ、もしかして“文書室の一番奥の青い箱”?」
兵士たちが顔を見合わせて、すぐに走っていく。
しばらくして、「ありましたー!」と喜びの声。
「エイミーさん、すごい! なんでわかったんですか?」
「だって、この砦の“迷子の物”は、だいたい誰かが“とりあえず”突っ込んだ場所にあるんだもん。私は全部覚えてるから!」
胸を張ってみせると、みんなが半分あきれ顔で、でも楽しそうに笑った。
*
「私、“物の場所”覚えてるだけが取り柄ですから!」
――なんて言いながらも、実は全部覚えられるほど私は器用じゃない。
そこで、私は“暗号”を使い始めた。
赤い箱=訓練用の道具、
青い箱=文書関連、
緑のファイル=朝の点呼、
サボテンの鉢植えの裏=団長の大事な手紙……
こんな風に、こっそりと“自分だけのルール”で物を整理していった。
「うふふ、これで絶対間違えないもんね!」
時々サブちゃんが鉢植えをひっくり返して困るけど、それもまた楽しい日常。
*
そんなある日。
「エイミー、厨房のスパイス棚に何か貼ってあったけど、あれは……?」
ノクティアさんが少し戸惑い気味に尋ねてきた。
「あ、それは“カイラス団長、唐辛子禁止”のメモです!」
「……またやったの?」
「はい、団長が辛いもの食べすぎると翌日喉が枯れて困るって言うから、こっそり注意書きです」
ノクティアさんは「そうね……健康第一よね」と微笑む。
私もつられて笑った。
実はこういう小さな“ルール”や“工夫”が、みんなの生活をちょっとだけ楽にしている――と思いたい。
*
昼すぎ、またもや事件発生。
「エイミーさん、昼食のスプーンが一個足りません!」
「はいはーい。多分、昨日エイミーがココア飲んだときに台所奥に置き忘れた……と思う」
厨房の隅を探すと、やっぱりあった。
「ごめんね、私のせいだった!」
でもみんな「またかー」と笑って許してくれる。
「私、きっと“忘れ物王”になれるかも……」
自虐ネタで場を和ませながら、私は“整理係”としての誇りもちょっぴり感じていた。
*
午後、書類の整理に追われていると、レオナート様がふらりと現れた。
「エイミーさん、セレスタ式の魔力測定器の記録用紙が見当たらないのですが……」
「えっと、それは……はい、青い箱の一番下です!」
「おお、助かりました。君のおかげで砦の秩序が保たれているね」
レオナート様に褒められると、何となく背筋が伸びる。
「いえいえ、私なんてまだまだ。むしろ最近、物や書類がどんどん増えてて、片付けても追いつかなくて……」
「それはそれで“生活の証”ということかもしれませんね。君の管理術には感服していますよ」
そう言って微笑まれると、なんだか照れくさい。
(えへへ、頑張っててよかった……)
*
夕方。
今日もいろんな“迷子の物”があった。スプーン、名簿、団長のマグカップ、ノクティアさんの魔導書、レオナート様の手袋、サブちゃんのボール……
その全部をきちんと元の場所に戻すのは、正直大変。
でも、「エイミーさんがいれば大丈夫」――みんながそう言ってくれるから、私は明日も張り切れる。
ただひとつ、どうしても気になることがあった。
それは、“本当に物が移動している”だけなのか、
それとも、砦の中の“何か”が少しずつずれてきているのか――
みんなの笑顔や日常を守りたい私には、まだそれがわからない。
*
夜。
静かになった食堂で、私は自分のノートをめくる。
“今日、見つけた物たち”“今日、戻した物たち”――そのリストは、日々長くなっていく。
「……また明日も、みんなが困らないように」
私はそっとノートを閉じて、カウンターの上に置く。
ふとサブちゃんが足元でくるりと回る。
「サブちゃん、君は何か探し物?」
サブちゃんは、棚の上を見上げてにゃあと鳴く。
「わかった、明日は君のおやつも整理しておくね!」
砦の中には、今日も明日も、“迷子の物”と“探し物”があふれている。
けれど――その全部を、私はきっと覚えてみせる。
「これが私の、エイミー式・魔導整理術!」
小さな誇りと、ちょっぴりの不安。
それでも、明日はきっといい日になる。
辺境グランツ砦の食堂。朝の片付けも終わりかけた頃、私は伝票やメモの山を前にしてため息をついた。
“台所番”と名乗っているけれど、実は最近、書類仕事がやけに多い。
きっかけは「物が消える」騒動。
昨日はパン、その前はスプーン。さらには名簿や備品リスト、時には兵士の忘れ物まで。
「エイミーさん、あれどこ行きました?」「この書類、どこに戻せば?」
台所だけじゃなく、訓練場や文書室、果てはカイラス団長の部屋まで呼び出される始末だ。
「全部私に聞かないでよぉ……」
そうぼやきながらも、結局きっちり探してしまう自分がちょっと憎めない。
*
「エイミー、朝の点呼用の名簿が見つからないんだが……」
団長が頭をかきながら、食堂にやってくる。
「え? また? 昨日、訓練場の机の上に置いてあったのに」
「それが今朝は消えてた。誰かが持ち出したんだろうが……心当たりは?」
私は団長の顔を見て、ふふっと笑った。
「たぶん、物置きの赤い箱に紛れちゃってますよ」
「どうしてわかる?」
「昨日、サブちゃんが名簿の上でお昼寝してて……あの子、よく紙を引っ掻くから、掃除当番の兵士がまとめて箱にしまってたんです」
団長は「なるほど」と呟き、やがて「さすがだな」とぽつり。
私は少し得意げになる。
でも――こうして私が“みんなの物知りさん”になったのは、ごく最近のこと。
*
少し前まで、砦の物や書類は、正直かなり“適当”に片付けられていた。
料理用の鍋と訓練用の木剣が一緒に棚に入っていたこともある。カイラス団長の靴下が魔導書の隙間から見つかったときは、流石にみんな爆笑した。
でも、最近はそんな笑い話だけじゃ済まされない。
「名簿がなくなった」「備品が数えきれない」「道具箱の中身が変わってる」
小さな“違和感”が、毎日のようにあちこちで積み重なっていく。
私は、何か役に立てることがあるはず!と、決意を新たにした。
「よーし、こうなったらエイミー式整理術、発動よ!」
朝早くから厨房、訓練場、文書室を回って“物の位置と量”をノートに書き留めていく。
「これで全部、頭に叩き込めば大丈夫!」
……と息巻いたものの、覚えることが多すぎて混乱しそうになる。
「うーん、これじゃ魔導士じゃなくて記憶術士だわ……」
*
ふと、ノクティアさんが廊下を通りかかった。
「お疲れさま、エイミー。最近、物がなくなったりしない?」
「しますします! ノクティアさんも何か失くしました?」
「私は……昨日まであったはずの古い呪符が一枚見当たらなくて」
ノクティアさんは小さな声で、少し困ったように笑った。
「最近、砦の中だけじゃなくて、私自身の記憶もちょっとあやふやになることがあって……」
「それ、私もです! 昨日、厨房の片付けをしようとしたのに、どこまで片付けたかわからなくなっちゃって……」
ふたりで首を傾げ合う。
“世界の綻び”なんて、大袈裟なことは私にはわからない。
でも、みんなが安心して毎日を過ごせるように――私ができることは、まず“整理”だ!
*
「エイミーさーん、訓練用のダミー剣が一本足りません!」
慌てて駆け込んでくる兵士たち。
「えーと、昨日誰が使ってたっけ? 団長?」
「昨日は新人が使ってて、その後文書室に運んだはず……」
「じゃあ、もしかして“文書室の一番奥の青い箱”?」
兵士たちが顔を見合わせて、すぐに走っていく。
しばらくして、「ありましたー!」と喜びの声。
「エイミーさん、すごい! なんでわかったんですか?」
「だって、この砦の“迷子の物”は、だいたい誰かが“とりあえず”突っ込んだ場所にあるんだもん。私は全部覚えてるから!」
胸を張ってみせると、みんなが半分あきれ顔で、でも楽しそうに笑った。
*
「私、“物の場所”覚えてるだけが取り柄ですから!」
――なんて言いながらも、実は全部覚えられるほど私は器用じゃない。
そこで、私は“暗号”を使い始めた。
赤い箱=訓練用の道具、
青い箱=文書関連、
緑のファイル=朝の点呼、
サボテンの鉢植えの裏=団長の大事な手紙……
こんな風に、こっそりと“自分だけのルール”で物を整理していった。
「うふふ、これで絶対間違えないもんね!」
時々サブちゃんが鉢植えをひっくり返して困るけど、それもまた楽しい日常。
*
そんなある日。
「エイミー、厨房のスパイス棚に何か貼ってあったけど、あれは……?」
ノクティアさんが少し戸惑い気味に尋ねてきた。
「あ、それは“カイラス団長、唐辛子禁止”のメモです!」
「……またやったの?」
「はい、団長が辛いもの食べすぎると翌日喉が枯れて困るって言うから、こっそり注意書きです」
ノクティアさんは「そうね……健康第一よね」と微笑む。
私もつられて笑った。
実はこういう小さな“ルール”や“工夫”が、みんなの生活をちょっとだけ楽にしている――と思いたい。
*
昼すぎ、またもや事件発生。
「エイミーさん、昼食のスプーンが一個足りません!」
「はいはーい。多分、昨日エイミーがココア飲んだときに台所奥に置き忘れた……と思う」
厨房の隅を探すと、やっぱりあった。
「ごめんね、私のせいだった!」
でもみんな「またかー」と笑って許してくれる。
「私、きっと“忘れ物王”になれるかも……」
自虐ネタで場を和ませながら、私は“整理係”としての誇りもちょっぴり感じていた。
*
午後、書類の整理に追われていると、レオナート様がふらりと現れた。
「エイミーさん、セレスタ式の魔力測定器の記録用紙が見当たらないのですが……」
「えっと、それは……はい、青い箱の一番下です!」
「おお、助かりました。君のおかげで砦の秩序が保たれているね」
レオナート様に褒められると、何となく背筋が伸びる。
「いえいえ、私なんてまだまだ。むしろ最近、物や書類がどんどん増えてて、片付けても追いつかなくて……」
「それはそれで“生活の証”ということかもしれませんね。君の管理術には感服していますよ」
そう言って微笑まれると、なんだか照れくさい。
(えへへ、頑張っててよかった……)
*
夕方。
今日もいろんな“迷子の物”があった。スプーン、名簿、団長のマグカップ、ノクティアさんの魔導書、レオナート様の手袋、サブちゃんのボール……
その全部をきちんと元の場所に戻すのは、正直大変。
でも、「エイミーさんがいれば大丈夫」――みんながそう言ってくれるから、私は明日も張り切れる。
ただひとつ、どうしても気になることがあった。
それは、“本当に物が移動している”だけなのか、
それとも、砦の中の“何か”が少しずつずれてきているのか――
みんなの笑顔や日常を守りたい私には、まだそれがわからない。
*
夜。
静かになった食堂で、私は自分のノートをめくる。
“今日、見つけた物たち”“今日、戻した物たち”――そのリストは、日々長くなっていく。
「……また明日も、みんなが困らないように」
私はそっとノートを閉じて、カウンターの上に置く。
ふとサブちゃんが足元でくるりと回る。
「サブちゃん、君は何か探し物?」
サブちゃんは、棚の上を見上げてにゃあと鳴く。
「わかった、明日は君のおやつも整理しておくね!」
砦の中には、今日も明日も、“迷子の物”と“探し物”があふれている。
けれど――その全部を、私はきっと覚えてみせる。
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