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4章
37話「絶体絶命」
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冷たい朝霧の中、世界が震えていた。
森の奥、苔むした祠跡の広場は、黒鉄の傭兵団によって完全に囲まれていた。
私は、祭壇の石柱に両手を縛りつけられたまま、夜明けの空を見上げていた。
額には冷や汗、手足の感覚は薄れ、体の芯まで凍りついていくような恐怖が波のように押し寄せる。
(負けてたまるものか――)
心の奥で、何度も何度も呪文のように唱える。
自分自身を支えているのは、ただそれだけだ。
敵将は儀式の壇上に立ち、周囲の傭兵に命じる。
「全員、円陣を組め! この“魔導士の血”をもって、新たな力と勝利を手にする!」
兵士たちが無言で剣を振り上げる。
顔も、手も、血と泥にまみれている。
恐怖も、後悔も、もはやどこにもない。
ただ、命令と欲望に突き動かされる、“死”の舞踏だ。
(本当に……ここで終わるの?)
ふと心が揺らぐ。
だけど、そのたびに胸の奥で、誰かの声が響く。
――あきらめるな。
――ノクティアさん、絶対に帰ってきて。
――私たちのために、生きて。
私は必死に意識を保ち、息を整える。
だが、敵将が祭壇の上に大剣を持ち上げると、体が震え、視界がぐらりと歪んだ。
「いま、この者の血を捧げよ!」
敵将が叫ぶ。
数人の傭兵が私に近づき、儀式用の短剣を振り上げた。
「やめて……!」
叫ぶ声が漏れたその瞬間――
森の奥から、一斉に火花が散った。
「撃て!」
カイラスの怒号。
闇に紛れて待機していた砦側の精鋭兵が、矢と魔法を同時に放ったのだ。
炎の矢が黒鉄兵の列を切り裂き、森の影からレオナートが突進してくる。
エイミーも後方支援の位置で治癒魔法を用意している。
「ノクティア、今行くぞ!」
カイラスが剣を抜き、敵の円陣に突入した。
混乱した敵兵が慌てて剣を構え直すが、砦の兵士たちの捨て身の突撃に押され、円陣が崩れる。
私は自分の両手を無理やり縄から引き抜こうとした。
だが、魔力を奪う封印具が腕に絡みつき、力が出ない。
(負けるな、ノクティア!)
私は奥歯を噛みしめ、もう一度だけ自分の中の魔力を探る。
わずかだが、指先に“熱”が残っていた。
敵将が祭壇の上から怒鳴る。
「魔導士を絶対に逃がすな! 裏切り者は斬り捨てろ!」
その言葉とともに、何人かの黒鉄兵が突然、仲間に剣を向けた。
裏切り者狩り――昨日の夜、私を助けようとしたあの男も、隅で蹲っているのが見えた。
(私だけでなく、ここにいる全員が生きるか死ぬかの瀬戸際――)
砦の兵士と黒鉄兵が入り乱れ、祭壇の周りは地獄と化した。
カイラスが祭壇に駆け寄る。
「ノクティア、無事か!」
「カイラス……!」
その瞬間、敵将が大剣を振り下ろし、カイラスと私の間に立ちはだかった。
「来るな! 貴様らのせいで、すべてが――!」
カイラスは間髪入れず剣を振り抜き、敵将の剣と激突させる。
鋼と鋼がぶつかる甲高い音。
私は縄が切れる瞬間を必死に待った。
レオナートが後ろから飛び込む。
「ノクティアさん、手を!」
彼は短剣で私の縄を切り、私はようやく手足を自由にした。
だが、封印具はまだ外れない。
私は倒れそうになりながらも、祭壇から飛び降り、カイラスとレオナートの背中に隠れた。
「エイミー、援護を!」
森の向こうからエイミーの治癒魔法の光が駆け寄る。
私の体に暖かな力が流れ込み、ほんの少しだけ、封印具の魔力が弱まった。
敵将は血走った目で私を睨む。
「これが……お前たちの“正義”か? ならば見せてみろ、仲間を犠牲にせずに救えるのか!」
その言葉とともに、周囲の黒鉄兵が最後の猛攻を仕掛けてくる。
カイラスは必死に私を庇い、剣で敵の刃を防ぐ。
レオナートも傷だらけになりながら、何度も私の前に立った。
私は、砦の仲間が倒れるのを、ただ見ていることしかできない。
(みんなが、私のために命を張ってくれている――
私は、このままでいいの?)
その時、後方で悲鳴が上がった。
エイミーが敵兵に斬りつけられ、血を流して倒れた。
「エイミー!」
私は思わず叫び、倒れた彼女に駆け寄ろうとする。
だが、足がもつれ、封印具が重くのしかかる。
「ノクティア、下がれ!」
カイラスの叫び。
「私は……私はもう、誰も失いたくない!」
私は自分の中の、ほんのわずかに残った魔力を燃やし、封印具に手をかける。
“禁呪”――自らの命を削り、封印を破る最後の手段。
(たとえ自分の命が尽きても、今ここで、みんなを守らなきゃ――)
私は呪文を唱え、全身から魔力を解き放った。
「この命にかえて、みんなを……!」
封印具が熱くなり、皮膚が焼ける痛み。
でも、そんなものはどうでもよかった。
私は自分の魔力のすべてを解放し、結界を展開する。
瞬間、祭壇を包むように強力な魔法障壁が発動し、カイラス、レオナート、エイミー、救出部隊を覆い尽くす。
敵兵たちの攻撃が跳ね返され、しばしの静寂が訪れた。
私は地面に膝をつき、呼吸を整えながら、みんなの顔を見た。
「ノクティアさん……」
エイミーは泣きながら、私の手を握った。
「みんな……生きて」
その願いが、私の最後の力だった。
敵将は、障壁の外から絶望的な叫びを上げる。
「ふざけるなあああああああ!」
だがもう、私は何も聞こえなかった。
視界が白く、遠くなっていく。
(これで、少しでも――みんなが助かるなら)
私は静かに、意識を手放した。
森の奥、苔むした祠跡の広場は、黒鉄の傭兵団によって完全に囲まれていた。
私は、祭壇の石柱に両手を縛りつけられたまま、夜明けの空を見上げていた。
額には冷や汗、手足の感覚は薄れ、体の芯まで凍りついていくような恐怖が波のように押し寄せる。
(負けてたまるものか――)
心の奥で、何度も何度も呪文のように唱える。
自分自身を支えているのは、ただそれだけだ。
敵将は儀式の壇上に立ち、周囲の傭兵に命じる。
「全員、円陣を組め! この“魔導士の血”をもって、新たな力と勝利を手にする!」
兵士たちが無言で剣を振り上げる。
顔も、手も、血と泥にまみれている。
恐怖も、後悔も、もはやどこにもない。
ただ、命令と欲望に突き動かされる、“死”の舞踏だ。
(本当に……ここで終わるの?)
ふと心が揺らぐ。
だけど、そのたびに胸の奥で、誰かの声が響く。
――あきらめるな。
――ノクティアさん、絶対に帰ってきて。
――私たちのために、生きて。
私は必死に意識を保ち、息を整える。
だが、敵将が祭壇の上に大剣を持ち上げると、体が震え、視界がぐらりと歪んだ。
「いま、この者の血を捧げよ!」
敵将が叫ぶ。
数人の傭兵が私に近づき、儀式用の短剣を振り上げた。
「やめて……!」
叫ぶ声が漏れたその瞬間――
森の奥から、一斉に火花が散った。
「撃て!」
カイラスの怒号。
闇に紛れて待機していた砦側の精鋭兵が、矢と魔法を同時に放ったのだ。
炎の矢が黒鉄兵の列を切り裂き、森の影からレオナートが突進してくる。
エイミーも後方支援の位置で治癒魔法を用意している。
「ノクティア、今行くぞ!」
カイラスが剣を抜き、敵の円陣に突入した。
混乱した敵兵が慌てて剣を構え直すが、砦の兵士たちの捨て身の突撃に押され、円陣が崩れる。
私は自分の両手を無理やり縄から引き抜こうとした。
だが、魔力を奪う封印具が腕に絡みつき、力が出ない。
(負けるな、ノクティア!)
私は奥歯を噛みしめ、もう一度だけ自分の中の魔力を探る。
わずかだが、指先に“熱”が残っていた。
敵将が祭壇の上から怒鳴る。
「魔導士を絶対に逃がすな! 裏切り者は斬り捨てろ!」
その言葉とともに、何人かの黒鉄兵が突然、仲間に剣を向けた。
裏切り者狩り――昨日の夜、私を助けようとしたあの男も、隅で蹲っているのが見えた。
(私だけでなく、ここにいる全員が生きるか死ぬかの瀬戸際――)
砦の兵士と黒鉄兵が入り乱れ、祭壇の周りは地獄と化した。
カイラスが祭壇に駆け寄る。
「ノクティア、無事か!」
「カイラス……!」
その瞬間、敵将が大剣を振り下ろし、カイラスと私の間に立ちはだかった。
「来るな! 貴様らのせいで、すべてが――!」
カイラスは間髪入れず剣を振り抜き、敵将の剣と激突させる。
鋼と鋼がぶつかる甲高い音。
私は縄が切れる瞬間を必死に待った。
レオナートが後ろから飛び込む。
「ノクティアさん、手を!」
彼は短剣で私の縄を切り、私はようやく手足を自由にした。
だが、封印具はまだ外れない。
私は倒れそうになりながらも、祭壇から飛び降り、カイラスとレオナートの背中に隠れた。
「エイミー、援護を!」
森の向こうからエイミーの治癒魔法の光が駆け寄る。
私の体に暖かな力が流れ込み、ほんの少しだけ、封印具の魔力が弱まった。
敵将は血走った目で私を睨む。
「これが……お前たちの“正義”か? ならば見せてみろ、仲間を犠牲にせずに救えるのか!」
その言葉とともに、周囲の黒鉄兵が最後の猛攻を仕掛けてくる。
カイラスは必死に私を庇い、剣で敵の刃を防ぐ。
レオナートも傷だらけになりながら、何度も私の前に立った。
私は、砦の仲間が倒れるのを、ただ見ていることしかできない。
(みんなが、私のために命を張ってくれている――
私は、このままでいいの?)
その時、後方で悲鳴が上がった。
エイミーが敵兵に斬りつけられ、血を流して倒れた。
「エイミー!」
私は思わず叫び、倒れた彼女に駆け寄ろうとする。
だが、足がもつれ、封印具が重くのしかかる。
「ノクティア、下がれ!」
カイラスの叫び。
「私は……私はもう、誰も失いたくない!」
私は自分の中の、ほんのわずかに残った魔力を燃やし、封印具に手をかける。
“禁呪”――自らの命を削り、封印を破る最後の手段。
(たとえ自分の命が尽きても、今ここで、みんなを守らなきゃ――)
私は呪文を唱え、全身から魔力を解き放った。
「この命にかえて、みんなを……!」
封印具が熱くなり、皮膚が焼ける痛み。
でも、そんなものはどうでもよかった。
私は自分の魔力のすべてを解放し、結界を展開する。
瞬間、祭壇を包むように強力な魔法障壁が発動し、カイラス、レオナート、エイミー、救出部隊を覆い尽くす。
敵兵たちの攻撃が跳ね返され、しばしの静寂が訪れた。
私は地面に膝をつき、呼吸を整えながら、みんなの顔を見た。
「ノクティアさん……」
エイミーは泣きながら、私の手を握った。
「みんな……生きて」
その願いが、私の最後の力だった。
敵将は、障壁の外から絶望的な叫びを上げる。
「ふざけるなあああああああ!」
だがもう、私は何も聞こえなかった。
視界が白く、遠くなっていく。
(これで、少しでも――みんなが助かるなら)
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