【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

文字の大きさ
47 / 107
4章

43話「明日への誓い」

しおりを挟む
 朝露が砦の石畳を濡らし、夜明けの光がゆっくりと城壁を照らし始めていた。
 新しい一日が始まる。そのこと自体が、奇跡のように思える。
 砦の誰もが昨日よりも少しだけ軽い足取りで、朝の支度をしていた。

    * * *

 ノクティアは中庭の井戸のそばで、冷たい水に手を浸していた。
 その感触は、ここで生きているという現実を、何よりも確かに教えてくれる。

 (本当に、みんなで生き延びたんだ)

 井戸の向こうから、子どもたちの弾む声が聞こえてくる。
 「ノクティア様、おはようございます!」
 「ノクティア様、今日も花壇にお水をあげていいですか?」

 ノクティアは優しく微笑み、
 「もちろん。みんなで協力したら、きっと花もすぐ元気になるわ」と答えた。

 子どもたちの無邪気な笑顔に、彼女自身も心から癒される。
 あの戦いの夜を思い出すたびに、こうした“当たり前”の光景が何よりも尊いと感じられた。

    * * *

 一方、カイラスは朝の見回りに出ていた。
 復興作業が進み、倒壊した塀や崩れかけた塔も少しずつ修復されている。
 重い資材を運ぶ若い兵士たちに声をかけながら、カイラスは心の中で一つひとつ“再生”の手応えを確かめていた。

 「おい、焦らずゆっくりでいい。みんなで力を合わせてこそ、また砦は立ち上がる」

 「はいっ!」

 兵士たちは力強く返事をし、額の汗をぬぐって笑い合う。

 カイラスはふと空を見上げた。
 高く澄んだ青空。昨日よりも少し明るく感じる。

    * * *

 砦の食堂では、レオナートが新兵たちに朝食を配っていた。
 彼自身の腕や頬にも、まだ包帯が残っている。
 だが、その顔つきは以前よりも精悍になっていた。

 「よく噛んでくださいね。体が資本です。今はみんなで力を蓄える時です」

 新兵の一人が、おそるおそる尋ねる。

 「レオナートさん、あの……戦いは、また来ますか?」

 レオナートは一瞬だけ言葉に詰まったが、穏やかに微笑む。

 「戦いはきっと来るでしょう。だが私たちが強くなれば、守れるものも増える。
 それに――何よりも大事なのは、皆で助け合うことです」

 若い兵士たちは静かにうなずき、その言葉を胸に刻み込むように朝食をかき込んだ。

    * * *

 医務室では、エイミーが傷病兵の手当てを続けていた。
 まだ傷は完全に癒えていないが、彼女の動きには決意が宿っている。

 「傷が治ったら、一緒に畑仕事も手伝ってくれますか?」

 寝ていた兵士が冗談めかしてそう言うと、エイミーはくすりと笑う。

 「もちろんです。私も元気になったら、何でもやります!」

 「エイミーさんがいてくれて、みんな安心してるよ」

 「……ありがとう」

 彼女は照れながらも、誇らしげに胸を張った。

    * * *

 午前中、ノクティアはカイラスとともに、今後の砦の方針について話し合っていた。

 「外部との交易を再開すれば、物資の流れも安定するはずだ。
 だけど、もう二度とあんな悲劇は繰り返さないためにも、慎重に進めたい」

 カイラスは真剣な表情で地図を広げる。

 「私も、砦の外のことをもっと知りたい。これまでみんなに守ってもらうばかりだったけど……これからは、自分からも動いていきたいの」

 「ノクティア……無理はするな。だけど、お前が前を向いてくれるなら、俺も支え続ける」

 「ありがとう。私も、ここでみんなと生きていくために強くなる」

 二人の間に、言葉以上の信頼と絆が流れていた。

    * * *

 昼下がり。砦の広場では、亡くなった仲間たちの名前を刻んだ小さな碑が建てられていた。

 ノクティアは一人、碑の前に立った。
 そっと手を合わせ、静かに祈る。

 「……あなたたちの分まで、私たちは生きていきます。
 どうか、これからも私たちの歩みを見守っていてください」

 碑の前には、子どもたちが摘んだ花束が手向けられていた。
 ノクティアはその鮮やかな色を見つめながら、強く心に誓う。

 (生き残った者として、私は未来を繋いでいく。誰にも恥じない自分でいよう)

    * * *

 その夜、砦の集会場には住民や兵士たちが集まり、小さな宴が開かれていた。
 簡素な食事と、楽器の奏でる音、子どもたちの歌声。
 日常を取り戻すための、大切な儀式だった。

 カイラスが立ち上がり、杯を掲げる。

 「――俺たちは、また今日を生き延びた。明日もきっと、みんなでこの場所に集おう。
 命を繋いでくれた者たちへの感謝を胸に、明日への誓いを!」

 「「明日への誓いを!」」

 皆が声を合わせ、杯を鳴らし合う。

 ノクティアは、静かな微笑みでその輪に加わった。
 仲間と肩を並べ、笑い合いながら、深く、心の底から「生きる」ことを実感する。

    * * *

 宴のあと、ノクティアは砦の塔の上に登った。
 夜風が髪をなで、遠い山並みの上に星がきらめいている。

 隣に立つカイラスが、そっと言葉をかける。

 「明日も……必ず、この砦で朝を迎えよう。
 どんな困難があっても、俺たちはもう、絶対に折れない」

 ノクティアはゆっくりと頷いた。

 「私も、明日を信じて、ここで生きていく。
 ――みんなとともに」

 砦の窓から漏れる灯りは、夜の静けさの中で揺れていた。
 それは、失われた命への祈りであり、これから始まる未来への、小さな、小さな誓いだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

追放令嬢は辺境の廃村で美食の楽園を創る〜土と炎で紡ぐ、真の幸福レストラン〜

緋村ルナ
ファンタジー
華やかな公爵令嬢アメリアは、身に覚えのない罪で辺境の荒野へ追放された。絶望と空腹の中、泥まみれになって触れた土。そこから芽吹いた小さな命と、生まれたての料理は、アメリアの人生を大きく変える。土と炎、そして温かい人々との出会いが、彼女の才能を呼び覚ます!やがて、その手から生み出される「幸福の味」は、辺境の小さな村に奇跡を巻き起こし、追放されたはずの令嬢が、世界を変えるレストランのオーナーとして輝き始める!これは復讐ではない。自らの手で真の豊かさを掴む、美食と成長の成り上がり物語!

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛

タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】 田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。

処理中です...