【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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4章

46話「揺れる大地」

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 春の陽射しの下、砦を発ったノクティアたちの一行は、ゆっくりと北の村へ向かっていた。

 道はまだ冬の名残を残し、土のぬかるみや折れた枝がところどころに転がっている。
 けれど、木々の梢には淡い新芽が芽吹き、空には雲雀の高い鳴き声が響いていた。

 「思ったより道が荒れてるな……去年の嵐の爪痕がまだ残ってる」

 カイラスが道端の倒木をよけながら呟く。
 ノクティアは荷車を押すエイミーのそばを歩き、歩調を合わせた。

 「エイミー、無理してない? 疲れたら休んでね」

 「大丈夫です。みんなと一緒なら、不思議と足が軽いんです」

 エイミーは少しだけ息を切らしながらも、誇らしげに微笑んだ。

 その横でレオナートは、若い兵士たちを気遣いながら歩いている。
 彼らもまた、砦での日々を越え、初めて“外”の任務に挑む者たちだ。

    * * *

 一行は昼過ぎ、川辺の広場で休憩を取った。

 カイラスが地図を広げ、
 「あと半日も歩けば村が見えてくる。だが、村の周辺は沼地が多い。慎重にな」と指示を出す。

 ノクティアは川の水を汲み、エイミーに差し出した。

 「はい、お水。無理しないで」

 「ありがとうございます、ノクティアさん」

 ふと、川辺に小さな花が咲いているのを見つけ、ノクティアはその花を摘み取る。

 「この花、砦の庭にもあったね。持って帰ったら、きっと子どもたちが喜ぶわ」

 「ええ……私、帰ったらまた砦でみんなと花を育てたいです」

 レオナートがそれを聞いて、
 「そのためにも、みんなで無事に帰らないとな」と冗談めかして笑った。

    * * *

 休憩後、再び北を目指して進み始めたときだった。

 地面が、かすかに震えた。

 最初は誰も気づかなかった。しかし、すぐに――
 ガタガタ、と明らかな揺れが起きる。

 「……地震?」

 カイラスが周囲を見渡す。木々がざわめき、小石が転げ落ちていく。

 「全員、頭を低くして木から離れろ!」

 叫ぶや否や、大地がぐらりと揺れた。倒木の枝が折れ、道端の岩がごろごろと崩れる。
 荷車が傾き、エイミーがよろめいた。

 「エイミー!」
 ノクティアがすぐに駆け寄って抱き留める。
 周囲の兵士たちも皆、土埃と揺れに戸惑いながら必死に身を守った。

 やがて、揺れは収まった。

 「みんな無事か!」
 カイラスが手短に点呼を取る。

 幸い、大きな怪我をした者はいなかったが、道は崩れ、先の森に落石が起きている。

 「……北の村、大丈夫かな」

 エイミーが不安げに呟いた。

 ノクティアも胸の奥がざわつく。
 (もし村で、この揺れが……)

 カイラスが決断する。

 「少し急ぐぞ。足元に気をつけて進む。荷車は回り道でいく」

 レオナートが若い兵士たちに注意を促し、再び隊列が動き出した。

    * * *

 夕刻、北の村の屋根がようやく森の向こうに見えてきた。

 だが、村の様子はおかしかった。

 あちこちの家の屋根が崩れ、土煙が立ち込めている。
 人々が広場に集まり、ざわめきと泣き声が遠くまで響いてくる。

 ノクティアたちは小走りで村の入口へ駆け寄った。

 「大丈夫ですか! ケガ人はいませんか?」

 ノクティアが叫ぶと、村長と思しき老人が血の気の引いた顔で駆け寄る。

 「地震じゃ……こんな大きな揺れは初めてじゃ。家が……納屋が……けが人も多い……それに、病人まで……」

 エイミーがすぐに医療道具を準備し、カイラスとレオナートが村人の避難と安全確認を手伝い始める。

 ノクティアは村の広場に倒れ込んだ人々に駆け寄った。

 「魔法で応急治療します。落ち着いて、みんな集まってください!」

 傷を負った子どもに回復魔法を施し、老人には水を手渡す。
 村の女たちが泣きながらノクティアの手を握る。

 「ありがとう、ノクティア様……私たちは、もう……」

 「大丈夫。私たちが来たからには、絶対に一人も見捨てません」

    * * *

 夜になると、村の広場にはたくさんの焚き火が灯った。

 倒壊した家から運び出した寝具や食料が、皆で分け合われている。
 エイミーと若い医師たちが、けが人や熱病患者の手当てに追われている。

 ノクティアはその中心に立ち、疲れた村人に微笑みかける。

 「今夜は少し寒いです。焚き火のそばに集まって、体を冷やさないように」

 カイラスは見張りに立ち、レオナートは警備の若者たちを巡回に出す。

 夜空の下、村は静かに、しかししっかりと“生きる”ために団結していた。

    * * *

 ノクティアは星空を見上げた。

 砦で過ごした静かな夜、笑い声、灯火――
 あの穏やかさを、今度はこの村にも分けてあげたいと思った。

 (私ができることは、小さなことかもしれない。それでも、誰かが「明日もきっと大丈夫だ」と思えるように、灯火を守りたい)

 村人たちの傍らで、ノクティアは新たな祈りを捧げる。

 「明日こそ、みんながもう一度笑えますように」

 夜風に混じって、焚き火の光が、揺れる大地の上でそっと揺れていた。
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