【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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4章

47話「希望の灯火」

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 地震の余韻が冷え残る北方の村。
 夜明け前の空気はひやりと重く、倒壊した屋根や土の割れ目が夜明けの淡い光に浮かび上がっていた。
 けれど、その広場には焚き火の明かりが残り、たくさんの人が肩を寄せ合っていた。

 ノクティアは眠れぬまま、仮設の寝床に横たわる子どもや老人のそばを静かに見回っていた。
 毛布をかけ直し、水を飲ませ、小さな子どもの頭をそっと撫でる。
 エイミーも眠らぬまま、薬箱と包帯を抱えて行き来し続けている。

 「ノクティアさん、こちらに新しい熱病の子が……!」

 エイミーが呼ぶと、ノクティアはすぐに駆け寄った。

 「ありがとう、エイミー。大丈夫、私が少し魔力を分けてみる」

 彼女は熱に浮かされた子どもに手をかざし、治癒の魔法を静かに注ぎ込む。
 子どもの呼吸が落ち着くと、母親が涙を滲ませて手を握った。

 「ノクティア様……、ほんとうに……ありがとうございます……」

 「お礼なんていらないわ。みんなで、もう一度元気に明日を迎えましょう」

    * * *

 朝が来ると、カイラスとレオナートは村長とともに村の被害調査に歩き回った。
 道はひび割れ、納屋や井戸の一部が崩れている。
 牛や馬も怯えて一カ所に集まっていた。

 「ここはもう危なくて住めません、ノクティア様。子どもたちだけでも、砦へ避難させられませんか」

 村長の苦しい頼みに、カイラスも沈痛な表情を浮かべる。

 「この村の力だけじゃ復興は難しい。だが、俺たち砦が力を貸せば必ず立ち直れる」

 レオナートがうなずく。

 「物資も人手も、可能な限り送ります。しばらくの間、子どもや病人は砦で保護しましょう」

 村長は何度も頭を下げ、涙をこぼした。

    * * *

 広場では、ノクティアとエイミーが手当と魔法治療に追われていた。
 だが、村の人々の中にはまだ不安や疲れが色濃く残っていた。

 「家も壊れて、田畑も水びたしで……もう何も残らないかと思った」
 「このまま冬みたいな暮らしになるんじゃ……」

 ノクティアは膝をついて、泥だらけの手で泣いている子どものそばに座る。

 「大丈夫。村はきっと立ち直れます。
 今はみんなで支え合う時。悲しい時は泣いてもいい。けど、それでも、必ず朝は来ます」

 泣きじゃくる子の手をそっと包み込み、微笑みかけた。

 「私も、何度も怖くて泣いた。でもそのたび、誰かが傍にいてくれた。
 今度は私が、みんなの傍にいます」

    * * *

 昼前、砦から追加の救援隊が到着した。
 若い兵士たちや薬師たちが物資を運び、倒壊した家屋の修理を手伝い始める。

 村の人々の顔に、ようやく少しずつ色が戻っていく。

 「ありがとう、ノクティア様。エイミーさん。カイラス殿……本当に、助けてくれて……」

 エイミーは控えめに首を振る。

 「私も、みんなに助けてもらってばかりです。
 今は“誰かのために動く”って決めたから……」

 その姿に、村の若い娘が勇気を出して手を貸しはじめる。
 「私も手伝う!」「あたしも!」

 焚き火の周りに、少しずつ人の輪が広がっていった。

    * * *

 午後には、村の小さな祈りの式が行われた。
 倒壊した家の前に花を手向け、失われたものへの祈りをささげる。

 ノクティアは村人と肩を並べて手を合わせる。

 「……私はここに来て、あなたたちがどれほど強いかを知りました。
 つらい時でも、誰かと手をつなげば、必ず立ち上がれる。
 どうか、明日への希望を絶やさずにいてください」

 村の子どもたちが、そっとノクティアの手を握る。

 「ノクティア様、怖かったけど、ノクティア様が来てくれて、みんな笑えるようになったよ」

 ノクティアは涙ぐみながら、小さくうなずいた。

    * * *

 日が傾くころ、レオナートが全員を集めた。

 「今夜は村の広場で、みんなで焚き火を囲もう。何もなくても、今日生きていることを祝おう」

 小さなパンとスープが配られ、子どもたちが歌を歌う。
 ノクティアも輪の中で肩を寄せ合い、砦から来た仲間たちと村人とが一緒に座った。

 カイラスが、静かに語りかける。

 「困難のあとは、必ず春が来る。明日は、今日よりきっと、いい日になる」

 エイミーもそっと付け加える。

 「みんなで助け合えば、怖いものなんてありません。……私も、そう信じたいです」

 やがて空には星が瞬き、広場に小さな歌声が溶けていく。

 ノクティアは炎の灯火を見つめながら、砦で過ごした日々を思い出していた。
 そして、心の底から願う。

 (私たちの手で、希望の灯火を絶やさずに――)

    * * *

 夜。
 焚き火の火が静かにゆらめく。

 ノクティアは眠れぬ村人と肩を並べ、優しく声をかけ続けていた。
 時折、エイミーもそばに寄り添う。
 誰もが不安と痛みを抱えながら、それでも希望の火が消えぬようにと、ただ静かに夜を見守っていた。

 夜明けの空気はまだ冷たかったが、
 村人の間に――そしてノクティアたちの胸にも――
 小さく確かな“希望の灯火”が、ゆっくりと芽生えつつあった。
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